井口健二のOn the Production
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2019年02月03日(日) アンフレンデッド:DW、移動都市(僕たちは希望、ビューティフル・B、僕の彼女、アラフォー、ナイトC、笑顔の、イメージの本、ヨーゼフ・B)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『アンフレンデッド:ダークウェブ』
               “Unfriended: Dark Web”
全編がパソコンの画面だけで展開されるホラー作品。本作は
2016年公開作品の続編とされているが、内容的には独立して
おり、前作を未見の僕にも問題はなかった。
主人公は入手した中古のラップトップPCを使ってskypeに
アクセスし、仲間とのゲームに興じようとした若者。ところ
が表示された以前の持ち主と思われるアカウント名を自分の
アカウントに書き換えてアクセスを始めると…。
PC内に盗撮や監禁された女性の姿などおぞましい映像を集
めた隠しファイルが発見され、その直後「俺のPCを返せ、
さもないとお前たちは死ぬ」というメッセージが届く。実は
主人公のPCは街で窃取してきたものだったのだ。
そしてメッセージの主はネット仲間の居所を特定するなど、
徐々に主人公を追い詰め始める。図らずもネット犯罪組織に
関ってしまった、その恐怖に包まれた状況が限定された画面
上だけで描かれて行く。
前作はもっとオカルト寄りの話だったそうだが、本作では正
に現実に起こり得る恐怖を描き尽す。

出演は、スティーヴン・ソダーバーグ監督の新作にも出てい
るコリン・ウッデル、2017年4月紹介『パージ:大統領令』
などのベティ・ガブリエル。
他に後日紹介予定『ドント・ウォーリー』などのレベッカ・
リッテンハウス、今回次に紹介する『移動都市』などのアン
ドリュー・リースらが脇を固めている。
また主人公のガールフレンド役のステファニー・ノゲーラス
は、テレビシリーズ“Grimm”などにも出演する実際に重度
の聴覚障害者の女優だそうだ。

脚本と監督は、2004年『THE JUON/呪怨』、2006年『呪怨パ
ンデミック』などの脚本を務め、本作で監督デビューを飾っ
たスティーヴン・サルコ。本作ではシチュエーションを巧み
に使って恐怖を高める。正に王道のホラーだ。

製作は前作に続けて、2009年12月紹介『パラノーマル・アク
ティビティ』などのジェイスン・ブラムと、2012年8月紹介
『リンカーン/秘密の書』などのティムール・ベクマンベト
フが担当している。
PCの画面だけで展開されるホラー・サスペンスは前例がな
い訳ではないが、本作では正に誰しもがそこに巻き込まれる
可能性がないとは言えない…。そんなリアルな恐怖感に襲わ
れる作品だ。
また本作では、設定上登場人物の顔面のアップばかりが続く
画面になるが。2018年12月紹介『コンジアム』で指摘した周
囲が見えないことの弊害はなく、却ってそれが恐怖を煽る演
出は見事と言えるものになっている。
さらにそこに外景などが挿入される構成も巧みだった。

公開は3月1日より、東京は新宿シネマカリテ他で全国順次
ロードショウとなる。

『移動都市 モータル・エンジン』“Mortal Engines”
イギリスのSF作家フィリップ・リーヴが2001年に発表した
長編デビュー作で、翻訳本が2007年の日本SF大会でファン
選出による星雲賞を受賞した終末未来SFの映画化。
その映画化を『LOTR』のフラン・ウォルシュ、フィリッ
パ・ボウエン、ピーター・ジャクソンの製作、脚本。同作や
2005年『キング・コング』(オスカー受賞)のVFXを手掛け
たクリスチャン・リヴァースの監督デビューで実現した。
物語の背景は、究極兵器の使用により地球のほとんどが60分
間で破壊された未来世界。そこでは移動装置に載った都市国
家が地上を蹂躙し、特に大都市のロンドンは資源を求めて、
採掘を生業とする小都市を食い尽していた。
そんな小都市の1つを飲み込んだ時、その住人の中に1人の
少女が紛れ込む。彼女はロンドンで権力を握る考古学者の男
性の生命を狙っていたが…。その男には野望があり、それは
少女の生い立ちにも関るものだった。

