井口健二のOn the Production
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2019年10月06日(日) 風の電話(IDOL-あゝ無情-、決算!忠臣蔵、カツベン、積むさおり、だれもが愛しいC、スーパーT、EXIT、ジョン・D、ひとよ、男はつらいよ50)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『風の電話』
2009年11月紹介『ユキとニナ』などの諏訪敦彦監督が2016年
放送のテレビドキュメンタリーから発想して描いた東日本大
震災を背景とする物語。
主人公は震災による津波で家族や級友を失った少女。震災後
に広島に住む叔母の家に預けられた少女は、その日から8年
が経って今は高校3年生となっている。しかし心に残る傷跡
が消えることはない。
そんな少女がある切っ掛けから故郷の岩手県大槌町に帰ろう
とするが…。ヒッチハイクで向かう彼女の周囲て様々な出来
事が起き、行く先々でそれぞれの困難に立ち向かう家族の姿
を見ることになる。

出演は、2019年6月23日題名紹介『おいしい家族』などのモ
トーラ世理奈。前作ではかなりはじけた役だったと記憶する
が、本作では悲しみをたたえた表情を変えない役。でも何か
を背負っている感じは共通かな。
他に西島秀俊、西田敏行、三浦友和、渡辺真起子、山本未來
らが脇を固めている。諏訪監督は、台本は作るものの現場で
は即興芝居を重視するということで、以前にも組んだことの
ある西島、三浦、渡辺をはじめベテランたちが支えている。
因に本作の台本は、2014年『百瀬、こっちを向いて。』や、
2017年8月27日題名紹介『AMY SAID』などの狗飼恭
子との共同作られたものだ。
映画の前半で叔母の家に帰宅した主人公が「ただいま」と言
わないことに違和感を覚えた。しかしそれが後半の重要なポ
イントで意味を持っていた。そこからなだれ込むように進む
展開に感動を深くしたものだ。
そして結末の電話に向き合うシーン。実はこのシーンにはシ
ナリオはなく、従ってここのモトローラの台詞は全て即興。
実際はテイク2が使われているそうだが、女優本人が「でき
た気がする」と言ったものが採用されている。
試写後にそのプロダクションノートを読んで、改めて涙がこ
み上げる感動のシーンだった。映画の物語は虚構だけれど、
そこに現実が折り重なる。諏訪監督の映画術が見事に決まっ
たと言えるシーンだ。
物語には震災だけでなく、現在の日本が抱えている様々な問
題も提起され、ヨーロッパでも活躍する諏訪監督の国際的な
視野も見ることのできる作品だった。多少長めの作品ではあ
るが、見る価値のある作品だ。

なお映画は、岩手県大槌町に実在する「風の電話」の設置者
である佐々木格、祐子夫妻の協力の許に製作されている。
公開は2020年1月24日より、東京は新宿ピカデリー他で全国
ロードショウとなる。

この週は他に
『IDOL−あゝ無情−』
(2018年12月9日題名紹介『世界でいちばん悲しいオーディ
ション』に続く音楽会社WACK主催合宿オーディションの
本年度分。やっていることは前作と同じなのかな。早朝マラ
ソンの順位などで脱落者が決まり。最後まで残った者がいき
なりデビューとなる。ただし今回は、元からの所属グループ
BiS の生き残りを賭けた戦いも行われており、主にカメラの
焦点はそちらに向けられている。従って今回のタイトルから
は「オーディション」の文字が省かれているのだろう。それ
にしても途中でルールがコロコロ変わるなど、主催者側の考
えに一貫性がないことも前作と同じで、到底真剣なものには
見えてこない。それもまあヴァラエティということで許され
る作品なのかな。出ている彼女たちは本当に真剣なのだろう
けど…。監督は、前作に引き続いての2008年12月紹介『遭難
フリーター』などの岩淵弘樹。公開は11月1日より、東京は
テアトル新宿他で全国順次ロードショウ。)

『決算!忠臣蔵』
(歌舞伎芝居でも有名な物語を、仇討に掛った経費の面から
検証した山本博文による原作の映画化。基となる大石内蔵助
が瑤泉院に提出した「決算書」は実在し、過去にも多くの研
究に引用されていたものだが、本作では決算書そのものを描
く。そこにはお軽勘平の道行きも山鹿流の陣太鼓も登場しな
いが、赤穂の塩を巡る利権争いの話や、赤穂浪士が火消とし
て活躍し、討ち入りの装束は火消の衣装だったなど、今まで
あまり知られていなかった話が数多く描かれている。これは
「忠臣蔵」に興味のなかった人にも楽しめる作品だ。出演は
堤真一、岡村隆史、濱田岳、横山裕、荒川良々、妻夫木聡。
さらに木村祐一、寺脇康文、鈴木福、千葉雄大。そして竹内
結子、石原さとみ、阿部サダヲらが脇を固めている。脚本と
監督は2015年11月1日付「東京国際映画祭」で紹介『残穢』
や、2016年『殿、利息でござる!』などの中村義洋。公開は
11月22日より、全国ロードショウ。)

