井口健二のOn the Production
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2019年07月07日(日) いなくなれ・群青、ホームステイ、SF核戦争後の未来(みとりし、惡の華、ブロードウェイ版ロミオとジュリエット、お百姓さんに、任侠学園)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『いなくなれ、群青』
2017年2月紹介『サクラダリセット前編/後編』の原作者・
河野裕が2014年から発表している「階段島」シリーズ第1巻
で、2015年第8回大学読書人大賞を受賞した作品の映画化。
その作品が、2019年2月24日題名紹介『賭ケグルイ』の高野
水登脚本、2008年5月紹介『今日という日が最後なら、』の
柳明菜監督で映像化された。
主人公は孤島に建つ全寮制の高校に通う男子。その暮らしは
満足の行くものだが、クラスメイトの中には些細な不満を抱
く者もいる。しかし島から外部への通信は遮断されており、
情報は入ってくるが要求が外に届くことはない。
そんなある日、1人の女子が転校してくる。彼女は主人公の
幼馴染で、彼女の出現は主人公にある思いを湧き立たせる。
そんな彼女は登校初日から不満を述べ立て、島を脱出すると
宣言するが…。
脱出の方法はただ一つ、自らが失くした物を見つけることだ
と教えられる。しかし主人公にも幼馴染みの彼女にも、自分
が失くした物が判っていなかった。そんな中で、彼らの通う
学校では、音楽祭の準備が進んでいた。
一方、その島の年長者には寮長や教師の他に郵便配達の女性
がいて、その女性は疑問が生じたときは島の魔女に手紙を出
せとアドヴァイスする。そしてその魔女は学校の裏手の長い
階段の上にいるという。
ところがその階段を昇る者は郵便配達の女性を含め誰も目撃
されていなかった。さらにその階段の脇の石垣にいたずら書
きが発見される。それは島での生活に疑問を抱くことを訴え
掛けるものだった。

主演は、元「烈車戦隊トッキュウジャー」で、2018年9月紹
介『青の帰り道』などの横浜流星と、元「獣電戦隊キョウリ
ュウジャー」で、2016年11月紹介『きょうのキラ君』などの
飯豊まりえ。
他に、2014年12月紹介『クレヴァニ、愛のトンネル』などの
未来穂香、2018年4月29日題名紹介『兄友』でも横浜と共演
の松岡広大。さらに2018年12月紹介『チワワちゃん』などの
松本妃代らが脇を固めている。
『サクラダリセット』もそうだったが、原作者は現実から隔
絶されたVillage を描くのが好みのようだ。それが前の作品
では、現実社会と絡む辺りで事象が整理されず、何となく歯
痒い思いのした記憶がある。
それに対して本作は、現実社会を完全に遮断して島だけの話
にしたことですっきりした設定にはなっている。しかし物語
は青春の悩みなどを反映したものにもなるのだが、そこには
当然現実社会の問題が関ってくる。
それが本作では、青春の悩みを痛みとして受け止めながら、
なお且つファンタシーとして成立させたもので、それは実に
巧みに青春を描いた作品になっていた。誰しもが青春時代に
悩んだこと、それが特異な設定の中で際立たせられる。
これもファンタシーの醍醐味のように感じられた。

