井口健二のOn the Production
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2019年10月20日(日) GHOST MASTER(CLIMAX、バウハウス…、淪落の人、ひつじのショーン、テルアビブ・オン・F、だってしょうがない、家族を想う、THE UPSIDE)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『GHOST MASTER/ゴーストマスター』
黒沢清監督に師事したという父親はアメリカ人で母親が日本
人のヤング・ポール監督が、「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM
FILM 2016」にて準グランプリを獲得した長編デビュー作。
物語の背景は、とある学校の教室で行われている「壁ドン」
青春映画の撮影現場。そこには若い主演者の男女優と共に、
監督、プロデューサー、助監督らの撮影スタッフ。さらに共
演女優やベテランの男優とその付き人らも揃っていた。
ところがクランクアップ寸前になって主演男優が自分の役柄
に疑問を呈し始める。そのため撮影は中断、現場を飛び出し
た主演男優が姿をくらます。そこで監督に命じられた助監督
が後を追って探しに行くが…。
実はその助監督は自らが執筆したホラー映画の脚本で監督を
目指しており、先に共演女優に出演依頼して断られていた。
そんなもやもやした気持ちで校舎裏にいた主演男優を見付け
た助監督は思わず自筆の脚本を突き付ける。
ところがそこで脚本の怨念が具現化し、さらに主演男優に取
り憑いた怨念は主演男優を変貌させて暴走を始める。

出演は三浦貴大、成海璃子。さらに2019年9月8日題名紹介
『初恋ロスタイム』などの板垣瑞生、2017年6月4日題名紹
介『便利屋エレジー』などの永尾まりや。他に手塚とおる、
麿赤兒、篠原信一、川瀬陽太、柴本幸、森下能幸らが脇を固
めている。
監督との共同脚本は『東京喰種 トーキョーグール』などの
楠野一郎。特殊スタイリストとして同じく『東京喰種』など
の百武朋が参加している。
撮影のバックステージということでは、2018年4月22日題名
紹介『カメラを止めるな』も思い出すが、本作の企画提出は
上記の2016年だから影響を受けている訳ではない。とは言え
タイミング的にはその流れで行ければ良いかな?
もっとも『カメ止め』の出演者がほとんど知らない人ばかり
だったのに対して、こちらの出演者には有名な俳優が揃って
いる。それにしても成海がホラー映画(?)と思ったが、元々
彼女の映画デビュー作は『まだらの少女』だった。
その成海の役柄は有名アクション俳優を父親に持つ2世女優
というものだが、その相手役に三浦というのもなかなか気の
利いたキャスティングだ。撮影中に役作りなどの意見交換は
したのだろうか。
その2人にはかなりヘヴィなメイクアップも施され、その他
の特殊造型にもいろいろ見どころのある作品になっている。
また劇中にはいろいろな過去作へのオマージュも鏤められ、
観ながら心地よく楽しめる。映画愛に溢れた作品だった。

公開は12月6日より、東京は新宿シネマカリテ、アップリン
ク吉祥寺他にて全国ロードショウとなる。

この週は他に
『CLIMAX クライマックス』“Climax”
(2010年3月紹介『エンター・ザ・ボイド』などの鬼才ギャ
スパー・ノエ監督が、2018年カンヌ国際映画祭の監督週間に
出品して物議を醸したという作品。1996年の雪に閉ざされた
郊外の体育館で、激しいリハーサルを打ち上げたダンサーた
ちがパーティを開く。しかしそこで供されたサングリアには
LSDが混入されていた。そしてハイになった彼らの狂乱が
始まる。先の紹介作品もそうだったがノエ監督にはドラッグ
に対する憧憬が深いのかな。その割には歪んだ結末が何とも
言えなくなってしまう作品だ。単純にドラッグ批判と取って
も良いが、そうではないひねくれた感情も隠されているかも
しれない。出演は、2017年8月27日題名紹介『アトミック・
ブロンド』などのソフィア・ブテラの他は、プロのダンサー
たちがキャスティングされているようだ。公開はR18+指定で
11月1日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷他にて
全国順次ロードショウ。)

