井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2019年06月30日(日) 火口のふたり、アポロ11(熱帯魚、米軍、葬式の、チャイルドP、王様、パリに、守護教、影に抱かれ、ロケットM、命みじかし、帰れない二人)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『火口のふたり』
実父の故白石一郎と共に、二代に亙る直木賞作家白石一文の
原作を、2013年7月紹介『共喰い』などを手掛けた脚本家の
荒井晴彦が脚色・監督した作品。
主人公は東京暮らしだが、妻に離婚され、子供にも会えなく
なり、職も失ってしまったという男。そんな男の許に故郷の
秋田に住む父親から、幼馴染みの女性が結婚するという電話
が来る。その連絡に男は帰郷すると答えるが…。
帰ってきた男を出迎えたのはその女性で、彼女は新居に置く
家電の運搬などを男に依頼する。彼女との関係はそんな気さ
くなものだったようだ。そして2人は食事なども共にし、自
衛官の新郎が出張から戻るまでの逢瀬が始まる。
作品はR+18指定のもので、かなり際どい描写が繰り広げられ
るものだ。その間に主人公と彼女との過去の経緯が明らかに
されて行く。『共喰い』の時にも書いたが、本作では他の要
素も含めて実に巧みな脚本だ。

出演は2019年3月31日題名紹介『柄本家のゴドー』などの柄
本佑と、2017年6月4日題名紹介『彼女の人生は間違いじゃ
ない』などの瀧内公美。他に電話の声で柄本明が出演し、最
後の方に数人の子供の台詞はあるが、全編はほぼ2人だけの
芝居で物語は展開される。
いやこの2人芝居が、かなりの部分がR+18指定とは言うもの
の実に巧みで、その間に徐々に明らかになる2人の過去が、
それはもう切なさで一杯のものになっている。それがR+18の
指定を凌駕して青春を感じさせてくれる作品だ。
そして本作では、最後に途轍もない結末が待ち受けていた。
これはここまでの改変は脚色では出来るものではないので、
恐らくは原作にある通りなのだろうが、僕にとってはかなり
衝撃の展開だった。
ただしこの記事を書くに当って原作者を調べていたら、父親
が1981年から徳間書店「SFアドベンチャー」誌で発表した
伝奇シリーズ「黒い炎の戦士」は、実は息子の原案によるも
のだったそうで、息子は続編も書くと語っている。
つまりこの原作者にはSFの素養もあると認められ、そう考
えると、この結末には納得もできるものだった。とは言えか
なり唖然とする結末には、個人的には思わずニヤリとしてし
まったものだ。
ついでにVFXでもあれば云うこと無しだが、そこまでやる
必要はこの作品にはないだろう。でもこの原作者には興味が
湧いてきた。

公開は8月23日より、ロケ地の秋田県ではルミエール秋田、
東京では新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺他にて全国順次
ロードショウとなる。

『アポロ11 完全版』“Apollo 11”
アメリカ航空宇宙局(NASA)が、1969年の人類による初の月面
探査を記録した70mmフィルムが発見され、50年周年に合わせ
て公開されることになった。
実は当時のNASAでは、探査の成功後にその記録を一般公開す
る目的で撮影を行っていたようだが、公開に向けた映画制作
の予算が認められず、そのまま撮影されたフィルムも所在が
不明になっていた。
そのフィルムが50周年を前に発見され、ディジタルで修復さ
れて一般公開となったものだ。さらにその記録には1100時間
に及ぶ音声データも残されており、それらが編集されて作品
が完成されている。
それはまずアポロの司令船などを載せたサターンロケットを
発射台に運ぶシーンから始まる。その巨大なキャタピラーの
付いた台車が静々と進む様子は以前から見てはいたものの、
70mmの鮮明な映像に圧倒される。
そして乗員の乗り込みなどのシーンがあっての発射シーン。
そのブースターに近接した映像はさすがに防護ガラス越しで
はあったが、その70mmの画面に映された迫力は今までに見た
こともないものだった。
因にこの発射シーンでは、フロリダのケネディ宇宙センター
の係官が双眼鏡で眺めている姿が登場するのだが、以前から
よく見たこのシーンで、何故この人はそんな余裕があったの
だろうか、と疑問を感じていた。
それが本作によると、発射の約15分前から飛行管制はテキサ
ス州ヒューストンの管制センターに移管されていたようで、
それならフロリダ側は暇になっていたのだと、長年の疑問が
解消されたものだ。
そこから月への長い旅が始まるのだが、その間にも地球の衛
星軌道からの離脱や、着陸船との再ドッキングなど様々な任
務が克明な映像で綴られて行く。特に月の裏側での月の衛星
軌道への突入は地球との通信がない中での緊張が伝わる。
そして月面到着と探査の様子。ここでは当時生中継で見てい
た自分にはその時の感激が甦ったが、実は当時最高と言われ
た同時通訳にも欠落はあったようで、当時の音声からの詳細
な字幕にはいろいろ再認識されるものも多かった。
それと共に衛星軌道上に残されたコリンズ飛行士との通話が
頻繁に入るのも嬉しく感じるもので、人類史上最大の偉業に
最も近いところにいながらそれに参加していない人物の気持
ちも分かち合える気がしたものだ。
そして帰還から、世界中で行われた歓迎パレードの様子など
と続くが、これこそが人類最大の冒険が凝縮されていると思
える作品だった。

