井口健二のOn the Production
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2019年05月26日(日) アラジン、荒野の誓い(ザ・ファブル、耳を腐らせる、カーライル、サマーフィーリング、誰ガ為のアルケミス、メランコリック、ヒョンジェ)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『アラジン』“Aladdin”
1992年製作の同名アニメーション作品(本作のクレジットで
は“Disney's Aladdin”と記載されていたようだ)の実写化
リメイク。
アラビアンライトの世界。主人公のアラジンはサルタンが治
める王国で暮らす若者。身寄りのない彼は猿のアブーと共に
コソ泥稼業で何とか生活している。そんな彼が町で若い女性
を助ける。その女性は王女の侍女だと名乗るが…。
その王国はサルタンの意向で、周囲の国とも友好的に平和な
日々が続いていた。ところが側近の中には平和を嫌って王座
を狙う輩もいた。そんな悪漢ジャフーの狙いは、魔法の洞窟
に眠るランプを手に入れること。
そのランプを手に入れれば何でも望みが叶う。しかし洞窟に
入れるのは、ダイヤモンドの原石のような清らかな心を持つ
者だけ。その試練に何人もが失敗していた。そんなジャフー
の前に、「侍女」のことを一途に思うアラジンが現れる。
そこでジャフーは、言葉巧みにアラジンを魔法の洞窟へと送
り込む。そしてアラジンは洞窟に閉じ込められていた空飛ぶ
絨毯やランプの精ジーニーと巡り合う。

出演は人気TVシリーズ“Jack Ryan”でブレイクし、本作
には世界的なオーディションを勝ち抜いて選ばれたメナ・マ
スード、2017年5月紹介『パワーレンジャー』などのナオミ
・スコット、それにウィル・スミス。
他に、2017年7月紹介『ザ・マミー』に出ていたマーワン・
ケンザリ、2015年12月紹介『ゾンビスクール!』などのナシ
ム・ペドラド、2018年3月25日紹介『ホース・ソルジャー』
などのナヴィド・ネガーバンらが脇を固めている。
監督は、2015年8月紹介『コードネームU.N.C.L.E.』などの
ガイ・リッチー。脚本は、2005年7月紹介『チャーリーとチ
ョコレート工場』などのジョン・オーガストと監督の共同と
されている。
ディズニーのアニメーション作品の実写化では、先に2017年
3月19日題名紹介『美女と野獣』や、今年公開されたティム
・バートン監督の『ダンボ』もあったが、実は試写状を貰え
なかった『ダンボ』は劇場に観に行った。
そちらの感想は、オリジナルは63分しかなかったアニメーシ
ョンをバートン監督が実に巧みに家族のドラマに作り替えた
ものだったが。オリジナルの素朴なテイストと異なることは
気になったものだ。
それに対して本作のリッチー監督は、実に見事に原作を実写
化している。それは物語をほぼ踏襲した上で巧みに人間ドラ
マを膨らましており、さらにアニメでしか表現できないと思
われたシーンも見事に再現して見せている。
これには全く脱帽としか言い表せない作品になっていた。も
ちろんここにはブロードウェイでのミュージカル化なども踏
まえられているのだろうが、何しろ人間ドラマの構築が見事
で、大人の目でも観るべき作品と言える。
それにアクションも、狭い街路を使ったパルクールばりの動
きから、魔法の洞窟でのVFXを駆使したものなど。こちら
も生身の人間がやっている体を生かして、ハラハラドキドキ
に巧みに演出されていた。
ただ観ていて僕が悔しかったのは、本作のジーニー役がロビ
ン・ウィリアムスでないことだ。それは代役のウィル・スミ
スが悪いのではない。寧ろプロローグの船上のシーンなどは
スミスならではのウィリアムスには望めないものだ。
でも本編のジーニーとしての登場シーンには、ウィリアムス
が1993年ゴールデン・グローブ特別賞(声の演技に対して)
を受けたパフォーマンスを思い出す。スミスもそれを踏まえ
てと思われるところがさらに悔しい。
もしウィアムスが生きていたら、当然この実写版も彼自身が
演じたと思われるが、スミスは2014年に他界した偉大な先輩
へのリスペクトを込めてこの演技をしているものとも思え、
その気持ちにも感動してしまう作品だった。
スミスの来日記者会見には呼ばれなかったが、誰かそのこと
は訊いてくれたのかな?