公開は9月6日より、全国ロードショウとなる。

『ホームステイ ボクと僕の100日間』“โฮมสเตย์”
2008年4月紹介『ダイブ!!』などの原作者・森絵都が1989年
に発表し、日本映画ではすでに中原俊監督による実写化や原
恵一監督によるアニメ化もある小説「カラフル」を、2018年
6月17日題名紹介『バッド・ジーニアス』を手掛けたタイの
製作会社がバンコクを舞台に実写映画化した作品。
主人公は死亡宣告を受けて霊安室に置かれていたところで、
突然息を吹き返す。しかしその状況にパニックになった主人
公が逃げ出そうとすると、清掃夫の姿をした管理人と名乗る
男に止められ、事態が説明される。
それによると主人公は抽選に当って現世に甦ったが、その際
に記憶は消され、仮の身体にホームステイしているのだとい
う。そして100日の期限内に、仮の身体の死の理由を突き止
めれば、正式に甦りが認められるというのだが…。
記憶のない主人公は怪しげな会社を営む父親と単身赴任中の
母親、それと大学生の兄とのどこかギクシャクとした家族の
中で、長期欠席していた高校にも復学し、自殺したらしい仮
の身体の死の理由を探り始める。
ところが、登校しても彼の周囲には友達はおらず、中々手掛
かりは掴めない。そんな中で1人の女子生徒が声を掛け、彼
は有頂天になってしまう。だがそこにも管理人が現れ、期限
の切迫が告げられる。

出演は『バッド・ジーニアス』にも主演のティーラドン・ス
パパンピンヨーと、2018年11月4日付「東京国際映画祭」で
紹介『BNK48: Girls Don't Cry』のBNK48でキャプテンを務
めるチャープラン・アーリークン。
他に、テレビの経済ニュース番組でアンカーを務めた後に女
優に転身したというスークワン・ブンラクン。20万人のフォ
ロワーを持つインスタグラマーで本作が映画デビューのサル
ダー・ギアットワラウット。
さらに2016年2月紹介『すれ違いのダイアリーズ』などのチ
ューマーン・ブンヤサック、2018年6月17日題名紹介『ポッ
プ・アイ』などのタネート・ワラークンヌクロ。2011年10月
30日付「東京国際映画祭」で紹介『ヘッドショット』などの
ノパチャイ・チャイナーム、1945年生まれの人気歌手スダー
・チューンバーンらが脇を固めている。
脚本と監督は、2004年に共同監督した『心霊写真』がタイで
大ヒットしたパークプム・ウォンプム。その後も一貫してホ
ラー作品を手掛けてきた監督が、そのテイストも活かした作
品に仕上げている。
この手の甦りものもいろいろ観ているが、その中でも本作は
ストーリーも手が込んでいて結構面白かった。この監督には
今後も注目したいところだ。

公開は10月5日より、東京は新宿武蔵野館他にて全国順次の
ロードショウとなる。

『SF核戦争後の未来・スレッズ』“Threads”
1984年にイギリスBBCで製作され、翌年のイギリスアカデ
ミー賞で、7部門のノミネートと最優秀シングルドラマ賞な
ど4部門の受賞に輝いた作品。日本では当時にテレビ東京で
放送された記録はあるようだが、その作品が初のディスク化
で一般に公開される。
物語の舞台はイギリス中部の工業都市シェフィールド。始ま
りは1980年代のある年の3月5日土曜日。NATOの軍事基地も
隣接するその町のデートスポットで、若いカップルが車内で
愛を交わしている。
そして5月5日木曜日、彼女の妊娠が発覚し、2人は互いの
両親に打ち明けて結婚を決めるが…。そんな恋愛ドラマの背
景では、ラジオやテレビのニュースでソ連軍の侵攻など緊張
する中東情勢が報じられている。
その状況下で市民の中には基地から離れた郊外に避難する者
も現れ始め、物資の買い占めなども横行し始める。そんな中
でも主人公らは新たな命を育むための新居の内装に余念がな
かった。
一方、市当局は市民に冷静な対応を呼び掛けていたが、その
裏側では中央政府が崩壊した際に市や市長に移管される権限
に対する準備も進められていた。そしてついにイランの米軍
基地に核ミサイルが撃ち込まれる。
と、ここまではそれなりの人間ドラマが繰り広げられるが、
ここからは物理学、医学、農学、心理学等の50人以上の科学
者が協力して、彼らが予測する核戦争後の未来が描かれて行
くものだ。
特に劇中に描かれる「核の冬」の描写は、前年の1983年5月
に当時ソ連のゲオルギー・ゴリーツィンと、10月にアメリカ
のカール・セーガン博士により相次いで発表されたもので、
正に全世界に衝撃を与えたものだ。
そんな科学者たちの予測が描かれている。なお原題のThread
は縫い物の糸のことで、転じて理論の道筋や論証などの意味
でも使われる。つまり科学者たちが論証する未来の道筋とい
うことだ。
因の今回の邦題は、当時のテレビ東京での番組名だそうで、
SFとあるのは当時のブームもあるが、内容のあまりのリア
ルさに、視聴者に与える衝撃を少しでも和らげようという意
図もあったのではないかとも言われている。

