井口健二のOn the Production
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2019年09月15日(日) 羊とオオカミ(King and I、INFORMER、ファイティングF、世界から、エッシャー、種をまく、パリの恋人、読まれなかった、人生、喝風太郎)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『羊とオオカミの恋と殺人』
漫画アプリに連載の裸村(ラーソン)原作スプラッターコミッ
クス『穴殺人』を、2018年8月19日題名紹介『ごっこ』など
の高橋泉脚本、2013年5月紹介『クソすばらしいこの世界』
などの朝倉加葉子監督で映画化した作品。
受験に失敗して自暴自棄になった若者が下宿で壁のフックに
ロープを掛けて首を吊ろうとすると、フックが外れて隣室を
覗ける穴が開いてしまう。その隣室には妙齢の女性がいて、
彼は覗きを繰り返してしまう。
そんなある日、覗きを続けていた彼は、部屋に男を連れ込ん
だ女性が、その男の首を掻き切る現場を目撃してしまう。し
かも覗きが発覚し、女性に詰め寄られた彼は、思わず恋心を
告白するが…。
デートを重ねる間にも女性は衝動的に殺人を繰り返し、彼の
「止めてくれ」という意見も聞き届けられない。そして彼女
の背景には大きな組織もあるようだ。その組織の活動ぶりも
うまく描かれている。

出演は2019年1月20日題名紹介『L♡DK ひとつ屋根の下、
「スキ」がふたつ。』などの杉野遥亮と、2019年2月17日題
名紹介『4月の君、スピカ。』などの福原遥。他に江野沢愛
美、笠松将、清水尚弥、一ノ瀬ワタル、江口のりこらが脇を
固めている。
シチュエーションは2008年7月紹介『真木栗の穴』を髣髴さ
せる隣室との間の壁に開いた穴に始まる物語。でも官能描写
で大人向きだった08年作に比べると、本作は若年向きという
感じかな。
殺人というテーマが若年向きかどうかというのは論点になる
が、この程度はゲーム感覚ということで了解される範疇だろ
う。もちろん大人的には眉を顰める人もいるだろうが、元来
が作り話なものだ。
ただし、13年作でスラッシャーと称した朝倉監督の感覚は本
作でも健在で、さらにスタイリッシュに惨劇を描いている。
しかもVFXでその描写も進化している。とは言え元々が若
年向きのお話だから多少ソフトではあるが。
朝倉監督は、2010年1月紹介『桃まつり−うそ』の「きみを
よんでるよ」から観てきたが、特異なシチュエーションでの
演出の感覚には特別なものが感じられた。そんな監督が本作
のような演出を追求してくれることには頼もしさも感じる。
出来ることなら次回作では、女性感覚でもっと過激に進化し
たところも観せて欲しいものだ。それと三角関係が気になる
本作の続きも観てみたい。

公開は11月29日より、東京はTOHOシネマズ日比谷、池袋シネ
マ・ロサ、渋谷HUMAXシネマ他で全国ロードショウとなる。

この週は他に
『ロンドン版「The King and I 王様と私」』
                  “The King And I”
(1951年にブロードウェイで初演され、1956年に映画化もさ
れた舞台ミュージカルで、2015年の再演ではトニー賞4部門
の受賞に輝いたスタッフ・キャストによるロンドン公演を撮
影した作品。時代背景はイギリス女王がヴィクトリアで、ア
メリカ大統領がリンカーンの頃。シャムの王宮に英語教師の
イギリス人アンナがやってくる。しかし旧態依然の王宮内で
は先進的なアンナの要求はなかなか通らない。そんな折、イ
ギリス公使の来訪が決まり、その接待の準備にアンナが一役
買うことになるが…。出演はアンナ役に本作でトニー賞に輝
いたケリー・オハラ。王様役を渡辺謙。他にルーシー・アン
・マイルズ、大沢たかおらが脇を固めている。「シャル・ウ
イ・ダンス」など楽曲の中には知っているものも多く、楽し
める作品だ。なおオハラと渡辺は先の日本公演で卒業が発表
されており、本作がその証しとなるようだ。公開は9月27日
より、東京はTOHOシネマズ日比谷他でロードショウ。)

