井口健二のOn the Production
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2019年03月10日(日) セブンガールズ(ある闘いの記述、ずぶぬれて犬ころ、コレット、神と共に 第一章:罪と罰、殺人鬼を飼う女、轢き逃げ、グリーンB記者会見)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『セブンガールズ』
元ジャニーズ事務所に所属のダンサーだったというデビッド
宮原が1998年に旗揚げした劇団前方公演墳で、2004年の初演
後、4度の再演も行っているという人気演劇を、宮原自身の
脚本・監督により映像化した作品。
物語の舞台は戦後間もない東京の赤線地帯。焼け跡に建つ、
嵐が来れば飛んでしまいそうなバラック小屋では、娼婦たち
が貧しいながらも心の通った共同生活を送っていた。当時も
彼女たちの仕事は周囲から蔑まれるものだったが、彼女たち
はそんな逆境の中も力強く生きていたのだ。
そんな彼女たちは客から受け取った金の一部をリーダー格の
娼婦に渡し、その金で共同生活の食料なども求めていたが、
その中から地元の暴力団へのみかじめ料なども払っていた。
ところが彼女たちの小屋に、関西系の別の暴力団の構成員が
近づいてくる。
一方、その他の常連客の中には、学生や元軍隊の上等兵や、
さらに娼婦に会いに来ても身体に触れようともせず、金だけ
を置いて帰る役人などもいたが…。彼女たちの健康を気遣う
町医者や女性運動家なども絡む中、暴力団の抗争が激しくな
り、彼女たちの生活が翻弄されて行く。

出演は舞台にもキャスティングされた、坂崎愛、堀川果奈、
安達花穂、河原幸子、藤井直子、斉藤和希、樋口真衣、広田
あきほ、斉藤みかん、上田奈々。他に小野寺隆一、中野圭、
安藤聖、織田稚成、津田恭佑、西本涼太郎、新地秀毅、仲田
敬治、勝俣美秋らが脇を固めている。
このキャスティングはほぼ演劇人で占められており、つまり
この作品は、舞台の配役もそのままに映像化されたもののよ
うだ。
映画は、その開幕から見るからに舞台演劇という感じの台詞
回しや演技が登場し、それには違和感になる部分もある。し
かしそれが、逆に本作が舞台そのままの映像化という感覚も
もたらしてくれる。ここは観る側の嗜好にもよるが、僕には
好ましく感じられた。
そして描かれる内容は、とにかく優しさに溢れたもので、涙
あり笑いありの物語が、宮原作詞、吉田トオル作曲の主題歌
「星がいっぱいでも」と共に心地よく展開されて行く。それ
は厳しい状況の中で逞しく生きて行く女性たちの姿であり、
現代の女性にも共感されるであろうものだ。
その場所はユートピアであり、ファンタシーに近い感覚もあ
るが、全体的にはリアルに彼女たちの姿が描かれている。苦
しい生活の中でも夢を失わない女性たちの力強い物語だ。

公開は、東京では新宿K's cinemaなどの他、名古屋、大阪で
もすでに行われたものだが、今回はさらに5月18日より横浜
ジャックアンドベティでの1週間限定のロードショウが予定
されている。素敵な作品なので、この他の地方でも観る機会
を作って欲しいものだ。

この週は他に
『ある闘いの記述』“Description d'un combat”
(2019年2月17日題名紹介『シベリアからの手紙』などと共
に、4月6日〜19日に東京は渋谷ユーロスペースにて開催の
「クリス・マルケル特集2019<永遠の記憶>」で上映される
1960年発表のドキュメンタリー。当時は建国12周年を迎えて
いたイスラエルを題材に、これもまた映像詩のような趣もあ
る作品になっている。ただし建国の経緯などに対してはいろ
いろ語りも入るが、パレスチナの問題に関してはまだ認識が
不足かな。その一方でキブツに関してはある種の思い入れも
感じられる。その辺の錯綜した思いが、後年監督自身が一時
期本作を上映禁止にする事態にもなったようだ。その複雑さ
を現代に再検証する材料としても好適な作品かもしれない。
なお特集では『北京の日曜日』、本作及び『シベリアからの
手紙』『不思議なクミコ』『イヴ・モンタン〜ある長距離歌
手の孤独』『サン・ソレイユ』『A.K.ドキュメント黒澤明』
『レベル5』の全8作品が上映される。)