『バウハウス・スピリット』
     “Vom Bauen der Zukunft - 100 Jahre Bauhaus”
『バウハウスの女性たち』“Bauhausfrauen”
(「バウハウス100年映画祭」として公開される6作品4番
組のドキュメンタリーの中から番組Dの2作品を鑑賞した。
第1次−第2次世界大戦間の1919年から14年間、ドイツに開
設された芸術学校に関してはその名称を知っている程度だっ
たが、今回紹介されるその教育方針などは現代の教育におい
ても大いに参考にすべきものだろう。その1本目では理論的
な教育の在り方と共に、その精神を受け継いで現代に活かそ
うとする人たちや、南米のスラム街で住環境の改革を進める
人たちが描かれる。しかし2本目では、校是では男女同権を
謳いながらも実際は差別があったという現実が示され、その
中でも見事な仕事を遺した女性たちの姿が描かれる。そして
両作を通じてバウハウスが遺した数々の作品が紹介され、そ
れらは100年の時を経ても今なお燦然と輝き、実生活にも通
用するものだった。映画祭は11月23日より、東京は渋谷ユー
ロスペース他で全国順次開催。)

『淪落の人』“淪落人”
(2018年2月4日題名紹介『香港製造』などの監督フルーツ
・チャンが製作を手掛け、新人監督のオリヴァー・チャンが
自らの脚本に、2017年「劇映画初作品プロジェクト」の資金
援助を受けて制作した長編デビュー作。不慮の事故で首から
下が不随になった男性と、彼の介護に雇われたフィリピン女
性との交流が描かれる。男性は別れた妻と共にアメリカに渡
った息子の成功を傍から見守るだけで、女性は写真家になる
希望を失いかけていたが…。出演は脚本に惚れて無償でOK
したというアンソニー・ウォンと、香港在住10年というフィ
リピン出身の舞台女優クリセル・コンサンジ。他に『香港製
造』がデビュー作のサム・リー、さらにセシリア・イップら
が脇を固めている。同様の作品を後でもう1本紹介するが、
それぞれのシチュエーションで見事なドラマが展開される。
公開は2020年2月1日より、東京は新宿武蔵野館他で全国順
次ロードショウ。)

『ひつじのショーン UFOフィーバー!』
       “A Shaun the Sheep Movie: Farmageddon”
(『ウォレスとグルミット』からのスピンオフで誕生したア
ードマンの人気キャラクターの劇場版で、2015年公開作品に
続く第2作。主人公らの羊の群れと牧羊犬との攻防戦を中心
に、本作ではUFOで不時着した宇宙人の子供が騒動を引き
起こす。そこには『未知との遭遇』から『E.T.』に掛けて
のブームを思い出させるノスタルジーもあり、一方でブーム
に乗じて一儲け企む人物が登場するなど、現代を風刺するよ
うな展開も描かれている。もちろん基本はお子様向けの作品
ではあるけれど、大人の目で見るといろいろ見えてくるよう
にも作られている。そして上記2作も含めた様々なSF映画
へのオマージュも満載の作品だ。脚本は前作の監督を務めた
マーク・バートン。そして本作の監督は前作のストーリー・
ヘッドを務めたリチャード・フェランと、2018年5月20日題
名紹介『アーリーマン』も手掛けたウィル・ベチャーが担当
した。公開は12月13日より、全国ロードショウ。)

