井口健二のOn the Production
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2019年06月02日(日) ピータールー、マーウェン(サマー・オブ・84、ホットギミック、永遠に僕のもの、ポラロイド、ドッグマン、東京喰種 ト-キョ-グ-ル【S】)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ピータールー マンチェスターの悲劇』“Peterloo”
2011年9月紹介『家族の庭』などのマイク・リー監督が、自
らの脚本で英国史に残る惨劇を描いた上映時間2時間35分の
歴史劇。
時代は1819年。4年前のワーテルローの戦いでフランス軍に
は勝利したイギリスだったが、多大な戦費の浪費などで国内
経済は疲弊。さらに穀物法による小麦の輸入禁止が庶民には
パンも買えない事態となっていた。
しかし病弱の国王に代わる摂政王太子ジョージ4世による乱
脈な支配の許、富裕層だけが参政権を持つ議会では庶民の暮
しなどを顧みることもなく、軍人に多大な功労金を与える法
案などが満場一致で通過してしまう。
一方、産業革命により工業化の進んだイングランド北西部の
町マンチェスターでは、工場で働く労働者に掛る負担は大き
く。また穀物法や自分らに参政権が与えられていないことへ
の不満が膨らんでいた。
そんな中で、ロンドンでは参政権の平等化を求める集会に、
10万人が集まる状況も生じていた。そしてその集会に登壇し
たヘンリー・ハントの演説に心酔したマンチェスター市民の
代表は、彼を招いての集会の開催を計画するが…。
武器を持たない子供や女性も参加して平和裏に行われるはず
だった集会が、様々な要因から最悪の事態に至ってしまう。
その顛末が綿密な調査を基に克明に再現される。正しく近代
イギリスの汚点を描いたと言える作品だ。

出演は、007シリーズでのターナー役や2014年『イミテー
ション・ゲーム』などのロリー・キニア。2014年『博士と彼
女のセオリー』などのマキシン・ピーク。
他に、テレビや舞台で活躍の若手俳優デイヴィッド・ムーア
ストや、2012年7月紹介『ウェイバック』などのピアース・
クイグリーら、所謂人気スターではないが、実力派の顔ぶれ
が史実を再現している。
実はマンチェスター出身のリー監督自身が、この事件のこと
は知らなかったのだそうで、それくらいに英国史の中では隠
蔽された出来事だったようだ。しかも監督は今まで現代劇を
多く手掛けており、この事件を知った時も自分が映画化する
とは思わなかったそうだ。
しかし監督は2014年『ターナー、光に愛を求めて』を撮った
後で、今ならこの題材をできると確信し、2019年に200周年
を迎えるこの事件の映画化に踏み切ったとされる。
とは言え、長年隠蔽されてきた出来事に光を当てることはか
なり難しかったようで、監督はジャクリーヌ・ライディング
という歴史家の協力を得て、客観的な事実や当事者の手紙な
どの調査を経て脚本を作り上げている。
それにしても肝心な時にいない軍の司令官や、酔っぱらった
まま出動する騎馬兵など、こんな悲しい事実があっていいの
かと思える作品だった。しかしこれが歴史の真実なのだ。

公開は8月9日より、東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国
順次ロードショウとなる。

『マーウェン』“Welcome to Marwen”
2015年に出版されてAmazon.comにてその年のベストブックの
1冊に選ばれた写真集と、2010年に発表のドキュメンタリー
映画 “Marwencol”からインスパイアされたロバート・ゼメ
キス脚本(キャロライン・トムプスンとの共同)、監督による
ファンタシーの要素もあるドラマ作品。
映画の開幕は、第2次世界大戦時のベルギー上空。主人公の
乗る連合軍の戦闘機が被弾し、何とか湿地に不時着したもの
の、彼が履いていた靴は使えなくなる。しかし道端のナチス
の車両からハイヒールを発見、それを履いてみる。
ところが主人公はナチスの兵士に囲まれて絶対絶命。しかし
そこに現れた女性たちが彼を救出。主人公は彼女らの暮らす
村に辿り着く。こうして彼の指揮の下、ナチス相手の彼女ら
の戦いが繰り広げられる…というのが写真集の物語。
そして映画では、その写真集の創造者であるマーク・ホーガ
ンキャンプの実生活が並行して語られる。それは元イラスト
レーターの男性が暴漢に襲われて記憶喪失となり、そこから
再生して行く姿を描いたものだ。
その治療の一環として、彼自身の姿を投影した人形の世界が
創られた。そこには近所の住人やネオナチだったとされる、
彼を襲った暴漢たちの姿も含まれ、さらに数1000年を生きた
とされる魔女も登場する。

