井口健二のOn the Production
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2019年09月08日(日) SPECIAL ACTORS(42ndストリート、プライベート・ウォー、楽園、初恋ロスタイム、影踏み、BLACKFOX、ラフィキ、殺さない彼と死なない彼女)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『SPECIAL ACTORS』
2018年4月22日題名紹介『カメラを止めるな』が話題になっ
た上田慎一郎の単独監督による長編第2作。監督はこの間に
2019年6月23日題名紹介『イソップの思うツボ』も共同で発
表している。
主人公は売れない俳優。今日もオーディションを受けたが、
極度に緊張すると失神する癖も出て結果は散々だった。そん
な主人公が帰宅途中の道端で弟と出くわす。その弟も芝居で
食っていると言うが、それは特殊な役者だった。
そして弟に連れて行かれたのは、「SPECIAL ACTORS」という
名称のプロダクション。そこは主催者の依頼を受けて、結婚
式場や葬儀の会場などに偽装の参列者を送り込むことを主な
仕事としているような会社だった。
ところがそこに怪しい宗教団体に老舗旅館を乗っ取られそう
になっているという若い女性の依頼者が現れ、団体に取り込
まれた女将の洗脳を解いて、乗っ取りを阻止する作戦が開始
される。その作戦に主人公も巻き込まれるが…。
まずは宗教団体の実態を探る調査から始まり、悪質な団体の
裏の貌を暴くスパイさながらの作戦が展開される。

出演は大澤数人、河野宏紀、富士たくや、北浦愛ら1500人の
オーディションから選ばれたという15人。
実はオーディションの実施の段階では脚本はできておらず、
『カメラを止めるな』の時と同様に選ばれたキャストらとの
ワークショップやディスカッションの中で、上田監督の当て
書きによる脚本が作られたとのことだ。
その手法に問題はないと思うのだが、正直に言って僕は前作
をあまり評価できなかった。それは以前の紹介文でも書いた
通り、巻頭に置かれた短編映画の出来が芳しくなかったもの
で、これは多分後半の展開に引っ張られすぎたためだ。
その点が『イソップの思うツボ』では比較的スマートにでき
ていたと思うのだが、本作では結末が気に食わなくなった。
これは多分監督自身が、本作の全体のリアリティに満足でき
なかったせいと思うのだが。
この結末を置くことで、観客にはそこまで観てきたものが全
面的に否定されることになり、フラストレーションが募って
しまうことにもなる。つまり監督にはこのような言い訳では
なく、作品のリアリティの方を追及して欲しかった。
逆にそんなリアリティはなくても、本作は充分に成立してい
たと思うのだが、監督が真面目過ぎるのかな? いずれにし
ても続編は作れそうな作品ではあるので、それも期待したい
ものだ。

公開は10月18日より、東京は丸の内ピカデリー、新宿ピカデ
リー他にて全国ロードショウとなる。

この週は他に
『松竹ブロードウェイシネマ 42nd ストリート』
             “42nd Street: The Musical”
(2017年8月紹介『ホリデイ・イン』でスタートした「松竹
ブロードウェイシネマ」の第4弾で、1933年の大恐慌時代に
公開されて、不況にあえぐ人々に夢と希望を与えたとされる
伝説のミュージカル映画の舞台版。物語は、そんな時代にも
新たな舞台ミュージカルの創造を目指す演出家を中心に、出
資者との契約で主演に起用されるベテラン女優や、駆け出し
だがセンスの光る新人らが織りなしてゆく。ところがプレ公
演の直前にベテラン女優が大怪我を負ってしまい、本公演も
風前の灯火となるが…。出演は2003年から続くテレビシリー
ズ“Emmerdale Farm”で人気を得たトム・リスター。1986−
87年のテレビシリーズ『ドクター・フー』でコンパニオン役
を務めたボニー・ラングフォード。さらにロンドンで数多く
の舞台に出演のクレア・ハルス。特にハルスの見事なタップ
ダンスは最高の見せ場になっている。公開は10月18日より、
東京は築地東劇他で全国順次ロードショウ。)

