井口健二のOn the Production
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2019年03月31日(日) シャザム!(柄本家のゴドー、鷺娘、旅の終わり、小さな恋、兄消え、ばあばは、主戦場、あの日々の話、武蔵、スケート・K、誰もがそれを)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『シャザム!』“Shazam!”
以前の映画情報の記事では2003年1月1日付の第30回から、
2006年4月15日付第109回、2008年12月1日付第172回などで
紹介してきたDCコミックスの映画化が遂に登場した。
オリジナルは、1940年2月、Fawcett Comicsという出版社が
発行していたWhiz Comics第2号に Captain Marvelの名前で
登場したもの。シリーズのコンセプトは「思春期の幻想」と
いうものだったが、盗作問題などもあって1950年代に売り上
げが落ち、廃刊の憂き目にあう。
その版権を1970年代にDC社が獲得するが、この時にはマー
ヴェル社が社名などの商標登録をしていたために改題され、
さらに2011年に始まったリブートではヒーロー名も変更され
たとのことだ。そんな経緯も考慮したのか、今回の映画化で
は最終的に主人公は名告っていなかったようだ。
物語の始まりは20世紀。少年が父親の運転する車の後部座席
で占い玩具を手にしている。そんな少年は父親に疎まれ、父
の隣に座る兄から馬鹿にされていたが、突然父親と兄の姿が
消え、暴走する車は異世界に紛れ込む。
そこには「七つの大罪」を封じているという巨大な石像の置
かれた神殿があり、世界の平和を守ってきたという魔術師の
最後の1人がいた。そして心身共に疲れ切った魔術師は純な
心を持つ後継者を求めていたが…。
時は下って現代のフィラデルフィア。1人の少年がパトカー
を盗んで女性の家を訪れる。しかしその女性は彼の求める人
物ではなく、警察に捕まった少年は身寄りのない子供たちを
保護する夫妻に預けられる。
そこでも生活に馴染めない少年は、あれこれ口煩いヒーロー
おたくの少年と同室にされ、彼と共に通学を始める。ところ
が脚の不自由な彼をからかった年長2人組に抵抗し、逃げる
途中に飛び乗った地下鉄で少年は異世界に紛れ込む。
斯くして少年は、「シャザム!」と叫ぶことでS=ソロモン
の叡智、H=ヘラクラスの剛力、A=アトラスの体力、Z=
ゼウスの全能、A=アキレスの勇気、M=マーキューリーの
神速を併せ持つ中年ヒーローに変身できるようになる。
とは言うものの心は少年のままのヒーローは、勝手気ままに
能力を浪費してしまうのだが。そこに「七つの大罪」の力を
獲得した敵が現れ、シャザムはフィラデルフィアの人々を守
るため立ち上がることになる。

出演は、2019年2月紹介『シー・ラヴズ・ミー』などのザカ
リー・リーヴァイ、2015年8月紹介『キングスマン』などの
マーク・ストロング、2017年5月28日題名紹介『キング・ア
ーサー』などのジャイモン・フンスー。
またテレビシリーズ“Andi Mack”で高い評価を受けている
アッシャー・エンジェル、2017年10月1日題名紹介『IT/イ
ット “それ”が見えたら、終わり。』などのジャック・デ
ィラン・グレイザー。
さらにグレイス・フルトン、フェイス・ハーマン、ジョバン
・アルマンド、クーパー・アンドリュース、マルタ・ミラン
スらの若手が脇を固めている。
原案と脚本は2015年9月紹介『アース・トゥ・エコー』など
のヘンリー・ゲイデン、監督は2016年7月10日題名紹介『ラ
イト/オフ』や2017年8月13日題名紹介『アナベル 死霊人
形の誕生』のデビッド・F・サンドバーグが担当した。
アメリカンコミックスの映画化も、最近では北欧神まで巻き
込むなどやたらと話が大きくなって、あまり観る気も起きな
くなっていたが、本作は舞台もフィラデルフィアが中心で、
原点に戻っている感じかな。
「思春期の幻想」という原作のコンセプトも生かしており、
観ていて気持ちよく楽しめた。また敵が繰り出す怪物の造形
にはハリーハウゼン的な趣もあって、これも好ましく感じら
れたものだ。
DCユニヴァースの一員という立場は採っているようだが、
出来たらこのままの愛らしさで続編も期待したい。

