井口健二のOn the Production
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2019年09月01日(日) 地獄少女(少女は夜明、空中茶室、マイ・フーリッシュ、女殺油、ゴッホと、隠れビッチ、小さい魔女、虚空門、爆裂魔神、銀河英2、解放区)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『地獄少女』
2005年から09年に第1期〜第3期のテレビアニメシリーズが
放送され、2006年には実写のドラマシリーズも並行放送。さ
らに2017年にアニメシリーズの第4期が放送されたホラー・
オカルトシリーズの実写劇場版。
この作品に、2017年9月紹介『不能犯』などの白石晃士監督
が、2018年12月紹介『チワワちゃん』や2019年7月7日題名
紹介『惡の華』などの玉城ティナを主役に迎えて挑戦した。
物語の始まりは1960年代の後半。級友に疎まれていた少女が
閻魔あい(地獄少女)と契約し、級友を地獄送りにする。しか
しその契約は自らの死後に自身も地獄送りとなることを承諾
するものだった。
そして50年後の現代。今や老齢となった女性はジャーナリス
トの息子に全てを語り、地獄送りの恐怖と後悔の中で過ごし
た人生を他の人に繰り返させてはならないと言い残して、驚
愕の表情を顔に張り付かせ死亡する。
そんな現代には、午前0時丁度にそのサイトにアクセスし、
そこに表示される空欄に相手の名前を記入して送信すると、
地獄少女が現れて指定の相手を地獄送りにしてくれるという
都市伝説が流布されていた。
一方、学園で少し疎まれている少女がとあるパンクバンドの
ライヴ会場で行動的な少女と知り合いになる。そして2人が
カフェにいるとバンドリーダーの魔鬼が現れ、行動的な少女
を新たなバンドのオーディションに招請する。
しかしそのバンドの成立には、特別な目的が隠されていた。
こうして2人の少女は人類の存亡を賭けた巨大な戦いの渦に
巻き込まれて行くが…。

共演は、2019年『天気の子』の声優や、2019年6月2日題名
紹介『東京喰種 トーキョーグール【S】』などの森七菜、
2017年12月10日題名紹介『巫女っちゃけん。』などの仁村紗
和、元AKB48の大場美奈。
他に2018年4月22日題名紹介『仮面ライダーアマゾンズ THE
MOVIE 最後ノ審判』などの藤田富、2018年4月紹介『名前』
などの波岡一喜。さらに橋本マナミ、麿赤兒、楽駆らが脇を
固めている。
白石晃士監督の作品は、2014年3月紹介『戦慄怪奇ファイル
コワすぎ!史上最恐の劇場版』以来いろいろと観ているが、
本作で波岡一喜の役名が同シリーズの登場人物と同じ工藤な
のは少し嬉しかった。風貌も何となく似ている。
白石監督が自ら手掛けた脚本は、学園での苛めやカルト的な
パンクバンドなど現代の風俗もいろいろ取り込んでそれなり
に面白かった。しかしここまでやるなら地獄少女と魔鬼との
戦いはちょっと呆気なかったかな。
それこそ天国と地獄の戦いくらいの規模になれば、地獄少女
の存在の意味なども含めて面白くなったのではないか…とも
思えた。原作も長期に亙るものだし、この先のシリーズ化も
踏まえて考えて欲しいところだ。

公開は11月15日より、全国ロードショウとなる。

この週は他に
『少女は夜明けに夢をみる』“رؤیاهای دم صبح”
(2016年のベルリン国際映画祭でアムネスティ国際映画賞を
受賞したイランのメヘルダード・オスコウイ監督によるドキ
ュメンタリー。強盗、殺人、薬物、売春などの罪を犯し、少
女更生施設で共同生活を送る少女たち。しかしその背景には
様々な事情がある。そんな中でも前を向こうとする少女や、
施設を出たら生活する術もないと訴える少女。それぞれの事
情も複雑だ。ただし語られる事情の多くは、僕の目にはムス
リム特有の状況のように映るが、現実にそこに生きている人
たちには違うのだろう。だからイランで発表されても問題が
ない(?)。そんな状況を考えても恐ろしくなった。とは言う
ものの、取材は相当の期間行われているようだが、その時間
軸が不自然に操作されていて、例えば祖母の迎えが来るかど
うかの少女の話は時間の流れが変に感じられた。少女たちの
思いを強調したいがためだろうが…。公開は11月2日より、
東京は岩波ホール他で全国順次ロードショウ。)