製作と監督は、後に1992年『ボディガード』や1997年『ボル
ケーノ』を手掛けるBBC出身のミック・ジャクスン。脚本
はケン・ローチ監督の1996年『ケス』の原作・共同脚本を手
掛けるバリー・ハインズが担当している。
出演は、カレン・ミーガー、リース・ディンズデール、デヴ
ィッド・ブリアリー、リタ・メイ。当時から今も主にテレビ
で活躍する俳優たちが演じている。
BBCでは1965年にピーター・ワトキンス監督の“The War
Game”で核戦争の恐怖を描いたが、そのあまりに強烈な内容
に放送を自粛。ところが数館の劇場で自主上映され、それが
フェイクであるにも拘らずアメリカアカデミー賞で最優秀長
編ドキュメンタリー賞に輝くという苦い経験があり、本作に
はその熱も込められたようだ。
また試写会で配られたプレス資料には、先駆的な作品として
1961年の東宝=円谷特撮映画『世界大戦争』が紹介されてい
るが、その作品でも主人公はプレス・クラブの運転手という
市井の人物になっている。
その点は本作でも踏襲されているが、さらに東宝映画には別
ヴァージョンの脚本があって、橋本忍が書いたとされるその
脚本では、一度は逃れた運転手が核戦争後の廃墟東京を、這
いずるように戻って行くという展開で、「核の冬」などの描
写はないものの広島長崎を踏まえた作品だったものだ。
最近の架空戦記映画では、やたらと核ミサイルをぶっ放すシ
ーンがあって、被爆国日本の国民としてはどうなの? と思
うことも多いが、少なくとも1980年代までは、もっと真剣に
核の恐怖が描かれていたということだ。

国内初のディスク化となるブルーレイ&DVDは、7月17日
からキングレコードより発売・販売される。

この週は他に
『みとりし』
(一般社団法人「日本看取り士会」という団体もある余命い
くばくの人の最期を看取る人たちの活動を描いた作品。団体
の代表を務める柴田久美子さんの経験を原案に、主演も務め
る榎木孝明が企画から携わり映画化。過疎の村を舞台に娘を
交通事故で亡くした男性と、新人看取り士が仕事の中で出会
う様々なエピソードが描かれる。2008年6月紹介『おくりび
と』や、2018年1月28日題名紹介『おみおくり』は人が亡く
なった後の話だったが、本作が描くのは生前の最後の時。そ
れは予想以上にシビアなエピソードが描かれていた。共演は
1200人のオーディションから選ばれた2105年『リアル鬼ごっ
こ』などの村上穂乃佳。他に片桐夕子、石濱朗、仁科貴、河
合美智子、つみきみほ、金山一彦、宇梶剛士、櫻井淳子らが
脇を固めている。脚本と監督は2016年11月13日題名紹介『マ
マ、ごはんまだ?』などの白羽弥仁。公開は9月13日より、
東京は有楽町スバル座他で全国順次ロードショー。)

