井口健二のOn the Production
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2018年12月02日(日) ジャンクション29、フロントランナー(エマの瞳、ゴールデンS、沓手鳥孤城落月/楊貴妃、ラ、こんな夜更けにバナナ、ノーザンS、ブラックK)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『ジャンクション29』
名古屋発のローカルアイドルグループと言ってもかなり全国
区も現れている「BOYS AND MEN」のメムバー田中俊介、水野
勝、本田剛文、小林豊が、それぞれ29歳人生の曲がり角に立
つ若者役で主演する4篇からなるオムニバス作品。
その1本目は「ツチノコの夜」。田中扮する主人公は夢を捨
てずに自主映画を撮り続けている。そんな彼が高校の同窓会
で昔の恋人と再会し、首尾よく自宅のアパートに連れ込むこ
とに成功するが…。そこに招かれざる客もやって来る。

2本目は「結婚の条件」。水野扮する主人公はスーパー仲人
と呼ばれる結婚相談所の所長。そこに母親が申し込んだので
仕方なく来たという男性が現れ、やる気のない男性にあの手
この手の紹介を続けるが…。男性が気に入ったのは?

3本目は「バズる」。本田が演じるのは自撮り動画をアップ
して視聴者を募るバズチューバー。中々ヒット数が挙がらな
い彼は、闇金から借金してまで過激な手段に出るが…。一度
バズったことが後戻りを難しくする。

そしてもう1本は「ジャンクション」。小林扮する主人公は
最初の同窓会で人気漫画家と称しているが、実はコンテスト
に応募しては落選が続いている。そんな彼が失意で故郷に向
かうバスの中で高校時代の漫研の仲間と再会し…。

共演は、1本目が本多力、佐藤玲、菅原大吉。2本目は細田
善彦、中村中、加藤葵、夕輝壽太、池村匡紀、山田キヌヲ。
3本目がゆかりの小雪、成宮しずく、水澤紳吾。最後は福山
翔大。それなりの顔触れが脇を固めている。
監督は、「ツチノコの夜」が2017年12月紹介『富美子の足』
<TANIZAKI TRIBUTE>などのウエダアツシ。「結婚の条件」
と「ジャンクション」がテレビ版『セトウツミ』などの杉田
満。「バズる」は2008年1月紹介『東京少年』で助監督をし
ていたという山田晃久。いずれも新鋭の作品だ。
なお4作品は微妙に交差するが互いは独立の話で、この内の
「ツチノコの夜」「結婚の条件」「バズる」の3本は先に、
ローカル局のテレビ愛知で放送され、「ジャンクション」だ
けが映画版オリジナルとなっている。
その放送される3本は、捻りはあるもののどちらかと言うと
普通の話だったが、3本を包括するように挿入される「ジャ
ンクション」は少しファンタスティックと言える物語になっ
ていた。
実はこの「ジャンクション」に関して、僕は主人公がすでに
成功した漫画家でそれがスランプに陥っていると解釈してい
たのだが、プレス資料を見ると違っていたようだ。というこ
とは最初の同窓会はこれより後の話なのかな?
でもそれだと「ツチノコの夜」とキャラクターが被る気がす
るし、スランプから初心に帰る展開の方が、昔の仲間と再会
するという意味が深まるような気もするのだが…。とは言え
最後の一言がグサッと来て、そこは中々良かった。

公開は2019年2月22日より、東京は渋谷シネクイント、ユナ
イテッド・シネマ アクアシティお台場他で全国ロードショウ
となる。

『フロントランナー』“The Front Runner”
1988年米大統領選挙において、当初最有力候補とされながら
女性スキャンダルの発覚で予備選から降板を余儀なくされた
ゲイリー・ハート元上院議員を描いた作品。
主人公は1984年の予備選にも出馬したが、その時は準備不足
などで勝利は叶わなかった。しかし4年後、1936年生まれの
若き候補者は「ケネディの再来」と持て囃され、民主党の予
備選ではフロントランナーに躍り出る。
ところがフロリダで美女たちとのクルージングなど、派手な
パフォーマンスを繰り広げた夜、マイアミ・ヘラルドのデス
クに1本の電話が入る。それは女性の声で彼女の友人が数日
後にワシントンで候補者と密会するというものだった。
しかしその日の予定では、候補者はケンタッキーダービーを
見るとされており、情報は一蹴されるのだが…。その日の直
前になって予定がキャンセルされ、記者たちは色めき立つ。
そして尾行が始まった。
一方、候補者にはワシントン・ポストの記者が密着取材して
いたが、優しく対応する半面、プライヴェートには立ち入ら
せない候補者の態度に焦燥を募らせていた。そして「知りた
いなら尾行でも何でもしろ」という発言を記事にする。
こうしてヘラルド紙の尾行が続けられ、遂に候補者の自宅に
女性が入って行く姿を目撃してしまう。ただしその時は女性
の身元も何も不明だったが、それでもヘラルド紙はその記事
を一面に掲載してしまう。

