井口健二のOn the Production
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2022年11月13日(日) 百年の夢、戦慄のリンク、ピエール・エテックス レトロスペクティブ 、餓鬼が笑う

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『百年の夢』“Obrazy starého sveta”
1972年に製作されたものの、共産党政権下では輸出が禁止さ
れ、16年後にようやくその禁が解かれて1992年には日本でも
公開されたというドキュメンタリー。その作品がディジタル
リマスターにより再公開されることになった。
取材の対象はスロヴァキア共和国、カルパチア山脈の東側に
位置するファトラ山地。そこには瘦せた土地にしがみ付くよ
うに暮らすいずれも高齢な人々がいた。そんな人々の暮らし
振りがモノクロの映像で綴られて行く。

脚本と監督は、1938年スロヴァキア生まれのドゥシャン・ハ
ナーク。プラハ芸術アカデミーで映画演出を学び、20作以上
の短編ドキュメンタリーを制作した後、1969年に発表した初
の長編作品 “322”がマンハイム国際映画祭でグランプリを
受賞。
しかしその後は、本作を含む多くの作品が当局によって上映
禁止とされた。だが解禁後にはそれらの作品が各国で上映さ
れ、本作は1988年ニヨン国際映画祭でグランプリを受賞する
など、数多くの賞に輝いている。そして現在はアカデミーで
教鞭をとるなど、活躍中のようだ。
内容は正直に言って重苦しいなど、国の体面を気にする共産
党政権下では都合の悪い真実が描かれたものと言える。でも
そこで老人たちが語る言葉には、哲学的なものもあり、示唆
に富んだものでもあって、現代の我々も耳を傾けるべきもの
のようにも聞こえるものだ。
とは言うものの、厳しい環境に暮らす割にはあっけらかんと
した感じのものもあって、その辺はバランスも考えて作られ
た作品のようにも見える。そして最後にはちょっと希望も見
えるような部分もあって、それは優れたドキュメンタリーと
いう感じの作品だった。

公開は12月3日より、東京は渋谷のシアター・イメージフォ
ーラム他にて全国順次ロードショウとなる。
なお本編の上映時間が1992年の日本公開時と異なっているよ
うで、その点についてマスコミ資料にリマスター時のコマ数
変換によるものとあったが、その経緯の説明には少し疑問に
感じるところがある。
でもまあ内容に変更は生じないものなので、了解としたい。

『戦慄のリンク』“网络凶铃/網路凶鈴”
2007年3月紹介『ドリーム・クルーズ』などのJホラー監督
鶴田法男が中国に招かれ、10数年前にネットで話題になった
というマ・ボヨン原作のホラー小説を映画化した2020年本国
公開の作品。
女子大生の主人公は就寝直前に同級生でもある従姉から「ネ
ットで読んでいるホラー小説が怖い」という電話を受ける。
そして翌日大学の講義に現れない従姉を心配して下宿を訪ね
ると、そこには血まみれの遺体が転がっていた。
という導入部で始まる物語だが、背景にはネットで進行する
リレー小説があり、従姉もそのライターの1人だったがある
事情で中断していたという。ところがそれが突然再開され、
最終章でそっくりの事件が描かれていた。
しかし警察は自殺として事件を終わらせようとし、その対応
に疑問を持つ主人公は独自の捜査を開始する。そこにネット
で評判の犯罪心理学に詳しい大学の先輩なども絡み、主人公
らは事件の真相に迫って行くが…。

出演は、2016年7月紹介『西遊記』のさらに続編に出ていた
という女優/モデルのスン・イハンと、台湾出身で2017年の
金馬奨最優秀新人賞にノミネートされたフー・モンボー。他
にジョウ・ハオトン、シャオ・ハンらが脇を固めている。
また監督以外のスタッフでは、撮影を『曇天に笑う』などの
神田創、照明を『夜明けまでバス停で』などの丸山和志、音
響効果を『川っぺりムコリッタ』などの大河原将、編集を
『クライマーズ・ハイ』などの須永弘志、音楽をTVアニメ
「約束のネバーランド」などの小畑貴裕が担当している。
プレス資料の監督による製作日記にもあったが、試写の際の
監督の挨拶によると、中国では幽霊の出る映画はご法度との
こと。また事件は必ず警察が解決しなければならず、さらに
同性愛的な表現も禁止なのだそうだ。
そんなかなり制約の中での映画制作だったようだが、本編を
観ていると、その産みの苦しみみたいなものは良く判る作品
だった。ただしそんな中にJホラーへのオマージュみたいな
ところもあり、それなりには楽しめた。
でもまあ、監督には制約なしでのリメイクに挑戦してもらい
たい、そんな思いもしてくる作品だった。

