井口健二のOn the Production
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2018年12月23日(日) チワワちゃん、グリーンブック(サムライ・M、こどもしょくどう、ソローキン、洗骨、がんになる、ライズダルライザー、サタデーナイト・C)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『チワワちゃん』
2012年『ヘルタースケルター』の原作などで知られる漫画家
・岡崎京子が、1996年に発表した全7編からなる連作短編集
の映画化。その物語に2017年8月20日題名紹介『リミット・
オブ・スリーピング・ビューティ』の二宮健監督が挑んだ。
物語の切っ掛けは、東京湾でバラバラ死体で発見された若い
女性。都会の若者グループの中でマスコット的な存在だった
彼女は、仲間には「チワワちゃん」と呼ばれていたが、誰も
彼女の素性も、本名さえも知らなかった。
そんな彼女は仲間の中でリーダー格の男性が連れてきたが、
彼女を誘った台詞が自分のときと同じだったことに主人公は
ショックを受ける。それでも仲間たちは分け隔てなく彼女を
受け入れるが…。
そんなある日、溜まり場のVIP席に座る男のサイドバック
に600万円が入っていると聞かされた彼らは、チワワの思い
切った行動でその強奪に成功する。しかも男たちは収賄事件
で逮捕され、現金だけが手元に残る。
そんな金はあっという間に使い切る彼らだったが、その絆は
深まっているようにも見えた。そして主人公が趣味的に行っ
ていたファッションのインスタグラムに加わったチワワは、
あっという間に人気モデルになって行く。
それでも誰も、チワワの本名さえも知らなかった。

出演は、2017年12月10日題名紹介『サニー/32』などの門脇
麦、2018年11月3日付「東京国際映画祭」で紹介『愛がなん
だ』などの成田凌、2017年7月紹介『ナミヤ雑貨店の奇跡』
などの寛一郎。
さらに2018年8月12日題名紹介『銃』などの村上虹郎、同年
8月26日題名紹介『ういらぶ。』などの玉城ティナ、それに
2017年7月2日題名紹介『心が叫びたがってるんだ。』に出
ていたという吉田志織。
他に栗山千明、浅野忠信らが脇を固めている。
物語は主人公が雑誌記者に取材されるという形でも進められ
るが、全体的には若者たちの奔放な生態が描かれる。それは
半世紀ほど昔の自分がこの年代だった頃とは様変わりだが、
通じるところもないではない。
そんなある種の普遍的な青春群像劇が展開される。それは原
作が20年近く前の作品であることにも拠るかもしれないが、
その普遍的な物語を、二宮監督が見事に現代に写したとも言
える作品だ。
ただ青春とはあまりにも曖昧模糊としたものであり、それを
曖昧なまま映像化した本作では、年代を重ねた観客には理解
を超えた面はあるかもしれない。でもこれが青春だし、自分
たちもこんな中を生きてきたのだ。
そんな懐かしさも感じさせてくれる作品だ。彼らの20年後も
観たくなる。

公開は2019年1月18日より、東京は新宿バルト9他にて全国
ロードショウとなる。

『グリーンブック』“Green Book”
1962年、ケネディ大統領下のアメリカで、ドクターの肩書を
持った黒人のピアニストがディープサウス横断の演奏旅行を
敢行した。その実話に基づく作品。
主人公はイタリア系の運転手。大型車も運転できるベテラン
だが、いろいろあって運転手は休職中。しかし口が達者で剛
腕の彼は、マフィア系のナイトクラブで用心棒のような仕事
もやっている。
ところがそのクラブが改装のため休業となり、仕事を失った
彼の許にとある仕事が斡旋される。それはカーネギーホール
の上階に住むドクターの運転手というものだったが、訪れた
彼を待っていたのは黒人のピアニストだった。
ソ連に留学し博士の肩書も持つピアニストは、未だ黒人差別
の激しいディープサウスを演奏旅行する計画で、その運転手
兼ボディガードとして同行する人材を求めていたのだ。その
要求にはぴったりの主人公だったが…。
期間はクリスマスまでの2カ月間。長期に亙るということで
出した破格の待遇も認められ、出発の日を迎えた主人公には
1冊のパンフレットが手渡される。それは黒人が泊まること
を許されるホテルなどを記したグリーンブックだった。
斯くして三重奏を組むロシア人の弦楽奏者2人と共に、2台
の車でニューヨークを出発した彼らの前には、当時の米国社
会では当たり前だった数々の差別が襲い掛かる。それらを克
服して進むドクターにはある秘めた思いがあった。