公開は6月7日より、東京はTOHOシネマズ日本橋、日比谷、
六本木ヒルズ他で全国ロードショウとなる。

『荒野の誓い』“Hostiles”(情報追加)
本作は今秋に公開予定の作品で邦題も未定だが、内覧試写を
見せて貰ったので、その報告をする。
作品は、2015年『ブラック・スキャンダル』などのスコット
・クーパーが、1982年『ミッシング』でオスカーを受賞し、
1999年に他界したドナルド・E・スチュワートの原作に基づ
いて製作、脚本、監督を手掛けた2時間15分の西部劇。
年代は1892年、西部開拓の時代は終焉を迎えていたが、映画
の開幕はコマンチ族に襲われる開拓者の一家を描く。顔を赤
と黒に塗った一団が草原に建つ一軒家を襲い、一家を虐殺、
家に放火して馬を奪って去って行く。
一方、ウンデッド・ニーなどのインディアン討伐で名を挙げ
た騎兵隊将校の主人公も退役の時を迎える。そんな主人公の
最後の任務は、捕えられていたシャイアン族の族長と一家を
大統領令により設置された居留地に護送すること。
ところが出発した一行は程なくして襲われた家屋に遭遇。家
族を失って1人生き延びた女性が一行に加わる。さらに主人
公と共にインディアン討伐を行い、そのまま虐殺を続けて犯
罪者となった男も押送することになる。
そしてそこにはコマンチ族の襲撃の恐れもあった。こんな究
極の旅が描かれる。アメリカのレイティングではR指定を受
けた厳しい内容の作品だ。

出演は2019年2月17日題名紹介『バイス』などのクリスチャ
ン・ベールと、2014年2月紹介『ワールズ・エンド』などの
ロザムンド・パイク。2014年9月紹介『荒野はつらいよ〜ア
リゾナより愛をこめて〜』などのウェス・ステューディ。
他に『ブラック・スキャンダル』などのジェシー・プレモン
ス、2016年8月14日題名紹介『スーサイド・スクワッド』な
どのアダム・ビーチ、2016年10月紹介『インフェルノ』など
のベン・フォスター、『ブラック・スキャンダル』などのロ
リー・コクレインらが脇を固めている。
台詞のかなりの部分がシャイアン族の言語で、その言語に堪
能という設定の主人公を演じるベールにはそれを喋り続ける
シーンも登場する。
R指定に相当する場面もいろいろ登場するが、全体は異民族
間の融和を謳い上げるもので、異民族の排除を目論む現アメ
リカ政権やそれに追随する社会の状況に一石を投じる意味も
込められた作品に感じる。
因に英語の題名は「仇敵」という意味だが、その仇敵と融和
して行く様子をテーマに描かれた作品だ。そんな希望が最後
に微笑ましく描かれているのも素敵な作品だった。

公開は9月6日より、東京は新宿バルト9他にて全国ロード
ショウが決定した。

この週は他に
『ザ・ファブル』
(2017年度講談社漫画賞受賞、南勝久原作のコミックスを、
2017年7月2日題名紹介『関ケ原』などの岡田准一の主演で
映画化。天才的な殺し屋とされる主人公が、育ての親である
ボスから1年間の休業を命じられ、その間に1人でも殺した
ら抹殺すると宣告される。しかし身を寄せた暴力団の内部抗
争に巻き込まれ…。共演は、2016年2月紹介『スキャナー』
などの木村文乃。他に山本美月、福士蒼汰、柳楽優弥、向井
理。さらに佐藤二朗、光石研、安田顕、佐藤浩市らが脇を固
めている。脚本は2013年3月紹介『DRAGON BALL Z 神と神』
などの渡辺雄介、監督は2018年11月11日題名紹介『めんたい
ぴりり』などの江口カンが担当した。岡田はファイトコレオ
グラファーとしてもクレジットされており、かなり熱の入っ
たアクションも見せてくれる。コミックス原作だが、ツボは
しっかり押さえている感じの作品だ。公開は6月21日より、
全国ロードショウ。)

『耳を腐らせるほどの愛』
(お笑いコンビ「NON STYLE」石田明の脚本で、相方の井上
裕介が映画初主演を務めたコメディ作品。孤島に建つホテル
のロビーで男性が死体で発見される。そして外部との通信が
途絶した中で、偶然泊まり合わせていた私立探偵が捜査を開
始。その過程で死体の男性を巡るいろいろな状況が明らかに
される。さらにその状況説明を死体である男性が行うという
趣向になっている。共演は森川葵、八嶋智人、黒羽麻璃央。
他に山谷花純、石田明、MEGUMI、小木茂光らが脇を固めてい
る。監督は2010年8月紹介『裁判長!ここは懲役4年でどう
すか』などの豊島圭介。脚本は基本的にコントの乗りで井上
のキャラクターを活かしたつもりなのだろうが、そのキャラ
クターも上滑りで何か全体にぎくしゃくして、映画としては
消化不良な感じかな。特に落ちが最初から見え見えなのは困
ってしまうところだった。公開は6月14日より、東京はシネ
・リーブル池袋他で全国ロードショウ。)

