井口健二のOn the Production
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2019年09月22日(日) RUN、銀河英雄伝説(サイゴンC、オーバー・エベレスト、ブルーアワー、盲目のM、MANRIKI、そして、ベル・カント、この星は、夕陽のあと)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『RUN!-3films-』
2008年6月紹介『愛流通センター』などの土屋哲彦監督と、
土屋監督の許で編集などを担当していた畑井雄介監督による
各地の映画祭で受賞の短編を集めた作品。
1本目は「山形国際ムービーフェスティバル2017」で準グラ
ンプリと観客賞をW受賞した「追憶ダンス」。
コンビニのアルバイト店員とコンビニ強盗。2人の関係がコ
メディタッチで描かれる。しかもかなり過激なアクションも
添えられ、全体はこれぞ短編映画、と言う感じに見事に纏め
られた作品になっている。

土屋監督の作品で、出演は2015年5月紹介『お化け屋敷列伝
/戦慄迷宮MAX』に出ていたという篠田諒と、2017年4月紹介
『桃とキジ』に出ていたという木ノ本嶺浩。
他に2017年12月紹介『牙狼 GARO 神ノ牙 KAMINOKIBA』など
の青木玄徳。それに津田寛治らが脇を固めている。
2本目は「しがショートムービーフェス2015」でグランプリ
受賞の「VANISH」。
先に「2本目はSFです」と言われて期待半ばで鑑賞した作
品。年間失踪者数が10万人という現実を踏まえて、その裏で
暗躍する男たちを描く。アイデアは面白いし、表現力も確か
だが、物語はちょっと中途半端かな。聞けば長編映画を目指
すパイロットフィルムとのことで、本編に期待したい。

畑井監督の作品で、出演は2018年4月紹介『名前』に出てい
たという松林慎司と、同作でも共演の津田寛治。
3本目は「杉並ヒーロー映画祭2017」で観客賞とベストヒー
ロー賞をW受賞した「ACTOR」。
売れない役者でアルバイト先でも馬鹿にされ続けている主人
公。しかしようやく貰った仕事で共演女優に励まされ、気分
を良くしていると、それ自体が撮影現場の演出だった。そし
て戻ってきたバイト先に待っていたものは…。
メタフィクションと言う感じかな。アイデアは悪くないが、
その設定自体が消化し切れておらず、結果として「ああそう
ですか」で終ってしまった。

土屋監督の作品で、出演は2005年4月紹介『魁!!クロマティ
高校』など山口雄大監督作品に常連の黒岩司と、同作の主演
で2002年『仮面ライダー龍騎』の須賀貴匡。他に2018年11月
紹介『ふたつの昨日と僕の未来』などの菅野莉央。それに津
田寛治らが脇を固めている。
ベテラン俳優が続けて出ているのはちょっと意外だったが、
他にも重複している出演者はいるようで、それなりのグルー
プの作品と言うことなのだろう。
1本目と3本目の土屋監督は長編作品の実績もある人だが、
2作ともに短編映画としてしっかりと作られたもので、長編
の切れ端のような作品も見掛ける日本の短編映画の中では、
気持ち良く観られる作品だった。
これに対して畑井監督の2本目は、上でも書いたようにパイ
ロットフィルムということで、これは本編を観なければ正当
な評価はできない。早くその日が来ることを楽しみに待ちた
いものだ。