公開は4月19日より、全国ロードショウとなる。

この週は他に
『柄本家のゴドー』
(柄本佑、時生の兄弟が、父・柄本明の演出でサミュエル・
ベケットの不条理劇に挑む様子を描いたドキュメンタリー。
兄の佑は13歳の時に父親と石橋蓮司が演じた『ゴドーを待ち
ながら』を観て演劇を志したそうだ。その芝居に2014年から
弟の時生と2人で挑戦。そして2017年の再演の演出に父親を
招く。その稽古場では、初日の立ち稽古から父親の笑い声が
響く。それには怪訝な表情を見せる佑だったが…。3人それ
ぞれの演劇に対する想いが語られる。それは特に劇団・東京
乾電池の代表を務める父親から、この舞台の座長である佑へ
の演技指導に表れるが、そこには禅問答のような特異な雰囲
気も漂う。それが不条理劇という特別な演劇空間も描いてい
るようで興味深かった。さらに父親と石橋による『ゴドー』
の記録映像も挿入され、上映時間は64分だが、いろいろな要
素がぎっしり詰まった作品だ。公開は4月20日より、東京は
渋谷ユーロスペースでロードショウ。)

『シネマ歌舞伎・鷺娘/日高川入相花王』
(2006年、シネマ歌舞伎の第2弾として上映された作品が、
サウンドリマスターにより再公開される。舞踊の2本立ては
前半が『日高川』。『道成寺』でお馴染みの安珍清姫の物語
で、僧侶の後を追い寺に向かう途中の川の渡し場の場面が、
人形振りで舞われる。そして後半は、1984年メトロポリタン
歌劇場100周年記念ガラで世界を魅了した坂東玉三郎の舞。
重い鬘や早変わりのために重ねた衣装の重さで、2009年の公
演を最後に玉三郎自身が体力的に全編を舞うのは無理とする
伝説の舞台が、2005年の歌舞伎座公演から登場する。それに
しても引き抜きで行われる早変わり見事さや玉三郎の舞いも
美しいが、特に後半の深々と降り続く雪の様子はこれはもう
ため息が出るほど素晴らしい。その中で舞う玉三郎に姿には
正に魅了されるという言葉しかなかった。公開は6月20日か
ら7月4日まで、東京は築地東劇他の全国の映画館で2週間
限定ロードショウ。)

『旅の終わり世界のはじまり』
(2017年7月23日題名紹介『散歩する侵略者』などの黒沢清
監督が、文化庁の平成30年度「国際共同製作映画支援事業」
から2605万円の助成を受けウズベキスタン共和国と共同製作
した作品。旅番組の女性レポーターを主人公に異文化の交流
を描く。主演は前田敦子。その脇を染谷将太、加瀬亮、柄本
時生らが固めている。国交樹立25周年と、劇中にも登場する
オペラハウス・ナヴォイ劇場の完成70周年記念映画とされて
いるもので、その劇場の完成には第2次大戦後にソ連に抑留
されていた多くの日本人が動員されたのだそうだ。そんな素
晴らしい劇場も登場する作品だが、残念なことにその情報が
紹介されるのは主人公がそこを訪れるシーンが終った後で、
事前に知っていたらじっくりその映像を楽しみたかった、と
いう気分にはなった。もう一度観ろということなのかもしれ
ないが…。公開は6月14日より、東京はテアトル新宿、渋谷
ユーロスペース他で全国ロードショウ。)

