井口健二のOn the Production
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2019年01月27日(日) パペット大騒査線(漂うがごとく、私の20世紀、ぼくの好きな、ジ・アリンズ、少年たち、ザ・プレイス、Be with You、セメント、ワイルドT)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『パペット大騒査線 追憶の紫影(パープル・シャドー)』
               “The Happytime Murders”
『セサミ・ストリート』や『マペット・ショー』などで人気
を博したマペッツの創始者ジム・ヘンスンの息子で、1992年
『マペッツのクリスマス・キャロル』の監督を務めたブライ
アン・ヘンスンが、1996年“Muppet Treasure Island”以来
の監督を手掛けた作品。
舞台は人間とパペットが共存している世界のロサンゼルス。
主人公は、その町で私立探偵を開業している元LAPD刑事
だった男性パペット。彼は人間の女性秘書と共に、人間とパ
ペットの間で起きるトラブル解決を生業としていた。
そんな彼の許に超セクシーな女性のパペットが仕事の依頼に
現れる。それは彼女の生命を狙う脅迫状が届いたというもの
だった。そしてその文面からポルノショップが絡んでいると
睨んだ主人公はショップを訪ねるが…。
そこに突然乱射魔が現れ、主人公以外のその店に居合わせた
パペットの客や店主が全員射殺されてしまう。このため警察
が出動し、主人公は元同僚たちと再会、自らの嫌疑を晴らす
ために元同僚との共同捜査を余儀なくされる。
しかも続けて主人公の弟が突然自宅に現れた犬に咬み殺され
る事件が起き、そこで主人公は被害者に共通する過去に気が
付く。それは彼らがあるテレビ番組の共演者で、その番組の
権利者だったということだ。
こうして残る共演者への捜査が始まるが、それでも殺人は続
いてしまう。

共演は“Can You Ever Forgive Me?”で今年のオスカー主演
女優賞にノミネートのメリッサ・マッカーシー。因に彼女は
今年のラジー賞主演女優賞にもノミネートされており、この
W・ノミニーは稀有だそうだ。
他に、2016年11月27日題名紹介『マギーズ・プラン 幸せの
あとしまつ』などのマーヤ・ルドルフ、2011年9月紹介『ス
パイキッズ4D/ワールドタイム・ミッション』などのジョ
エル・マクヘイル、それに2017年5月紹介『パワーレンジャ
ー』などのエリザベス・バンクスらが脇を固めている。
最初のポルノショップのシーンで『ディープ・スロート』と
並ぶポルノの名作“Behind the Green Door”のパロディも
登場し、かなり思い切った作品だと想像される。しかもその
直後の殺戮シーンの強烈さ。ただし吹き出すのは血糊ではな
く、白い綿というスタンスの作品だ。
実は映画の冒頭では子供にいじめられたり、犬に吠えられる
パペットのシーンもあって、これらは容易に人種差別を想起
させる。つまりこの作品は、アメリカ社会の陰の部分をいろ
いろ突いているものだが。その作品にラジー賞で作品、助演
男優、監督、脚本など大量のノミネートとは了見が狭い。
なお、人間の俳優と対等に共演するパペットは、間違いなく
ジム・ヘンスン名付けのマペッツだが、実はこの名称は作品
の権利と共に2004年にディズニーに売却されており、本作は
Henson Alternative製作であるにも拘らずその名称が使えな
い。従ってパペットと強調されているものだ。
それにしても映画の中でのパペットへの差別表現は、有名な
レイシストだったウォルト・ディズニーへの揶揄のようにも
取れるし、その辺の忖度でのレジー賞大量ノミネートなのか
な? とも勘ぐれる。

公開は2月22日より、東京は渋谷のシネクイント他にて全国
ロードショウとなる。

この週は他に
『漂うがごとく』“Chơi Vơi/Adrift”
(「ベトナム映画祭2018」で上映された2009年製作の作品。
ハノイでタクシー運転手の男性と通訳兼観光ガイドの女性の
新婚カップルを主人公に若い男女の暮らしぶりが描かれる。
2人は出会って3ヶ月で結婚するが、結婚式で酔い潰れた新
郎は初夜もままならない。そんな新婦は式に来られなかった
友人を訪ね、友人に頼まれた手紙を届けに行った先の男性に
襲われる。その場は逃れた彼女だったが、その男性と徐々に
逢瀬を過ごすようになり…。フランス映画人の支援を受けて
いるそうだが、映像や音響にも高い芸術性を感じる作品で、
内容もこれが社会主義国の映画かと思うほどのものだった。
また特に後半に流れる音楽が不思議な雰囲気を漂わせて僕に
は印象的に感じられた。監督は非営利団体「ベトナム映画発
展支援センター」を運営するブイ・タク・チュエン。脚本は
同センター卒業生のファン・ダン・ジー。公開は3月23日よ
り、東京は新宿K's cinema他で全国順次ロードショウ。)