公開は11月2日より、東京は池袋シネマ・ロサ他で全国順次
ロードショウとなる。

『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱 第三章』
田中芳樹原作によるSF戦記シリーズのアニメ化で、2019年
8月11日及び9月1日にそれぞれ第一章と第二章を題名紹介
した第2シーズンの全12話、各章4話からなる第三章。なお
今回は第2シーズンの全体について記すことにする。
第一章の開幕は熾烈な宇宙戦闘シーン。この戦いで自由惑星
同盟の艦隊司令ヤン・ウェンリーは絶対不利の状況を勝ち抜
いてみせる。それは見事な戦略だったが、この当時の彼には
すでに不敗伝説があったようだ。
因にこの開幕では、第13話と出た直後のこの展開にかなり面
食らったが、ネット検索によると、2018年に放送された第1
シーズンではほぼ全編が戦闘シーンで、その内の2話を割い
てヤンと敵将ラインハルトの生い立ちも語られたとある。
つまり、映画館で初めて見る観客にはその辺の事情が不明に
なってしまうものだが、原作の読者には不要であろうし、取
り敢えず第2シーズンの間ではそれは深く関わる様な展開に
はなっていない。
そしてこの戦況で銀河帝国内の政情が揺らぐ中、帝国の皇帝
が世継ぎを指名することなく急死。このため帝国内では貴族
たちによる覇権争いが勃発する。一方、同盟側でも軍事クー
デターが発生。
これらの出来事はヤンとラインハルトの命運を左右して行く
ことになるが…。大銀河の広大な宇宙空間を背景に、政治的
な駆け引きや、個人的な人間模様など、様々なドラマが展開
されて行く。

主役の声優は宮野真守と鈴村健一。他に梅原裕一郎、諏訪部
順一、梶裕貴、小野大輔、中村悠一、川島得愛、遠藤綾、三
木眞一郎、鈴木達央、石川界人、花澤香菜、古谷徹、二又一
成らが脇を固めている。
監督は多田俊介、シリーズ構成を高木登が担当。
1982年に第1巻出版の原作が『スターウォーズ』の影響をも
ろに受けていることは間違いないが、善悪の線引きが明確な
アメリカ映画に比べると、両陣営にそれぞれの主人公が置か
れるなど、単純な善悪では割り切れない人間の姿が描かれた
作品とは言えるだろう。
とは言うものの、共にエリートの戦いというのは釈然としな
いが、それも人類の歴史を考えれば仕方のないところではあ
る。
それに加えて、本作のエンディングには第3シーズンの予告
のようなものが付いていて、そこでは今後の展開として第3
勢力の台頭もあるようだ。公式発表は未だのようだが、そこ
には期待したい。

公開は第一章が9月27日、第二章が10月25日、第三章が11月
29日より、それぞれ東京は新宿ピカデリーの他、全国35館に
て3週間ずつの限定ロードショウとなる。
なお試写会では、各話ごと30分枠の放送番組の形態で上映さ
れたが、限定ロードショウ以降の放送のスケジュールなどは
未定とのことだ。

この週は他に
『サイゴン・クチュール』“Cô Ba Sài Gòn”
(9代続いたアオザイ仕立て屋の跡取り娘が、1969年から現
代にタイムスリップする2017年製作のヴェトナム映画。主人
公はミス・サイゴンに選ばれるほどの美貌で、ファッション
リーダー的な存在。そんな彼女の実家は代々続く仕立て屋だ
ったが、彼女自身は古臭い民族衣装のアオザイには興味がな
かった。そして新たに洋装店を開店しようとしていたが…。
現代にやってきた彼女が目撃したのは、事業に失敗して実家
も手放す寸前の彼女自身。彼女は自分の未来を変えられるの
か? 出演はヴェトナムの歴代興行ベスト10に主演作が並ぶ
というニン・ズーン・ラン・ゴック。脚本と監督は、日本で
は2019年5月に Netflixで配信の『ハイ・フォン』が2月の
本国公開で歴代興行記録を塗り替えたというケイ・グエン。
タイムパラドックスは悩ましいが、過去と現代で画質を変え
るなど細かい配慮はなされた作品だ。公開は12月21日より、
東京は新宿K's cinema他で全国順次ロードショウ。)

『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』“氷峰暴”
(2013年2月紹介『セデック・バレ』などのテレンス・チャ
ン製作で、役所広司がヒマラヤで活動する救助隊の隊長に扮
する山岳アクション作品。カトマンズが拠点の救助隊は、隊
長以下抜群の実績を持つが、民間組織で資金難に苦しんでい
た。そんな救助隊にインド軍の特別捜査官を名告る男からエ
ベレスト山頂付近に墜落した軍用機から機密文書を回収する
依頼が持ち込まれる。折しも近隣国の和平会議が開催され、
文書はその成否に関るとされた。こうして危険な登攀が開始
されるが…。共演は2018年11月4日付「東京国際映画祭」で
紹介『プロジェクト・グーテンベルク』などのチャン・ジン
チュー。2014年のドラマ『金田一少年の事件簿 獄門塾殺人
事件』などのリン・ボーホン。脚本と監督は元ゲーム会社の
副総裁というユー・フェイのデビュー作。内容では1975年の
『アイガー・サンクション』や1993年の『クリフハンガー』
も思い出した。公開は11月15日より、全国ロードショウ。)

