井口健二のOn the Production
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2020年01月26日(日) スケアリー(シェイクスピアの、踊ってミタ、わたしは分断、春を告げ、21世紀の、ダンシングH、ようこそ、WAVES、霧の中の、COMPLY±ANCE)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『スケアリーストーリーズ 怖い本』
         “Scary Stories to Tell in the Dark”
1992年に他界したアメリカのジャーナリストで児童文学者の
アルヴァン・シュワルツが1981年から91年に発表した3巻、
全82篇からなる児童向けホラー短編集の映画化。
アメリカの一部の図書館では、子供には好ましくないという
理由により閲覧禁止の処置も取られたという物語が、2017年
11月紹介『シェイプ・オブ・ウォーター』などのギレルモ・
デル・トロの製作で映画化された。
物語の背景は1968年。片田舎の小さな町で作家志望の少女が
暮らしていた。母親が失踪し父親と2人暮らしの彼女は内向
的で友達も少なかったが、落ちこぼれ気味の男子2人とはそ
れなりの心が通じ合っていた。
ところがそんな2人とハロウィンの夜に繰り出した彼女は、
彼らが悪ガキグループに仕掛けた復讐のとばっちりで街を逃
げ惑うことになる。そしてそんな中で出会ったヒスパニック
系の若者と幽霊屋敷の探索に乗り出すが…。
そこで隠し部屋に在った1冊の本を持ち出した彼女は、その
本に最近町で起きた恐ろしい出来事が記述されていることに
気付く。しかも彼女の目の前で新しい物語の記述が始まり、
そこには友達の男子の名前が登場していた。
その事態に慌ててその友達に連絡を取る彼女だったが、件の
友達は信じようとせず、そうこうする内にその通りの出来事
が起きてしまう。

出演は、2019年4月14日題名紹介『ワイルドライフ』などの
ゾーイ・コレッティ、テレビシリーズに多く出演のマイクル
・ガーザ、2012年12月紹介『ムーンライズ・キングダム』な
どのガブリエル・ラッシュ。
他にオースティン・ザユル、オースティン・エイブラムズ、
ナタリー・ガンツホーン。さらにディーン・ノリス、ギル・
ベローズらが脇を固めている。
監督は2017年4月紹介『ジェーン・ドウの解剖』などのアン
ドレ・ウーヴレダル。脚本は2012年9月紹介『モンスター・
ホテル』や2014年2月紹介『LEGO® ムービー』などのダン&
ケヴィン・ヘイグマン兄弟が手掛けた。
全体的にはスティーヴン・キングの流れと言うか、各地に残
る伝説的なものを背景にして語られており、この辺はネット
で検索した原作の紹介にも一致する現代的なホラーという感
じの作品になっている。
ただし短編集の原作と映画化との繋がりがどのようなものは
判らないが、デル・トロの原案に基づくとされる映画化では
社会的な問題なども言及されて単なるホラーではない展開も
設けられ、この辺は今風の映画というところだろう。

その他、原作の特徴の一つとされるスティーヴン・ガンメル
による挿絵も今回の映画化には忠実に反映されているとのこ
と。そのメイキングを含むヴィジュアル本の出版も行われる
ようだ。
実は今回の映画化では、元々この挿絵の原画も所有している
程のファンというデル・トロが、映画化の情報を聴き付けて
自ら製作に関りたいと申し出たのだそうで、原作にとっては
ベストと言える布陣が実現したものだ。
公開は2月28日より、東京は新宿バルト9、渋谷シネクイン
ト、グランドシネマサンシャイン他で、全国ロードショウと
なる。

この週は他に
『シェイクスピアの庭』“All Is True”
(1613年の『ヘンリー八世』上演中に起きた火災でグローブ
座を失った文豪が、筆を折って故郷のストラトフォード・ア
ポン・エイヴォンに隠遁してからの姿を追ったドラマ作品。
文豪はそれまでの20年間をロンドンで故郷も顧みず働き詰め
に仕事をしており、ようやく戻った故郷での家族からの扱い
は厳しいものだった。そんな中で2人の娘との確執や夭逝し
た息子への思いなどが綴られる。監督と主演はケネス・ブラ
ナー。共演はジュディ・デンチ、イアン・マッケラン。さら
にブラナーの愛弟子のキャスリン・ワイルダー、2014年6月
紹介『アバウト・タイム』などのリディア・ウィルスンらが
脇を固めている。脚本はテレビで文豪を題材にしたコメディ
を手掛けてきたベン・エルトン。火災の話や文豪の家族構成
などは史実の通りだが、人間ドラマは虚実が巧みに組み合わ
されているようだ。公開は3月6日より、東京はBunkamura
ル・シネマ他で全国順次ロードショウ。)