『プライベート・ウォー』“A Private War”
(2012年、シリアの被圧制地ホムスからの歴史的な生中継を
敢行するなど、世界中の紛争地を追い続けた女性ジャーナリ
スト=メリー・コルヴィンの姿を、2018年3月4日題名紹介
『ラッカは静かに虐殺されている』などのドキュメンタリー
監督マシュー・ハイネマンが、2019年7月28日題名紹介『エ
ンテベ空港の7日間』などのロザムンド・パイクを主演に描
いたドラマ作品。2001年スリランカの反政府組織を取材した
コルヴィンは銃撃戦に巻き込まれて片目を失う。しかし彼女
は失った片目をアイパッチで覆って戦場に立ち向かう。そん
な彼女はリビアのカダフィ大佐にも単独インタヴュー出来る
ほどだったが…。共演はジェイミー・ドーナン、トム・ホラ
ンダー、スタンリー・トゥッチ。戦地に向かう女性ジャーナ
リストの話は2016年10月紹介『母の残像』などもあったが、
本作では戦闘のリアルさでも衝撃を受けた。公開は9月13日
より、全国ロードショウ。)

『楽園』
(2012年10月紹介『横道世之介』などの吉田修一原作短編集
から、2018年5月13日題名紹介『菊とギロチン』などの瀬々
敬久脚本・監督で映画化した作品。寒村で起きた幼女の失踪
事件と犯人に疑われた移住者の息子。さらに同じ村で都会か
ら来て村おこしを提案しながら村八分に会ってしまう男の姿
が描かれる。2つの話は別々の短編小説のようだが、如何に
も閉塞した村で起きそうな事件が絡み合って進んで行く。出
演は綾野剛、杉咲花、村上虹郎、柄本明、佐藤浩市。さらに
片岡礼子、黒沢あすか、石橋静河、根岸季衣らが脇を固めて
いる。日本の村社会では正に定番と言える話が、はまり役と
いう感じの役者たちによって演じられる。それは社会の歪み
を描く物語には最適の方法なのだろう。骨太な作品だ。ただ
途中の焼身シーンはもっと炎が広がるはずで、試写の映像で
は何か中途半端に感じた。ここにはさらにVFXでも入るの
かな。公開は10月18日より、全国ロードショウ。)

『初恋ロスタイム』
(ライトノベル作家の仁科裕貴が2016年に発表した小説を、
2015年『ストロボ・エッジ』などの桑村さや香脚本、2017年
5月28日題名紹介『兄に愛されすぎて困ってます』などの河
合勇人監督で映画化した作品。何事にもやる気のない浪人生
の若者が、ある日の12時15分、突然自分以外の周囲の事象が
静止する現象に遭遇する。それは1時間で元の時点に復帰す
るが、毎日繰り返される。そして街を彷徨った若者は、もう
1人の動ける少女と出会うが…。出演は2019年7月紹介『超
・少年探偵団NEO』などの板垣瑞生と、新人の吉柳咲良。他
に石橋杏奈、甲本雅裕、竹内涼真らが脇を固めている。シチ
ュエーションでは、1960年代に発表されてテレビ化もされた
手塚治虫の『ふしぎな少年』を思い出すが、本作の原作者も
監督もそれは知らないのだろうな。でも本作の展開にはちょ
っとうまい引っ掛けもあって、それなりに楽しめた。公開は
9月20日より、全国ロードショウ。)