共同脚本のキャロライン・トムプスンは、1991年の『シザー
ハンズ』からティム・バートンの諸作などで知られるが、彼
女の描くファンタスティックな世界が見事に再現された作品
でもある。
出演は、2019年2月17日題名紹介『バイス』などのスティー
ヴ・カレル。他に2009年12月紹介『フィリップ、きみを愛し
てる!』などのレスリー・マン。2015年2月紹介『バードマ
ン』などのメリット・ウェヴァー。
さらに2017年9月紹介『ドリーム』などのジャネール・モネ
イ。2017年6月25日題名紹介『ベイビー・ドライバー』など
のエイザ・ゴンザレス。人気ドラマ『ゲーム・オブ・スロー
ンズ』などのグェンドリン・クリスティー。
監督夫人で、2009年11月紹介『 Disney's クリスマス・キャ
ロル』などに「出演」のレスリー・ゼメキス。そして2009年
12月紹介『すべて彼女のために』などのダイアン・クルガー
らが脇を固めている。
出演者のほぼ全員が実写と、マーウェンの住人である人形の
2役を演じるものだが、バービー人形の体形に俳優の顔を再
現した造形はCGIと共に実際の人形も作られたと思われ、
これは出演者には嬉しかっただろう。
それと魔女の名前がデジャ・ソリスというのにはニヤリとし
たが、これは実際の写真集にも登場するキャラクターで、特
に監督の思いとかではないようだ。英語の表記でもhが省か
れている。
その一方で、その魔女が出現させるタイムマシン…、これも
写真集に登場するのかな? いずれにしてもSF映画ファン
の心はくすぐられる作品だ。
ただし、映画ではヘイトクライムなどの問題を厳しく取り上
げており、実際の事件は2000年に起きたことのようだが、そ
の根深さは見事に描かれているものだ。

公開は7月19日より、東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国
ロードショウとなる。

この週は他に
『サマー・オブ・84』“Summer of 84”
(今も続くSF/VFX映画のブームが始まった頃を時代背
景とする若年向けのサスペンス作品。「連続殺人魔にも隣人
はいる」というモノローグを基調に、隣家に住む警官を殺人
魔と疑った少年たちの冒険が描かれる。映画史的には田舎や
都会でない、郊外型のサスペンスホラーが勃興した時期でも
あるようだが、雰囲気は『スタンド・バイ・ミー』を思い出
すかな。ただ結末には何とも言えないしこりの残る作品だ。
監督はROADKILL SUPERSTARS(RKSS) と名告る3人組で、短編
作品が話題になっての長編第2作。出演はテレビ版『FARGO/
ファーゴ』などのグラハム・バーチャーとコリー・グルータ
ー=アンドリュー。新『スパイダーマン』のオーディション
でファイナリストというジュダ・ルイス。いずれも10代の新
鋭だ。それに2018年8月26日題名紹介『ライ麦畑で出会った
ら』などのカレブ・エメリー。公開は8月3日より、東京は
新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)

『ホットギミック ガール ミーツ ボーイ』
(相原実貴原作で、2000年から05年まで連載されて単行本の
累計販売部数は450万部を突破、海外でも翻訳出版されてい
るという少女コミックスの映画化。少しおくての女子高生を
主人公に、彼女を取り巻く義兄や人気モデルの幼馴染み、同
級生などによる恋愛模様が描かれる。出演は乃木坂46の堀未
央奈、清水尋也、板垣瑞生、間宮祥太朗。他に桜田ひより、
上村海成、吉川愛、志磨遼平、黒沢あすか、高橋和也、反町
隆史、吉岡里帆らが脇を固めている。脚本と監督は2016年に
『溺れるナイフ』が話題になった山戸結希。物語は典型的と
言える少女コミックスの展開だが、今時の若者の生態を描い
ているという点ではいろいろ学ぶところもあったかな。ただ
00年代に描かれた原作を2019年に映画化した点では、主人公
のおくて振りなどに多少の違和感みたいなものも生じたが、
その辺の監督の解釈はどうだったのだろう。公開は6月28日
より、東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)

