井口健二のOn the Production
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2019年09月29日(日) その瞬間:僕は泣きたくなった、KIN(いのちのスケッチ、犬鳴村、再会の夏、最初の晩餐、ゾンビ、IT イット THE END、*東京国際映画祭)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『その瞬間、僕は泣きたくなった』
2018年5月13日題名紹介『ウタモノガタリ』に続く、EXILE
HIROと短編映画祭主宰の俳優別所哲也、それにEXILE の楽曲
を手掛ける作詞家小竹正人のコラボレーションによる短編集
の第3弾。
今回はその企画に三池崇史、行定勲、松永大司、洞内広樹、
井上博貴の新鋭&ベテラン監督が結集した。
「Beautiful」はクリスタル・ケイの同名楽曲に基づく三池
監督作品。大災害の後で助け合った2人は、実はその直前に
自殺を試みていたもの同士だった。しみじみとした作品で、
エンディングロールの監督の名前を観てびっくりした。

出演はEXILE AKIRAと蓮佛美沙子
「魔女に焦がれて」は琉衣の‘ライラック’という楽曲に基
づく井上監督作品。霊感の働く同級生を想う幼馴染の少年の
物語。霊感ゆえの生き辛さと学園での浮き沈みが、今の社会
の状況を巧みに描き出す。

出演は、2019年2月17日題名紹介『4月の君、スピカ。』な
どの佐藤大樹と2013年12月紹介『僕は友達が少ない』などの
久保田紗友。それに2016年『仮面ライダーエグゼイド』など
の松田るか。
「On The Way」は今市隆二の‘Church by the sea’という
楽曲に基づく松永監督作品。中米の移民ロードを背景に、母
親の代わりに厭々NPOのボランティアにやってきた若者が
非情な現実に直面する。

出演は今市本人と、JICAの現地職員として働くパコ・ニ
コラス、メキシコ人俳優のマヌエル・ヒメネス。
「GHOSTING」はLISAの‘ラストラブ’という楽曲に基づく洞
内監督作品。人は死の瞬間に一人だけ会いたい人に会いに行
ける…という設定の許で、ファンタスティックな物語が展開
される。
このテーマはいろいろ難しいところがあるが、本作の場合は
前半の話は見事に嵌ったものの、後半に関してはいろいろ悩
ましかった。まあ辻褄を合わせられなくはないが、その説明
がもう少し欲しい。

出演は、2018年9月30日題名紹介『ハナレイ・ベイ』などの
佐野玲於と、子役から多くテレビ出演している畑芽育。他に
2017年11月26日題名紹介『blank13』などの大西利空。タレ
ントの結城アンナらが脇を固めている。
「海風」はLeolaの同名楽曲に基づく行定監督作品。横浜の
風俗街を舞台に、街を仕切るやくざの男と中年娼婦の悲しい
人生の物語が綴られて行く。こちらは正に行定ワールドと言
う感じの作品かな。

出演は、劇団EXILE で『HiGH&LOW』シリーズなどの小林直己
と、舞台女優で2019年8月4日題名紹介『108』などの秋
山菜津子。他に2013年12月紹介『神奈川芸術大学映像科研究
室』などの嶺豪一らが脇を固めている。
それぞれの作品は上映時間23分という限定で作られているよ
うだが、この監督の顔ぶれだとさすがにきっちりとした作品
を観せてくれる。三池監督の新境地もあるし、ファンタシー
として楽しめる作品もあり、短編映画の世界を堪能できた。

公開は11月8日より、東京はTOHOシネマズ日本橋他にて全国
ロードショウとなる。

『KIN/キン』“Kin”
2018年12月16日題名紹介『クリード炎の宿敵』などのマイク
ル・B・ジョーダンの製作総指揮・出演で、人類の未来に係
るSF作品。なおジョーダンは本作前に“Fahrenheit 451”
の製作総指揮・主演も務めている。
本作の主人公は社会の底辺に生きているような黒人の少年。
父子家庭で建設会社に勤めているらしい白人の父親は厳しく
指導しているが、今は学校から停学処分を食らっているよう
な状況だ。
そんな少年は立ち入り禁止の廃ビルに侵入し、電線やくず鉄
などを回収して小遣いを稼いでいたが、それは当然、窃盗を
働いていることになるもの。そして父親からはこっぴどく怒
られたりもしていた。
そして刑務所に入っていた白人の兄が帰ってきた日。少年は
その日も侵入した廃ビルで異様な体験をする。未来風な甲冑
を着て頭部の破壊された人物のそばに落ちていた黒い箱に触
ると、それが突然起動したのだ。
一方、白人の兄は良からぬ連中と揉めた末に、父親の勤務先
に強盗に入ることになるが、それは最悪の結果をもたらす。
そのため連中に追われる兄は、少年には嘘をついて一緒に逃
走を図り、そこで黒い箱が威力を発揮する。
そこにさらに別の存在も現れる。