『小さな恋のうた』
(沖縄出身のバンド「MONGOL800」の楽曲を主題に描く青春
ドラマ。物語の中心は沖縄の高校の学内ロックバンド。学園
祭でのライヴが当面の目標だが、ライヴハウスでの練習姿が
ネットに上って注目を集めた矢先、ギター担当で作曲も手掛
けていたメムバーが米兵による轢き逃げで死亡。夢は潰え、
同時に反基地運動の熱も上がる。しかし彼は基地に暮らす少
女とフェンス越しの交流も深めていた。そして彼の妹が兄の
遺した曲を見付けるが…。出演は佐野勇斗、森永悠希、山田
杏奈、眞栄田郷敦。他に中島ひろ子、清水美沙、世良公則ら
が脇を固めている。音楽に励む若者たちは最近多く見る題材
だが、本作は沖縄が舞台ということで微妙な問題にもなる。
しかしその結末は、これが理想と言える風景を描いていた。
脚本は2017年4月2日題名紹介『22年目の告白』などの平田
研也、監督は2018年11月25日題名紹介『雪の華』などの橋本
光二郎。公開は5月24日より、全国ロードショウ。)

『兄消える』
(僕の世代だとヴォードヴィリアン、声優かな。元はジャズ
シンガーの柳澤愼一が、60年ぶりの映画主演を果たしたとい
う作品。高齢の父親が亡くなり、生涯をその世話に捧げてき
た次男の家に、40年前に勘当された長男が女連れで帰ってく
る。しかもその女にはいろいろ曰くがありそうで…。自分の
近親者にも似たような状況があって、それなりに納得しなが
ら見てしまう作品だった。共演は高橋長英、土屋貴子。他に
江守徹、雪村いづみらが脇を固めている。監督は劇団文学座
の西川信廣。多くの舞台を手掛けてきた演出家だが、映画は
デビュー作のようだ。劇中では柳澤が“My Blue Heaven”な
ど様々な名曲を口ずさむシーンがあり、そのセットリストを
知りたかった。ハリウッド映画だと事細かに記載されるが、
日本映画では残念ながらその習慣は無かったようだ。それと
題名は『父帰る』のもじりなのかな。公開は5月25日より、
東京は渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『ばあばは、だいじょうぶ』
(2017年『キセキの葉書』などのジャッキー・ウー監督が、
楠章子による2017年「児童ペン賞」童話賞受賞の絵本を映画
化した作品。前作と同様に認知症をテーマとした作品で、本
作では徐々に病状の進行する祖母の様子が幼い孫の目から描
かれる。出演は寺田心(ミラノ国際映画祭主演男優賞)と冨士
眞奈美。他に平泉成、松田陽子、内田裕也、土屋貴子らが脇
を固めている。認知症も近年多い題材だが、患者が女性の場
合は自分の体験に照らしても比較的納得して観ていられる。
ところが男性患者を描いた作品では、そんなに甘くないと思
ってしまうところが多い。これは僕の偏見かもしれないが、
男性患者の例ではきれいごと過ぎて現実的ではない感じがす
る。その点が女性患者の作品ではかなり際どい線まで描かれ
ており、僕にはその方が正しいと思えるものだ。本作もそん
な正しく描かれた作品になっている。公開は5月10日より、
全国のイオンシネマにてロードショウ。)

『主戦場』
“Shusenjo:
  The Main Battleground of the Comfort Women Issue”
(日系アメリカ人でYouTuberのミキ・テザキが、2013年カリ
フォルニア州グレンデール市の慰安婦像設置から、2015年サ
ンフランシスコ市の同像設置までの期間に、日米韓の関係者
に取材したドキュメンタリー。戦時中に起きた慰安婦問題や
南京大虐殺は、日韓、日中で歴史認識の対立する問題だが、
シベリア抑留経験もある僕の父親は生前に、「人数など規模
はどうであれ、あったことは間違いない」と明言していた。
しかし今の日本の文化人と称する連中が、端から無かったこ
とにしているのが解せなかったが、本作を観るとその辺の事
情も含めてかなり広範な知識を得ることのできた。ただ途中
で論理のすり替えが見えてしまうことも事実で、その辺の甘
さというか、見え見えな感じはちょっと疑問に感じた。とは
言え全体的には両者の主張を的確に並列させ判り易く描いた
点には好感した。公開は4月20日より、東京は渋谷イメージ
フォーラムにてロードショウ。)