公開は7月19日より、東京は109シネマズ二子玉川他にて
全国ロードショウとなる。

この週は他に
『熱帯魚』“熱蔕魚”
(2013年の東京国際映画祭で上映され、2014年に公開された
『祝宴!シェフ』のチェン・ユーシュン監督が1995年に発表
した長編デビュー作。誘拐事件に巻き込まれた中学生と、こ
ちらも巻き込まれ形の誘拐犯一家との交流がユーモラスな筆
致で描かれる。監督は、本作と共に再上映される『ラブゴー
ゴー』と2017年の新作の4本しかない寡作の人だが、何とい
うか一貫して台湾映画の雰囲気を醸している感じがする。本
作でも台湾特有の受験戦争の様子など、日本人としてはなか
なかピンと来ないが、全体はコメディなのでそれとして理解
はできるし、報道の過熱ぶりなどは微笑ましくも感じられる
作風で作られている。台湾映画も近年は、それなりに目覚ま
しい作品も観られるが、それらの作品の原点とも呼ばれてい
る作品だ。とは言え僕には懐かしさが先に立ったかな、結末
のシーンで先の公開時に観た記憶が蘇った。公開は8月17日
より、東京は新宿K's cinema他で全国順次ロードショウ。)

『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』
(2017年6月18日題名紹介『米軍(アメリカ)が最も恐れた男
その名は、カメジロー』を補完する作品。本作では、米軍の
執拗な妨害にもめげず、那覇市長や衆議院議員も務めた瀬長
亀次郎氏が残した膨大な日記を基に、国会審議での代表質問
のアーカイヴ映像や当時を知る関係者の証言などを交えて、
カメジローの実像が描き出される。しかもそこに立ちはだか
るのはアメリカだけでなく、他国の言いなりのままに尻尾を
振り続ける日本の執政者の姿であり、それが1972年から半世
紀近くが過ぎても変わらないという状況だ。いや、むしろ当
時より悪くなっている現実だろう。正直に言ってこの国の国
民として恥ずかしくてたまらなくなるような作品だった。監
督は前作と同じく元TBSアナウンサーの佐古忠彦。これか
らも真の沖縄が戻ってくるまで続けて欲しい作品だ。公開は
8月17日より沖縄県桜坂劇場にて先行上映の後、東京は24日
から渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『葬式の名人』
(ノーベル文学賞受賞者川端康成の諸短編に基づき、作家が
学童期を過ごした大阪府茨木市が市制70周年を記念して製作
した作品。突然亡くなった同窓生の遺体を前にした旧友たち
が、彼との思い出を胸に遺体と共に市内を巡る。そんなこと
をしていいのかとも思ったが、劇中は法律上問題ないことは
語られていた。それにしても黙って学校内に入ったり、多少
の疑問に感じるところはある作品だった。プロデューサーと
脚本は2014年『太秦ライムライト』などの大野裕之、監督は
2013年、東京銀座の老舗映画館シネパトスの閉館記念で作ら
れた『インターミッション』の樋口尚文。出演は前田敦子、
高良健吾。他に白洲迅、尾上寛之、中西美帆、奥野瑛太。さ
らに栗塚旭、有馬稲子らが脇を固めている。なおクレジット
の中に久しぶりの名前を見付けたが、現場復帰したのかな?
市政記念作品ということで、公開は8月16日から茨木市で先
行上映の後、9月20日より全国ロードショウ。)