主演は、アイスランド出身で同国のアカデミー賞を2度受賞
しているヘラ・ヒルマー。相手役に2018年1月紹介『ジオス
トーム』などのロバート・シーアン。さらに『LOTR』な
どのヒューゴ・ウィーヴィング。
他にロン・ハワード製作のテレビシリーズ“Mars”で主人公
の双子を演じている、ミュージシャンでもあるジヘ。2016年
11月紹介『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』
などのローナン・ラフテリー。
また俳優ヴィンセント・ドノフリオの娘で本作に抜擢された
レイラ・ジョージ。1999年『007ワールド・イズ・ノット
・イナフ』などのパトリック・マラハイド。2016年11月紹介
『ドント・ブリーズ』などのスティーヴン・ラングらが脇を
固めている。
因に前述のアンドリュー・リースは、Herbert Melliphantと
いう役名で出ていたものだ。
映画は初っ端から、巨大なロンドンが採掘した物資を満載の
小都市を追い回すチェイスシーンで始まり。その都市の中で
振り回されたり、次々に変形する街路を右往左往する人々の
アクションが描かれる。
それは例えば『ハリー・ポッター』の映画の中で階段が動き
回るホグワーツの仕掛けが巨大化し、さらに複雑化したよう
なもので、正にCGI=VFXによる夢のような映像が展開
されている。
しかもそれが、次から次へと息つく暇もないほどに変形して
行く様子が豪華かつ詳細に描かれており、その映像の素晴ら
しさには全く目を見張らされた。これがオスカー候補にもな
らないのは全く解せないところだ。
因にこのロンドンは、前方左右にトラファルガーのライオン
を鎮座させ、上部にはセントポール大聖堂のドーム屋根が設
えられているという、正にニヤリとするデザインで、これを
見るだけで嬉しくなるものだった。
そしてそこから展開される人間ドラマにも納得できたし、さ
らに支配者の目的や、そこに絡まる人間関係などにも感動を
覚えるものがあった。なお原作小説は4部作となっており、
この後の展開も楽しみになる作品だ。

公開は3月1日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。

この週は他に
『僕たちは希望という名の列車に乗った』
           “Das schweigende Klassenzimmer”
(1956年のハンガリー動乱を背景に、ソ連軍に支配された東
ドイツを描いた青春群像劇。高校生の主人公は祖国のために
戦った祖父の墓参と称して列車に乗り、度々西ベルリンを訪
れていた。そんな折に西側の映画館に入った主人公は同胞国
で起きた事件を知る。そして帰国した主人公は同級生の伯父
の家で西側のラジオを聞き、動乱に巻き込まれた若者たちの
運命を思う。それは自分らの気持ちにも通じていた。そんな
彼らの上げた狼煙が大きなうねりになって行くが…。彼らに
厳しい現実が突き付けられる。1961年に始まる「ベルリンの
壁」建設以前の実話に基づく物語。階級を無くしたはずの体
制が新たな階級支配を生む、そんな矛盾した社会構造が強引
な情報操作の中で成立して行く。それは映画の中では共産党
批判に取れるが、現実の今の社会にも通じるものだ。公開は
5月17日より、東京は渋谷Bunkamura ル・シネマ、ヒューマ
ントラストシネマ有楽町他で全国ロードショウ。)

『ビューティフル・ボーイ』“Beautiful Boy”
(2018年1月28日題名紹介『君の名前で僕を呼んで』のティ
モシー・シャラメと2018年4月22日題名紹介『バトル・オブ
・ザ・セクシーズ』のスティーヴ・カレル共演で、ドラッグ
依存症の息子とその父親の葛藤を描いた実話に基づく作品。
父子が独立に発表した回想録を原作に、それぞれの視点から
問題が解き明かされて行く。共演は2008年6月紹介『俺たち
ダンクシューター』などのモーラ・ティアニー、2015年2月
紹介『バードマン』などのエイミー・ライアン、2018年12月
紹介『フロントランナー』などのケイトリン・デヴァーらが
脇を固めている。脚本は2017年2月26日題名紹介『ライオン
25年目のただいま』などのルーク・デイヴィス。監督はベル
ギー出身のフェリクス・ヴァン・ヒュルーニンゲンが担当し
た。薬物依存症の映画はいろいろあったが、ここまで現実的
に描き切ったのは見事な作品だ。公開は4月12日より、東京
はTOHOシネマズシャンテ他で全国ロードショウ。)

『僕の彼女は魔法使い』
(2018年9月23日題名紹介『宇宙の法−黎明編−』に続く、
大川隆法原案、製作総指揮による「幸福の科学出版」製作の
実写作品。物語は魔法使いの女性が高校生の男子を見初める
ところから始まる。それは男子には夢の中の話だったが、そ
の後に彼女が転校生として現れる。しかし事件が起きて彼女
はまた転校してしまう。それから5年が経ち、社会人となっ
た男子は得意先の女性から以前に付き合っていたと告げられ
るが…。出演は、2018年8月19日題名紹介『ごっこ』などの
清水富美加こと千眼美子と、2017年4月2日題名紹介『君の
まなざし』などの梅崎快人、春宮みずき。他に佐伯日菜子、
高杉亘、不破万作らが脇を固めている。監督は、2016年発表
の短編が海外映画祭で受賞している清田英樹。題名からは魔
法を使って主人公の危機を救う的な話を想像したが、時空を
超えるなど物語には意外と捻りがあった。公開は2月22日よ
り、東京はシネマート新宿他で全国ロードショウ。)

