井口健二のOn the Production
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2019年03月03日(日) センターライン、レプリカズ、ホモソーシャルD(マルリナ、バースデー・W、レゴムービー2、山懐に抱かれて、WE ARE LITTLE Z、リトル・F)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『センターライン』
愛知県出身、1987年生まれ。大学在学中に学内での映画制作
に参加。情報系の修士課程を修了後はソフトウェア技術者と
して企業で製品開発をしながら脚本を勉強。現在は仕事の傍
らインディペンデントの映画制作をしているという下向拓生
監督が、自らの脚本を映画化したSF色の濃い作品。
主人公は新任の検察官。本当は刑事部が希望だったが、配属
されたのは窓際の交通部。実は物語の時代背景は平成39年、
AIによる自動運転が一般の交通事情では、事故などの交通
系の事件はほぼ皆無だったのだ。
一方、AIに一定の人格を認める法律が制定され、AIを法
律で裁くことも可能になっている。しかしAIに罰を与える
ことは困難であり、幾つか発生した事案でも起訴猶予として
裁判には至っていなかった。
そこで主人公は、AI関連の事案で事件性を立証できれば、
それを実績として刑事部への転属が可能になると考える。そ
して一つの交通事故を取り上げ、ナヴィゲーションのAIを
相手に尋問を開始するが…。
AIの意識を人間の裁判で裁く。近い将来に日本も直面する
かもしれない、近未来の現実(?)が描かれる。

出演は主に舞台で活動している吉見茉莉奈。2018年10月紹介
『かぞくわり』などの星能豊。その他に舞台俳優の倉橋健。
2018年6月24日題名紹介『寝ても覚めても』などの望月めい
り。下向監督の前作にも関った上山輝らが脇を固めている。
下向監督は前作『N.O.A.』もスマホの秘書機能アプリが
暴走するというSF的な話だったようで、その作品
で「福岡
インディペンデント映画祭2016」優秀作品賞など内外の映画
祭の受賞を果たしている。
そして本作では「福岡インディペンデント映画祭2018」グラ
ンプリに輝いたものだ。
自動車の自動運転システムが係るSFでは、アイザック・ア
シモフの『サリーはわが恋人』なども思い浮かぶものだが、
本作ではそこに至る謎解きなどにも巧みな展開があり、SF
と推理の両面が楽しめる作品になっている。
しかもその結末にSFならではの哀感を漂わせたのは、SF
ファンとして賞賛を贈りたいところだ。このシーンを観たこ
とで、監督はSFをちゃんと理解しているなと納得すること
もできた。
またAIの動作などには、ユーモアと過去のSF作品へのオ
マージュのようなものも感じられた。これもSFファンには
嬉しいところだった。

最近の日本映画では、SFとして納得できるものも増えてい
るが、さらに本作ではSFならではと言える展開もあって、
増々期待が盛り上がってきたものだ。
公開は4月6日から映画の舞台となった愛知県での先行上映
の後、東京では4月20日より、池袋シネマ・ロサにてロード
ショウとなる。さらに全国でも観て貰いたい作品だ。

『レプリカズ』“Replicas”
キアヌ・リーヴスが禁断の技術に挑む科学者に扮して、近未
来に起こりうるドラマを描いた作品。
物語の舞台は、米国自治連邦区プエルトリコに建つ研究所。
そこで主人公は妻と3人の子供と共に優雅に暮らしながらあ
る研究に没頭していた。それは死亡した人間の頭脳から記憶
を取り出し、それをロボットに移植するというもの。
その研究はラットや猿のレヴェルでは成功していたのだが。
人間では移植までは成功しているものの、覚醒した脳は激し
い拒否反応を示して暴走するなど、完成の目前で足踏み状態
が続いていた。
そして私企業体であるらしい研究所の所長からは、次の実験
で成功しなければ研究の資金を打ち切るという通告もされて
しまう。
そんな折、家族と共に気晴らしのクルージングに出かけよう
とした主人公らは、突然の嵐に巻き込まれて車が横転。主人
公以外の家族が死亡してしまう。そこで主人公は思わず死亡
した妻と子供たちの脳の記憶を取り出すが…。

