井口健二のOn the Production
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2019年12月22日(日) 一度死んでみた(シンカリオン、サヨナラまで、酔うと化け、名もなき、ハスラーズ、続・荒野の、東京不穏、現在地はいづく、彼らは生きて)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『一度死んでみた』
「白戸家」シリーズなどを生み出したテレビCMプランナー
の澤本嘉光が脚本を手掛ける少しSF的な要素もあるシチュ
エーションコメディ作品。
主人公は「デス」をテーマにしたパンクロックを歌っている
女性シンガー。実はある製薬会社の社長の娘なのだが、仕事
第1で学問最優先の父親の教育方針に抵抗して、特に母親が
死去した後は自宅内にラインを引いて生活を分けている。
一方、父親の経営する会社では、「ロミオ」と名付けられた
若返り新薬の開発が進められており、その研究成果を狙って
大手会社からの合併の画策が進んでいた。当然社長はそれに
反対だったが…。
そんな時、「ロミオ」開発の副産物として一時的に死亡した
状態になる薬が開発される。そこで社長は、その薬を使って
自分を死亡させ、その時の社内の状況を見て合併を画策する
連中のあぶり出しを謀る。
斯くして社長は、2日後に生き返るように処方された薬を飲
み「一度死んでみた」が。その状況を把握した連中は2日以
内に火葬を執り行おうとし、父親の遺した言葉から全てを察
知した娘との攻防戦が勃発する。

主演は広瀬すず。共演に吉沢亮、堤真一。他にリリー・フラ
ンキー、小澤征悦、嶋田久作、木村多江、松田翔太。
さらに加藤諒、でんでん、柄本時生、前野朋哉、西野七瀬、
城田優、原日出子、真壁刀義、野口聡一、佐藤健、池田エラ
イザ、志尊淳、古田新太、大友康平、竹中直人、妻夫木聡ら
が脇を固めている。
監督はCMを数多く手掛ける浜崎慎治の長編デビュー作のよ
うだ。
2019年12月8日題名紹介『テリー・ギリアムのドン・キホー
テ』では、CM業界から長編映画に進出した監督の姿が描か
れていたが、以前にも何本か観ているその手の作品では、得
てして監督の独り善がりが鼻につくことが多かった。
実際、本作と同様に澤本嘉光が脚本を手掛けた2014年『ジャ
ッジ!』は広告業界の裏側を描いているせいか、何とも煮え
切らない中途半端な作品で、試写は観たもののここでは取り
上げなかったものだ。
そんな危惧も感じながら観た作品だったが、本作では先ず巧
みなストーリーテリングに感心した。特に鏤められた伏線が
纏まって行く心地の良さは、これはある種のカタルシスにも
なっていた。
それにCMを基にしたギャグも適度にバランスが良く。さら
には新薬のネーミングから、死後の世界との絡みなども気持
ちよく楽しむことができた。SFとしての解釈も妥当で、新
たな才能を見つけたと言えそうだ。

公開は2020年3月20日より、東京は新宿ピカデリー他で全国
ロードショウとなる。

この週は他に
『新幹線変形ロボ シンカリオン
              未来からきた神速のALFA-X』
(2015年から展開された玩具を基に、2018年1月から2019年
6月まで全76話が放送されたアニメシリーズの劇場版。JR
各社や鉄道博物館の協力により製作された作品で、実在する
新幹線の各車両が変形、巨大ロボット化して敵と戦う物語が
展開される。特に今回の映画版では、2019年5月に登場した
JR東日本の新幹線用高速運転試験電車「E956(ALFA-X)」
がフィーチャーされているものだ。物語は地球を狙う新たな
敵が宇宙から襲来、同時に主人公の父親が行方不明になる。
そこに謎の少年が登場し、少年は北海道新幹線の延伸工事現
場で発見された試験車両ALFA-Xの運転席に座り、主人公らが
座るE3つばさ、E5はやぶさ、E6こまち、E7かがやきなどと共
に敵に立ち向かう。さらに初音ミクやエヴァンゲリオンとの
コラヴォレーションなど、各種映像も挿入される。因にこれ
らの映像はそれぞれの製作会社で制作された本物とのこと。
公開は12月27日より、全国ロードショウ。)