『THE INFORMER 三秒間の死角』“The Informer”
(英国推理作家協会賞やスウェーデン最優秀犯罪小説賞など
を受賞のアンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム
原作小説の映画化。減刑取引でFBIに協力する主人公が、
麻薬王を追う内にNYPDの潜入捜査官の死に関る。そして
FBIの支援も打ち切られた中で、主人公は最後の賭けに出
るが…。出演は2014年3月紹介『ロボコップ』や2016年8月
14日題名紹介『スーサイド・スクワッド』などのジョエル・
キナマンと、前回題名紹介『プライベート・ウォー』などの
ロザムンド・パイク。他にコモン、2017年10月紹介『ブレー
ドランナー 2049』などのアナ・デ・アルマス、クライヴ・
オーウェンらが脇を固めている。監督は2016年『エスコバル
楽園の掟』などのアンドレア・ディ・ステファノ。物語は受
賞作らしいしっかりとした展開のもので、劇中にはかなりの
アクションもあって中々に楽しめた。公開は11月29日より、
東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国ロードショウ。)

『ファイティング・ファミリー』
              “Fighting with My Family”
(プロレスラーの“ザ・ロック”ことドウェイン・ジョンス
ンが製作を務める、女性プロレスラーの実話に基づく作品。
主人公は家族経営の弱小団体で、兄と共にパフォーマンスを
披露していた少女。そんな彼女の夢は世界規模の大会で優勝
してスター選手になることだった。そして兄と共に挑んだ登
竜門の大会で闘った結果は、彼女だけが合格し、兄は落選。
こうして彼女にはフロリダ州の研修施設でプロになるための
鍛錬が始まるが…。チアリーダーやモデルから集められた研
修生の中では彼女だけが異質で、周囲とのギャップは明白。
しかしそんな彼女が奇跡を起こす。出演は、2018年2月4日
題名紹介『トレイン・ミッション』に出ていたというフロー
レンス・ピュー。他にレナ・ヘディ、ニック・フロスト、ジ
ャック・ロウデン、ヴィンス・ヴォーン、そしてドウェイン
・ジョンスンらが脇を固めている。公開は11月、東京はTOHO
シネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)

『世界から希望が消えたなら』
(幸福の科学出版製作、大川隆法原案、製作総指揮、大川咲
也加脚本による作品で、監督の赤羽博がマドリード国際映画
祭の外国語長編映画部門にて最優秀監督賞を受賞した作品。
出版社も経営するベストセラー作家が心臓病からの肺水腫で
余命宣告されるが、使命を自覚した作家は手術を断り、「心
の力で病気は治る」の信念で症状を克服。再開した執筆でベ
ストセラーを続発。ついには世界進出してロンドンでの講演
会も成功させる。その使命とは神の力でテロの背景にある対
立を克服するというものだった。出演は、映画初主演の竹内
久顕。他に千眼美子、さとう珠緒、芦川よしみ、石橋保、木
下渓。さらに小倉一郎、大浦龍宇一、河相我聞、田村亮らが
脇を固めている。大川作品は、今まで2019年2月3日題名紹
介『僕の彼女は魔法使い』や2018年9月23日題名紹介『宇宙
の法 黎明編』など、それなりにファンタシーやSFで興味
深かったが…。公開は10月18日より、全国ロードショウ。)

『エッシャー視覚の魔術師』
           “Escher: Het Oneindige Zoeken”
(数理的なトリックアートで、今も人々を魅了するオランダ
の版画家/画家マウリッツ・コルネリス・エッシャーについ
て描いたドキュメンタリー。1972年に亡くなったエッシャー
は生前に1000を超える書簡や日記などを遺していたそうで、
本作はそれらを基にした遺族やコレクター、崇拝者へのイン
タヴューなどで綴られる。その中にはロックミュージシャン
のグラハム・ナッシュが大きく取り上げられ、また書簡の中
ではミック・ジャガーからの手紙に対する皮肉で一杯の返信
があるなど、1960年代以降のヒッピーやポップカルチャーに
多大な影響を与えたことも伺える。ただこの作品では版画家
本人についての理解は深まるが、僕らが感じるエッシャーの
魅力が描かれているかと言うと少し物足りないかな。映画の
後半に登場する関連動画の数々は素晴らしかったが…。公開
は12月14日より、東京はアップリンク渋谷、アップリンク吉
祥寺他で全国順次ロードショウ。)

『種をまく人』
(2016年製作で、同年の第57回テッサロニキ国際映画祭にて
最優秀監督賞と最優秀主演女優賞のW受賞を果たしたという
作品。震災の3年後を背景に、心を病んで入院していた男性
が退院して弟一家の前に現れる。その家には小学生と3歳に
なるが乳幼児のようなダウン症の娘がいたが…。両親の多忙
で娘2人と行った遊園地で事件が起きる。脚本と監督は画家
として受賞歴もあるという竹内洋介の長編デビュー作。オリ
ジナルの脚本はファン・ゴッホをモティーフにしたというこ
とだが、精神病院にいたこととヒマワリの花がそうなのか?
ただ物語の展開自体は、精神病というテーマと併せて過去に
も多々あるものだし、主演女優賞を受けた11歳の竹中涼乃を
除けば特筆するものでもない。それにテーマ自体が海外では
いざ知らず、自分には合わないものだった。日本公開が遅れ
たのも、恐らくはその点だろう。公開は11月30日より、東京
は池袋シネマ・ロサでロードショウ。)

