井口健二のOn the Production
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2019年10月27日(日) JAPAN CONTENT SHOWCASE[烈火英雄、ひとくず、恋の豚、星屑の町、白蛇・縁起]+(太陽の家、デニス・ホッパー/狂気の旅路、ラストムービー)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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<JAPAN CONTENT SHOWCASE 2019>
今回は東京国際映画祭に先立って開催された映画の見本市に
おいて上映された作品から紹介します。
“烈火英雄”
港湾地区の石油タンクと化学物質の貯蔵タンク群で起きた大
規模火災を巡って、自らの命を賭してそれに対処した消防隊
員たちの活躍を描いた実話に基づくとされる中国作品。
実は日本語字幕なしで、中文字幕と英語字幕を何とか読んで
鑑賞した。
プロローグは古い商家の火災。店主から上階にいる娘を助け
てくれと言われた消防隊長の主人公は、果敢に火中に飛び込
み娘を救い出す。ところが鎮火したはず店内に検分に行った
新人が突然のガス爆発で殉職。責任を問われた主人公は隊長
職を解かれてしまう。
こうして世間からも非難の視線を浴びることになってしまっ
た主人公だったが…。そこに港湾地区の倉庫街からの出火の
報が入り、その規模から消防隊を2班に分けることになった
消火活動では、火災の際まで突入する班の指揮が主人公に任
される。しかしそれは予想もつかない事態となる。
これに結婚式場から駆け付ける新婚消防士カップルの姿や、
海水を汲み上げて消火するためのポンプの操作。さらに指令
本部の人間模様など。また消防士らの家族も含む市民の緊急
事態に直面した様々な行動の様子が描かれて行く。

出演は、2019年5月19日題名紹介『CROSSING』などの黄暁明
(ホアン・シャオミン)、他に杜江、譚卓、楊紫、欧豪らが脇
を固めている。監督は香港映画でラヴコメの名手と言われた
陳国輝(トニー・チャン)が担当した。
物語は、内モンゴル出身の公安作家バルジ原野の長編ノンフ
ィクション「最深的水是涙水」を原作とするもので、これは
2011年7月16日に大連で起きた大規模火災事故を取材したも
ののようだ。しかし日本人には2015年に起きた天津浜海新区
倉庫爆発事故も思い出される。
日本企業も多大な被害を受けた2015年の火災は、周辺住民を
含む死者165人、行方不明者8人、負傷者798人の惨事となっ
たものだ。その火災では化学物質の誘爆で被害を広げたもの
だが、本作によるとその前に起きた大連の火災ではそれが食
い止められていたというのは意外だった。
それはともかく映画は上映時間約2時間のほぼ全編に亙って
火災シーンが連続するもので、正に中国映画界のCGI=VFXの
実力が試されるような作品。様々な形態の火災シーンやそれ
に絡む人間たちの手を変え品を変えてのアクションは、この
手の作品の集大成といった感じもする作品だ。

本国では8月1日に公開された作品で、日本公開は決まって
いないようだ。

『ひとくず』
関西でテンアンツという劇団を主宰する上西雄大の脚本、監
督、主演で、児童虐待の現実を描いた作品。
映画の開幕は薄暗いマンションの一室。ドアの外側にもカギ
が付けられ脱出不能の部屋に、幼女が1人で母親を待ってい
る。しかし何日も留守らしく食べるものもなく、裂き開いた
ケチャップのチューブも舐め切ったような状態だ。
そこに突然窓ガラスが破られ男が入ってくる。男は室内を物
色して去ろうとするが、幼女の手の甲や体に残る火傷跡から
自らも体験した児童虐待の記憶が甦り、幼女を放っておけな
くなる。そこで食べ物を持ってきたりし始めるが…。
やがて母親が愛人と共に帰宅し男は彼らと対峙するが、それ
がとんでもない事態を招くことになってしまう。