出演は、『LOTR』シリーズなどのヴィゴ・モーテンセン
と、2017年2月5日題名紹介『ムーンライト』でオスカー助
演賞受賞のマハーシャラ・アリ。それに2017年4月30日題名
紹介『ファウンダー』などのリンダ・カーデリーニ。
監督と共同脚本は、2004年11月紹介『ふたりにクギづけ』な
どのファレリー兄弟の片割れのピーター・ファレリー。コメ
ディで実績のある監督が、今回は社会派的な題材をユーモア
もたっぷりに描いている。
元の脚本を書いたのは2017年『リベンジ・リスト』などの製
作総指揮も務めるニック・ヴァレロンガ。彼はモーテンセン
が演じる主人公トニーの息子で、幼い頃から聞かされてきた
父親の思い出話を映画化したものだ。
そして彼は、プライヴェートの記録がほとんど残されていな
いドクターことドナルド・ウォルブリッジ・シャーリー本人
にも取材して脚本を書き上げた。彼には謎に包まれた天才ピ
アニストに対する思いもあったとしている。
因にトニーとドクターはその後も交流を続け、2013年に半年
を置かず相次いで亡くなったそうだ。
トロント国際映画祭で最高賞の観客賞を受賞した本作には、
オスカーの呼び声も高くなっているが、2008年と2017年2度
のノミニーのモーテンセンには、正に獲り時という感じもす
る作品だ。

公開は2019年3月1日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他で
全国ロードショウとなる。

この週は他に
『サムライ・マラソン』
(1853年ペリー浦賀来航と、史実ではその2年後の1855年に
実施の安政遠足とを絡めた2014年『超高速!参勤交代』など
土橋章宏原作・短編集の映画化。脚色を2011年7月紹介『一
命』などの山岸きくみと、2017年7月紹介『ナミヤ雑貨店の
奇跡』などの斉藤ひろしが担当し、2014年『パガニーニ』な
どのバーナード・ローズが監督した。出演は佐藤健、小松菜
奈、森山未來、染谷将太、青木崇高。他に竹中直人、豊川悦
司、長谷川博己、筒井真理子、門脇麦、2018年7月紹介『か
ごの中の瞳』などのダニー・ヒューストンらが脇を固めてい
る。原作は個々の走者の生活ぶりなどを描いた人情噺的な作
品のようだが、映画化では幕府の隠密を中心に陰謀などが蠢
く物語に仕上げられており、それはエンターテインメントと
しては面白い。また小松の乗馬姿も感心した。ただし米国旗
の星の数などの時代考証はメタメタ。まあ娯楽作品ではある
が…。公開は2019年2月22日より全国ロードショウ。)

『こどもしょくどう』
(全国的に広がりを見せる「子ども食堂」を描いた作品。主
人公の家は大衆食堂。そこには一緒に野球をしている同級生
もやって来る。実はその同級生は母子家庭で、母親は食事を
作ろうともしていなかった。そんな主人公らが練習の帰り道
で河原に停まったワゴン車を見つける。そこには父親らしき
男と女児2人がいたが…。ドキュメンタリーと思って観に行
ったら、それ以上に巧みに活動を捉えた作品になっていた。
しかも子役たちがしっかりとドラマにしたことで、より関心
も呼べるのではないかと思えるものだ。出演は藤本哉汰、鈴
木梨央、浅川蓮、古川凛、田中千空の子役たち。それに常盤
貴子、吉岡秀隆。さらにDragon Ash降谷建志、石田ひかりら
が脇を固めている。2017年10月8日題名紹介『嘘八百』など
足立紳の原作・脚本から、2016年9月18日題名紹介『映画作
家』などの日向寺太郎が監督。公開は2019年3月23日より、
東京は岩波ホール他にて全国順次ロードショウ。)

『ソローキンの見た桜』
(1904−05年の日露戦争。その際に捕えられたロシア兵士は
当初は愛媛県の松山に収容され、その人数が増すにつれ各地
に送られた。そんな中で松山には模範とすべく俘虜に対する
条約の順守が求められた。そして物語の始まりは現代。松山
では異国で亡くなった兵士の追悼が今も行われている。その
取材にきた主人公はさらにロシア取材を依頼される。そこに
は彼女の曾々祖母に関る悲恋の物語が隠されていた。出演は
2017年11月19日題名紹介『孤狼の血』でヒロイン役の阿部純
子。その脇を斎藤工、イッセー尾形、山本陽子、六平直政、
ロデオン・ガリュチェンコ、アレキサンドル・ドモガロフら
が固めている。脚本と監督はアレクサンドル・ソクーロフ監
督『太陽』のメイキングなどを手掛けた井上雅貴。2016年に
ロシアでSF作品を撮っての長編2作目だそうだ。物語には
謎解きの味付けもあり、巧みだった。公開は2019年3月16日
から愛媛県で先行の後、22日より全国順次ロードショウ。)