『カツベン!』
(映画が活動写真と呼ばれていた時代に、スクリーンの横に
立って外国語字幕の通訳や映画の解説を行った活動弁士の姿
を描いた作品。主人公は幼い時から活動の小屋に潜り込んで
は、憧れのカツベンを見よう見まねで習得していた。そして
紛れ込んだ撮影現場で女優に憧れる少女と巡り合うが…。成
長して小屋で働くようになった主人公は、先輩弁士や花形弁
士に揉まれ、ついに一本立ちのチャンスが巡って来る。しか
し彼には人に言えない過去があった。出演は成田凌、黒島結
菜、永瀬正敏、高良健吾。他に竹中直人、渡辺えり、井上真
央、小日向文世、竹野内豊、池松壮亮。さらに酒井美紀、山
本耕史、草刈民代、城田優、シャーロット・ケイト・フォッ
クスらが脇を固めている。監督は周防正行。脚本と監督補を
2017年7月9日題名紹介『蠱毒(こどく)』などの片島章三が
務めた。無声映画時代のいろいろなエピソードも満載の作品
だ。公開は12月13日より、全国ロードショウ。)

『積むさおり』
(特殊メイクアーティストの梅沢壮一が脚本、監督、編集を
務める異色の夫婦間サスペンス。登場するのはバツイチ同士
のカップル。結婚5年目を迎えて諍いはあるが順調な生活が
続いていた。その日、妻があるものを観るまでは…。その瞬
間に激しい耳鳴りに襲われた妻は、その耳鳴りの間から聞こ
えてくる夫が立てる生活音や笑い声に苛立ちを覚え始める。
出演は、2019年9月8日題名紹介『楽園』などの黒沢あすか
と、2015年『RED COW』などの木村圭作。自分の結婚生活も
40年を超えてくると、妻がこんな風に感じているのだろうな
と思える時もある。そんな夫の立場からするとかなりシビア
な作品だ。男性の監督が良くここまで考え付いたものだとも
思える。切っ掛けとなるあるものの実体は不明だが、監督の
経歴からすると超常的なものと考えていいかな。そう考えて
納得しよう。公開は11月2日より、東京は新宿K's cinema他
で全国順次ロードショウ。)

『だれもが愛しいチャンピオン』“Campeones”
(2006年1月紹介『モルタデロとフィレモン』などのハビエ
ル・フェセル監督が、裁判所命令による社会奉仕で知的障碍
者のバスケットボールチームにやってきたプロチームのサブ
コーチの姿を描くスペインの作品。2019年8月4日にも同旨
のイタリア映画『トスカーナの幸せレシピ』を題名紹介して
いるが、ヨーロッパの南部はこういう熱血漢が多いかな?
そしてそんな熱血漢が障碍者の豊かな才能に気づいて行く展
開は、あざといと言われればそれまでだけれども、やはり感
動は呼ぶものだ。それが爽快に描かれるのも南欧映画の良さ
と言えそうだ。出演は2017年3月19日題名紹介『オリーブの
樹は呼んでいる』などのハビエル・グティエレス。またチー
ムのメムバーには、600人の応募から選ばれた実際に障碍を
持つ俳優たちが起用され、その内のヘスス・ビダルは障碍者
で初となるゴヤ賞にも輝いた。公開は12月27日より、東京は
新宿武蔵野館他で全国ロードショウ。)

『スーパーティーチャー 熱血格闘』“大師兄”
(2017年1月29日題名紹介『イップ・マン継承』や、2016年
『ローグワン』ではSWシリーズにも進出したドニー・イェ
ンが、米軍上がりの熱血教師として荒れた母校に帰ってくる
というアクション作品。その母校では長年大学進学者を出し
ておらず、行政の補助金も打ち切り寸前。それは廃校にも繋
がるが、そこには別の利権も絡んでいる。そんな母校に現れ
た主人公は落ち毀れのグループに注目し、その家族から改革
して行くが…。ここで家族を説得するドラマなどはすっ飛ば
して、それを妨害しようとする悪人たちとの対決など、正に
アクションで描き切っているのが本作の見どころとも言える
作品だ。その潔さにも感服した。そしてそのアクションのし
烈さはイェンの真骨頂と言える作品になっている。特に机を
纏めてその上で闘う展開に感心した。公開は11月15日より、
東京はシネマート新宿、大阪はシネマート心斎橋にて開催の
「のむコレ3」の1本として上映される。)