『空中茶室を夢見た男』
(2018年2月25日題名紹介『熊野から』などの田中千世子監
督が、本作では江戸初期に建てられたとされる茶室に迫る歴
史ドキュメンタリー。武家茶道の始祖・小堀遠州と、弁当に
その名を遺す僧・松花堂昭乗。江戸初期に幕府と朝廷の間を
取り持ち、以降2世紀半以上に及ぶ太平の世の基礎を築いた
ともされる2人が、京都の南西方に位置する石清水八幡宮に
作り上げた茶室・閑空軒。それは近年の遺構調査によって、
正に空中に設えられたものであったことが判明する。その模
様が『熊野から』と同様の旅人と称する案内人と共に、研究
者らの学術的な説明を交えて語られる。空中茶室と言えば、
2014年公開『父は家元』を思い出すが、同作にも出演した遠
州茶道宗家家元が語る遠州と昭乗の交流の様子など、そこに
は往時の政治の流れなども併せて、これぞ歴史ロマンという
構成にもなっている。公開は10月、東京は渋谷のシアター・
イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『マイ・フーリッシュ・ハート』“My Foolish Heart”
(1988年にアムステルダムで客死したジャズマン、チェット
・ベイカーの最期を、オランダのロルフ・バン・アイク監督
が、2016年6月紹介『とうもろこしの島』の脚本家ルロフ・
ジャン・ミンボーと共に描いた作品。彼の晩年に関しては、
2016年8月21日題名紹介『ブルーに生まれついて』もあった
が、麻薬依存症の中での悲惨なものであったことは間違いな
い。しかし死者に鞭打つことは躊躇われるのか、本作でもそ
の焦点はぼかされる。しかも本作では、窓に人影があるとい
う謎から始まるのだが、その謎解きが何とも不可解に置かれ
てしまう。いやはや正直に言ってその意味は全く理解できな
かった。本作では最初にフィクションと明言されるし、描く
ことの主旨がそこにないことも理解はするが、それにしても
この結末の意味は問い質したくなった。まあ全体の雰囲気が
あれば良いという作品ではあるが…。公開は11月8日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『シネマ歌舞伎・女殺油地獄』
(2011年6月紹介作と同じ演目を、前回は片岡仁左衛門が演
じた主役に、松本幸四郎が十代目の襲名記念として挑んだ作
品。喧嘩に明け暮れる油屋の放蕩息子が武家に粗相をしたこ
とから死罪を逃れるために勘当となり、借金の末に金の無心
に同業者の女房の許を訪れる。しかしそこには息子が来たら
渡してくれと金を預ける両親の姿があった。その様子を物陰
から見ていた息子だったが…。何とも酷い話だが、物語は江
戸時代に起きた実話に基づくそうで、そこからの近松門左衛
門の作による舞台が連綿と演じ続けられ、さらに今回はその
役では当代一とされた仁左衛門から幸四郎に引き継がれる。
これも歴史と感じさせてくれる作品だ。共演は市川猿之助。
他に中村歌六、中村又五郎、中村鴈治郎、市川中車らが脇を
固めている。なお舞台の監修は片岡仁左衛門が務めている。
公開は11月8日より、シネマ歌舞伎第34弾として東京は築地
東劇他で全国ロードショウ。)

『ゴッホとヘレーネの森
           クレラー・ミュラー美術館の至宝』
         “Van Gogh: Tra il grano e il cielo”
(世界随一のフィンセント・ファン・ゴッホ作品の個人コレ
クターであるオランダの富豪ヘレーネ・クレラー・ミュラー
夫人が1938年に開館した美術館を主な舞台に、オランダ出身
の画家について紹介するドキュメンタリー。画家については
2019年8月4日題名紹介『永遠の門 ゴッホの見た未來』も
観たところだが、本作では先の作品にもあった弟テオらとの
書簡も、2007年3月紹介『不完全なふたり』などの女優ヴァ
レリア・ブルーニ=テデスキの朗読で紹介され、それに併せ
て画家の作風の変遷なども研究者によって解説される。それ
は画家の全貌を知るために巧みに構成された作品になってい
る。そしてその作品に魅せられ、私財をなげうって300点に
及ぶコレクションを充実させた夫人についても紹介され、全
体としては美術館の魅力を最大限に提示する作品にもなって
いるようだ。公開は10月25日より、東京は新宿武蔵野館他で
全国順次ロードショウ。)

『“隠れビッチ”やってました。』
(あらいぴろよ原作コミックエッセイを、2018年9月9日題
名紹介『旅猫リポート』などの三木康一郎脚本、監督で映画
化した作品。主人公は見た目は清楚だが思わせぶりな言動で
男を翻弄する女性。ルームメイトの親友はそんな彼女を「隠
れビッチ」と呼ぶ。ところがそんな彼女に職場で気になる男
性が現れ、親友の指摘で自らと向き合う様になるが…。出演
は、本作が映画初主演の2018年11月18日題名紹介『あの日の
オルガン』などの佐久間由衣。共演は2012年5月紹介『スー
プ』などの大後寿々花と、2019年8月紹介『ある船頭の話』
などの村上虹郎。他に小関裕太、森山未來、前野朋哉。さら
に山本浩司、渡辺真起子、光石研らが脇を固めている。古希
を迎えたおっさんには若い女性の心理などはなかなか判らな
いが、でもまあ若い女性からの男子の見方は判るかな。全体
としてはコメディとしてイヤミもなく楽しめる作品だった。
公開は2019年冬に全国ロードショウ。)