『チャイルド・プレイ』“Child's Play”
(1988年に第1作が製作され、以後6話のシリーズとスピン
オフも作られた人気ホラー映画からのリブート作品。オリジ
ナルの当時はキャベツ人形なんて云うちょっと奇怪な人形が
ブームだったりして、その人形が殺人鬼に変身するという設
定はかなり衝撃的だった。そのリブートだが、以前のシリー
ズでは殺人人形の誕生はブードゥ教の呪術によっていたもの
が、本作では人形に搭載されるAIコンピュータの不具合とい
う設定。これも時代の反映なのだろうが、以前からのファン
には反発もあるかもしれない。でも今さらブードゥ教と言わ
れても…という感じもしないでもないもので、これがこの後
シリーズ化できるかは、ファンの気持ち次第になりそうだ。
脚本は短編映画やヴィデオゲームなどを手掛けてきたタイラ
ー・バートン・スミスの長編デビュー作。監督は2019年6月
2日題名紹介『ポラロイド』のラース・クレヴバーグが担当
した。公開は7月19日より、全国ロードショウ。)

『王様になれ』
(1989年結成のロックバンドthe pillows の30周年を記念し
て製作された映画作品。通常この種の記念映画では、ライヴ
の収録やドキュメンタリー、あるいはバンドの生い立ちのよ
うな作品が多いが、本作はバンドのフロントマンである山中
さわおの原案によるフィクションで、そこにthe pillows の
楽曲が流れるという中々洒落た構成になっている。その物語
に登場するのは、カメラマンになる夢を持ちながらも厳しい
現実の壁に阻まれている若者と、彼が働くラーメン店を訪れ
た劇団員の少し年上の女性。その女性がthe pillows のファ
ンで、2人の交流の中にバンドのライヴが絡まるという仕掛
けだ。そして物語では、青春の中でもがく若者たちが巧みに
描かれる。出演は2018年7月15日題名紹介『オズランド』な
どの岡山天音と、舞台女優の後東ようこ。脚本と監督は舞台
演出家のオクイシュージが担当した。公開は9月13日より、
東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)

『パリに見出されたピアニスト』“Au bout des doigts”
(駅の構内に置かれたアップライトピアノ。それを無心に弾
く若者の姿を初老の男が見つめている。そして男は若者に名
刺を差し出す。そこには名門音楽院のディレクターの名前が
記されていた。やがて若者は止むに止まれぬ事情でその音楽
院に通うことになるが…。そこには音楽院側の事情も隠され
ていた。出演はジャン=ルイ・トランティニャンの孫という
新鋭ジュール・ベンシェトリと、2011年1月紹介『神々と男
たち』などのランベール・ウィルスン、それに2011年9月紹
介『サラの鍵』などのクリスティン・スコット・トーマス。
脚本と監督は、2014年8月紹介『LUCY/ルーシー』でリュッ
ク・ベッソンの助監督を務め、本作が監督デビュー3作目の
ルドヴィク・バーナード。日本にも同様の街角ピアノはある
ようだが、さすが芸術の街パリという感じの作品だ。公開は
9月27日より、東京はヒューマントラストシネマ有楽町他で
全国ロードショウ。)

『守護教師』“동네사람들”
(2019年5月12日題名紹介『無双の鉄拳』に続くマ・ドンソ
ク主演アクション・スリラー作品。今回の主人公はボクサー
で元東洋チャンピオンという男。熱血指導が災いしてコーチ
の職を追われ、地方都市の女子高に体育教師兼生活指導とい
う名目でやってくる。男ばかりの世界からの女性の園に武骨
な男は、最初は戸惑いを隠せないが、やがて行方不明の級友
を探す女子生徒に目を止める。そしてその女子生徒に声を掛
けた男は、その町と学校の陰に潜む闇と対峙することになる
が…。共演は2011年7月紹介『アジョシ』などのキム・セロ
ン。天才子役と呼ばれた少女が成長した姿を見せてくれる。
それに対するマ・ドンソクの役柄はどの作品も判り易いが、
役柄は毎回変われど『寅さん』みたいな安心感なのかな? 
脚本と監督は本作が2作目というイム・ジンスン。デビュー
作は半自伝的コメディだったそうだ。公開は8月2日より、
東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)