『ブライトバーン 恐怖の拡散者』“Brightburn”
(2017年5月紹介『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』
シリーズなどの監督ジェームズ・ガンが製作を務めるSF風
ホラー作品。登場するのは不妊治療でも子供に恵まれなかっ
た夫婦。そんな夫婦が激しい振動が起き近くの森が赤く燃え
た夜に子を授かる。しかしその子が成長すると周囲で異変が
起き始める。出演は2017年5月紹介『パワーレンジャー』な
どのエリザベス・バンクスと、同作で声優を務めたデヴィッ
ド・デンマン。それに2003年生まれで4歳から演技を始めた
というジャクスン・A・ダン。脚本は2012年2月紹介『セン
ター・オブ・ジ・アース2/神秘の島』などのブライアン&
マーク・ガン。監督は2015年に長編デビューのデヴィッド・
ヤロヴェスキーが担当した。超能力を持つ子を育てる話では
スティーヴン・キングの小説『ファイアスターター』が見事
だが、つくづくケント夫妻は偉かったと思える作品だ。公開
は11月15日より、全国ロードショウ。)

『EXIT』“엑시트”
(オリンピック種目にもなるスポーツ・クライミングの技を
駆使して毒ガステロに襲われた街を脱出するサヴァイヴァル
アクション作品。主人公は競技に挫折した男性。そんな彼が
父親の誕生を祝うパーティ式場を訪れる。そこには昔の競技
仲間の女性も働いていた。そこにテロが発生し、街中に撒か
れたガスの高さが徐々に主人公たちのいる階に迫ってくる。
そこでヘリ救助を待つため屋上への脱出を図るが…。出演は
2016年10月紹介『造られた殺人』などのチョ・ジョンソク、
アイドルグループ「少女時代」のユナ。他にコ・ドゥシム、
パク・インファン、キム・ジヨンらが脇を固めている。脚本
と監督は本作が長編デビューのイ・サングン。短編で多数の
受賞に輝く俊英が一気に長編でも開花した。毒ガステロには
日本人として苦い思いもあるが、それを見事にエンターテイ
ンメントにしてくれた作品だ。公開は11月22日より、東京は
新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『ジョン・デロリアン』“Driven”
(SF映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』への登場で
一躍有名になった自動車の生みの親を描いた事実に基づくと
される作品。主人公は小型機のパイロット。ある日、家族と
のバカンスから舞い戻った彼は空港でFBIに拘束され、機
内に麻薬が発見される。しかしFBIは取引を持ち掛け、彼
はセレブの街に住居を移す。そこには自動車業界の革命児も
暮らしていた。そして彼はデロリアンに近づいて行くが…。
出演は2017年8月紹介『シンクロナイズド・モンスター』な
どのジェイスン・サダイキス、『ホビット』シリーズなどの
リー・ペイス。他にジュディ・グリア、コリー・ストールら
が脇を固めている。監督は2006年8月紹介『アダム』などの
ニック・ハム。この一件でデロリアンは没落してしまうが、
映画は事件をFBIのでっち上げとして描く。これが真実な
ら恐ろしい話だ。公開は12月7日より、東京は新宿武蔵野館
他で全国順次ロードショウ。)

『ひとよ』
(劇作家、演出家の桑原裕子による舞台を基に、2019年5月
紹介『麻雀放浪記』などの白石和彌監督が衝撃の過去を持つ
家族を見つめた作品。母親が夫を殺害。それは夫の暴力から
3人の子供を守るための覚悟の犯行だった。その母親は15年
経ったら戻ってくると言い残して警察に出頭した。その時が
流れ、成長した子供たちはそれぞれの暮しをしていたが、家
族の絆は失われていた。そこに母親が返ってくる。それは一
見平穏な日々を復活させるが…。覚悟の犯行がもたらした代
償は大きかった。出演は佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優。他に
音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、MEGUMI、大悟、
佐々木蔵之介。そして田中裕子。白石監督は2010年9月紹介
『ロストパラダイス・イン・トーキョー』から人の繋がりを
描くことを主眼としているように思うが、本作はその繋がり
の根源である家族を、新たな視点で観ている感じの作品だ。
公開は11月8日より、全国ロードショウ。)

『男はつらいよ お帰り 寅さん』
(1969年に第1作が公開され、1997年に前年の俳優の死去に
伴う特別編の第49作が公開されてから22年を経て、シリーズ
の新作が登場する。物語は前作ではまだ青年だった寅さんの
甥がベストセラー作家となり、次回作を期待される中で叔父
との関係や、叶わなかった初恋の人との思い出と新たな未来
を描くもの。社会の変化は敢えては描かないものの、人情の
普遍性みたいなものは描き込まれている。出演は吉岡秀隆、
倍賞千恵子、前田吟、後藤久美子。それに浅丘ルリ子。そし
て渥美清。他に池脇千鶴、夏木マリ、美保純、佐藤蛾次郎、
桜田ひより、カンニング竹山、小林稔侍、笹野高史、橋爪功
らが脇を固めている。脚本と監督は山田洋次。共同脚本に監
督の盟友であり、2016年7月24日題名紹介『いきなり先生に
なったボクが彼女に恋をした』などの朝原雄三が参加してい
る。懐かしさ一杯だが、最後に写される歴代マドンナには心
も打たれた。公開は12月27日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二