井口健二のOn the Production
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2019年04月28日(日) アイアン・スカイ第三帝国(ブレスあの波、女の機嫌の直し方、新聞記者、月極オトコトモダチ、ペトラは静かに対峙、Tribe Called Discord)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『アイアン・スカイ第三帝国の逆襲』
             “Iron Sky: The Coming Race”
2012年5月紹介『アイアン・スカイ』の続き。
前作では月面からのナチスの侵攻を防いだ合衆国だったが、
その戦いを引き金に核戦争が勃発、地球は荒廃してしまう。
そして合衆国大統領は秘かに極地のシェルターに避難してい
た。それから30年後。
月面の旧ナチス基地では1980人の人類が生き延びていた。し
かし資源が枯渇し、人類の命運は尽きかけていた。それでも
ジョブス教なる信仰の下、何とか生き延びる道を探っていた
が。その宗教も怪しげな方向に向い始める。
そんな折、1隻の円盤型宇宙船が月面基地に辿り着く。それ
はロシアから発進したもので、操縦していたのは天才的な技
術者だった。一方、月面生まれの基地司令の娘がある人物に
遭遇。そして背後にある巨大な秘密を教えられるが…。

脚本と監督は前作に続けてのティモ・ヴォレンソラ。脚本は
ダラン・マッソンとの共同になっているが、前作のヨハンナ
・シニサロ、マイクル・カールスニコらはbased onというこ
となので、直接関与はしていないようだ。
出演は、イギリス出身で主にテレビで活躍しているララ・ロ
ッシと、ロシア出身のウラジミル・グラコフ。それにオース
トラリア出身でブラジリアン柔術の2013年ワールドチャンピ
オンというキット・デール。
さらに、カナダ出身で2000年『チャーリーズエンジェル』に
出ていたトム・グリーン。また前作の主演でブレイクしたフ
ランス出身のユリア・ディーツェと、2019年2月10日題名紹
介『ドント・ウォーリー』などのウド・キアも再登場する。
前作の紹介では、ナチスの月面基地が根拠のないものではな
いことを記したが、本作の柱の一つである地球空洞説も、実
はナチス総統のアドルフ・ヒトラーが信じて研究させていた
ものの一つで、この点も史実に基づいていると言える。
但し、現実には本作に描かれるような空洞世界は物理的に存
在するものではないが。元来が月面シーンでもくもくと煙が
出ているような映画なのだから、その辺の科学考証は口にし
ないことにしよう。
これに対して世界史を戯画化しているもう一つのテーマには
それなりの説得力がある。また巻頭に登場する欠けた月や、
その直後のワシントンD.C.に立ち上るきのこ雲など、インパ
クトのある映像も面白かった。
とは言え上映時間が93分では、いずれのエピソードも充分に
描き込まれてはいないが、チャラチャラと観る感じの最近の
観客にはこれで良いのだろう。いずれにしてもあまり深く考
えずに見た目だけを追えばよい作品だ。
因に海外のデータベースによると、本シリーズではもう1本
“The Ark: An Iron Sky Story”という作品が、アンディ・
ガルシアとウド・キアの共演で撮影済となっており、それが
何故かPost Productionの段階で止まっている。
その作品の背景は、本作(2047年)より前の2032年となってい
るようで、前作と本作の繋ぎなのかな。その作品も完成させ
て見せて貰いたいものだ。そして本作の続きも今度は7年も
待たせないことを期待したい。

公開は7月12日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。

この週は他に
『ブレス あの波の向こうへ』“Breath”
(オーストラリアでサーフ文学の金字塔とされる文学賞の受
賞作に、2011年2月紹介『キラー・インサイド・ミー』など
の俳優サイモン・ベイカーが初監督、脚本、出演で挑んだ作
品。本作も同国でNo.1ヒットに輝いたようだ。性格も家庭環
境も異なる2人の少年が親友になり、レジェンド・サーファ
ーの導きで危険な波に挑んで行く。サーフィン映画もいろい
ろあったと思うが、少年が主人公というのはちょっと珍しい
かな。その少年たちには実際にサーファーで演技は初という
サムソン・コールターとベン・スペンスを起用。他に2015年
8月紹介『コードネームU.N.C.L.E.』などのエリザベス・デ
ビッキ、2005年8月紹介『ステルス』などのリチャード・ロ
クスバーグらが脇を固めている。レジェンド役で登場の監督
も優勝経験を持つサーファーだそうで、サーフシーンと共に
青春映画としても良くできた作品だ。公開は7月27日より、
東京は新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)