『永遠に僕のもの』“El Ángel”(題名追記)
(ペドロ・アルモドバルが製作し、2018年カンヌ国際映画祭
ある視点部門に出品されたアルゼンチンの俊英ルイス・オル
テガ監督の作品。1971年にブエノスアイレスで殺人と強盗の
罪により逮捕された17歳の少年は、天使のような美貌の持ち
主だった。本作もまだ邦題の決まっていない時点での内覧試
写だったが、実話に基づく本作は、前回の“Hostiles”とは
違った意味での衝撃作だった。少年は裕福とは言えないまで
もそれなりの家庭環境だったが、欲しいものは何でも手に入
れたがる性分で、そのために嘘も平気でつく。そんな少年が
こちらも端正な顔立ちの同級生に目を付け、巧みに接近した
少年は同級生の父親の手引きで犯罪に手を染めるが…、瞬く
内にそれがエスカレートして行く。出演は本作がデビュー作
のロレンソ・フェロ。公開は8月16日より、東京は渋谷シネ
クイント、新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『ポラロイド』“Polaroid”
(2015年にスペインのファンタスティック映画祭で上映され
た短編作品がハリウッド映画人の目に留まり、長編化された
脚本の本作でハリウッドデビューを飾ったノルウェーの俊英
ラース・クレヴバーグ監督の出世作。アンティークショップ
でアルバイトをしていた女子高生が1970年代の名機とされる
ポラロイドSX−70を手に入れ、試し撮りをしてみるが…。
それは被写体に死を招く恐怖のカメラだった。現像所を通さ
ないで映像が見られるポラロイドだが、同時にスマホ撮影の
ように簡単には消去できないというのがポイントかな。その
辺には監督の思い入れも感じられる作品だ。呪いの原因が明
示されるのも良い。出演はテレビや配信系のドラマで人気の
キャサリン・プレスコット、タイラー・ヤング、サマンサ・
ローガン。他にミッチ・ピレッジ、グレイス・ザブリスキー
らが脇を固めている。公開は7月19日より、東京は渋谷シネ
クイント他で全国順次ロードショウ。)

『ドッグマン』“Dogman”
(2011年8月紹介『ゴモラ』と2012年東京国際映画祭で上映
“Reality”にて2度のカンヌ国際映画祭審査員特別グラン
プリに輝いたマッテオ・ガローネ監督が、2018年のカンヌで
無名俳優のマルチェロ・フォンテに主演男優賞と、出演犬に
パルムドッグ賞をもたらした作品。寂れた海辺の町でトリミ
ングサロンを営む男性が、関係を断てない粗暴な男のために
人生を転落して行く。『ゴモラ』もそうだったが、主人公の
行動には共感すら出来ないものの、現実はこうなのだろうと
いう思いはしてしまう。そんなリアリティの作品だ。共演は
2015年11月1日付「東京国際映画祭」で紹介『神様の思し召
し』のエドアルド・ペッシェ。なおガローネ監督の次回作は
フォンテと再タッグを組む“Pinocchio”だそうで、2003年
2月紹介のロベルト・ベニーニ版とは異なる解釈が期待でき
そうだ。公開は8月23日より、東京はヒューマントラストシ
ネマ渋谷他で全国順次ロードショウ。)

『東京喰種 トーキョーグール【S】』
(石田スイ原作で2017年7月紹介作品の続き。人類を食料と
する存在=喰種との戦いが続く中、半喰種となった主人公は
人類への危害を減らそうとする喰種のグループと出会い、新
たな展開が生じる。しかしグルメを標榜する喰種たちはさら
なる人類の味を求めていた。主演は前作に引き続き窪田正孝
が務め、ヒロイン役には新たに2015年4月紹介『Zアイラン
ド』などの山本舞香が起用されている。また鈴木伸之、小笠
原海、白石隼也、坂東巳之助、桜田ひよりらが前作と同じ役
を演じる他、知英、松田翔太らが新たに登場する。前作は上
映時間も2時間近く、人類との戦いもそれなりのスケールで
描かれたが、本作は喰種側の内部抗争が中心で97分の作品。
この形式でシリーズ化も目指せる展開になっている。脚本は
2015年のアニメ版を手掛けた御笠ノ忠次。監督はCMなどを
手掛ける川崎拓也と平牧和彦が共同で担当している。公開は
7月19日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二