井口健二のOn the Production
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2019年07月21日(日) T-34 レジェンド、ホテル・ムンバイ(ラブゴーゴー、SHADOW影武者、ザ・ヒストリー・オブ・シカゴ、アルツハイマーと、ジョン・ウィック3)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』“T-34”
2017年12月10日題名紹介『バーフバリ王の凱旋』を手掛けた
ロシアのFilm Direction FX がVFXを担当した第2次世界
大戦が背景の戦車アクション。
舞台は第2次大戦の独ソ戦におけるチェコ戦線。ソ連軍の士
気はかなり下がっており、戦車部隊は動く車両もまばらで整
備も行き届いていなかった。そんな中に食料の輸送トラック
でドイツ戦車を振り切ってきた運転手が現れる。
そして元々が戦車乗りだった男は、朽ちかけていたT-34戦車
を整備して撤退時の最後の守りとしてドイツ軍に立ち向かう
ことになるが…。戦車部隊を相手に大善戦はしたものの遂に
数人の仲間と共に捕虜になってしまう。
こうして連れて行かれたドイツ軍の捕虜収容所では、試射場
に捕虜を載せた戦車を置き、それを実弾射撃の標的とする戦
車隊の訓練が行われていた。それは当然の如く捕虜に死をも
たらすものともなっていた。
そんな収容所に拿捕された最新型T-34の運ばれてくる。そこ
で収容所の所長は主人公らに戦車の整備を命令し、実戦さな
がらの戦車戦の訓練を行おうと考える。一方、主人公らは兵
士の遺体と共に埋められた数発の砲弾も手に入れる。
斯くして絶体絶命からの脱走計画が開始される。

脚本と監督は、2005年に『アルティメットウェポン』という
作品が紹介されているアレクセイ・シドロフ。なお製作には
2013年9月紹介『遥かなる勝利へ』などのニキータ・ミハイ
ロフ監督が名を連ねている。
出演は「カリコレ2017」で上映『アトラクション制圧』でも
共演のアレクサンドル・ペトロフとイリーナ・ストラシェン
バウム。他に2016年『ジェイソン・ボーン』などのヴィツェ
ンツ・キーファーらが脇を固めている。
物語は実話に基づくとされており、同じ実話からは1964年に
ソ連のレンフィルムで製作された『鬼戦車T-34』“Жаво
ронок”という作品もあったようだ。因に同作はカンヌ
国際映画祭コンペティション部門に出品されている。
本作はそのリメイクとはされていないものだが、両方を観た
人によるとかなりオマージュのようなシーンも観られるとの
こと。ただし旧作はかなり詩的で幻想的でもあったそうで、
本作ではそれがアクションになっているとのことだ。
そこでそのアクションだが、映画に登場するT-34は全て実機
だそうで、それが草原や町中を走り回るシーンはそれだけで
も充分な迫力がある。そこにVFXを駆使した戦闘場面とな
るものだが。
砲弾がかすった時の車両内部の音響のもの凄さなど、それは
今まで観てきた戦争映画の中で考えもしなかった迫力のシー
ンが満載で、これはアフガニスタンなどでの戦車戦を体験し
てきた国民には敵わないという感じだった。
その一方で、街中で3方を固められた時の戦法などには、シ
ミュレーションゲームを観ているような面白さもあり。さら
に飛び交う砲弾のVFXでの映像化などは近年のこの手の映
画の面白さも満喫させてくれた。
上記のカンヌ映画祭の出品作は当時的な反戦の意味合いも強
いものだったようだが。本作ではそれをエンターテインメン
トに振り切って、これはこれとして見事な作品に仕上げられ
ている。
最近の架空戦記映画ではロシア軍が悪役にされることが多い
が、それに対するロシア映画界からの回答は、ロシア国内で
800万人動員のNo.1となるメガヒットを記録したそうだ。

