井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2019年02月24日(日) ハンターキラー(Bの戦場、嵐電、僕はイエス様、空母いぶき、作兵衛さん、賭ケグルイ、さよならくちびる、ビル・エヴァンス、ベン・イズB)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ハンターキラー 潜航せよ』“Hunter Killer”
『ワイルド・スピード』シリーズのニール・H・モリッツと
『エクスペンダブルズ』シリーズのジョン・トムプスンとい
うアクション映画の名物プロデューサーが手を組んだ原子力
潜水艦が主な舞台の架空戦記ドラマ。
舞台は北極海、ロシア領コラ半島の沖合でロシア潜水艦を秘
かに追尾していた米海軍の原子力潜水艦が行方不明になる。
その捜索に、国防総省は下士官上がりという異例な経歴の艦
長が率いる攻撃型潜水艦アーカンソーを派遣するが…。
コラ半島のロシア基地にはロシアの大統領が訪問中で、基地
にいたロシア国防相の陰謀が発覚する。その事態に米国防総
省はNavy SEALsを潜入させて陸海からの作戦を展開。しかし
それは米露全面戦争の危険を孕んだものになる。

出演は2013年4月紹介『エンド・オブ・ホワイトハウス』な
どのジェラルド・バトラー。2012年2月紹介『裏切りのサー
カス』などのゲイリー・オールドマン。本作が遺作になった
2009年10月紹介『ミレニアム』などのミカエル・ニクヴィス
ト。
他にグラミー賞歌手で2013年10月紹介『グランド・イリュー
ジョン』などのコモン。2018年12月紹介『グリーンブック』
などのリンダ・カーデリーニ。2002年『007ダイ・アナザ
ー・デイ』などのトビー・スティーヴンスらが脇を固めてい
る。
監督は南ア出身で、過去には短編映画やCM、ミュージック
ヴィデオなどで多くの賞に輝くドノヴァン・マーシュ。本作
は2014年のデビュー作に続く長編監督第2作とのことだ。
原作は元ジャーナリストのドン・キースと、元海軍で原子力
潜水艦の艦長だったというジョージ・ウォーレスの共著によ
る“Firing Point”。
実は今週はもう1本、日本製の架空戦記物も観ているが、何
というか実戦を体験している連中の作るリアリティは半端な
いものに感じる。特にそこに流れる敵味方を超えた人間ドラ
マはシミュレーションゲームとは異なるものだ。
その一方で物語前半の下降シーンでは、本当に床面の傾いた
セットで撮影が行われており、俳優たちの一様に傾いた姿勢
が正にこの通りなのだと思わせてくれる。これで一気に臨場
感の増す思いがした。
さらに海中での救出作戦など、こういうことが現実に行われ
るのだというリアルさが、何とも心を踊らされる作品になっ
ている。まあ物語の展開自体はかなり荒唐無稽ではあるのだ
が。映画的には巧みに描かれた作品だ。

公開は4月12日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。

この週は他に
『Bの戦場』
(フジテレビ所属で多くの人気ドラマを手掛けた並木道子監
督の劇場映画デビュー作。ゆきた志旗原作シリーズ小説を、
お笑いコンビ「ガンバレルーヤ」よしこの主演、吉本興業の
製作で映画化。主人公は自他共に認める絶世のブス。そんな
彼女は「結婚式のお姫様にはなれないけれど、お姫様を作る
魔女にはなれる」という気持ちでウェディング・プランナー
をしていたが…。その職場にイケメンの上司が登場、しかも
彼女に交際を申し込む。その上司は「ブス専」を自称、彼に
とって理想の女性だというのだ。その一方で出入りの生花業
者も彼女に交際を申し込み、想定外の三角関係が発生する。
共演は速水もこみちと、2017年3月12日題名紹介『猫忍』な
どの大野拓朗。他に有村藍里、おのののか、山田真歩らが脇
を固めている。脚本はお笑いユニット「ザ・プラン9」の久
馬歩。物語の緩急も良い作品だ。公開は3月15日より、東京
はユナイテッド・シネマ豊洲他で全国ロードショウ。)

