井口健二のOn the Production
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2019年03月24日(日) がんと生きる 言葉の処方箋(エリカ38、最果てリストランテ、僕たちのラストS、ギターはもう聞こえない/救いの接吻、スノー・ロワイヤル)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『がんと生きる 言葉の処方箋』
順天堂大学医学部・樋野興夫教授が提唱する「がん哲学外来
(Cancer Philosophy Clinic)」と、それに呼応して全国で開
催されている「メディカル・カフェ(Medical Cafe)」につい
て描いたドキュメンタリー。
人の病気である「がん」と「哲学」がどう繋がるのか、映画
の観始めでは少し戸惑いを感じたが、結局「哲学とは人の生
き方を考える」ものであり、「がんになった自分がどう生き
るか」を考えることだと理解した。
そこで樋野教授の「がん哲学外来」では、「言葉の処方箋」
と称する様々な言葉の中から、患者の悩みに沿うような言葉
を投げかけ、それによって患者自らが生きる道を見出すよう
な導きを行う。
それはある種の宗教のようにも見えるが、そこに神の介在は
なく、全てが人間の行動として成されるものになっている。
つまりこれは科学であり、技術として語ることのできるもの
だ。そんな「がん哲学外来」の実像が描かれる。
そしてそんな「がん哲学外来」によって生きる道を見出した
患者が、今度はその考えを広める「メディカル・カフェ」を
開催する。そこでは患者同士が語り合うことで、それぞれの
患者が生きる道を見出す仕組みが出来上がっている。
実際にこの仕組みによって、余命を告げられた患者がそれ以
上に生き長らえてもいるようだが、そこでは「余命というの
は確率だから、それ以上に生きても不思議はない」ともされ
ているものだ。
すなわち一方では余命通りに死ぬ患者もいるが、その中で生
きる道を見出すことで、患者自らの努力も含めて生き長らえ
る道が開かれる。そんな「がんと共に生きる」道筋の描かれ
た作品になっている。
同種の作品では、先に2018年12月23日題名紹介『がんになる
前に知っておくこと』を掲載しているが、その作品では病気
を商売にしているあざとさのようなものも感じられ、病気に
対する思いが感じられなかった。
それに対して本作では「がん」に対峙する本気が感じられ、
それは登場する「カフェ」を運営する患者の思いとも重なっ
て、すがすがしくも感じられた。それが「がんも病気も単な
る個性である」とする樋野教授の言葉に繋がる。
なお映画の中では、さらに多くの「言葉の処方箋」も紹介さ
れている。それらの中には患者だけでなく、患者の遺族に向
けられた言葉も含まれる。それによって遺族も前向きに生き
て行けるものだ。
ただ僕は映画を観ていて、この理論が「がん」だけでなく、
他の難病にも通じるのではないかとも考えた。「がん」以外
にも様々な症状に苦しむ難病患者は存在しており、そんな患
者にもこの理論を広めて欲しいとも思ったものだ。

監督は2008年『マリアのへそ』などの野澤和之。自ら大腸が
んを克服しての渾身の作品だそうだ。
公開は5月3日より、東京では新宿武蔵野館にてモーニング
ショウ。上映期間中は樋野教授や監督、出演者によるトーク
ショウなどいろいろなイヴェントも予定されている。
より多くの人に観て貰いたい作品だ。

この週は他に
『エリカ38』
(2018年9月に他界した樹木希林が生前、自身初となる企画
を手掛けた作品。共に芸能界を歩んできた浅田美代子を主演
に迎え、60歳を過ぎても38歳と見紛う色香で男を騙し、最後
は異国の地で逮捕された女詐欺師の姿を、実話を基に描く。
エリカと名告るその女は、自称外交官という男の指示の許、
支援事業説明会と称して人を募り、架空の投資話で大金を集
めていた。ところが男に別の女が発覚、男と別れた彼女は自
ら詐欺を画策するが…。共演は平岳大、窪塚俊介。他に山崎
静代、小籔千豊、菜葉菜。さらに小松政夫、古谷一行、木内
みどり。そして樹木希林らが脇を固めている。脚本と監督は
2016年7月10日題名紹介『健さん』などの日比遊一が担当し
た。樹木は以前から女詐欺師的な事件がある度に、浅田には
このような役をやればいいと話していたそうだ。そんな樹木
からの最後の贈り物と言える作品だ。公開は6月7日より、
東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国ロードショウ。)