出演は、オーディションで選ばれた長編映画初主演のマイル
ズ・トゥルイット、2017年2月12日題名紹介『フリー・ファ
イヤー』や2014年7月紹介『トランスフォーマー/ロストエ
イジ』などのジャック・レイナー。
他に、2017年5月紹介『ダイバージェント』などのゾーイ・
クラヴィッツ。さらにデニス・クエイド、ジェームズ・フラ
ンコらが脇を固めている。
監督は、オーストラリア出身で世界的ブランドのCMディレ
クターなどを務める双子のジョナサン&ジョシュ・ベイカー
兄弟による長編デビュー作。
脚本は、兄弟が2014年に発表した15分の短編“Bag Man”か
ら、本作後に『ワイルドスピード9』に抜擢されたダニエル
・ケイシーが執筆している。
最初に廃ビルで倒れていた存在は後で少年を抹殺しに来てい
たとされ、少年は未来の命運を担うとも説明されるもので、
これは『ターミネーター』のジョン・コナーのような立場の
ようだ。
ただし少年の手の甲に浮き出る紋章の意味や、また少年自身
が未来から来たのかどうかなどは曖昧で、この辺は続編狙い
なのかな。黒い箱の威力は強烈なものだし映像も見事だが、
アクションとSFのバランスが少し違う感じもした。
でもまあSF映画の未来を担うかもしれない新たな才能が登
場してきたことは確かなようだ。

公開は11月29日より、東京は新宿バルト9他にて全国順次ロ
ードショウとなる。

この週は他に
『いのちスケッチ』
(動物福祉に特化した動物園として世界的に知られる福岡県
大牟田市動物園を舞台に、漫画家を目指し上京したが挫折し
故郷に戻った青年が、自らの画才に新たな活路を見出す話。
そこにアメリカ帰りの女性獣医師などが絡む。出演は2018年
10月7日題名紹介『家族のはなし』などの佐藤寛太、2017年
3月26日題名紹介『猫忍』などの藤本泉。他に風間トオル、
高杢禎彦、浅田美代子、渡辺美佐子、武田鉄矢らが脇を固め
ている。脚本は2018年1月21日題名紹介『神さまの轍』など
の作道雄。監督は2018年『恋のしずく』などの瀬木直貴。漫
画家でも漫才師でも何でもいいのだけれど、上京したものの
目標を見失って挫折・帰郷した若者が、地元で特技を活かし
て再起する。そんな話ってどんだけあるだろう。そんな中で
本作には「延命動物園」という格好の題材があるのだが…。
延命の実践などもっと現実の情報が欲しかった。公開は11月
8日から福岡県先行、15日より全国ロードショウ。)

『犬鳴村』
(2017年4月紹介『こどもつかい』などの清水崇監督による
ホラー作品。地図にない村を巡って、都市伝説やPOVなど
様々な要素が交錯する。出演は2013年2月紹介『旅立ちの島
唄〜十五の春〜』などの三吉彩花。他に坂東龍汰、古川毅、
宮野陽名、大谷凜香。さらに寺田農、石橋蓮司、高嶋政伸、
高島礼子、奥菜恵らが脇を固めている。内容としては社会的
な問題が描かれているし、その怨讐みたいなものも描かれて
はいるが、全体的にはその恨みが曖昧かな。脚本は清水監督
の原案から盟友保坂大輔との共作だが、タイムパラドックス
のようなSF的解釈が前面に出ているのも、ホラーを見たい
気分に反したかもしれない。ホラー映画というのは基本コケ
脅かしでいいと思うが、『リング』がSF的な解釈に進むの
に対して、清水監督の『呪怨』は理不尽さが強かったもの。
その点では少しはぐらかされた感じもした。充分怖い作品だ
が…。公開は2020年2月7日より、全国ロードショウ。)

『再会の夏』“Le collier rouge”
(1933年生まれのジャン・ベッケル監督が、ゴンクール賞受
賞の作家ジャン=クリストフ・リュファンによる史実に基づ
くとされる小説を脚色、映画化した作品。拘置所の前で盛ん
に吠える犬の描写に始まり、収監されている飼い主との第1
次世界大戦を背景にした困難な日々が描かれる。真面目な農
夫は、山羊飼いの女性と愛し合っていたが、命じられるまま
に戦場に征き偶然挙げた武勲でレジオンドヌール勲章に叙せ
られる。しかしそれが収監の原因となる。そんな男の姿が、
調査に来た検察官の目を通して語られる。最も悲惨とされる
大戦を映した反戦色の濃い作品だ。出演は2011年10月30日付
「東京国際映画祭」で紹介『最強のふたり』などのフランソ
ワ・クリュゼと、2018年3月4日題名紹介『ダリダ〜あまい
囁き〜』などのニコラ・デュヴォシェル、2016年『消えたア
イリス』などのソフィー・ヴェルベーク。公開は12月13日よ
り、東京はシネスイッチ銀座他で全国ロードショウ。)