『嵐電』
(京都四条大宮と嵐山を結ぶ京福電気鉄道・嵐山本線を背景
に、旅行作家とその妻、太秦の俳優とケータリングの店員、
それに修学旅行の高校生らで展開される、少しファンタシー
の要素もある作品。描かれるのは帷子ノ辻。本線と北野線の
分岐駅が主な舞台となる。とは言うものの、背景などが関東
の人間には少し判り難いかな。逆に江ノ電との絡みは結末の
音響などで理解できたが…。でもまあそれはそれで観る方が
納得すれば良い話ではある。出演は2018年11月18日題名紹介
『赤い雪』などの井浦新。2018年6月10日題名紹介『きらき
ら眼鏡』に出ていた大西礼芳と金井浩人。脚本と監督は『き
らきら眼鏡』の出演俳優でもある鈴木卓爾が担当した。鈴木
が教鞭も執る京都造形芸術大学映画学科・北白川派の作品。
同派からは以前に『黄金花』『カミハテ商店』などを紹介し
ているが、本作はその第6弾だそうだ。公開は初夏に東京は
テアトル新宿他でロードショウ。)

『僕はイエス様が嫌い』
(主人公が転校した雪深い田舎町の小学校はミッション系で
毎朝の礼拝が決まりだった。そんなルールに最初は戸惑う主
人公だったが、やがてサッカーのうまい友達もできて慣れ始
めたころ、礼拝で目を開けた彼の前に小さなイエス様が現れ
る。その後もイエス様はいろいろなところに現れて、ちょっ
とした奇跡も起こしてくれるが…。脚本、監督、撮影、編集
は短編映画で注目された新鋭奥山大史。彼の長編デビュー作
の本作は、世界各地の映画祭の受賞も果たしている。出演は
子役の佐藤結良、大熊理樹。それに2015年4月紹介『新選組
オブ・ザ・デッド』などのチャド・マレーン。小さなイエス
様などのVFXは良くできていて、話も面白いのだが、全体
として何が言いたいのかよく判らない。特に後半の展開は、
これでない方が監督の考えを明確にできたと思うのだが。映
画を見た目で語りたいタイプの人なのかな? 公開は初夏に
東京はTOHOシネマズ日比谷他で全国順次ロードショウ。)

『空母いぶき』
(かわぐちかいじ原作コミックスの映画化で、今回表題の作
品と同様の架空戦記ドラマ。自衛隊初の航空母艦いぶき率い
る護衛艦群が、日本最南端の島を占拠した国籍不明の軍隊と
対峙する。原作は尖閣列島、中国という設定のようだが、映
画化ではいろいろ配慮されている。そこに好戦的な防衛相が
いる辺りは表題作も同じだが、さらに外交交渉を絡める点は
本作の方が現実的かな。ただ端々の局面の描写では表題作の
方にリアルさを感じる。その辺が微妙なところだ。因に本作
は、かわぐちかいじ原作では初の実写映画化だそうだ。出演
は西島秀俊、佐々木蔵之介。他に本田翼、小倉久寛、高嶋政
宏、玉木宏、戸次重幸、市原隼人。さらに藤竜也、村上淳、
佐藤浩市、中井貴一、斉藤由貴らが脇を固めている。監督は
2009年『沈まぬ太陽』などの若松節朗。なお脚本には『亡国
のイージス』などの作家の福井晴敏が企画で参加している。
公開は5月24日より、全国ロードショウ。)

『作兵衛さんと日本を掘る』
(2011年にユネスコ記憶遺産に認定された「炭鉱記録画」の
作者・山本作兵衛を描いたドキュメンタリー。1892年福岡県
生まれの山本は1906年に炭鉱夫となり、以来筑豊地区の幾多
の炭鉱を転々とし、様々な苦楽を炭鉱の人々と共に過ごして
きた。そんな山本が63歳で炭鉱の警備員に転職したことから
往時の生活を伝えようと絵を描き始める。そして92歳で亡く
なるまでに2000枚近い記録画を描いたとされる。そんな絵描
きの経歴とそれに並行する筑豊炭田の歴史が、山本が残した
記録画と何冊もの日記、さらに多くの証言と共に語られる。
「炭鉱記録画」自体は、他の筑豊炭田の歴史を描いたドキュ
メンタリーでも取り上げられていたが、その作者自身を描い
た作品は初めてのようだ。そこには炭鉱に暮らした庶民の姿
も見えてくる。監督はテレビドキュメンタリーなどを多数手
掛ける熊谷博子。公開は5月25日より、東京はポレポレ東中
野他で全国順次ロードショウ。)