共演は2018年6月紹介『500ページの夢の束』などのアリス
・イヴ。2019年“Godzilla: King of the Monsters”にも出
ているトーマス・ミドルディッチ。2017年2月紹介『キング
コング髑髏島の巨神』などのジョン・オーティス。
脚本は2016年『エンド・オブ・キングダム』(2013年4月紹
介『エンド・オブ・ホワイトハウス』の続編)などのチャド
・セント・ジョン。物語は、製作も務めている2017年2月紹
介『パッセンジャー』などの製作者スティーヴン・ハーメル
の原案に基づくようだ。
監督は2004年『デイ・アフター・トゥモロー』の脚本などで
知られるジェフリー・ナックマノフが担当している。
実は主人公のいる場所が軍事研究の研究所であり、並行して
別の研究も行われているのだが、突然その展開になったのに
は少し唖然とした。その辺の伏線がちょっと説明不足かな。
でも全体はしっかりと描かれたSFになっている。
その他にも細かい描写がいろいろ説明不足な感じもするが、
この辺は脚本にはあったが、上映時間との関係で切られてし
まったのかもしれない。まあSFファンなら大体判る程度の
ことではあるが…。
でもこんなことを書くと、またSFは面倒臭いということに
なるのかな? ただ最初に書いた別の研究は国際条約上でも
問題になるものだから、極秘研究になることは間違いない。
その点も含めた伏線として描いて欲しかったところだ。
因に映画の中で、頭脳への電極の差し込みを眼窩から行うの
は、2011年4月紹介『エンジェル・ウォーズ』などでも描か
れたロボトミー手術の手法に沿ったもので、これには納得で
きたものだ。
一方、映画の中では主人公の名前がウィリアムとビルとで使
い分けられていて、それに気づいていると結末の本当の意味
が判る仕組みになっている。この辺はニヤリとした。

公開は5月17日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。

『ホモソーシャルダンス』
2018年10月紹介『かぞくわり』のVFXなどを担当する一方
で、2017年制作『老ナルキソス』という短編作品が国内外の
映画祭などで高い評価を受けている東海林毅監督の最新作。
物語は2つの場面で構成され、その一方は高校(?)の校内。
そこでは1人の女子生徒の周囲に男子生徒によるグループが
形成されており、グループの外から女子生徒を見初めた主人
公が自分の思いを彼女に伝えようとするが…。
そしてそれと同じ展開が、床に白線で円の引かれた舞台での
コンテンポラリーダンスとしても表現される。そこでは2つ
の大きな球をぶら下げた男根を想起させる男性のダンサーた
ちが、1人の女性ダンサーを囲んで踊っており…。
このドラマ編とダンス編の場面が交互にスクリーンに登場し
て、男性社会における女性の立場や女性の存在の意味のよう
なものが問われてゆく。そしてそこにおける男性の存在の意
味なども問い返される。
上映後の監督の発言によると、作品はミソジニーという言葉
にインスパイアされたということで、過去に女性の側からは
ウーマンリブなど何度も女性の立場に関する問題提起がなさ
れたが、男性側はそれを無視し続けてきた。
それをこの作品の中で表現したかったということのようだ。
それは作品に見事に描かれたと感じられるもので、上映時間
は11分の作品だが、正しくストレートにそのメッセージは伝
わってきた。
因に題意は「ホモのソーシャルダンス」ではなく「ホモソー
シャルのダンス」。実際に踊られているのも社交ダンスでは
ない。そしてこのコンテンポラリーダンスがファンタスティ
ックかつ明確にメッセージを伝えているものだ。

出演は新宅一平、鈴木春香。他に内田悠一、楊煉、ゼガ、ク
リス・ダーバル、皆木正純、吉澤慎吾。各人の経歴等は未詳
だが、試写会に訪れていた主演の新宅は大阪出身のコンテン
ポラリーダンサーとのことだ。
公開は3月30日より、東京は池袋のシネマ・ロサにて一週間
限定のレイトショウとなる。
なお今回の上映では、同じく東海林毅監督の作品で、上記の
『老ナルキソス』(ゲイでナルシストの老絵本画家と若い男
娼とのラヴストーリー)

『ピンぼけシティライツ』(何故か呪われているらしい落ち
ぶれたカメラマンと水着の女性幽霊の物語)

『23:60』(ゲームの中でのアバター同士の会話劇。プ
レーヤーがいなくなった世界の情景が描かれる)
の3作品が
併映される。
上映される4本はいずれもファンタスティックな雰囲気のあ
るものでそれぞれ興味深かったが、併映の3作品は少しマニ
アックかな? それに比べると今回の作品は一皮剥けている
感じもする。
特に併映で紹介した最後の作品に関しては、単なる寂寥感に
終わらせず、ログオフしたプレーヤーが再び戻ってくるとこ
ろまで描けば、よりテーマが明確になったのではないかとも
思った。