公開は10月25日より、東京は新宿バルト9他にて全国ロード
ショウとなる。

『ホテル・ムンバイ』“Hotel Mumbai”
インドの経済や文化の中心地であり、人口統計などで最大の
都市とされるムンバイで2008年に発生したイスラム武装勢力
による無差別テロ事件。その中で起きた実話の映画化。
舞台は海辺に建つ1903年創業の五つ星ホテル。ムンバイ市中
で同時多発テロが発生し、多くの人々が安全と思われるその
ホテルに逃げ込んでくる。しかしその中にテロリストも紛れ
込んでいた。そしてロビーの隅で機関銃を取り出したテロリ
ストたちは無差別の殺戮を開始する。
その時のホテル内には宿泊客やスタッフなど500人を超える
人々がおり、テロリストたちは外部の情報の伝わっていない
客室にはルームサーヴィスを装ってドアを開けさせ、宿泊客
を次々に殺害して行く。それは各階ごとに組織的に行う正し
くジェノサイドだった。
そんな中で100人を超える客が上階に設けられたチェンバー
に隠れるが…。

出演は、本作の製作総指揮も務めた2017年2月26日題名紹介
『LION ライオン 25年目のただいま』などのデヴ・パテル。
他に、2018年1月28日題名紹介『君の名前で僕を呼んで』な
どのアーミー・ハマー。『ハリー・ポッター』シリーズなど
のジェイスン・アイザック。
さらにインド出身で2017年2月紹介『パッセンジャー』など
のナザニン・ボニアディ。同じく2012年12月紹介『世界にひ
とつのプレイブック』などのアヌバム・カー。オーストラリ
ア出身で監督としてベルリン国際映画祭での受賞歴もあるテ
ィルダ・コブハム・ハーヴェイらが脇を固めている。
脚本と監督はオーストラリア出身で、多くの短編作品で評価
されて本作が長編デビューのアンソニー・マラス。同じく脚
本と製作総指揮に、2006年11月紹介『ハッピーフィート』や
2004年1月紹介『マスター・アンド・コマンダー』を手掛け
たジョン・コリーが加わっている。
ホテルが武装勢力に襲われるという話では、2005年11月紹介
『ホテル・ルワンダ』も思い出したが、部族間抗争の戦闘と
イスラム過激派による無差別テロとでは明らかに様相が異な
る。特に個別の部屋を巡りながら確実に殺戮を繰り広げると
いう展開には正にテロの恐怖を味わう感覚だった。
しかしそんな状況の中でのホテルマンの対応に関してはどち
らにも共通した使命感が描かれたもので、これは時代の変化
にも不変のことなのかと思わされた。とは言え無差別テロに
対する恐怖に関しては、なまじのホラー映画を上回る恐怖感
が味わえる作品だった。

公開は9月25日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。

この週は他に
『ラブゴーゴー』“愛情来了/Love Go Go”
(前々回に題名紹介『熱帯魚』のチェン・ユーシュン監督が
1997年に発表した長編第2作。台北市を舞台に初恋の女性に
小学校以来の再会をしたパン職人と、拾ったポケベルのメッ
セージにまだ見ぬ恋を妄想する太目の女性。成績の上がらな
い痴漢撃退具のセールスマンなどが、それぞれの恋を描いて
行く。前作は誘拐事件というそれなりのテーマがあったが、
本作はオムニバス的な展開で、それは公開当時にはそれなり
の新鮮味もあったはずだが、今となっては…という感じは否
めない。でもプレス資料には若いタレントさんの賛辞コメン
トも寄せられていて、今の人にはこれも新鮮に映るのかな。
その意味では青春は不変という感じもする作品だ。ただどの
エピソードもちゃんとした結末には至っておらず、それも良
いという感覚は理解するが、納得のできる結末も欲しいとは
思ってしまった。公開は8月17日より、『熱帯魚』と同時に
東京は新宿K's cinema他で全国順次ロードショウ。)