『あの日々の話』
(平田オリザの「青年団」に所属しながら自らも劇団「玉田
企画」を主宰する玉田真也が2016年に初演し、2018年に再演
された舞台劇を、自らのメガホンで映画化した作品。大学の
サークル活動で代表選出の行われた日。その打ち上げのカラ
オケオールに集まったOB、OGも含む男女の面々が痴話騒
動を巻き起こす。全体的には会話劇という展開の作品だが、
会話自体が普通で、そこに機知に富んだと言えるようなもの
がない。勿論一般の会話ならそれでも良いし、生の舞台なら
それなりの共感みたいなものも生まれるのかもしれないが、
いざ映画となったら何か捻りの効いたというか、観客が引き
込まれるような仕掛けが欲しくなる。撮影用に特殊なセット
を組んだり、装置の仕掛けはあったようだが、それが生きて
いないのが残念かな。舞台のパッケージ化ならそのままを撮
影したものが観てみたい。公開は4月27日より、東京は渋谷
ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『武蔵−むさし−』
(2013年9月紹介『蠢動』の三上康雄監督が、1977年、78年
の2部作で描いた宮本武蔵に再び挑戦した作品。幼い頃から
父親に鍛えられた武蔵は21歳で京に上り、一条寺下がり松で
の吉岡家との死闘に勝利するなど剣豪の名を挙げて行く。し
かし剣は人を殺すだけのものかと自問を繰り返す。その一方
で武蔵の命を狙うものは絶えず、それに勝利し続けるも周囲
の者たちが巻き込まれてしまう。そんな物語が幕藩政治の情
勢など共に描かれ、そして遂に佐々木小次郎との決戦の時が
訪れる。主演は2018年12月紹介『ジャンクション29』などの
細田善彦。その脇を松平健、目黒祐樹、水野真紀、若林豪、
中原丈雄、清水紘治、原田龍二、遠藤久美子、武智健二、半
田健人、木之元亮らが固めている。脚本も手掛けた三上監督
は史実を詳細に調べたというが、その物語は外連もなく寧ろ
明快で、剣豪の生涯が巧みに描かれていた。公開は5月25日
より、東京は有楽町スバル座他で全国ロードショウ。)

『スケート・キッチン』“The Skate Kitchen”
(ニューヨークに実在する女性スケートチームのメムバーが
主演も務める青春映画。主人公は郊外に住むスケボー少女。
しかし滑走中に負った怪我で母親から禁止を言い渡される。
ところがネットでチームの存在を知った彼女は、母親に内緒
で出掛けてしまう。そして彼女の行動が母親に知れてしまう
が…。ドキュメンタリー出身のクリスタル・モーゼル監督が
ファッションブランド「Miu Miu」による映像プロジェクト
の1本として製作した短編作品“That One Day”を長編化し
たもので、スケボーに熱中しながらも恋や友情など現代っ子
の姿が描かれる。因にエピソードの多くは彼女らの実話に基
づくそうだ。出演はチームのメムバーの他に、2013年『アフ
ター・アース』などのジェイデン・スミス、2013年7月紹介
『サイド・エフェクト』などのエリザベス・ロドリゲスらが
脇を固めている。公開は5月10日より、東京は渋谷シネクイ
ント他でロードショウ。)

『誰もがそれを知っている』“Todos lo saben”
(2017年4月30日題名紹介『セールスマン』などのイランの
名匠アスガー・ファルハディ監督が、ペネロペ・クルスとハ
ビエル・バルデムの夫妻を主演に招いて、全編をスペイン語
且つ撮影もスペインで行った作品。アルゼンチンで家族と共
に暮らしていた女性が、妹の結婚式に出席のため2人の子供
を連れて故郷に帰ってくる。そこには幼馴染のワイン農園主
などもいたが…。結婚式の会場から主人公の娘が姿を消し、
状況から誘拐と判断される。しかし警察には通報せず、事件
解決のために各自が奔走する中で、長年隠されていた家族の
秘密が徐々に暴露されて行く。脚本も監督が執筆したもので
ジャンルはミステリーだが、内容は複雑で奥深い物語が展開
される。それにしても犯人の目的がかなり根深くて、うっか
り見逃すと訳が判らなくなりそうだ。公開は6月1日より、
東京はヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シ
ネマ他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二