『私の20世紀』“Az én XX. századom”
(2018年1月28日題名紹介『心と体と』でベルリン金熊賞受
賞のイルディコ・エニュディ監督による1989年デビュー作。
1880年、トーマス・エジソンによる白熱電球の発明と同じ年
に生まれた双子の女児が孤児となり、クリスマスの夜に別々
の家庭に引き取られ、1人は結婚詐欺師、もう1人は革命家
に育つ。そんな2人がオリエント急行に偶然乗り合わせ、ブ
ダペストで下車した2人を1人の男性が見初める。その男性
は彼女らを1人と思い込み…。出演は、現在は母国の国立演
劇アカデミーで学長を務めているというドロタ・セグダと、
1975年のタルコフスキー監督『鏡』などのオレーグ・ヤンコ
フスキー。エジソンに対してニコラ・テスラも登場するなど
科学的な思い入れも感じられる作品で、上記の受賞作同様、
ファンタシーではないけど、ちょっとメルヘンでファンタス
ティックな雰囲気も漂う。公開は3月30日より、東京は新宿
シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)

『ぼくの好きな先生』
(山形県にある東北芸術工科大学で教鞭を執りながら、日本
中を駆け巡って創作活動を続けている画家・瀬島匠を追った
ドキュメンタリー。その作品は、ブリキをキャンバス状に成
型して絵具を塗りたくったり、あるいは浜辺にキャンバスを
立てて描いたり、さらに車の中を画廊にして飾ったり、まあ
破天荒という言葉が当て嵌まりそうな行動力だ。そして描か
れる絵は30年間に亙って全てRUNNERと題されている。そんな
画家は、成功した商業画家を父親に持ち、パリなどへの留学
経験はあるものの、特に絵画を学んだ訳ではない。それでも
大学の学生には「もっと自由に生きていいんだよ」「失敗を
恐れずに楽しもうよ」などとエールを贈り、それは聞いてい
るだけで、生徒には良い先生だろうと思わせるものだが…。
光には影もある。監督は、2018年12月2日題名紹介『こんな
夜更けにバナナかよ』などの前田哲。公開は3月23日より、
東京は新宿K's cinema他で全国順次ロードショウ。)

『ジ・アリンズ 愛すべき最高の家族』“The Allins”
(舞台上で排泄したり、汚物をばら撒くなど過激なパフォー
マンスで物議を醸したパンクバンドThe Murder Junkiesの元
ヴォーカルで、1993年に薬物の過剰摂取により36歳で夭逝し
たGGアリンの姿を、アーカイヴの映像と弟の遺志を継いで
今も活動を続ける兄マーク及び母親へのインタヴューなどで
綴ったドキュメンタリー。兄弟と母親は反社会的な父親と共
に水も電気もない山奥で暮らしていたが、虐待に耐えかねて
脱出、しかし兄弟は中学時代からドラッグの販売や窃盗など
に手を染める。そんな中からGGは音楽活動を開始、才能を
開花させて行くが…。ドラッグへの依存は収まらず、毎年の
ように刑務所に入れられる。それでも母親は優しい目で見つ
め続ける。それは彼の真の姿がそうではないと知っていたか
らだ。監督は、2003年『メイキング・オブ・ドッグヴィル』
などのサミ・サイフ。公開は2月23日より、東京は渋谷シア
ター・イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『映画 少年たち』
(ジャニー喜多川の企画・構成・総合演出で1969年に初演さ
れた舞台を、ジャニー喜多川の製作総指揮の許、ジャニーズ
Jr.内のグループ SixTONES、Snow Manらの主演で映画化した
作品。舞台は少年刑務所。そこでは刑に服す少年たちがいく
つかのチームに分れ、抗争を繰り返しながら生活していた。
そこに新任の所長が着任し、規律が厳しくなる。そんな中で
少年たちには親の病や妻の出産などで、脱獄を試みる者が現
れる。それはチームを超えた動きになるが…。監督は2018年
5月13日題名紹介『空飛ぶタイヤ』などの本木克英。映画の
巻頭8分に及ぶ歌と踊りによるワンカットのシーンが登場、
これは中々の迫力だった。撮影は、1908年に建築され、戦後
は少年刑務所としても運用されて2017年に閉鎖、同時に国の
重要文化財に指定された「旧奈良監獄」で行われ、放射状に
延びた収容棟などが映像に収められている。公開は3月29日
より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)