『ブルーアワーにぶっ飛ばす』
(「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM 2016」にて審査員特
別賞を受賞した企画の映画化で、CMディレクター箱田優子
の脚本監督による作品。2018年8月26日題名紹介『ビブリア
古書堂の事件手帖』などの夏帆と、2019年4月28日題名紹介
『新聞記者』などのシム・ウンギョン共演で、アラサー女性
の生き方を描く。仕事は順調だが心に荒みを感じる主人公は
病気の祖母の見舞いで帰郷する。その旅には親友も同行する
が…。直感的に親友の存在が剣呑だったが、帰宅直後の母親
の発言で状況が判らなくなった。結局その存在には別の解釈
を思い付いたが釈然とはしない。でもまあそんなことは横に
置いといて、女性の共感は得られるのかな。上記の他に渡辺
大知、黒田大輔、嶋田久作、ユースケ・サンタマリア、でん
でん、南果歩らが脇を固めている。それにしても2007年4月
紹介『天然コケッコー』の夏帆がアラサーか! 公開は10月
11日より、東京はテアトル新宿他で全国ロードショウ。)

『盲目のメロディ インド式殺人狂騒曲』“अंधाधुन”
(芸術性の追求のため盲目を装っていたピアニストが、サプ
ライズで訪れたマンションの部屋で殺人を「目撃」してしま
う。しかしその証言を出来ない主人公にはさらなる追い打ち
が掛り、事態は益々深みに嵌ってしまう。果たして主人公は
周囲を傷つけずに事件を解決できるか…。出演は見事な演奏
を実演するアーユシュマーン・クラーナー。他に2012年12月
紹介『ライフ・オブ・パイ』などのタブー、2018年の話題作
『パッドマン』などのラーディカー・アープテーらが脇を固
めている。脚本と監督は、2014年1月紹介『エージェント・
ヴィノッド』などのシュリラーム・ラガヴァン。踊りはない
が多彩な音楽の聴ける作品で、物語は正に怒涛のように展開
される。少し人死にはあるが、それは仕方ないかな。最初に
「これはフィクションです。」と出て、文字通りそこを堪能
する作品だ。公開は11月15日より、東京は新宿ピカデリー、
アップリンク渋谷/吉祥寺他で全国順次ロードショウ。)

『MANRIKI』
(「ラッセンが好き」などのピン芸人・永野の原案脚本で、
「嵐」のMTVなどを手掛ける清水康彦が脚本監督、斎藤工
の製作出演で作られた、かなり過激な演出も含むブラックコ
メディ。原案は永野がファッションイヴェントに出演したと
きに思い付いたとのことで、日本人女性の小顔信仰を揶揄す
るような作品。それにしても万力何て高校の職業の授業以来
か、大学の卒論研究で工学部の作業所を使わせてもらった時
に観た程度だが、それで指を潰しそうになる恐怖は消えない
ものだ。そんな恐怖心を遺す男性には中々に思える作品だろ
う。共演は永野と音楽監督も務める金子ノブアキ。他に劇団
EXILEのラッパーSWAY、2017年11月26日題名紹介『blank13』
などの神野三鈴、2018年2月4日題名紹介『Sea Opening』
などの小池樹里杏らが脇を固めている。判り難い作品ではあ
るが、これも映画というところかな。公開は11月29日より、
東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)