『小さい魔女とワルプルギスの夜』“Die kleine Hexe”
(『大どろぼうホッツェンプロッツ』などで知られるドイツ
の児童文学者オトフリート・プロイスラーの原作を、2017年
7月30日題名紹介『ハイジ アルプスの物語』で編集を手掛
けたマイク・シェーラーの監督で映画化。127歳だが未だに
大人の魔女と認められない小さい魔女が、大人の魔女だけが
招待される祭りに忍び込み、見つかって大目玉を食らってし
まう。しかし最長老の大きい魔女から「来年の祭りまでに試
験に合格したら許す」と言われ、猛勉強を始めるが…。出演
は2007年1月紹介『パフューム ある人殺しの物語』などの
カロリーネ・ヘルフルト。共演に1998年『ラン・ローラ・ラ
ン』などのズザンネ・フォン・ボルソディ。日本での上映は
吹替版(声優は坂本真綾、山寺宏一)のみとなるようで、基本
はお子様向けの作品ではあるが、テーマなどではそれなりに
大人でも楽しめるようになっている。公開は11月15日より、
東京はYEBISU GARDEN CINEMA他で全国ロードショウ。)

『虚空門GATE』
(UFOを呼べると主張する男とUFOの存在を信じる人び
との姿を描いたドキュメンタリー。発端は「月面異星人遺体
動画」。しかしそれは即座に否定されてしまう。そこに登場
するのが自称UFOが呼べる男。それに釣られてUFO探求
の旅は始まるが…。登場する映像はいずれも僕でも他に説明
がつくものばかりで、それこそ眉唾以前の状況。それでも警
察官の中に存在を信じる人がいるなど、それなりの興味では
引っ張る。しかし結局のところは全てインチキで、監督には
どこまでの覚悟があって取材したのか判らないが、結論では
フェイクというのもおこがましい恥ずかしいものになってし
まう。本作の取材には6年間を掛けたそうだが、本来なら途
中で諦めて没にしてしまうところだろう。それをあえて公開
する勇気に恐れ入った。否定論者には格好の餌食かな? 東
京の公開は10月中旬、渋谷のシアター・イメージフォーラム
他で全国順次ロードショウ。)

『爆裂魔神少女 バーストマシンガール』
(2018年2月紹介『ゴーストスクワッド』などの井口昇監督
が2008年にアメリカ資本で発表した『片腕マシンガール』。
そこに登場したキャラクターを基に、2017年9月3日題名紹
介『全員死刑』などの小林勇貴監督が新たに創造した作品。
舞台は怪しげな店や見世物小屋が連なるスラム街イシナリ。
その見世物小屋では幼い頃に親に売られた姉妹がアイドルの
ようにパフォーマンスを繰り広げていた。そんな姉妹の1人
には片腕がなく、彼女は臓器売買組織の元締めに恨みを抱い
ていた。そして彼女が元締めの息子を半殺しにしたことから
対立が始まり、もう1人の片腕も失われてしまうが…。失っ
た片腕にマシンガンを装着した少女たちの復讐戦が始まる。
出演は共に2018年『レッド・ブレイド』に出ていた搗宮姫奈
と花影香音。他に坂口拓、北原里英、根岸季衣、矢部太郎、
佐々木心音らが脇を固めている。公開は11月22日より、東京
はシネマート新宿他にてロードショウ。)

『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱 第二章』
(2019年8月11日題名紹介した作品の続き。前作の最後で生
じた銀河帝国側の混乱。それに呼応するように自由惑星同盟
側でも軍事クーデターが勃発し、それぞれが内憂外患を抱え
た状態での対峙が続く。そんな軍事的な駆け引きと、その裏
で行われる政治的な駆け引き、現代の国際情勢でもありそう
な複雑な物語が展開されて行く。まあ正直にはちょっと複雑
すぎて観ながら混乱するところもあったが、それは原作の読
者には問題ないのだろうし、そんなことを細かく考えなくて
も個々の展開は楽しんで観られる構成にはなっている。ただ
前作でも気になったが、戦線が地球上の海戦などと同じ2次
元なのはどうなのかな。宇宙空間ならもっと3次元に広がる
ように思えるが、それを映像で表現するのは難しいのだろう
か。局所的には立体的な機雷原(領域)なども登場はするのだ
が…。劇場公開は10月25日より、東京は新宿ピカデリー他、
全国35館にて3週間限定ロードショウ。)

『解放区』
(2014年東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門で上
映の作品が、諸般の事情によりようやく一般公開される。主
人公はドキュメンタリー作家を目指す若者。東京の映像会社
に勤めていたが、現場でのトラブルで職場を飛び出す。そこ
で数年前に大阪で出会った若者たちのことを思い出し、彼ら
のその後を取材するべく、再来阪するが…。大阪府西成区の
旧釜ヶ崎=あいりん地区で現地ロケされたセミドキュメンタ
リー調の物語が展開される。小柄な主人公と元ボクサーの青
年。その人物配置には1969年ジョン・シュレシンジャー監督
の『真夜中のカーボーイ』を思い出したかな。本作にもそん
なやるせなさが横溢している感じがした。大阪府からの助成
金の問題でトラブルがあったとも聞くが、映像には近く取り
壊されるあいりん地区の様子なども捉えられ、歴史的な価値
も見出すことのできる作品になっている。公開は10月18日よ
り、東京はテアトル新宿他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二