『最初の晩餐』
(短編映画やCM、MTVなどを数多く手掛け、本作が長編
デビューとなる常盤司郎脚本、監督によるかなり複雑な背景
を持つ家族の物語。駆け出しカメラマンの主人公は、仕事も
うまくいかない中、父親の葬儀で故郷に帰ってくる。そこに
は母親や姉もいるが、実は姉弟と母親には血の繋がりがない
ようだ。そして母親が通夜のふるまいを勝手にキャンセルし
て自分で作ると言い出したことから、その食事を巡って一家
の歴史が振り返られる。出演は染谷将太、戸田恵梨香、窪塚
洋介。それに斉藤由貴、永瀬正敏。また森七菜、楽駆、牧純
矢、外川燎らがそれぞれの子供時代を演じ、他に菅原大吉、
玄理、山本浩司らが脇を固めている。案外ありそうな家族だ
が、実は長男の立場が良く判らず、他にも実母が居ない理由
も不明瞭。この辺はもう少し欲しかった。いろいろ出てくる
山男の料理みたいなものは面白かったが…。公開は11月1日
より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)

『ゾンビ』“Dawn of the Dead”
(今も続くゾンビ映画ブームの嚆矢となったジョージ・A・
ロメロ監督の1978年作品が、当時の日本初公開版の復元とい
う形で再公開される。実は当時の公開では配給の日本ヘラル
ドが日本人の嗜好に合うようにいろいろ細工していたのだそ
うで、日本版独自の演出が施されたものだ。その日本版を僕
は試写では見ておらず、ロードショウも見逃して地方公開で
観たものだが、その際の後ろの座席で女子高校生のグループ
がハンバーガーを食べながら観ていて、途中で「もう食べら
れない」と言っていたのを思い出す。今にしてみればそれほ
どでもないが、40年前だとJKも初心だったということだろ
う。因に途中でストップモーションになったり、色が無くな
ったりするのは映倫審査の結果で、当時は他の作品でも観ら
れた「演出」だ。ただ巻頭のシーンがオリジナルにはなかっ
たというのは凄い。公開は11月29日より、東京はヒューマン
トラストシネマ渋谷他で全国順次ロードショウ。)

『IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』
                 “It: Chapter Two”
(2017年10月1日付で題名紹介したスティーヴン・キング原
作作品の第2章。前作から27年後。再び襲う“それ”の恐怖
に、前作を生き延びた落ち毀れグループが再挑戦する。出演
はジェームズ・マカヴォイ、ジェシカ・チャステイン、ビル
・ヘイダー、イザイア・ムスタファ、ジェイ・ライアン、ジ
ェームズ・ランソン、アンディ・ビーン、ビル・スカルスガ
ルド。前作のシーンも挿入されるが、子役と似ていたり似て
いなかったりも面白い。そして物語はホラーというよりSF
的な展開になって行き、それが2時間49分たっぷりに楽しま
せてくれる。監督は前作と同じくアンディ・ムスキエティ。
脚本も前作と同じ2019年8月4日題名紹介『アナベル 死霊
博物館』などのゲイリー・ドーベルマンが担当。成長して故
郷を離れた連中が事件を忘れていて、それがある切っ掛けか
ら徐々に思い出して行く。その展開も見事で恐怖がじわじわ
と再現された。公開は11月1日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
        *         *
「東京国際映画祭・記者会見」
 本年も10月28日から11月5日まで開催される映画祭で上映
される作品の紹介が行われた。
 これによるとメインのコンペティション部門には、今年は
115の国と地域から1804本の応募があり、その中から14本が
選出された。その中には日本映画も2作品選ばれたが、何故
か例年選出されるSF・ファンタシー系の作品では、今年は
2025年が舞台というウクライナ映画『アトランティス』があ
り、期待したい。
 またアジアの未来部門には8本が選ばれ、その中では多国
籍のスタッフによるホラー作品『モーテル・アカシア』と、
イラン映画の『死神の来ない村』が面白そうだ。
 一方、CROSSCUT ASIA 部門には8作品と1シリーズが選ば
れているが、今年はそのほとんどがホラー作品とのこと。こ
れにワールド・フォーカス部門に選ばれた11作品と1シリー
ズを加えたものを鑑賞の対象とする予定だが、果たしてどれ
だけ観ることができるか。結果は後日報告したい。 


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井口健二