『カーライル ニューヨークが恋したホテル』
               “Always at The Carlyle”
(ニューヨークに建つ五つ星の老舗ホテルを描いたドキュメ
ンタリー。そのホテルは英国王室御用達であり、同時プライ
バシーが完璧に守られることから、ハリウッドセレブ達の御
用達にもなっている。そんなホテルの全貌が内部の見事な装
飾やスタッフへのインタヴュー。さらにチャールズ皇太子の
訪問の様子や、ジョージ・クルーニー、ウェス・アンダース
ン、ソフィア・コッポラ、トミー・リー・ジョーンズ、ジェ
フ・ゴールドブラム、ナオミ・キャンベル、アンジェリカ・
ヒューストン、アラン・カミング、ジャック・ニコルスン、
ウッディ・アレン、ハリスン・フォード、ビル・マーレイら
の口によって語られる。それは惚れ惚れするほど素晴らしい
ものだ。監督は、2016年9月18日題名紹介『ティファニー』
などのマシュー・ミーレー。最後にはホテルのURLも表示さ
れる。そういう感じの作品だ。公開は8月9日より、東京は
渋谷Bunkamura ル・シネマ他で全国順次ロードショウ。)

『サマーフィーリング』“Ce sentiment de l'été”
(2018年11月3日付「第31回東京国際映画祭」で紹介『アマ
ンダ』(公開題名『アマンダと僕』にて6月22日公開予定)で
グランプリを受賞したミカエル・アース監督が、それ以前の
2015年に発表した作品。ベルリンで暮らしていた若い芸術家
夫婦の妻が突然死し、夫は亡妻の親族と対面するがそこには
妻の面影を持つ妹も同席していた。そんな悲しみを背負った
男女の再生がパリ、ニューヨークを舞台に描かれる。出演は
2017年4月16日題名紹介『パーソナル・ショッパー』などの
アンデルシュ・ダニエルセン・リーと、2017年11月19日題名
紹介『女の一生』などのジュディット・シュムラ。本作も最
初に突然の死が登場する展開で、脚本も務める監督には何か
特別な思いがあるのかな。本作を踏まえての受賞作というの
も、さらに純粋さを増している感じがした。公開は7月6日
より、東京は渋谷のシアター・イメージフォーラム他で全国
順次ロードショウ。)

『誰ガ為のアルケミスト』
(世界で800万ダウンロードを突破しているというRPGゲーム
を、『マクロス』シリーズ河森正治の総監督でアニメーショ
ン映画化した作品。引っ込み思案な女子高生が登校中に突然
異世界にに召喚され、そこで出会った仲間たちと共に「闇」
に支配された世界に「光」を取り戻すべく奮闘するが…。現
世では何の能力も持たない少女が、異世界で世界を救う力を
発揮する。まあ巻き込まれ形というか、願望充足というか、
こんな展開が受け入れられるのは、社会の状況が反映されて
いるところもあるのかもしれない。因に主人公の少女はゲー
ムにはいない映画版のオリジナルだそうで、こういう作りに
するのも上手さと言えるのだろう。展開には2019年3月3日
題名紹介『バースデー・ワンダーランド』に似てしまう部分
もあるが、それぞれの監督らしさが出ているのも面白い。声
優は水瀬いのり、逢坂良太、降幡愛。公開は6月14日より、
東京はTOHOシネマズ新宿他で全国ロードショウ。)

『メランコリック』
(2018年の東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門に
出品され、初監督の田中征爾が監督賞を受賞した作品。東大
を出たもののニートの若者が、ふとしたことから銭湯で働き
始めるが、そこで突拍子もない状況に追い込まれる。出演は
プロデューサーも務める皆川暢二と、アクションシーンの演
出も担当した磯崎義知。実は田中監督も含めた3人が同い年
で映画製作ユニット「One Goose」を結成、その第1弾作品
とのことだ。共演は2015年の園子温監督『リアル鬼ごっこ』
に出ていたという吉田芽吹。まあ常識では考えられないよう
なお話だが、それなりのリアリティを持って描かれており、
その点では少しファンタシーも感じるかな。因に本作では、
2018年4月22日題名紹介『カメラを止めるな』に続きイタリ
ア開催のウディネファーイースト映画祭にて新人監督作品賞
も受賞しており、期待が集まりそうだ。公開は8月、東京は
渋谷アップリンク他で全国順次ロードショウ。)

『ヒョンジェ〜釜山港の兄弟〜』“돌아와요 부산항애(愛)”
(韓国のテレビで人気を誇るソンフンの映画デビュー作で、
釜山港を抱える街を舞台に、双子でありながら1人は警官、
1人はマフィアの幹部になった兄弟の葛藤を描く。兄弟は幼
くして警官だった両親を亡くし施設で育つ。しかし兄は両親
の遺志を継ごうとするものの、弟は両親を亡くしたことへの
歪んだ気持ちが拭えなかった。そして2人は共に施設長の娘
へのほのかな恋心を抱いていたが…。やがて2人を離別させ
る決定的な出来事が起きる。こうしてマフィアになった弟は
資金源のカジノと骨董品の密輸を任されるまでになる。そん
な釜山の警察署にソウル警察から兄が派遣されてくる。ソン
フンが演じるのは弟の役で、兄役には2005年2月紹介『オオ
カミの誘惑』などのチョ・ハンソン。さらに2005年8月紹介
『ARAHAN』などのユン・ソイらが脇を固めている。脚本と監
督はパク・ヒジョン。公開は7月26日より、東京はシネマー
ト新宿他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二