『最果てリストランテ』
(2018年4月に初演されたフォトシネマ朗読劇と称される舞
台劇を映画化した作品。そこはこの世からあの世に向かう死
者が立ち寄るレストラン。そこでは食事のメニューは選べな
いが、食事の相手として先に死んだ人を1人だけ呼ぶことが
できる。そして思い出話に花を咲かせ、満足した気持ちであ
の世に旅立つのだが…。その店を仕切るギャルソンとシェフ
の2人には現世の記憶がなく、2人は永久にそこを離れられ
ないのかもしれなかった。そんな2人と客たちとの交流が描
かれる。出演は2010年8月紹介『アブラクサスの祭』などの
村井良太と、K-POPグループ MYNAMEのジュンQ。さらに客役
で真宮葉月、鈴木貴之、今野杏南、芳本美代子、堀田眞三、
山口いづみらが登場する。脚本と監督は、舞台版も手掛ける
2012年9月紹介『パーティは♨銭湯からはじまる』などの松
田圭太。心温まる物語が展開される。公開は5月18日より、
東京は池袋シネマ・ロサ他で全国順次ロードショウ。)

『僕たちのラストステージ』“Stan & Ollie”
(日本では「極楽コンビ」の名称で親しまれたお笑いコンビ
の晩年を綴ったドラマ作品。チャップリンやキートンが独立
して成功を収める一方でローレルとハーディのコンビは契約
に縛られ、気に入らない作品も薄給で作り続けていた。しか
し遂に契約を解消したローレルはイギリスの映画会社で長編
を企画。その準備にコンビでイギリス巡業をスタートさせる
が…。苦難と諍いもあるが充実した最後の日々が描かれる。
出演は2018年12月2日題名紹介『ノーザン・ソウル』などの
スティーヴ・クーガンと、2017年2月紹介『キングコング』
などのジョン・C・ライリー。監督は2013年9月紹介『フィ
ルス』などのジョン・S・ベアードが担当した。コンビの映
画は僕が子供の頃にはよくテレビで放送されていた。その記
憶からも本作では主演の2人が驚くほど似せている。そこに
ステージの再現は最高のものだった。公開は4月19日より、
東京は新宿ピカデリー他で全国順次ロードショウ。)

『救いの接吻』“Les baisers de secours”
『ギターはもう聞こえない』
             “J'entends plus la guitare”
(2016年11月13日題名紹介『パリ、恋人たちの影』など、今
も精力的に作品を発表しているフィリップ・ガレル監督によ
る1989年と1991年の作品。前者は当時の妻だったブリジット
・シィを主演に父親のモーリス・ガレル、息子のルイ・ガレ
ル、それに監督自身も登場する極めて私的な作品。監督が妻
を題材とする映画に別の女優の起用を決めたことから、2人
に諍いが生じる。対する後者は元妻ニコの突然の死を知った
監督が、愛おしくも残酷な2人の日々を綴る作品。ドラッグ
に溺れるカップルの暮らしと別れ、そして残酷な結末。主人
公の監督役を1993年『トリコロール/青の愛』などを遺し、
1994年に急逝したブノア・レジャンが演じる。2016年の作品
も含めていずれも自身を曝け出すような内容だが、特に後者
はその真骨頂とされる作品のようだ。公開は4月27日より、
東京は恵比寿の東京都写真美術館ホール他で全国順次ロード
ショウ。)

『スノー・ロワイヤル』“Cold Pursuit”
(ノルウェーの鬼才と呼ばれるハンス・ペテル・モランド監
督が2014年にステラン・スカルスガルド主演で発表した自作
を、リーアム・ニースンを主演に迎えてセルフリメイクした
アクション映画。主人公は豪雪に閉ざされる辺境の町で都会
との動脈となる道路の除雪を続け模範市民に選ばれた男性。
ところが息子が薬物の過剰摂取による遺体で発見され、その
死に疑問を持った男は町に蔓延る麻薬組織の1人1人を抹殺
して行く。そこに組織の大ボスや居留地に暮らす先住民、今
まで出番のなかった町の警察も加わり、てんやわんやの事件
が展開する。共演は2013年12月紹介『ダ・ヴィンチ・デーモ
ン』でメディチ家当主を演じていたトム・ベイトマン。他に
カナダの居留地生まれのトム・ジャクスン。さらにエミー・
ロッサム、ジュリア・ジョーンズ、ローラ・ダーンらが脇を
固めている。描かれる事件は陰惨だが、結構笑える映画にも
なっている。公開は6月7日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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