『洗骨』
(2018年12月紹介『岡本太郎の沖縄』にもあった一部離島で
は今も行われている?とされる風葬の儀式を描いた作品。と
言っても、基本はよしもと映画だから内容は暗いものではな
い。因に脚本・監督の照屋年之はガレッジセール・ゴリの本
名で、自身が2016年に発表した短編映画を基にした作品だ。
物語は一家の中心だった母親が死んで4年後の出来事。家に
は妻の死後は腑抜けになった父親だけが残り、息子と娘は本
土で暮らしている。それでも風葬した遺骨を洗うために子供
らは帰ってくるが…。息子の家族は同行せず、娘は未婚だが
臨月間近の大きなお腹を抱えていた。出演は奥田瑛二、筒井
道隆、水崎綾女。他に鈴木Q太郎、筒井真理子らが脇を固め
ている。儀式自体は少しグロだが克明に描かれ、そこには監
督の地元愛も感じられる。ユーモアや笑いのバランスも良い
作品だ。公開は2019年1月18日から沖縄県で先行の後、2月
9日より東京は丸の内TOEI他で全国ロードショウ。)

『がんになる前に知っておくこと』
(国民の2人に1人は罹るとされる病気・癌。少し前までは
死の病とされた癌だが、現代では「共に生きる」ための様々
な対処法がなされている。それらを紹介して癌になった時の
無用な焦りなどを解消しようという作品。自身が検査で乳房
にしこりを発見され、一時は絶望的な気持ちだったという女
優・鳴神綾香をナビゲーターに、専門医からカウンセラー、
さらには患者でありながら会社を立ち上げて患者のための商
品の開発や、NPO法人で情報提供を担っている人たちへの
インタヴューを通じて、様々な分野での癌と共に生きる取り
組みが紹介される。ただしインタヴューという形式が、個々
の人物のことは判るが、癌に直接踏み込んだ説明ではないた
め、何か歯痒いというか、違和感は残った。敢えて苦しみを
描けとは言わないが、これでは重要なポイントが聞き流され
てしまうような危惧も持った。公開は2019年2月2日より、
東京は新宿K's cinema他にて全国順次ロードショウ。)

『ライズ ダルライザー−NEW EDITION−』
(福島県白河市のご当地ヒーローが町の支配を狙う悪と戦う
アクション映画。主人公は東京で挫折した俳優志望。恋人の
妊娠で田舎に還り再起を図るが父親には疎まれる。しかし自
らデザインしたご当地ヒーローで少しずつ認知されるように
なるが…。一方、町では謎の団体が陰謀を進めていた。その
危機を察知した主人公は町の武術家を師と仰ぎ、会得した技
で悪との戦いを決意する。原案・製作・主演は地元出身の和
知健明。脚本と監督は日活芸術学院卒で現在は大学で教鞭も
執る佐藤克則。さらに武術指導を『バットマン ビギンズ』
などに採用された武術 KEYSIの創始者フスト・ディエゲスが
初来日で担当し、出演もしている。陰謀の主軸にはSF的な
要素もあり、展開には破綻も少ない。また造形では『メトロ
ポリス』を髣髴とさせるものもあるなど、ファン的には見所
も多い作品だ。公開は2019年3月9日より、東京は池袋シネ
マ・ロサ他で全国順次ロードショウ。)

『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』
                  “Saturday Church”
(ゲイの黒人少年の苦悩と救済を描いたミュージカル仕立て
の作品。主人公は母親のハイヒールやドレスをこっそり着用
しているような少年。物腰も柔らかく、それで学校では苛め
にも遭っている。しかし特に厳しいのは弟と、母親が夜勤中
にやって来る叔母だ。そして深夜の町の飛び出した少年は、
ゲイの屯する街角で土曜の夜に開かれる教会を教えられ、そ
の場所に足を踏み入れた少年は新たな世界を体験する。最近
はゲイの世界を描いた作品を観る機会も多いが、本作はその
一環という感じかな。特に新たな内容がある訳でもないが、
ただミュージカル仕立てというのは目新しい。出演は新人の
ルカ・カインと、人気ドラマに主演中のMj・ロドリゲス、
シンガーソングライターのマーゴ・ビンガム。製作・脚本・
監督も新人のデイモン・カーダシス。物語はヴォランティア
で働いた時の実体験に基づくそうだ。公開は2019年2月22日
より、東京は新宿ピカデリー他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二