『そして、生きる』
(東日本大震災を背景に、救援ボランティアで出会った若い
男女の数奇な運命を、有村架純、坂口健太郎のW主演で描い
た作品。8月4日から全6話で放送されたドラマが未公開映
像も加えて2時間15分に凝縮され、映画版として劇場公開さ
れる。幼い頃に両親を亡くし、盛岡で理髪店を営む叔父の許
で育った主人公はいつしか女優を夢見ていた。そして運命の
2011年3月11日は、翌日東京で行われるオーディションに向
けて出発準備をしていたが…。この開幕には有村も出ていた
2013年朝ドラも思い出したが、当然そこから後の展開は異な
るものだし、どうという問題ではない。それより件の朝ドラ
ではほとんど描かれなかったと記憶する救援ボランティアの
活動がかなり詳細に描かれ、そこに見事な感動も生じていた
ものだ。共演は知英、岡山天音。他に萩原聖人、光石研、南
果歩らが脇を固めている。劇場公開は9月27日より、東京は
イオンシネマ板橋他で全国順次ロードショウ。)

『ベル・カント とらわれのアリア』“Bel Canto”
(1996年に発生した在ペルーの日本大使公邸占拠事件に想を
得て2001年に出版されたアメリカの作家アン・パチェット原
作小説の映画化。日系人が大統領を務める南米国の公官邸を
舞台に、日本企業の工場誘致を目論む政権担当者が企業の重
鎮を招待。さらに彼が好きだという女性オペラ歌手を招いて
サロンコンサートを催すが…。そこに武装ゲリラが突入し、
各国外交官を含む多数が人質となってしまう。そこで武装ゲ
リラの要求は捕らえられている政治犯全員の釈放だったが、
赤十字の交渉人が仲介するも要求はなかなか通らない。そん
な交渉が長引く中で人質とゲリラとの間には交流が生まれ始
める。出演はジュリアン・モーア、渡辺謙、セバスチャン・
コッホ、クリストファー・ランバート、加瀬亮、エルザ・ジ
ルベルスタイン。脚本と監督は2002年7月紹介『アバウト・
ア・ボーイ』などのポール・ワイツ。公開は11月15日より、
東京はTOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)

『この星は、私の星じゃない』
(1943年生まれ、1970年に発表した「便所からの解放」とい
う文章で日本におけるウーマンリブ運動の先駆者ともされる
田中美津女史。その半生を描いたドキュメンタリー。現在も
現役の鍼灸師として施術を行う傍ら、時には沖縄で基地反対
闘争のピケットラインにも身を投じる。今週は様々な女性の
生き方を描いた作品を観てきた気がするが、本作はその指針
の一つになろうかという作品だ。挿入される1970年代の映像
には、僕自身も観てきた風景の中に懐かしさも感じたが、そ
の時代から意思を貫き通した女史の生き様には正に敬服のい
たりという感じもした。その一方で、タイトルの文言は女史
が幼い頃から感じてきたことだというが、そこには一抹の寂
しさも感じてしまう。国連調査による「幸福度ランキング」
では日本はその順位を年々下げているそうだが、そんな虚し
さも漂う作品だ。公開は10月26日より、東京は渋谷のユーロ
スペース他で全国順次ロードショウ。)

『夕陽のあと』
(鹿児島県北部の漁師町を舞台に、貫地谷しほりと山田真歩
が、それぞれの母性を演じるヒューマンドラマ。貫地谷が扮
する茜は港の食堂で働く女性。都会からやってきていつしか
働くようになり、接客や子供たちにも優しいことで人気者に
もなっている。一方の山田が演じる五月は鰤の養殖に挑む夫
と義母、それに幼い子供と暮らしているが、実は子供は実子
ではなく、児童相談所から生後の間もない子を預かったもの
だ。そして夫の事業も軌道に乗り、特別養子縁組の申請に漕
ぎ着けるが…。共演は永井大、川口覚、木内みどりと、撮影
現地でのオーディションで選ばれた子役の松原豊和。監督は
2017年10月15日題名紹介『二十六夜待ち』などの越川道夫。
脚本は2018年5月紹介『クジラの島の忘れもの』などの嶋田
うれ葉が担当。見事なフィクションと言える作品で、そこに
様々な社会問題が盛り込まれている。公開は11月8日より、
東京は新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二