『サヨナラまでの30分』
(2009年9月紹介『ブラック会社に務めているんだが、もう
俺は限界かもしれない』などを手掛ける井手陽子の企画/プ
ロデュースで、2008年12月紹介『カフーを待ちわびて』など
の大島里美脚本、2017年7月紹介『東京喰種』などの萩原健
太郎監督により描かれた青春ドラマ。人見知りの若者が拾っ
たカセットテープを再生すると、その時間だけデビュー寸前
に事故死したミュージシャンの魂が彼に宿る。そしてその魂
は、成し遂げられなかった夢の実現を彼に託すが…。出演は
2017年9月紹介『不能犯』などの新田真剣佑と、2017年8月
紹介『恋と嘘』などに出演してダンスユニットのヴォーカル
も務める北村匠海。他に久保田紗友、葉山奨之、上杉柊平、
清原翔。さらに牧瀬里穂、筒井道隆、松重豊らが脇を固めて
いる。記録媒体が上書きによって消えてゆくという発想は他
にもあったと思うが、良い感じのファンタシーに仕上げられ
ていた。公開は2020年1月24日より、全国ロードショウ。)

『酔うと化け物になる父がつらい』
(酔って奇行を繰り返す父親と新興宗教信者の母親。そんな
両親と暮らす娘を描いた菊池真理子原作、ノンフィクション
コミックスの映画化。勤務先で人事課の責任ポストにいる主
人公の父親はストレスからか酒に溺れることが多い。そんな
父親には取り巻きのような飲んべい仲間もいたが…。出演は
2019年11月24日題名紹介『his』などの松本穂香と、2019年
12月紹介『37セカンズ』などの渋川清彦。さらに2019年12月
2日題名紹介『転がるビー玉』などの今泉佑唯。そしてとも
さかりえ。他に安藤玉恵、宇野祥平、森下能幸、星田英利、
オダギリジョー、浜野謙太らが脇を固めている。脚本と監督
は2018年『ルームロンダリング』の片桐健滋。自分も酒は飲
むし、若い頃には失敗もした人間だが、年を取るとだんだん
自己規制も働くようになる。ただ体質によってそれもできな
い日本人が多いのは事実のようだ。酒飲みとしては辛い作品
だった。公開は2020年3月6日より、全国ロードショウ。)

『名もなき生涯』“A Hidden Life”
(第2次大戦中、ナチスドイツに併合下のオーストリアで、
ヒトラーへの忠誠を拒んだ男の姿を描くテレンス・マリック
監督初の実在した人物に基づくとされる作品。主人公は山間
の寒村で農業を営んでいた。そんな男性に最初の召集令状が
届き兵役に就くが、訓練を受ける彼の心にナチスドイツへの
疑念が沸き上がる。その兵役はフランスの降伏で終わり、男
性は帰郷。しかし間もなく2度目の礼状が届き、男性はその
兵役を拒否する。そのため彼は収監され、残された家族に迫
害が始まる。出演は2010年7月紹介『ソルト』などのアウグ
スト・ディールと、2016年11月20日題名紹介『エゴン・シー
レ 死と乙女』などのヴァレリー・パフナー。他にマリア・
シモン、ブルーノ・ガンツ、マティアス・スーナールツらが
脇を固めている。全体主義の恐ろしさが明確に描かれ、今描
くことの意味も重要な作品だ。公開は2020年2月21日より、
東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国ロードショウ。)

『ハスラーズ』“Hustlers”
(2009年5月紹介『エル・カンタンテ』などのジェニファー
・ロペス製作・出演で、2008年リーマンショック後のニュー
ヨークを舞台にした実話に基づくとされる女性映画。主演は
2018年9月2日題名紹介『クレイジー・リッチ!』などのコ
ンスタンス・ウー。年老いた祖母を養うためにストリッパー
として働き始めた東洋系の女性が、憧れのラテン系の女性と
共に男性を手玉に取る仕事を始める。ところが金融危機で金
蔓が激減、しかし張本人たちの暮らし振りが変わっていない
と知った彼女らは、さらに大きな勝負に打って出る。脚本と
監督は、2012年12月紹介『エンド・オブ・ザ・ワールド』な
どのローリーン・スカファリア。前作は終末物のSFと言っ
てもいい作品だったが、今回の作品も観ると前作も併せて女
性の夢みたいなことなのかな? どこまで実話に沿っている
かは判らないが、女性的には小気味よい作品と言えそうだ。
公開は2020年2月7日より、全国ロードショウ。)