『ずぶぬれて犬ころ』
(1987年に25歳で没した自由律俳句の俳人住宅顕信の姿を、
2012年4月紹介『モバイルハウスのつくりかた』などの本田
孝義監督が初のドラマで描いた作品。ドキュメンタリーで実
績のある本田監督は俳人の生き様に興味を持ち、当初は自分
の手法で映画化を考えたそうだ。ところが実写の映像がほと
んど残っておらず、インタヴュー映像ばかりは難しい。それ
でも彼の作品に共感する監督は初の劇映画に挑戦することに
なる。それは律義に俳人の姿を追ったものであり、多少の外
連はあるが、それが彼の俳句を浮き彫りにする巧みな作品に
なっている。脚本は2012年のオムニバス『らもトリップ』内
『仔羊ドリー』などの山口文子。出演は2018年11月18日題名
紹介『赤い雪』などの木口健太、地元岡山出身の森安奏太。
他に仁科貴、2018年9月紹介『BD−明智探偵事務所−』な
どの八木景子、さらに田中美里。公開は5月下旬より、東京
は渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『コレット』“Colette”
(20世紀初頭のフランスで活躍した女流作家の姿を、キーラ
・ナイトレイの主演で映画化した作品。シドニー=ガブリエ
ル・コレットはフランスの田舎町で生まれ育ったが、14歳年
上の作家と出会ったことから人生が変わり始める。やがて彼
と結婚してパリに暮らすようになったコレットは社交界にデ
ビューする一方で、夫のゴーストライターにもなる。そして
彼女の書いた半自伝の小説は夫の名義で出版され、ベストセ
ラーになるが…。その頃、パーティで男装の貴族と出会った
彼女は自己に目覚めて行く。共演はドミニク・ウェスト、デ
ニース・ゴフ。脚本と監督は2014年『アリスのままで』など
のウォッシュ・ウェストモアランド。共同脚本は彼のパート
ナーだったリチャード・グラッツァーと、2013年『イーダ』
などのレベッカ・レンキェヴィッチ。映画化までのmakingに
もドラマがある。公開は5月17日より、東京はTOHOシネマズ
シャンテ他で全国ロードショウ。)

『神と共に 第一章:罪と罰』“신과함께-죄와 벌”
(人の死後はどうなるか? その世界を描いた韓国映画。設
定によると人は死後の49日の間、冥界を彷徨いながら殺人や
怠惰、嘘など9つの罪がそれぞれの地獄で裁かれる。そして
主人公は火災現場で殉職した消防士。生前の行いから稀にみ
る「貴人」として地獄にやってきたが…。3人の弁護人と共
に、彼の生前の行いが検証されて行く。出演は、2012年3月
紹介『ハロー!?ゴースト』などのチャ・テヒョンと、2018年
7月『1987』などのハ・ジョンウ、2009年1月紹介『アンテ
ィーク』などのチュ・ジフン、2013年4月紹介『私のオオカ
ミ少年』などのキム・ヒャンギ。地獄巡りは日本の映画でも
あるが、血の池や針の山などとは様変わりのもの。でも閻魔
大王はいてかなり複雑な物語が展開される。実は本作は2部
作の第1部で、話には釈然としない部分も残る。第2部を観
てから改めて紹介することにしたい。本作の公開は5月24日
より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)

『殺人鬼を飼う女』
(2005年1月紹介『最後の晩餐』などの大石圭の原作を、J
ホラーの旗手とも呼べる中田秀夫監督で映画化した作品。主
人公は幼児期に義父から受けた性的虐待により複数の人格を
持つようになった女性。普段はビストロで働く美しいギャル
ソンだが…。そんな彼女がアパートの隣室の住人が憧れの人
気作家だと知り、彼に恋心を抱いたことから他の人格が蠢き
だす。出演は飛鳥凛、大島正華、松山愛里、中谷仁美。他に
水橋研二、根岸季衣らが脇を固めている。映画は1人の主人
公を4人の女優で演じることが味噌のようで、それはそれな
りに効果のある演出になっていた。ただし映画は映倫区分が
R18+指定となるもので、かなり濃厚な性愛シーンが演じられ
る。それは監督自身が追及したいとしているポイントでもあ
るようだが、さすがにここまで濃厚だとこれでいいのかとも
思ってしまった。公開は4月12日より、東京はテアトル新宿
他で全国順次ロードショウ。)

『轢き逃げ−最高の最悪な日−』
(2017年2月19日題名紹介『TAP THE LAST SHOW』の水谷豊
が自らの脚本を映画化した監督第2作。物語は結婚式の打ち
合わせに遅刻しそうな主人公が、選んだ抜け道で人身事故を
起こすことから始まる。しかし人気のない裏道では目撃者は
なく、思わずそこから走り去ってしまうが…。悪質な轢き逃
げ事件と報道される中でも目撃者の情報はなく、結婚式の準
備を進めていた主人公に謎の脅迫状が届く。出演はオーディ
ションで選ばれた2008年10月紹介『天使のいた屋上』などの
中山麻聖と2004年12月紹介『カナリア』などの石田法嗣。他
に小林涼子、毎熊克哉。さらに檀ふみ、岸部一徳、水谷豊。
物語はオリジナルのようだが実に巧みに創作されたもので、
少し饒舌ではあるが新鮮さは保たれていた。後半の展開は予
測はできたが、力強い演出がそれを支えている感じだ。水谷
監督が次は何を見せてくれるかも楽しみだ。公開は5月10日
より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。

それともう1件。
この週には2018年12月紹介『グリーンブック』のピーター・
ファレリー監督来日記者会見も行われた。この作品で製作も
務めたファレリーは、米アカデミー賞の作品賞と脚本賞も受
賞したものだが、会見での発言によるとコメディ志向は消え
ていないとのこと。今後も奇抜なコメディは観られそうだ。
僕はファレリー兄弟の作品では、2004年11月紹介『ふたりに
クギづけ』が一番好きだが、次にはこのような奇想天外なコ
メディも期待したい。
因にこの記者会見では、監督に向かって発してはいけないい
くつかのNGワードも事前に注意されたが、人種差別を描く
ことの難しさを改めて認識させられた。その中には意外な用
語もあって、帰宅してネットで調べて納得するなど勉強にも
なったものだ。日本映画でも最近禁止用語が指摘されて宣伝
が難しくなった作品があるようだが、言葉を発することを生
業としている者としてはいろいろと考えてしまうところでも
あった。


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井口健二