『女の機嫌の直し方』
(AI研究者の黒川伊保子がその研究の一端として著した同
名書籍を基に描かれたハートフルコメディ。主人公は結婚式
場のアルバイト職員。実はAIの研究者で、AIに男女の性
格付けを行う研究の一端として男女間トラブルの宝庫とされ
る結婚式場に資料を求めてきていたのだ。しかしそこではト
ラブル以上の緊急事態が続発し、主人公の研究の成果が問わ
れることになる。出演は2015年3月紹介『忘れないと誓った
ぼくがいた』などの早見あかり。その脇を平岡祐太、松井玲
奈、佐伯大地、水沢エレナ、前田公輝、朝加真由美、原日出
子、金田明夫らが固め、さらに脚本に協力した横澤夏子がゲ
スト出演している。脚本は2017年『CAGE』などの蛭田直
美、監督はテレビディレクター有田駿介の映画デビュー作。
結婚40年を迎えた自分には身につまされる面もあるが、女性
にも観て貰いたい作品だ。公開は6月15日より、東京はユナ
イテッド・シネマお台場他で全国順次ロードショウ。)

『新聞記者』
(2012年5月紹介『サニー 永遠の仲間たち』などのシム・
ウンギョンと、松坂桃李のW主演で、権力に立ち向かうマス
コミの姿を描いた作品。主人公は国際ジャーナリストだった
父親の遺志を継ぐ女性記者。彼女は元文科省トップの不倫報
道とそれに続く激しいバッシングに違和感を持っていた。そ
んな折、彼女の勤務先のデスクに新設医療系大学の設置認可
を巡る内部資料が届けられる。それには報道渦中の元トップ
も関っていた。一方、内閣府の情報調査室では外務省から出
向中の係官が日々忸怩たる思いで過ごしていたが…。共演は
本田翼、岡山天音。他に西田尚美、高橋和也、北村有起哉、
田中哲司らが脇を固めている。原案は2004年に医師連盟のヤ
ミ献金をスクープした望月衣塑子。脚本と監督は2018年10月
紹介『デイアンドナイト』などの藤井直人が担当した。G7
の各国中「報道の自由度」最下位の日本マスコミへの警鐘を
鳴らす作品だ。公開は6月28日より、全国ロードショウ。)

『月極オトコトモダチ』
(アパレル業界で働きながら、30歳を過ぎたら好きなことを
やろうと思い立ち映画美学校で学んだという穐山茉由監督の
長編デビュー作。Web マガジンの編集部に勤める主人公は、
「男女の友情はレンタルできるか」という連載企画で「男女
関係にならないスイッチを持つ」と自称する男性を「1ヶ月
15時間までの友達」としてレンタルしてみることにする。そ
して1時間ごとに済印を押すデートを重ねて行くが…。出演
は2011年11月紹介『はさみ』などの徳永えりと、2019年1月
紹介『まく子』などの橋本淳。他に2019年1月20日題名紹介
『シスターフッド』などのBOMIこと芦那すみれらが脇を固め
ている。レンタル友達というアイデアは面白いけど物語は普
通かな。ただ挿入されるデートシーンのロケーションが面白
くて、試写会に来場していた監督にそのことを指摘したら嬉
しそうな顔をしていた。この感覚は素敵だ。公開は6月8日
より、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『ペトラは静かに対峙する』“Petra”
(当主の不倫を切っ掛けに家族の秘密が明かされるスペイン
のハイメ・ロサレス脚本、監督によるカンヌ国際映画祭出品
作。女性画家が彫刻家のアトリエを訪れ制作を開始する。し
かし彼女には彫刻家に父親であることを認めさせるという別
の目的があった。家族の秘密が明かされるということでは、
2019年3月31日題名紹介『誰もがそれを知っている』もあっ
たが、本作はよりリアルというか、殺伐としたものになって
いる。どちらが好きかと聞かれたら僕は前作だが。現実は本
作の方がありそうだ。映画は7章立てで、その各章が入れ替
えられて時間軸を示すのも面白かった。出演は『誰もが…』
にも出ていたバルバラ・レニーと、2017年8月27日題名紹介
『永遠のジャンゴ』などのアレックス・ブレンデミュール。
他に2012年2月紹介『私が、生きる肌』などのマリサ・パレ
デスらが脇を固めている。公開は6月29日より、東京は新宿
武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『Tribe Called Discord Documentary of GEZAN』
(2009年に大阪で結成されて、後に東京に拠点を移したとい
うロックバンドが独自の方法で資金を集め、アメリカで単独
ツアーとアルバムのレコーディングを行った模様を記録した
ドキュメンタリー。正直に言って片言英語の彼らが、行った
先々で演奏できる場所を探し、集まった観客の中に一夜の宿
を頼み込む。そんな行き当たりばったりの旅が展開されて行
くが。それが突然、とんでもない事態に直面する。実は予備
知識なしに観に行って、こんな現実を突きつけられるとは思
わなかった。それは僕自身が映画などの知識で普通の人より
は知っているだろうと考えていたものとは全く違うレヴェル
のアメリカの現実であり、自分の認識の甘さを突きつけられ
たような気分だった。監督・撮影・編集は京都府出身で今ま
でMV等を手掛けてきたという神谷亮佑の長編デビュー作。
誰もが予想しなかった衝撃の作品だ。公開は6月21日より、
東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
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 なお次週は10連休中で試写がありませんので、次の試写会
情報の更新は5月12日になります。


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