『ザ・プレイス 運命の交差点』“The Place”
(街角のカフェ、その奥の席に1人の男が座っている。男の
前には様々な男女が入れ替わりに座り、男に願い事を語る。
男は彼らにある使命を告げ、それが達成されれば願いは叶う
と語る。そんな物語が座席の周囲だけで展開される。使命は
かなり過激なもので、直感的には男は悪魔とも思えるが、結
末は必ずしも不幸ではないようだ。オリジナルはテレビの連
続ドラマだそうだが、映画は各エピソードが複雑に絡み合っ
て、それは見応えのある作品だった。脚本と監督は、2017年
1月紹介『おとなの事情』などのパオロ・ジェノヴェーゼ。
今回も一筋縄ではいかない作品だ。出演は前作にも出ていた
バレリオ・マスタンドレア。他にも同作に出ていたマルコ・
ジャリーニ、アルバ・ロルバケルらが脇を固めている。男は
奇跡を起こしているかもしれないが、またそれは偶然かもし
れず。ただ、ある仕掛けは施しているが…。公開は4月5日
より、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『Be with You いま、会いにゆきます』“지금 만나러 갑니다”
(2004年に竹内結子、中村獅童主演で映画化された市川拓司
原作大ヒット作品の韓国版リメイク。雨の日に夫と幼子を残
して逝った妻が、1年後の梅雨の始まった日に甦ってくる。
しかし彼女は記憶を失っていた。それでも家族の献身で元の
生活が戻ってくるが…。それは梅雨が続いている間だけのこ
とだった。出演は、2009年1月紹介『映画は映画だ』のソ・
ジソブと、2013年5月紹介『ザ・タワー』などのソン・イェ
ジン。女優は2005年7月紹介『私の頭の中の消しゴム』にも
主演している。他に新人子役のキム・ジファン、2012年8月
紹介『高地戦』などのコ・チャンソクらが脇を固めている。
脚本と監督は、8年前に原作本を読んで以来企画を温めて来
たというイ・ジャンフンのデビュー作。そこにチョ・サンユ
ン撮影監督、チェ・ギホ美術監督、パン・ジュンソク音楽監
督ら韓国映画の精鋭が結集した。公開は4月5日より、東京
はシネマート新宿他で全国ロードショウ。)

『セメントの記憶』“Taste of Cement”
(復興の建設バブルに湧くレバノンの首都ベイルートで働く
シリア人労働者の目を通して、戦争による破壊と再建を描く
ドキュメンタリー。監督のジアード・クルスームはシリア出
身、過去には政府軍に徴兵されたことで悲惨な自国民同士の
殺し合いも目撃したという。そんな監督が語るのは、戦闘で
破壊された瓦礫に埋もれた時に口に入ったセメントの味と、
出稼ぎでベイルートに行った父親が持ち帰った海を描いた絵
画の思い出。その監督のモノローグに重ねて建設現場の景観
と激しい戦闘の模様が対比的に描かれる。それは所謂ナレー
ションを排した映像詩とも言える手法だが、描かれる内容は
激烈だ。そして建設現場では32階からのオーシャンヴューと
共に、「シリア人労働者の外出を禁止する」の張り紙の下、
建設中のビルの地下空間で寝食を取る出稼ぎ労働者たちの過
酷な姿が映される。そこには何の説明もない分、直に心への
揺さぶりを感じさせる作品だ。公開は3月23日より、東京は
渋谷のユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『ワイルドツアー』
(2018年6月24日題名紹介『きみの鳥はうたえる』などの三
宅唱監督が山口情報芸術センター(YCAM)からの依頼の許
で、約8カ月間現地に滞在して制作したドラマ作品。舞台は
山口県山口市にあるアートセンター。そこでは「山口のDN
A図鑑」というワークショップが開かれており、そこに参加
した中学生と、その進行役として参加する女子大生を中心と
した青春物語が描かれる。物語自体は極々有り勝ちなものだ
が、そこに山野の風景や最新鋭のDNA研究室などの映像が
織り込まれて、少しドキュメンタリーなタッチにもなってい
る。ただ上映時間が67分ではいずれの部分も舌足らずなのは
否めないところで、特に男子中学生と女子大生の話が正に定
番中の定番の青春ドラマをなぞっているだけなのには残念な
感じもした。公開は2月8日からの「第11回恵比寿映像祭」
で東京初上映の後、3月30日より渋谷のユーロスペース他で
全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二