『踊ってミタ』
(2019年6月30日題名紹介『王様になれ』などの岡山天音主
演で、東京の広告代理店でのクリエーター職に挫折し、故郷
の役場で地元PRの部署に勤めたもののロクな仕事もしてい
ない若者が、ネット動画を真似た企画を始めてみるが…。よ
くある町興し映画の「踊ってみた」版といった感じの作品。
共演は2019年12月29日題名紹介『おいしい給食』などの武田
玲奈と、岡山主演のドラマ『I"s 』でヒロインを務めた加藤
小夏。他に中村優一、ルー大柴、ふせえりらが脇を固めてい
る。脚本と監督は岡山、武田のW主演で2017年4月2日題名
紹介『ポエトリー・エンジェル』を手掛けた飯塚俊光。内容
にも今さらこれかという感じはするが、折角の町興しなのに
住民の協力がほとんど描かれないのは残念かな。それにして
もせめて町の観光スポットみたいなものはもう少し紹介して
欲しかった。公開は3月7日より、東京は新宿シネマカリテ
他で全国ロードショウ。)

『わたしは分断を許さない』
(2013年に福島を含む原発問題を扱ったドキュメンタリーを
発表後にNHKを退局した元アナウンサー堀潤が、人権闘争
で荒れる香港を始め、ガザ、シリア、福島、沖縄、朝鮮半島
などに取材したドキュメンタリー。「真実を見極めるために
は、主語を小さくする必要がある」という言葉の許に、それ
ぞれの現場で出会う個人の目線(立場)で問題の深刻さや行動
の意義が描かれて行く。そこには様々な形で「分断」が進め
られていた。と、言いたいことは理解するし、問題提起の点
では判り易い主張が行われている。しかし如何せん105分の
上映時間の中では内容が多すぎてそれぞれの問題が明確には
描かれていない感じがした。それはそれぞれの事象ごとに歴
史的な背景もある訳だし、それを掘り下げずに単に目先だけ
で描いたのでは、特に海外の問題に関しては、日本人の感覚
だけでは計り知れない部分が残った。公開は3月7日より、
東京はポレポレ東中野他で全国順次ロードショウ。)

『春を告げる町』
(2017年7月9日題名紹介『ひいくんのあるく町』などに携
わった島田隆一監督が2017年―18年に福島県双葉郡広野町で
撮影したドキュメンタリー。当地にある福島県立ふたば未来
学園高等学校の演劇部の活動を中心に、震災後の復興の意味
が問い直される。そこには上の作品で言う「分断」が別の意
味で語られる面もあるし、災害から6−7年も経てばいろい
ろな変化が生じている現状も描かれる。ただしここには放射
能汚染という人間の力ではもはや取り返しのつかない問題も
ある訳だが、それでもその中で未来に向かって歩んでいこう
という意思も観ることができた。当然演劇部という集団の中
では「真実を見極める」ことは難しいが、果たして真実とは
何か、2つの作品を連続して観て考えることも多くあった。
もちろん本作の中でも農業従事者などの個人の目線はしっか
りと描かれているものだ。公開は3月21日より、東京は渋谷
ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『21世紀の資本』“Le Capital au XXIe siècle”
(フランスの経済学者トマ・ピケティが2013年に出版し、各
国語に翻訳されて全世界で300万部を超えているというベス
トセラーの映像化。世界の富の大半が一握りの富裕層に集ま
っているという現実は、今後さらにその度合いが進むという
警告を、200年間に及ぶ全世界の経済活動の統計などから証
明しその解決法も示している。しかし謳われる解決法は現状
の世界情勢からは夢の理論にも見える。原著は1000ページ近
い大部のようだが、本作ではその要点を巧みに映像化してい
る。また原著では経済活動の説明にド・バルザックやジェー
ン・オースティン、ヘンリー・ジェイムズなどを引用してい
るそうだが、本作ではそれに相当する映画作品を援用して、
これも巧みに観客の興味を引き付けて行く。もちろん本作で
原著の全貌が判るものではないが、その警告に関しては理解
できる気分にはなった。注目すべき作品。公開は3月20日よ
り、東京は新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)

『ダンシングホームレス』
(ダンサー/振付師のアオキ裕キが、ビッグイシューの協力
で路上生活者に声を掛け、結成したダンスグループ「新人H
ソケリッサ!」の活動を追ったドキュメンタリー。「ホーム
レスは五感などの感覚が原始的な身体に近い」という理念の
許に、「人に危害を加えないこと」という縛りのみで自由な
表現によるパフォーマンスが展開される。コンテンポラリー
ダンスの範疇だと思われるが、同種のダンスでは2019年3月
紹介『ホモソーシャルダンス』が表現・内容共に素晴らしか
ったもので、比較はちょっと可哀そうかな。そうなると路上
生活者個人の問題に目が行くが、その生き方は様々とは言え
るものの、最近はテレビのヴァラエティ番組的なドキュメン
タリーでもかなり強烈な人生が紹介されるのを観ていると、
もっと掘り下げないと真実が見えてこない気がした。公開は
3月7日より、東京は渋谷のシアター・イメージフォーラム
他で全国順次ロードショウ。)