『SHADOW影武者』“影”
(2011年5月紹介『サンザシの樹の下で』などの名匠チャン
・イーモウ監督が2017年2月紹介『グレート・ウォール』に
続けて放つ武侠作品。前作はハリウッド資本でVFXが満載
だったが、本作には2004年7月紹介『LOVERS』などの
スタッフが再結集して、CGIなどを極力排した絵作りが行
われている。物語は「三国志」の「荊州争奪戦」を基にした
もので、領土を隣国に奪われながらもその地位に甘んじてき
た小国の武将が、王の命に背いて隣国の将軍に闘いを挑む。
しかしその闘いの場に出るのは影武者だった…というもの。
その裏で動く様々な人間模様が描かれる。出演は2016年11月
紹介『人魚姫』などのダン・チャオの二役と、実生活でも夫
婦のスン・リー。他に『グレート・ウォール』などのチェン
・カイ、2010年11月1日「東京国際映画祭」で紹介『鋼のピ
アノ』などのワン・チエンユエンらが脇を固めている。公開
は9月6日より、全国ロードショウ。)

『ザ・ヒストリー・オブ・シカゴ
             ナウ・モア・ザン・エヴァー』
    “Now More Than Ever: The History of Chicago”
(2016年にロックの殿堂入りを果たした1967年結成ロックバ
ンドの軌跡を追ったドキュメンタリー。結成50周年を超えて
今も現役、主なメムバーは不変という途轍もないバンドの歴
史が、各メムバーや周囲の人物へのインタヴューを中心に描
かれる。その道程には方向性の違いなどで脱退した者もいる
し、特にはリードヴォーカルの拳銃暴発による死去という衝
撃的な出来事もあるが。全体的には警察沙汰などもなくて、
順風満帆とは言わないまでも、穏やかな航跡が回顧される。
その中には広大な町を思わせる規模の牧場に彼らだけのスタ
ジオを構える話や、ツアー移動用に購入したプライヴェート
ジェットに戦闘機上がりのパイロットを雇ったら、宙返りや
無重力体験もさせてくれたなど、これが成功したロックバン
ドの姿というものを目の当たりにさせてくれる作品だった。
公開は9月21日より、東京は新宿シネマカリテにてレイトシ
ョウの他、全国順次ロードショウ。)

『アルツハイマーと僕〜グレン・キャンベル 音楽の奇跡』
             “Glen Campbell: I'll Be Me”
(2011年にアルツハイマーの発症を公表し、病と闘いながら
家族と共に全米を巡るラストツアーを敢行した伝説のカント
リー歌手の姿を追ったドキュメンタリー。医者の説明による
と脳の海馬に明らかな収縮が見られ、今後はギター演奏も困
難になるとされる。しかし娘と2人の息子と共に立つステー
ジでは、時には娘の弾くバンジョーとの掛け合いも繰り広げ
るなど、往年のパフォーマンスにも衰えを知らない。そんな
歌手の奇跡とも言えるツアーの模様が記録されている。それ
はどの会場でもスタンディングオヴェイションで迎えられ、
歌が始まると着座する。そんな素晴らしい観客の姿も映し出
す。中にはアクシデントを見に来ているのではないかという
声も聞かれたが、仮にそうなっても彼を支え続ける、そんな
観客の思いも伝わる作品だった。今観るべき作品だとも言え
る。公開は9月21日より、東京は新宿シネマカリテにてモー
ニング&レイトショウの他、全国順次ロードショウ。)

『ジョン・ウィック:パラベラム』
         “John Wick: Chapter 3 - Parabellum”
(2017年4月9日題名紹介『ジョン・ウィック:チャプター
2』の続き。因に副題は自動拳銃用の銃弾の名前だそうだ。
物語は、第1作で愛犬を殺された復讐でロシア人組織を壊滅
させ、第2作では家を破壊された仕返しでイタリア人の組織
を壊滅させた伝説の殺し屋が、今回は…というもの。ただし
本作ではちょっと趣向は変わっているが、強烈なアクション
が展開されるのは本シリーズの眼目だ。とは言えさすがにや
りすぎかな、自分の年齢だと観ているだけで体力の消耗する
ような作品だった。主演はキアヌ・リーヴス。イアン・マク
シェーン、ローレンス・フィッシュバーン、ランス・レディ
ックらも引き続き登場し、さらにハル・ベリー、アンジェリ
カ・ヒューストン。2001年10月紹介『ジェヴォーダンの獣』
などのマーク・ダカスコス、ノンバイナリー俳優のエイジア
・ケイト・ディロンらが脇を固めている。公開は10月4日よ
り、東京はTOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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