この週は他に
『マルリナの明日』
       “Marlina si Pembunuh dalam Empat Babak”
(2017年「東京フィルメックス」で最優秀作品賞を受賞した
インドネシア作品。自動車や携帯電話もあるが、西部劇を髣
髴させる背景の中で、夫の死後に強盗団に襲われた女性の壮
絶な復讐劇が展開される。主人公は一味の食事に毒を盛り、
身の潔白の証に自分を強姦した首領の首を警察に届けようと
するが…。その旅程で出会う人々や後を追う残党の様子など
も絡めて、ロードムーヴィ風の物語が展開される。監督は本
作が3作目の女性監督モーリー・スリヤ。出演は2014年『ザ
・レイドGOKUDO』などのマーシャ・ティモシーと、新人のパ
ネンドラ・ララサティ。他に2015年の東京国際映画祭で上映
『民族の師 チョクロアミノト』などのエギ・フェドリー。
部屋の隅に置かれた亡夫のミイラなどの尋常でない造形と、
歩いてきた男の首を一撃で断ち落とすなどの見事なVFXが
巧みに融合された作品だ。公開は5月中旬より、東京は渋谷
ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『バースデー・ワンダーランド』
(2013年5月紹介『はじまりのみち』では実写作品にも挑戦
したアニメーション監督の原恵一が、『千と千尋の神隠し』
の基になったとされる「霧のむこうのふしぎな町」の作者・
柏葉幸子の原作「地下室からの不思議な旅」をアニメ化した
作品。誕生日の前日、母の指示で自分へのプレゼントを取り
に叔母の家に向った主人公は、突然地下室から現れた錬金術
師を名告る男に異世界へと連れて行かれる。そこでは過去に
主人公に似た少女が世界を救ったという言い伝えが残されて
いたが…。声優は松岡茉優、杏、麻生久美子、市村正親と、
人気声優の東山奈央。他に『クレヨンしんちゃん』の藤原啓
治、矢島晶子らが脇を固めている。ジャンルは異世界ファン
タシーとなるもので、その異世界の設定などには自由度が高
いはずだが、本作の場合はユニークではあるが比較的オーソ
ドックスな背景づくりで、それには観ていて落ち着くものが
あった。公開は4月26日より、全国ロードショウ。)

『レゴ®ムービー2』
         “The Lego Movie 2: The Second Part”
(2014年2月紹介『LEGOムービー』の第2作。前作では「お
しごと大王」に立ち向かった平凡キャラのエメットが、今回
は「わがまま女王」による破滅から世界を救う。敵役の名称
から物語の展開は予想がついてしまうが、今回は前作にも増
したディザスターの様子がレゴで克明に描写される。そして
実写シーンに登場するジオラマも見事な景観を描いていた。
脚本は、前作の脚本と監督を務めたフィル・ロードとクリス
トファー・ミラー。監督には2010年『シュレック フォーエ
バー』などのマイク・ミッチェルが起用されている。声優は
前作に引き続いてのクリス・プラット、エリザベス・バンク
ス、ウィル・アーネットと、2018年9月16日題名紹介『アン
クル・ドリュー』などのティファニー・ハディッシュ。他に
マーヤ・ルドルフ、ウィル・フェレル、ブルース・ウィリス
らも登場する。公開は3月29日より、東京は新宿ピカデリー
他で全国ロードショウ。)

『WE ARE LITTLE ZOMBIES』
(2017年のサンダンス映画祭(短編映画部門)で日本映画初
のグランプリに輝いた長久允監督による長編デビュー作で、
2019年同映画祭で日本人初の審査員特別賞を受賞した作品。
共に両親を不慮の死で亡くした4人の子供たちが、自分たち
はすでに死んでいるゾンビだから何をしてもかまわないとい
う発想でバンドを結成。それがネットからメジャーデビュー
までに至るが…。出演は二宮慶多、水野哲志、奥村門土、中
島セナ。その脇を佐々木蔵之介、工藤夕貴、池松壮亮、初音
映莉子、村上淳、西田尚美、佐野史郎、菊地凛子、永瀬正敏
ら錚々たる顔ぶれが固めている。作品はいろいろな要素の詰
まったごった煮のような構成で、これならサンダンス映画祭
には好適と言えそうな作品だ。なお本作はベルリン国際映画
祭のジェネレーション(14plus)部門にも出品され、ティーン
の審査員団から特別表彰を受けた。公開は6月に全国ロード
ショウ。)

それと前回掲載を割愛した
『リトル・フォレスト 春夏秋冬』“리틀 포레스트”
(2014年、15年に2部作で公開された橋本愛主演作品の韓国
版リメイク。日本版では111分+120分で描かれた四季を巡る
物語が、今回は103分で表現されている。実は日本版も観て
いたが、試写も約半年の間隔で行われて、その間に物語が判
らなくなり、紹介を割愛した。従って今回初めて主人公の心
の動きなどが理解できたもので、それは若い人にはありがち
な素直な心情だった。出演は2018年7月紹介『1987』などの
キム・テリと、2018年3月11日題名紹介『タクシー運転手』
などのリュ・ジュンヨル。他に新人のチン・ギジュとベテラ
ンのムン・ソリ。監督は2010年2月紹介『飛べ、ペンギン』
などのイム・スルレが担当した。1年を掛けた撮影は日本版
も同様だが、それに加えてこの物語は様々な食材の料理が見
どころとなる。それが本作ではすべて韓国料理でその調理の
様子なども面白く、日本版も観直したくなった。公開は5月
17日より、東京はシネマート新宿他で全国ロードショウ。)

を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
なお今週も諸事情により2本ほど後日の掲載とします。


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井口健二