『賭ケグルイ』
(累計発行部数500万部を超えるという河本ほむら原作コミ
ックスの実写映画化。すでにMBS・TBS系列でのテレビ化もあ
る物語が、主なキャストも引き継いで劇場に登場する。校内
の序列がギャンブルで決定されるという学園を舞台に、転校
してきたギャンブル狂の少女が頭角を現し、生徒会と対決。
そこにはギャンブルに反対する勢力も存在するが…。この物
語に浜辺美波、高杉真宙、福原遥、伊藤万理華、池田エライ
ザ、中村ゆりか、森川葵らのキャストが揃う。監督は2018年
8月5日題名紹介『3D彼女』などの英勉。ギャンブル依存
症が問題になっている時代に何ともはやという感じではある
が、行われるギャンブルはいずれもオリジナルなようで、い
わゆる賭博ではないのが見識かな。さらに映画の展開ではギ
ャンブルだけでなく、アクションもそれなりに披露されて緩
急が付けられている。公開は5月3日より、東京はTOHOシネ
マズ日比谷他で全国ロードショウ。)

『さよならくちびる』
(2018年12月23日題名紹介『サムライ・マラソン』などの小
松菜奈と、同日紹介『チワワちゃん』などの門脇麦のW主演
で、人気ミュージシャンの秦基博、あいみょんの楽曲が全編
を彩る音楽ロードムーヴィ。2人は職場で知り合い、デュオ
を組んで路上で歌い始める。そんな2人をサポートするのは
昔は人気バンドにいたという『チワワちゃん』などの成田凌
扮するローディ兼マネージャの男だったが…。3人の関係が
微妙になって行き、ついに最後のツアーが始まってしまう。
原案・脚本・監督は2004年12月紹介『カナリア』などの塩田
明彦。主演の2人は自らギターを弾いて歌っているようで、
特にあいみょんの楽曲が若い女性の心を掴みそうだ。そして
2人の気持ちを歌に込める秦基博プロデュースの主題歌が、
見事に映画を締めくくる。少し掟破りな感じもするが、その
無理を押し込める演出も見事だった。公開は5月31日より、
全国ロードショウ。)

『ビル・エヴァンス タイム・リメンバード』
            “Bill Evans/Time Remembered”
(1980年に51歳で他界したジャズピアニストの生涯を追った
ドキュメンタリー。アメリカ東部の身分を持つ家に生まれ、
幼い頃から兄と共に音楽を学び、10代でジャズを聴いてアマ
チュアバンドでの演奏も開始する。1950年に大学を卒業した
翌年から兵役で朝鮮戦争に従軍するが、陸軍バンドでの演奏
活動で前線には出なかった。しかし兵役中に生涯の悪癖とな
る麻薬に染まってしまう。そして1954年に退役、ジャズの中
心地ニューヨークで伝統、前衛を問わず優秀なピアニストと
して頭角を現して行く。頭を前に倒した独特な演奏スタイル
で多くのミュージシャンと共演、また自ら率いるバンドでは
多くの名曲、名演奏で一世風靡するエヴァンスだが、麻薬の
魔手からは逃れられなかった。直接の死因は薬物とされては
いないが、長年の摂取による影響は明らかなようだ。何度も
同じような作品を見ている気がする。公開は4月27日より、
東京はアップリンク吉祥寺他で全国順次ロードショウ。)

『ベン・イズ・バック』“Ben Is Back”
(ジュリア・ロバーツが、薬物依存症の息子を全力で守ろう
とする母親に扮したヒューマンドラマ。クリスマスの前日に
突然帰ってきた長男。依存症の治療は順調だと語る息子だっ
たが、家族が教会から帰って来ると家が荒らされ、愛犬が消
えていた。それは彼の帰宅を知った組織の仕業だった。脚本
と監督は2004年9月紹介『エイプリルの七面鳥』などのピー
ター・ヘッジス。長男役は監督の実子で2017年11月12日題名
紹介『スリー・ビルボード』などのルーカス・ヘッジズ。他
にキャスリン・ニュートン、コートニー・B・ヴァンスらが
脇を固めている。米国では薬物に係る死亡が死因のトップに
なったとのことで、こういう作品は本当に切実なのだろうと
思う。ただ本作にも毒を以て毒を制すみたいな描写があると
ころは、僕の認識の甘さなのか。胸中に割り切れない感覚は
残ってしまった。公開は5月24日より、東京はTOHOシネマズ
シャンテ他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
また今週は他に2本ほど情報解禁前の作品があり、それらは
後日の掲載とします。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二