公開は12月23日より、東京は新宿シネマカリテ他にて全国順
次ロードショウとなる。

ピエール・エテックス レトロスペクティブ
❶『恋する男』“Le Soupirant”+『破局』“Rupture”
❷『ヨーヨー』“Yoyo”
❸『健康でさえあれば』“Tant qu'on a la santé”
+『絶好調』“En pleine forme”
❹『大恋愛』“Le Grand Amour”
+『幸福な結婚記念日』“Heureux Anniversaire”
1953年『ぼくの伯父さんの休暇』などで知られるジャック・
タチ監督の盟友ともされるピエール・エテックスが1961年頃
から発表した長編4作品と短編3作品が特集上映される。
エテックスは1928年11月23日生まれ。幼い頃からチャップリ
ンやキートンなどの無声映画に夢中となり、サーカスやキャ
バレーの芸人として活動していたが、1953年のタチ監督作品
を観て感激、自らの芸への助言を求めて監督に会いに行き、
映画界に誘われたとのことだ。
そして1958年タチ監督の『ぼくの伯父さん』で映画界入り。
1961年にタチ監督の縁で脚本家ジャン=クロード・カリエー
ルと組んで短編『破局』を発表。1962年発表の初長編『恋す
る男』では、1953年のタチ作品以来となる喜劇映画でのルイ
・デリュック賞に輝いている。
という監督の特集上映だが、実は今回はスケジュールの都合
で❶の2作品を見逃してしまっており、その辺は少し申し訳
ないのだが、❷〜❹の作品で言うと、それは無声映画へのオ
マージュとサーカス芸への憧れに溢れていた。特に❷の作品
では、手袋をはめる逆転映写にニヤリとさせられた。
この他にも❸の『健康でさえあれば』はコント集のような感
じの作品だが、ドラキュラをモティーフにした夢と現実が入
り乱れた作品や、かなりシュールなタッチの作品も観られる
ものだ。実際には公開当時は好評ではなかったようだが、今
観ると理解の進む作品になっている。
さらに❹では、これはシュールと言うよりはファンタシーを
映像化しているもので、ある種の映画の本領とも言える作品
になっていた。無声映画へのオマージュであると同時に、後
の作品への影響も大きく感じられるものだ。正にレトロスペ
クティブという感じの作品かもしれない。

なおこれらの作品は、一時期は権利の関係で上映が全く不能
だったものだそうで、それをジャン=リュック・ゴダールや
デヴィッド・リンチ、ウディ・アレン、テリー・ギリアム、
ミシェル・ゴンドリーらの尽力によりエテックスの権利を回
復。監督の許での修復がなされたものだ。
公開は12月24日より、東京渋谷のシアター・イメージフォー
ラムにて、4週間限定の上映となる。

『餓鬼が笑う』
古美術商であり本作の製作も手掛ける大江戸康のオリジナル
脚本に基づき、2018年9月紹介『十年 Ten Years Japan』の
一編『PLAN75』の早川千絵監督などを輩出するENBUゼミナー
ル出身で、PFF アワード入選者でもある平波亘が脚本・監督
した作品。
本作は2022年8月開催の第44回モスクワ国際映画祭アウト・
オブ・コンペティション部門でも上映された。
主人公はフリーマーケットで骨董品を売る若者。そんな若者
が古本屋で1人の女性と出会い、彼女との関りの中で摩訶不
思議な物語が展開される。それは主人公を地獄にも誘い、さ
らにそこからの再生も描かれる。
ただし物語は比較的ストレートに進むのだが、それぞれのエ
ピソードの関連性が唐突で観ていて混乱が生じてしまう。ま
あ多分もっと壮大な物語のエッセンスという感じなのだが、
出来ればもう少し工夫が欲しかった感じかな。
でもそれがアヴァンギャルドと言うか、60年代のヌーヴェル
ヴァーグのような趣もあって、案外これが若い人に受けたら
良いなあという感じもしてしまう作品だった。いずれにして
も若さに溢れる作品ではあった。

出演は『鎌倉殿の13人』にも出ている田中俊介と山谷花純。
他に片岡礼子、柳絵理沙、川瀬陽太、川上なな実、田中泯、
萩原聖人らが脇を固めている。また劇中の骨董市に出てく
るバイヤーは製作者が呼んだ本物の人たちだそうだ。
公開は12月24日より、東京は新宿のK's cinema他にて全国順
次ロードショウとなる。
なおプレス資料の表紙で、タイトルは左からの横書きだが、
下段の惹句が右からの縦書きで、「幻想奇譚」の四文字熟語
もそれに倣っているのは気に入った。


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井口健二