『影踏み』
(2006年9月紹介『出口のない海』などの横山秀夫原作を、
2017年3月26日題名紹介『心に吹く風』などの菅野友恵の脚
本、2018年12月16日題名紹介『君から目が離せない』などの
篠原哲雄監督で映画化した作品。深夜の民家に侵入して盗み
を働く「ノビ師」と呼ばれる泥棒。その中でも警察から「ノ
ビカベ」とあだ名されるほどの凄腕の男が、未遂となる放火
殺人現場を目撃したことから過去の事件の究明に乗り出す。
それは自身の過去をも問いただすものだった。出演は主題歌
も担当の山崎まさよし。他に尾野真千子、北村匠海。さらに
藤野涼子、下條アトム、根岸季衣、大石吾朗、田中要次、滝
藤賢一、鶴見辰吾、大竹しのぶらが脇を固めている。物語の
もろにネタバレになる部分が、映画では巧みに処理されてい
て、その点は本当に面白く観られる作品だった。公開は11月
8日から群馬県で先行上映の後、11月15日より、東京はテア
トル新宿他で全国ロードショウ。)

『BLACKFOX』
(テレビアニメ『プリンセス・プリンシパル』などを手掛け
るStudio 3Hzの製作で、未来社会を背景に、伝統の忍者の技
と科学技術を駆使する少女、超能力を操る少女らが活躍する
劇場版オリジナルアニメーション。主人公は忍者一族の末裔
で、祖父から忍者の技を学んでいた。しかし本人は科学者の
父の仕事に憧れていた。そんな彼女が暮らす都会の片隅に建
つ忍者屋敷が襲われ、父と祖父も殺される。そして数年後、
少女は忍者の技で生活の糧を得ていたが…。プロローグが少
し長くて、本編が少し物足りないかな。でもまあ本作の全体
がプロローグなら、この先には繋がる作品とは言えそうだ。
なお試写では、ネット配信の実写版忍者ドラマの予告編も上
映され、そちらはアメリカ版『パワーレンジャー』を手掛け
た坂本浩一の監督、武術太極拳世界チャンピオンで、2014年
『太秦ライムライト』などの山本千尋が初主演作のようだ。
アニメの公開は10月5日より、全国ロードショウ。)

『ラフィキ ふたりの夢』“Rafiki”
(2018年のカンヌ国際映画祭ある視点部門にケニア映画とし
て初めて出品されたワヌリ・カヒウ脚本、監督による作品。
地方選挙で父親が対立候補の娘同士が出会い、互いの素性を
知った上で交流を始める。それは2人にとっては未来を見据
えた行動だったが…。それが様々な波紋を広げて行く。出演
はサマンサ・ムガシアとシェイラ・ムニバという2人。男子
に混ざってサッカーに興じるような活発な少女と、カラフル
な髪飾りを付けたおしゃれな少女。特に後者のファッション
も見どころのようだ。という作品だが、実はカンヌ出品作に
も関らずケニアの本国では上映禁止の処置が執られているの
だそうで、そんな各国の考え方の違いにも思いを馳せること
になる作品だ。なお本作が米国アカデミー賞候補になる権利
を得るため監督の行った自主上映には長蛇の列ができたとも
伝えられている。公開は11月より、東京は渋谷のシアター・
イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『殺さない彼と死なない彼女』
(世紀末の作者名でTwitterに投稿された4コマ漫画から書
籍化されたという原作を、2017年6月18日題名紹介『逆光の
頃』などの小林啓一脚本、監督で映画化した作品。学園生活
に興味を失っている高校3年生の男子が、ごみ箱に捨てられ
たハチの死骸を埋めに行くという女子に興味を持つ。そして
自殺願望を持つ彼女と、「死にたいなら俺が殺す」という彼
の付き合いが始まるが…。この他にも全部で3組の物語が並
行して展開される。出演は間宮祥太朗、桜井日奈子、恒松祐
里、堀田真由、箭内夢菜、ゆうたろう。他に金子大地、中尾
暢樹、佐藤玲、佐津川愛美、森口瑤子らが脇を固めている。
実は映画の展開にはちょっと仕掛けがあって、その点は面白
かったが、後半の意外な展開はそれを認めるか否かで評価が
分かれるかもしれない。それがあってこその結末であること
は理解するが。公開は11月15日より、東京は新宿バルト9他
で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二