『影に抱かれて眠れ』
(1983年公開『逃がれの街』などの北方謙三原作の映画化。
横浜野毛の飲み屋街を舞台に、個展を嘱望されるも創作意欲
のない画家で、街に2軒の酒場を経営する男が、彼を父親の
ように慕う若者の所業からただならぬ状況に巻き込まれてし
まう。その若者は町に売られてきた女たちの足抜けを支援し
ていたが…。出演は2017年4月紹介『ラストコップ』などの
加藤雅也、2017年10月29日題名紹介『8年越しの花嫁』など
の中村ゆり。他にEXILE の松本利夫、カトウシンスケ、湘南
乃風の若旦那。さらに熊切あさ美、余貴美子、火野正平らが
脇を固めている。脚本は強面俳優として数多くのVシネなど
に出演の小沢和義が手掛け、監督はテレビ『相棒』シリーズ
や2016年3月紹介『探偵ミタライの事件簿』などの和泉聖治
が担当した。原作は2010年に発表されたものだが、正に昭和
のハードボイルドといった感じの作品だ。公開は9月6日よ
り、東京は丸の内TOEI2他で全国順次ロードショウ。)

『ロケットマン』“Rocketman”
(1969年ソロ・デビュー以来、世界で3億枚以上を売り上げ
たとされる人気歌手エルトン・ジョンが、自ら製作総指揮を
手掛けた自伝映画。1947年に王立空軍中隊長の息子として生
まれた音楽家は、4歳の頃からピアノを弾き、一度聴いた曲
は完璧にリピートするという神童ぶりを発揮、王立音楽院を
経てプロ演奏家を目指す。そして1967年に出会った作詞家の
バーニー・トーピンとは曲折はあるものの一貫してコンビで
楽曲を発表している。しかし薬物やアルコール依存症、過食
症にも蝕まれ…。出演は2015年8月紹介『キングスマン』な
どのタロン・エガートン。他にジェイミー・ベル、ブライス
・ダラス・ハワード、リチャード・マッデンらが脇を固めて
いる。脚本は2011年12月紹介『戦火の馬』などのリー・ホー
ル。監督は『ボヘミアン・ラプソディ』を実質的に完成させ
たというデクスター・フレッチャー。公開は8月23日より、
東京は新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)

『命みじかし、恋せよ乙女』“Kirschbluten & Damonen”
(2018年9月他界した樹木希林の初の海外製作映画で、女優
として最後の出演になったとされる作品。元ナチス将校の家
系に生まれた青年が、様々な確執で酒に溺れ家族にも見放さ
れる。しかしそこに亡き父の知人という日本人女性が現れ、
彼は日本へと旅立つが…。前半はアルプスの麓、後半は神奈
川県茅ケ崎市の浜が舞台となり、人生の岐路に立った男の思
いが描かれる。脚本と監督は、過去にも日本を舞台にした作
品を手掛けているドイツ出身のドーリス・デリエ。物語は国
の有形文化財に指定されている旅館・茅ヶ崎館で着想したそ
うだ。出演は2013年『グランド・ブダペスト・ホテル』など
のゴロ・オイラー。監督の以前の作品にも出ている舞踏家の
入月絢。そして樹木は旅館の女将の役で登場する。茅ヶ崎の
浜降り祭とドイツのブッテンマンドル、2つの祭りが描かれ
るのも興味深い。公開は8月16日より、東京は日比谷のTOHO
シネマズシャンテ他で全国順次ロードショウ。)

『帰れない二人』“江湖儿女 Ash Is Purest White”
(2009年1月紹介『四川のうた』などのジャ・ジャンクー監
督が5度目のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出
された作品。長江に建設された三峡ダムを背景に、2001年か
ら17年に亙る男女の交流が描かれる。始まりは山西省大同、
炭鉱の町で連む若者のグループは石炭産業の衰退で新たな道
を探り始める。そんな中で対抗するグループにリーダーが襲
われ、居合わせた女が思わず発砲。その罪で彼女は5年の刑
に服するが…。5年後、出所した彼女をリーダーは迎えに来
なかった。その男の影を追って、三峡ダムから新疆ウルムチ
まで、7700�劼領垢�始まる。出演は『四川』にも主演し監督
のミューズと言えるチャオ・タオと、2008年10月紹介『戦場
のレクイエム』などのリャオ・ファン。題名通りの男女間の
ドラマは監督作品の中では判り易く、21世紀中国の深部が描
かれた作品と言えそうだ。公開は9月6日より、東京は渋谷
Bunkamura ル・シネマ他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二