出演は、2015年10月紹介『PAN ネバーランド、夢の始まり』
などのヒュー・ジャックマン。2016年6月紹介『死霊館』な
どのヴェラ・ファーミガ、2015年8月紹介『Re:LIFE』など
のJ・K・シモンズ、2010年1月紹介『17歳の肖像』などの
アルフレッド・モリーナらが脇を固めている。
脚本、監督は2018年7月1日題名紹介『タリーと私の秘密の
時間』などのジェイスン・ライトマン。その脚本は、Yahoo!
Newsの政治コラムニストで、本作と2013年8月紹介『ハウス
・オブ・カード』に出演もしているマット・バイが、2014年
に発表した原作“All The Truth Is Out”に基づく。
ところで本作の中に件の女性と候補者側の女性スタッフが紅
茶を飲むシーンがあり、そこで用意された紅茶に「ハチミツ
を入れるか?」という言葉で酒が所望される。ここで字幕は
酒なのだが、台詞は“Southern Comfort”だった。
これはリキュール酒の名前で、この酒は夭逝した歌手のジャ
ニス・ジョプリンが愛飲し、しばしばステージ上にボトルが
置かれていたことでも知られていたものだが、実は学生時代
に友人が入手して試飲したことがある。
ところがこれが途轍もなく甘くて、一口で飲むのを止めてし
まった。近年はリニューアルされてアルコール度数21度程度
のものが流通しているようだが、当時は50度以上、度数が高
いうえに甘ったるいという代物だった。
今回は映画の中でハチミツの代わりに紅茶に入れると聞き、
納得すると同時に、その甘さが口の中に甦ったものだ。

公開は2019年2月1日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他で
全国ロードショウとなる。

この週は他に
『エマの瞳』“Il colore nascosto delle cose”
(自立して生きる盲人女性とプレイボーイとの恋愛を描いた
イタリア映画。脚本と監督は前作で盲人のドキュメンタリー
を手掛けたという2017年2月26日題名紹介『日々と雲行き』
などのシルビオ・ソルディーニ。主演はイタリアの国民的女
優とされるヴァレリア・ゴリノと、2004年12月紹介『オーシ
ャンズ12』などに出演のアドリアーノ・ジャンジャーニ。
物語としてはごく定番のプレイボーイと一般女性の恋が描か
れ、そこに盲人特有の様々なエピソードが挿入される。それ
は盲人を描いた作品を何本か観たりしていると、まあ有り勝
ちかなと思えるエピソードではあるけれど、一般の観客には
目新しさもあるだろう。ダイアログ・イン・ザ・ダークなど
興味を惹かれるものも登場する。ただ全体の恋愛ドラマが盲
人に特化できていないのが少し物足りないが、そこはないも
のねだりかな。作品には満足した。公開は2019年3月23日よ
り、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『ゴールデンスランバー』“골든 슬럼버”
(日本では2010年に映画化されている伊坂幸太郎の原作を韓
国でリメイクした作品。大統領選挙を目前とした中で与党の
候補者が爆殺され、その濡れ衣が宅配ドライヴァの主人公に
着せられる。持てる能力は土地勘だけという主人公が警察や
秘密情報部の警備網を掻い潜り、いろいろな助けも借りて一
発逆転の機を伺う。主演は自ら原作を読んで映画化を提案し
たという2018年7月紹介『1987』などのカン・ドンウォン。
監督と脚色は、2008年1月紹介『俺たちの明日』のノ・ドン
ソク。同作でロカルノ国際映画祭審査員特別賞を受賞した俊
英が取り組む初の商業映画とのことだ。日本版の時は「首相
公選」という設定に最初から絵空事という想いが付き纏い、
試写は観たが紹介を見送った。そこが韓国版だとまず設定は
OKで、さらにその後の証拠捏造や拷問など…。これらが如
何にもありそうなのも怖くて面白い。公開は2019年1月12日
より、東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)

『シネマ歌舞伎・沓手鳥孤城落月/楊貴妃』
(坪内逍遥が明治30年頃に発表した「新歌舞伎」の一編と、
2018年1月紹介『空海』などの夢枕獏が坂東玉三郎のために
書き下ろした舞踊劇の2本立て。共に玉三郎の主演・解説付
きで、特に前者に関しては詳細な時代背景や人物関係なども
説明される。その解説を聞いてから見ると、大阪城落城に際
しての時代に翻弄される淀の方の苦悩や哀しみなども詳細に
知れるものだ。共演は、中村七之助、尾上松也、中村梅枝ら
当代の人気若手が脇を固めている。対する後者は、中国唐の
時代を背景に、玄宗皇帝が死別した楊貴妃を想い方士にその
魂を探すことを命じる。そして方士は蓬莱山で魂を呼び出す
ことに成功し、楊貴妃は皇帝への永遠の愛を告げるというも
の。ファンタスティックな展開ではあるが、作品自体は玉三
郎の舞踊が見どころとなっている。共演は市川中車。公開は
2019年1月12日より、「シネマ歌舞伎」の第32弾として全国
の映画館で上映される。)