『続・荒野の用心棒』“Django”
(2013年1月紹介『ジャンゴ繋がれざる者』や、2007年8月
紹介『スキヤキウェスタン・ジャンゴ』のオリジナルとされ
る1966年製作、セルジオ・コルブッチ原案、脚本、監督によ
る作品が、ディジタル・リストアにより再公開される。物語
の舞台は、南北戦争の終結から間もないメキシコ国境に近い
西部の町。南軍の残党とメキシコの独立派の軍隊が対立する
その町に棺桶を引き摺った流れ者のガンマンが現れる。彼は
処刑されそうになっていた女を助けて町の酒場にやってくる
が、女は疫病神とされているようだ。そして両軍のそれぞれ
とガンマンとの壮絶な戦いが始まるが、ガンマンの行動には
別の目的が隠されていた。出演はこの1作で一躍名を轟かせ
たフランコ・ネロ。共演はロレダナ・ヌシアック、エドゥア
ルド・ファヤルド。突然登場するマシンガンなど、意表を突
く展開も心地よい作品だ。公開は2020年1月31日より、東京
はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)

『東京不穏詩』
(2011年にCGアニメーターとして来日し、2016年7月紹介
『GANTZ:O』などにも携わったというインド人のアンシェル
・チョウハン監督が日本人の俳優で日本の社会を描いた長編
デビュー作。ブリュッセル・インディペンデント映画祭でグ
ランプリ受賞の作品。主人公は女優を目指して上京したが、
夢半ばでクラブで働いている。そんな彼女が海外映画のオー
ディションに受かった日に強盗に遭い、金を奪われ顔に傷を
負う。そのため逃げるように故郷に帰った彼女だったが…。
主演は2015年の東京国際映画祭で上映された『ケンとカズ』
のヒロイン役で注目された飯島珠奈。本作では各地の映画祭
で3冠を受賞している。物語自体に目新しさは感じないが、
イギリスで演劇を学んだ女優とインド人の監督が、今までの
日本映画にない感覚の作品を作り出している。公開は2020年
1月18日より、東京は渋谷のシアター・イメージフォーラム
他で全国順次ロードショウ。)

『現在地はいづくなりや』
(2016年8月7日題名紹介『だれかの木琴』などの東陽一監
督に取材したドキュメンタリー。1963年の短編映画を出発点
に1971年の『やさしいにっぽん人』で長編デビュー以来、別
名義も含めると20本以上の作品を手掛けた監督が、緑魔子、
烏丸せつこ、常盤貴子らの主演に起用した女優と共に映画論
を繰り広げる。それは論というほど固く苦しいものではない
が、女優との出会いのエピソードなども含めて心地よく聞け
るものになっている。しかもかなり監督の本質にも迫ってい
る感じで、正直僕は今まであまり強い関心を持った監督では
なかったが、改めて各作品を観たくなってくる感じもした。
ただ途中に出てくる監督の後輩にあたる大学教授の発言は言
わずもがなで、それよりもっと監督の意見を聞きたい感じも
したものだ。それにしても女優に愛された監督だなあという
思いはする作品だった。公開は2020年2月22日より、東京は
ポレポレ東中野他で全国順次ロードショウ。)

『彼らは生きていた』“They Shall Not Grow Old”
(『LOTR』や『ホビット』などのピーター・ジャクスン
監督が、大英帝国戦争博物館が所蔵する第1次世界大戦の当
時に撮影された数千時間に及ぶ記録映像の中から約100時間
を選出し、当時は毎秒13コマや16コマで撮影されていた映像
を24コマに補完修復、さらにカラー化と日本では2D公開だ
が本国では3D化して上映した作品。しかも音声にはBBC
の所蔵による実際に第1次大戦に従軍した兵士たちの肉声が
使用され、同時に吹替えのセリフやサウンドエフェクトなど
で正に臨場感溢れる「戦争映画」を作り上げた。また映像の
中には1917年から前線に配備された「菱形戦車」が走行して
来る実写のシーンなども登場し、その映像自体は過去に観た
ことはあったものの、本作の中で観るとH・G・ウェルズが
1903年に発表した小説“The Land Ironclads”にも思い至っ
た。公開は2020年1月25日より、東京は渋谷のシアター・イ
メージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二