『パリの恋人たち』“L'homme fidèle”
(名匠フィリップ・ガレルの息子で俳優としても活躍するル
イ・ガレルが、自らの脚本、監督、主演で描くパリの街角の
物語。新進ジャーナリストの主人公は一緒に暮らしていた女
性から妊娠を知らされ喜ぶが、その父親は自分ではないと告
げられ、彼女の持ち物である部屋を追い出される。いやはや
何とも衝撃の始まりだが、そこに幼い頃から知る胎児の父親
の妹らが絡んで、三角関係という訳でもないし、何とも奇妙
な物語が展開される。共演は実生活のパートナーでモデルで
もあるレティシア・カスタと、2017年7月30日題名紹介『プ
ラネタリウム』などのリリー=ローズ・デップ。若い女性の
ファッションリーダーともされるデップの着こなしも注目の
作品のようだ。なお本作は2018年東京国際映画祭「ワールド
・フォーカス」部門において『ある誠実な男』の題名でも上
映されている。公開は12月13日より、東京は渋谷Bunkamura
ル・シネマ他で全国順次ロードショウ。)

『読まれなかった小説』“Ahlat Ağacı”
(2014年のカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞し
た『雪の轍』などのトルコの巨匠ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
監督による2018年の作品。受賞作は196分で、本作は189分の
大作だ。トロイの遺跡も近いトルコ北西部の地方都市を舞台
に、作家志望の若者と定年間近の教師だがギャンブル狂の父
親の確執が、若者が書き上げた故郷が舞台の処女小説の出版
を巡って描かれる。若者は大学を終えて帰郷するが、以前は
付き合っていたらしい同級生の女性の結婚に衝撃を受け、家
に給料も入れず電気も止められるような父親の所業に憤る。
そんな物語がトロイの木馬のモニュメントなどの異質な風物
と、幻覚のような描写も添えて描かれる。出演は、本業はス
タンダップコメディアンでシリアスな役柄は初めてというア
イドゥン・ドウ・デミルコルと、同じくコメディアンのムラ
ト・ジェムジル。公開は11月29日より、東京は新宿武蔵野館
他で全国順次ロードショウ。)

『人生、ただいま修行中』“De chaque instant”
(2007年『かつて、ノルマンディーで』などのニコラ・フィ
リベール監督が、パリ郊外のクロワ・サンシモン看護学校を
舞台に、「誰かのために働くこと」を選んだ看護師の卵たち
の様子を追ったドキュメンタリー。映画はまず手を洗うこと
から始まり、これは基本中の基本なんだなあという感じを抱
かせる。そしてマネキンを使った心臓マッサージの訓練や出
産介助、さらに注射器の扱いから採血、ギプスの切除など、
段階を追って進んで行く学習の過程が、ナレーションなどを
一切排した「観察映画」の手法で描かれて行く。かつては白
衣の天使などとも呼ばれ、今の日本では過酷な労働の代名詞
のようでもある職業だが、フランスの現状はどうなのかな?
中には初めての採血を優しく見つめる患者の姿などもあり、
全体が希望に満ちているように感じられるのは素晴らしいも
のだ。公開は11月1日より、東京は新宿武蔵野館他で全国順
次ロードショウ。)

『喝風太郎!!』
(1977年『俺の空』や1999年『サラリーマン金太郎』などで
知られる本宮ひろ志の原作を、2019年4月14日題名紹介『あ
いが、そいで、こい』などの柴田啓佑監督、2018年8月紹介
『あいあい傘』などの市原隼人の主演で映画化した作品。寺
の門前に捨てられてから30年。修行は積んだものの規格外れ
の男が大僧正の指示で市井に降りる。しかし大酒は飲むは、
大の女好きなど破天荒で、そんな男に周囲が振り回される。
そこには霊感商法の詐欺師やえせ宗教家などもいて…。そん
な社会が男の精神に染み付いた仏陀の教えによって正されて
行く。共演は藤田富、工藤綾乃。他に鶴田真由、近藤芳正、
麿赤兒らが脇を固めている。要所要所に仏陀の教えが文章で
表示されて、いろいろ仏法が説かれて行く。それはまあ判り
易くは描かれているものだが、全てが納得できたかと言うと
そうでもないかな。映画の撮り方もちょっと凝りすぎな感じ
もした。公開は11月1日より、全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二