『ラ』
(440Hz、ISOで定められた基準周波数、オーケストラが楽器
を調律する基準音、世界共通の赤ちゃんの産声。そんな要素
が絡み合う青春ドラマ。主人公はインディーズでそれなりに
人気バンドのヴォーカルだった。しかし彼に単独デビューの
誘いがあり、バンドは解散。だが彼自身もデビューには至ら
なかった。そんな過去を引きずる主人公は市役所に勤める女
性のひものような存在だったが…。昔のメムバーから連絡が
あり、バンドの再結成を約束に怪しげな仕事に手を貸すこと
になる。出演は桜田通、福田麻由子、笠松将。他に佐津川愛
美、ダンカン、西田尚美らが脇を固めている。脚本、監督、
編集はテレビでバラエティやドキュメンタリーを手掛け、自
主映画で映画祭受賞なども果たした高橋朋広の商業監督デビ
ュー作。個々のエピソードは現代の若者を反映しているが、
全体はちょっと有り勝ちかな。公開は2019年4月5日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
付記:本作の題名に関しては、過去に2015年1月紹介『ら』
という作品もあったものだが、これが映画サイトなどで検索
する際に都合が悪い。実際にeiga.comの検索では最初に1万
件以上ヒットしてしまうもので、止む無く出演者の名前で検
索して探し出した。因に本サイトでは「、ら」で検索すれば
ヒットするようになっているが、今の時代には要注意だ。

『こんな夜更けにバナナかよ』
(筋ジストロフィーを発症して首から上と手しか動かせない
男性と、彼の自立を支援したボランティアの姿を描いた実話
に基づく作品。主人公は医学生と付き合っている女子。その
彼がボランティアで介護に携わっている現場に彼女がやって
来る。そこで介護の相手が夜中にバナナを所望し、彼女が買
いに行くことになるが…。介護相手のあまりに横暴な態度に
苛々を募らせる。出演は高畑充希、大泉洋、三浦春馬。他に
萩原聖人、渡辺真起子、宇野祥平、韓英恵、竜雷太、綾戸智
恵、佐藤浩市、原田美枝子らが脇を固めている。自分が生ま
れ育った町の土地柄で、子供時代には障碍者が近くにいるこ
との多い環境だったが、自分の体験で言えばこのような障碍
者は願い下げだと思わせる。でも障碍者にも彼なりの言い分
があって、それを聞かされると納得もしてしまう。そんなエ
ピソードが綴られた作品だ。いろいろと考えさせられた。公
開は12月28日より、全国ロードショウ。)

『ノーザン・ソウル』“Northern Soul”
(題名は1960年代に英国北部の労働者階級の若者たちから生
まれた音楽ムーヴメントだそうだが、映画の時代にはまだ主
流ではないのかな。そんな中で主人公はダサい地元の若者集
会で浮きながらも激しく踊る若者と遭遇する。そして学校も
ドロップアウトし、2人はDJとして音楽の道を探求するこ
とになるが…。ドラッグ文化なども背景に曲がりくねった青
春が描かれる。出演は、2017年に“Beautiful Devils”とい
う作品で話題のエリオット・ジェームズ・ラングリッジと、
2018年9月23日題名紹介『モダンライフ・イズ・ラビッシュ』
などのジョシュ・ホワイトハウス。他にスティーヴ・クーガ
ンらが脇を固めている。脚本と監督はファッション写真家の
エレイン・コンスタンティン。自身の体験に基づくそうで、
音楽がふんだんに聞ける半面、物語は少し独り善がりかな。
公開は2019年2月9日より、東京は新宿シネマカリテ他で全
国順次ロードショウ。)

『ブラック・クランズマン』“BlacKkKlansman”
(黒人刑事が白人至上主義団体「KKK」に潜入捜査すると
いう前代未聞の実話を、2016年オスカー名誉賞受賞のスパイ
ク・リー監督が映画化。2018年のカンヌ国際映画祭でグラン
プリ受賞の作品。1979年コロラドスプリングスの警察署に初
の黒人警官として採用された主人公は、白人警官からは冷遇
されながらも捜査に燃えていた。そんな時、デスクに置かれ
た新聞でKKKのメムバー募集の広告を見つけた主人公は勢
いで電話を掛け、日頃聞き慣れた黒人差別の発言を繰り返し
て入団面接に漕ぎ付けるが…。そこに黒人学生団体の集会や
KKKのイヴェントなども重なって事態は過激な状況になっ
て行く。出演はデンゼル・ワシントンの実子ジョン・デビッ
ド・ワシントンと、2017年7月9日題名紹介『パターソン』
などのアダム・ドライヴァ。コメディタッチの作品だが、最
期に過酷な現実も描かれる。公開は2019年3月より、東京は
TOHOシネマズシャンテ他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二