出演は上西の他に、小南希良梨、古川藍、徳竹未夏。さらに
田中要次、木下ほうか、菅田俊、工藤俊作、谷しげる、堀田
眞三、城明男ら、錚々たるメムバーが脇を固めている。
児童虐待を受けて育った子供が粗暴性を持つというのは追跡
研究によって明らかになっていることのようだが、本作の主
人公にも多分にそのような表現が描かれている。そして幼女
の母親も愛を知らずに育った存在だ。そんな現実にも多々あ
りそうな物語が描かれる。
そして後半には少し意外な展開も用意されて映画を引っ張る
が、全体としてはそんな中にも微かかも知れないが希望が描
かれた作品で、結末はありきたりかも知れないがホッとする
気持ちで観終えられる作品だった。

因に本作は、2019年5月開催のニース国際映画祭で上西雄大
が主演男優賞と古川藍が助演女優賞を受賞。6月末に開催さ
れた熱海国際映画祭で最優秀監督賞と子役の小南希良梨が最
優秀俳優賞を受賞。
さらに8月開催のマドリード国際映画祭にて古川藍と徳竹未
夏が最優秀助演女優賞を受賞している。海外での上映題名は
“KANEMASA”。しかしながら日本公開はまだ決まっていない
ようだ。
確かに題材として観客の嗜好に沿わせるのが難しいかも知れ
ないし、僕自身も概要を読んだだけでは観るかどうか迷った
作品でもある。しかし現実を直視する意味でも観るべき作品
だし、マドリードで上映後にスタンディングオベーションが
起きたというのも頷ける作品だ。
日本公開が実現したらぜひとも応援したい。

『恋の豚』
1962年に日本で初のピンク映画を配給したという大蔵映画。
現在も「OP PICTURES」の名称で年間36作品をコンスタント
に製作している同社が、成人向ピンク映画の枠を超える目的
で2015年からR18+作品とは別にR15+のバージョンを製作して
いるプロジェクト「OP PICTURES+」の1作品。
因に本作は2018年8月25日〜9月14日に東京はテアトル新宿
で開催の「OP PICTURES+ フェス」で上映され、2019年2月
に単独劇場公開もされているそうだ。
従って本ページで扱う主旨とは異なるものだが。一応作品は
鑑賞したので物語を簡単に紹介しておくと、俗に「デブ専」
と呼ばれる肥満型のデリヘル嬢を主人公に、彼女と関係する
男性たちが描かれる。そこにピンク映画らしいベッドシーン
が何度も登場するものだ。
ただまあ物語では後半に少し捻りはあるが、特に「デブ専」
に拘るような展開があるものではなく、また取り立てて言う
ほどの男女の絡みに面白さがあるものでもないから、何とい
うか普通の作品かな。
何かもう少し主人公の体形だけでない独自性みたいなものが
欲しいという感じはしたものだ。

主演は本作で芸能界を引退したという百合華。脚本と監督は
2011年8月紹介『タナトス』などの城定秀夫。因に監督は、
ピンク映画界では名手と言われているようだ。

『星屑の町』
演劇集団「星屑の会」が1994年から公演を続けて、2016年に
第7話で完結したという舞台シリーズの映画版。
地方回りの売れないムード歌謡コーラスグループ「山田修と
ハローナイツ」を中心に、訪れた土地で起きるドタバタが涙
と笑いで綴られる。そして今回彼らが訪れたのはリーダーの
故郷の東北の田舎町。そこには兄弟も暮らしていたが…。
グループの中ではリードヴォーカルがソロ活動を目指す動き
があったり、一方、町でスナックを営む女将の娘が歌手を目
指すなど、いろいろな動きがグループの周囲で巻き起こる。