『ようこそ、革命シネマへ』“Talking About Trees”
(1956年に植民地支配を脱却したスーダン。そこから世界に
雄飛した4人の映画人。彼らは1989年に母国で集まり映画文
化を根付かせるための活動を始めるが、同年に成立した軍事
政権によって言論の自由を奪われ、映画産業も崩壊する。そ
んな彼らが20年振りに再会して母国に映画を取り戻したいと
一夜だけの映画館の復活を目指すが…。2019年ベルリン国際
映画祭パノラマ部門でドキュメンタリー賞と観客賞を受賞し
た作品だが、全体的に説明不足な感じで、特に元からあった
らしい「革命シネマ」という映画館の状況などはもう少し明
瞭に判りたかった。ましてや2019年10月13日題名紹介『ある
女優の不在』のジャファル・パナヒの行動力などを知ってい
ると、ここに登場する4人のやりたいことにも共感があまり
できなかった。もちろん不自由な中での映画人の行動は称賛
するが。公開は3月下旬より、東京渋谷ユーロスペース他で
全国順次ロードショウ。)

『WAVES/ウェイブス』“Waves”
(アメリカの中流階級の黒人兄妹を主人公に、青春の挫折や
希望を様々な音楽と共に描いた作品。映画は音楽を効果的に
使ったことで評価されているようだが、如何せん音楽に明る
くないとその辺は判らない。しかし映画では巻頭から狭い車
内で 360度旋回する映像が登場し、これには度肝を抜かれる
というか、この撮影を可能にする技術の進化に驚かされた。
その一方で画面は1.85:1のスクリーンの中に1.33:1や、
上下の切れたワイド(2.35:1)な画面なども登場し、それぞ
れが登場人物の感情なども表現するようになっている。この
手法を使った作品では2015年3月紹介『Mommy マミー』が思
い浮かぶが、その作品ほどの効果ではないものの、黒い部分
の存在が醸し出す不安感は作品に活かされていた。脚本と監
督は2018年9月9日題名紹介『IT COMES AT NIGHT』などの
トレイ・エドワード・シュルツ。製作は新興のA24。公開は
4月10日より、全国ロードショウ。)

『霧の中の少女』“La ragazza nella nebbia”
(2017年12月31日題名紹介『修道士は沈黙する』などのトニ
・セルヴィッロと、2018年2月4日題名紹介『グレート・ア
ドベンチャー』などのジャン・レノ共演で、イタリアの作家
ドナート・カリシの同名小説を原作者自らの監督で実写映画
化した作品。山間の田舎町で起きた少女の失踪事件。ところ
がそこにメディアを煽って捜査を進める独自手法の警部が登
場し、事件を誘拐と断定した警部は地元の教師を犯人として
追及を開始する。しかしそこに過去の未解決事件との関連が
指摘され…。2019年12月29日題名紹介『リチャード・ジュエ
ル』は実話だが、フィクションの本作でも言いたいことは同
じかな。ジャン・レノの関連では2004年3月紹介『クリムゾ
ン・リバー』なども思い出す雰囲気だが、本作はイタリア映
画らしくそれほどの裏はない。とは言えかなり強烈な結末で
はあった。公開は2月28日より、関東では kino cinéma横浜
みなとみらい他で全国順次ロードショウ。)

『COMPLY±ANCE コンプライアンス』
(2019年9月22日題名紹介『MANRIKI』などの齊藤工が総監
督/監督/企画/原案/脚本/撮影/写真/出演を務める社
会派的テーマの作品。監督には他に2018年2月25日題名紹介
『聖なるもの』などの岩切一空と、2018年『サイモン&タダ
タカシ』の特撮を担当した飯塚貴士が参加してそれぞれ社会
的規範の遵守をテーマ、というかそれを揶揄する感じの作品
を制作している。その中心は齊藤監督作品で、インタヴュー
を受ける女性アイドルの発言などを巡って、いろいろな問題
が噴出するというもの。自分の世代は1970年代の言葉狩りを
体験しているのでいろいろ考えもしてしまうが、今の時代に
はコンプライアンスの名の下にさらに複雑な規制が働いてい
るようだ。出演は2018年4月22日題名紹介『カメラを止める
な』などの秋山ゆずき。いろいろ意見はあるだろうが、一石
を投じる作品にはなりそうだ。公開は2月21日より、東京は
アップリンク渋谷/吉祥寺他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二