『アラフォーの挑戦 アメリカへ』
(2012年11月紹介『二つの祖国で/日系陸軍情報部』などの
すずきじゅんいち監督が、配偶者の女優・榊原るみの連れ子
である松下恵をレポーターにしてアメリカ文化の一端を描い
たドキュメンタリー。実は本来のテーマは題名の通りのもの
であって、40代目前となった女優(独身)の松下が一念発起し
て語学研修のためアメリカに向かうというもの。それに関連
して、米国(西海岸)での家族の状況などが描かれる。その中
には幼い子供のいる若い夫婦やゲイのカップル、また共に配
偶者と死に別れた熟年の男女など、様々な「家族」の形態が
示される。その一方で結婚は遅い方が良いとか、アメリカ的
な考え方も紹介され、それがある意味、レポーターの松下と
同じ状況に置かれた女性へのエールとも捉えられる作品だ。
それは同時に同じ状況の子供を持つ親にも新たな見識をもた
らすであろうものでもあった。公開は4月より、東京は新宿
K's cinema他で全国順次ロードショウ。)

『ナイトクルージング』
(先天性全盲の男性が映画を作る。その過程を描いたドキュ
メンタリー。男性の名前は加藤秀幸。システムエンジニアで
ミュージシャンでもある彼は、幼い頃に母親と一緒に映画館
に行き、小声で話す母親の解説を聞きながら映画を楽しんで
いたそうだ。そして今でも映画館が好きで、最近はバリアフ
リーの上映も増えたのが嬉しいと語る。そんな彼が2013年に
本作と同じ佐々木誠監督のドキュメンタリーに出演し、映画
製作に興味を持つ。そして脚本を書き、その映画化に乗り出
すが…。視覚障碍者との間でイメージの共有を図る目的で、
絵コンテでは筆圧で変形する用紙を用いたり、色をイメージ
するために色相環模型が登場したり、さらには造形の判断の
ために3Dプリンターが活用されたり…。それは視覚障害者
の姿を描くドキュメンタリーであると同時に、僕らに新たな
視点を与えてくれる作品でもあった。公開は3月30日より、
東京はUPLINK渋谷他で全国順次ロードショウ。)

『笑顔の向こうに』
(2018年5月紹介『世界でいちばん長い写真』などの高杉真
宙主演で、義歯や入れ歯を造る歯科技工士の仕事振りを描い
た作品。主人公は、故郷の金沢で父親の仕事を継ぐつもりが
認められず、東京の技工所で働いている。そんな彼は端正な
顔立ちで、納入先の歯科医院の女性衛生士たちからは王子と
呼ばれていたが…。ある日、納入に行った歯科医院で幼馴染
みの女性と再会する。彼女は幼い頃に怖かった歯科医院で優
しかった衛生士に憧れ、その道に進んだのだった。そんな彼
女は新米でドジばかりだったが、ある切っ掛けから互いに助
け合うようになる。共演はホリプロタレントスカウトキャラ
バン2010でグランプリ受賞の安田聖愛。他に木村祐一、池田
鉄洋、佐藤藍子、阿部祐二らが脇を固めている。監督は東映
を退社後にニューヨークでアート制作などに携わってきたと
いう榎本二郎の長編デビュー作のようだ。公開は2月15日よ
り、東京は新宿シネマカリテ他で全国ロードショウ。)

『イメージの本』“Le livre d'image”
(2014年10月紹介『さらば、愛の言葉よ(3D)』などのジャ
ン=リュック・ゴダール監督が、88歳にして2018年のカンヌ
国際映画祭でスペシャル・パルムドールを受賞した最新作。
「静寂に過ぎない。革命の歌に過ぎない。5本指のごとく、
5章からなる物語−。」とされた作品。惹句の通り、第1章
・リメイクに始まる5章からなる作品だが、そこには新撮影
も含む150本に及ぶ古今東西の名作映画の断片(溝口健二監督
『雨月物語』、フリッツ・ラング監督『メトロポリス』など
も含まれる)や、絵画、文章、音楽などがゴダール自身によ
るナレーションと共にコラージュされる。と言ってもそこに
形成されるイメージは難解で、1度観ただけでは理解し切れ
なかったが、全体に感じたのは現代の特に国際情勢に対する
不満であり、ある種の革命に対する渇望のようにも取れた。
88歳にしてこの活力、思わず襟を正す作品だ。公開はGW、
東京はシネスイッチ銀座他で全国ロードショウ。)

『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』“Beuys”
(現代アートの起源ともされる第2次世界大戦後のドイツで
活動したアーティストの生涯を、未公開だった本人の映像や
音声で綴ったドキュメンタリー。1921年生。大戦中はドイツ
空軍で参戦するもソ連軍に撃墜され、軽傷だったが後の作風
に影響したという。そんな作品は蜂蜜や獣脂、フェルトなど
を使った彫刻やパフォーマンスで、今なら Youtubeで話題に
なりそうなものも含まれる。そんなボイスは自然保護の立場
から政治活動も開始、1976年の連邦議会選挙への出馬(落選)
から1979年のドイツ緑の党の結党にも関るが…。内部の対立
などもあり党の躍進の中でも議員にはなれなかった。しかし
その一環で1982年に始めた「7000本の樫の木」プロジェクト
は各地に足跡を残している。1986年没。本作を観る限りでは
毀誉褒貶の激しい人のように思えるが、信念の許に生き抜い
た人にも見えた。公開は3月2日より、東京はUPLINK渋谷他
で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二