出演は、舞台キャストそのままの大平サブロー、ラサール石
井、小宮孝泰、渡辺哲、でんでん、有薗芳記のメムバーと、
菅原大吉、戸田恵子。
そして今回のヒロイン役は、2014年『海月姫』以来約6年ぶ
りの実写映画出演となるのん。また2019年7月28日題名紹介
『向こうの家』などの小日向星一。さらに相築あきこ、柄本
明らが脇を固めている。
舞台からの水谷龍二が原作と脚本を手掛け、監督は、2017年
3月12日題名紹介『トモシビ-銚子電鉄6.4kmの軌跡-』など
の杉山泰一が担当した。
なお本作は2020年春の公開が予定されているもので、今回は
マスコミ資料の配布もなかったので、公開時に再度鑑賞の機
会があれば改めて紹介する。

“白蛇・縁起”
NHK朝の連続テレビ小説でも描かれた日本初のカラー長編
アニメーション『白蛇伝』の基になった中国の民話を、新た
にCGIアニメーションで制作した作品。
物語は中国奥地の蛇採りを生業とする村を舞台に、なかなか
蛇を採れない若者と白蛇の精との交流が描かれる。そこに村
の征服を狙う朝廷の権力者らが絡んで展開されて行く。
実はこの作品も日本語字幕なしの、中文字幕と英語字幕だけ
で鑑賞したもので、物語の細かいところがあまり把握できな
かった。しかし映画の後半は妖術を駆使する闘いの連続で、
そのアクションは楽しめたかな。
とは言うものの東映版で描かれた若者と妖魔の切ない恋物語
はあまり活かされておらず、大人の観客としては多少物足り
ない感じだったが、eゲーム世代の若者にはこの方が良いの
かな?

本国では2019年1月11日に公開された作品で、日本公開はま
だ決まっていないようだ。

この週は他に
『太陽の家』
(2019年にデビュー40年を迎えた歌手の長渕剛が、1999年の
『英二』以来となる20年ぶりの映画出演を果たした作品。長
渕が演じるのは大工の棟梁。性格は生真面目だが女に弱く、
しかし女房には頭が上がらない。そんな主人公が保険の外交
ウーマンに目を留める。そして何かと気に掛け始めるが、彼
女はシングルマザーで1人息子が父親を知らずに育っている
ことを気にしていた。そこで主人公はその子を男にしてやる
と張り切るが…。長渕が20年間映画に出なかった理由は知ら
ないが、まあはまり役とも言える役柄をうまく演じて見せて
いる。共演は飯島直子、山口まゆ、瑛太、広末涼子。それに
オーディションで選ばれた子役の潤浩。さらに上田晋也、柄
本明らが脇を固めている。脚本は2010年8月紹介『桜田門外
ノ変』などの江良至。監督は2015年『TRASH トラッシュ』な
どの権野元が担当した。公開は2020年1月17日より、東京は
TOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)

『デニス・ホッパー/狂気の旅路』“Along for the Ride”
『ラストムービー』“The Last Movie”
(1970年『イージー・ライダー』で一躍時代の寵児となった
監督が、最終編集権を保持するという最大限の自由度で制作
し、映画祭では好評を博したものの芸術ゆえの難解さで長期
に亙りお蔵入りとなっていた1971年の作品が4Kリマスター
により公開される。その物語はアンデスの山中の村に西部劇
の撮影隊が赴き、そこでの行為が純朴だった村人に様々な影
響を及ぼして行くというものだが…。正直に言って今観ても
支離滅裂で理解に苦しむもの。そして今回は同時上映される
ドキュメンタリーでは、その混乱した製作過程を中心に監督
の半生が描かれる。これを観ると当時のドラッグ文化の狂乱
ぶりが手に取るように判るというものだ。とは言うものの、
『イージー・ライダー』に熱狂してアメリカン・ニューシネ
マに狂喜した世代としては、何ともやりきれない思いもして
しまった。公開は12月20日より、東京は新宿シネマカリテ他
で2作品同時に全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。

なお次回は東京国際映画祭の期間中のため休載します。


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井口健二