『惡の華』
(ボードレールの同名詩集をモティーフにした押見修造原作
コミックスを、2018年2月紹介『ゴーストスクワッド』など
の井口昇監督で映画化した作品。なお押見は『ゴースト…』
のポスターイラストを手掛けている。主人公は山間の閉塞感
一杯の町に暮らす読書好きの中学生。ある日、ちょっとした
出来心で人気女子の体操着を盗んでしまい、しかもそれを根
暗な女子に知られてしまう。そのため弱みを握られた主人公
は彼女に言うままに行動することになるが…。彼女の要求が
エスカレートする。変態映画を得意の監督が力量を発揮した
PG12指定の作品だ。出演は、2018年8月26日題名紹介『うい
らぶ。』などの玉城ティナと伊藤健太郎(旧名健太郎)。他に
飯豊まりえ、2019年2月24日題名紹介『賭ケグルイ』などの
秋田汐梨。なお秋田はオーディションで満場一致で選ばれた
そうだ。公開は9月27日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他
で全国ロードショウ。)

『ブロードウェイ版ロミオとジュリエット』
                 “Romeo and Juliet”
(オーランド・ブルームがブロードウェイデビューを飾り、
同地では36年ぶりに上演されたというシェークスピアの名作
戯曲の最新版を、その観客も熱狂する舞台で収録した作品。
日本ではハリウッド製のヒット映画で知られるブルームだが
元々はロンドン・ウェストエンドの舞台に立つ役者であり、
イギリスではシェークスピア劇にも出演していたようだ。そ
んな役者の登場だが、何というかその瞬間にはちょっとした
仕掛けもあって客席には嬌声が上がる。その雰囲気には日本
からファンが押し寄せたのか?という感じさえあった。さら
に舞台上ではオートバイが走り回るなど、かなり新奇な演出
も施されている。とは言え物語は有名なものだが、全体的に
はアメリカ的な作品になっていると言えるのかもしれない。
共演は2010年5月紹介『セックス・アンド・ザ・シティ2』
などにも出演の舞台女優のコンドラ・ラシャド。公開は7月
12日より、東京は築地東劇他で限定ロードショウ。)

『お百姓さんになりたい』
(2016年2月紹介『無音の叫び声』などの原村政樹監督が、
前作の『武蔵野 江戸の循環農業が息づく』に続けて関東の
近郊農業を描いたドキュメンタリー作品。前作は観ていない
が、その作品では近郊農業にも拘らず落ち葉堆肥など伝統的
な農法を受け継ぐ人たちが描かれていたようだ。そして本作
では、さらに進んでその農法を広める行動や地元の障碍者と
の交流など、正に土地に生きる農業の様子が紹介される。そ
こに登場するのは28歳で農業を始めたという男性だが、元は
サッカー選手を目指して大学に進学したが果たせず、一般企
業に就職した後に子供の頃の夢の3番目だったお百姓さんを
目指したという彼は、農業の知識などもなく試行錯誤の連続
の中で自らの農法を確立して行く。そこにやはり農業は未経
験の人たちが集まってくる。何かユートピアのような展開の
作品だった。公開は8月24日より、東京はポレポレ東中野他
で全国順次ロードショウ。)

『任侠学園』
(テレビで「ハンチョウ」シリーズなどの今野敏の原作を、
2013年『劇場版 ATARU』などの木村ひさし監督で映画化した
作品。昔気質のやくざの組長が不良債権の学園の経営権を押
し付けられる。元々勉強など大っ嫌いでこの道に入った組員
が厭々学園に行ってみると、そこには無気力を絵に描いたよ
うな生徒たちと、問題を起こさないことが第一の学園長など
が待ち受けていた。それでも何とか学園の立て直しを考え始
めた組員らの前に、父兄が子供への干渉を盾に訴えてくる。
そこには何やら怪しげな人物も同行していて…。出演は西島
秀俊、西田敏行。それに伊藤淳史、葵わかな、葉山奨之、池
田鉄洋、佐野和真、前田航基、戸田昌宏、高木ブー、佐藤蛾
次郎、桜井日奈子、白竜、光石研、中尾彬、生瀬勝久。何と
いうかこれらの役柄をやらせたらぴったりという顔ぶれが揃
って、安定感のあるコメディが展開される。公開は9月27日
より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二