『テルアビブ・オン・ファイア』“תל אביב על האש”
(2018年11月3日付「東京国際映画祭」で紹介コメディ作品
の日本公開が決まり、改めて試写を鑑賞した。物語は前回に
書いた通りだが、さすがに2度見ると状況などもよく理解で
きて面白さも倍加した感じがする。複雑な両国関係のすった
もんだが巧みに取り入れられて、見事にコメディにした作品
とも言える。正に現実はコメディと言いたい感じなのかな?
出演は、2007年1月紹介『パラダイス・ナウ』でも共演のカ
イス・ナシェフとルブナ・アザバル。さらに2008年東京国際
映画祭で上映『時の彼方へ』などのヤニブ・ビトン、2018年
3月18日題名紹介『ガザの美容室』などのマイサ・アブドゥ
ル・エルハディ。ほとんどの出演者はイスラエル/パレスチ
ナ人で、脚本と監督もパレスチナ人のサメフ・ゾアビだが、
主な撮影はルクセンブルグで行われており、本作の国籍も同
国になるようだ。公開は11月22日より、東京は新宿シネマカ
リテ他で全国順次ロードショウ。)

『だってしょうがないじゃない』
(2009年4月紹介『美代子阿佐ヶ谷気分』などの坪田義史監
督が、発達障害で障害者年金二級を受給している親戚の男性
を撮影したドキュメンタリー。元はと言えば監督自身が精神
に不調を感じたことからこの親戚の存在を知り、急遽取材に
向かったということで、その時の心境はどのようなものだっ
たのかな? いずれにしても好奇の目ではない、真剣なまな
ざしで状況が捉えられている。それは数年前にそれまで40年
間男性の面倒を見てきた母親が他界し、その後を引き継いだ
叔母の手続きで障害者の認定を獲得。そのお陰で公的な支援
が得られているというものだが。その叔母も近くにいる訳で
はなく、また高齢で先行きには大きな不安が存在している。
映画には庭の大きな桜の樹を落ち葉が処理できないという理
由で切り倒す話などもあって、日本の福祉の根幹が描かれて
いる感じもした。公開は11月2日より、東京はポレポレ東中
野他で全国順次ロードショウ。)

『家族を想うとき』“Sorry We Missed You”
(前作『わたしは、ダニエル・ブレイク』で2度目のパルム
ドールに輝き、引退宣言をしていたイギリスのケン・ローチ
監督が再びメガホンを持った作品。優秀な介護士の妻と多感
な息子、それに幼いが聡明な娘と共に暮らす主人公は、フラ
ンチャイズ制の運送業に職を得るが…。様々な状況が一家を
追い詰めて行く。それは現代社会が直面するグローバル化な
どの弊害が、庶民の目線から鋭く描かれたものだ。出演はい
ずれもオーディションで選ばれた映画初出演のクリス・ヒッ
チェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ
・ブロクスター。無名の俳優たちが正に隣人のような現実感
を生み出している。実は原題にはネガティヴなイメージを持
っていたが、調べるとポジティヴな意味合いが強いようで、
それを知って最後に希望を持たされた感じもした。とは言え
現実の厳しさが真っ向から描かれた作品だ。公開は12月13日
より、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『THE UPSIDE−最強のふたり−』“The Upside”
(2011年10月30日付「東京国際映画祭」で紹介しグランプリ
を受賞した作品のハリウッドリメイク版。オリジナル版に関
して、僕は紹介の翌日記した講評で最高賞に選ばなかった。
その理由は描かれた主人公らの行動がかなり嫌味に感じられ
て納得できなかった点による。その点がリメイクではそれな
りに洗練されて、俗物的な面はありはするものの、観ていて
嫌味には感じ取れないものになっていた。しかもその俗物性
からの脱却みたいなものも心地よく描かれていたものだ。出
演は、2017年10月8日題名紹介『セントラル・インテリジェ
ンス』などのケヴィン・ハートと、2018年4月22日題名紹介
『30年後の同窓会』などのブライアン・クランストン。さら
に2018年11月11日題名紹介『バハールの涙』などのゴルシフ
テ・ファラハニ。そしてオスカー女優のニコール・キッドマ
ン。監督は2011年8月紹介『リミットレス』などのニール・
バーガー。公開は12月20日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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