井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2018年11月25日(日) 牧師といのちの崖、デッドエンドの思い出(半世界、アイ・フィール、ちいさな独裁者、ナポリの隣人、ライ麦畑の反逆児、宵闇真珠、雪の華)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『牧師といのちの崖』
2018年7月15日題名紹介『いのちの深呼吸』に続いて自殺と
宗教の関りについて考えるドキュメンタリー。
本作の舞台は和歌山県の観光名所・三段壁。その崖の前には
自殺志願者に向けて相談の電話を促す「いのちの電話」の看
板が立てられている。そして電話の先には牧師の藤藪庸一が
待ち、電話を受けると直ちに車を飛ばして駆け付ける。
そこで話を聞き、帰る場所のない人には教会を開放し、共に
暮らしながら生きる道を探って行く。さらに生活の場だけで
なく、自らが運営している食堂で人生を取り戻そうとする人
たちと共に働き、時には厳しく現実と向き合うことも求めて
行く。
しかし現実はその思いを飲み込むようにさらに厳しいものに
なって行く。本作のエピローグは耐えられないものだし、正
直、観ているときには2012年10月紹介『カミハテ商店』のよ
うに虚構に逃れたい気持ちにもなった。あまりに痛々しい現
実が描かれる。
仏教とキリスト教、宗派は違うが今や自殺大国とさえ言える
日本でこのような話は各地にあるのかも知れない。そしてそ
の現実が、相談を受ける側も苦しめている状況も変らないよ
うだ。7月紹介作の住職はストレスが疾患となっていたが、
本作の牧師にもその重圧は痛いほど理解できる。
それならもっとこのような人たちを横に繋いで苦しみを分か
つことはできないものか。多分すでに行われてはいるのだろ
うが、そのような情報も欲しくなる。これだけを観ていると
全く居たたまれない。
できたらそのような横の繋がりについてのドキュメンタリー
も見せて貰いたい。勿論それがあればの話だが、無いのなら
このような作品に関った人たちが声掛けをしてでもそのよう
な運動を起こして欲しいものだ。
今のままでは遠からぬ先に重大な事態が待ち受けているよう
な気もしてならない。これは看過できる問題ではないように
も感じた。
本来の僕は、自死=自殺に関しては容認しない主義だし、そ
のような内容の作品には嫌悪感を持つ。しかし本作に関して
は現実として受け取らなけらばならないものだし、考えなけ
ればならないものだと思わされた。

監督は、2001年に『あおぞら』という作品のある加瀬澤充。
その後に製作会社に所属し、現在はBSテレビ向けにドキュ
メンタリーを制作している人のようだ。
公開は2019年1月より、東京はポレポレ東中野他で全国順次
ロードショウとなる。

『デッドエンドの思い出』“막다른 골목의 추억”
2003年によしもとばななが発表した短編集の表題作を、韓国
の映画人が映画化した作品。
原作は国内での遠距離恋愛のようだが、映画化では日韓両国
に跨るものとされ、韓国人の女性が日本に行ったまま音信不
通となった恋人を追って来日する。と言っても物語では早々
に恋人の心変りが判明し、そこから彼女自身が心の痛手を克
服して行く過程が描かれる。
End Point と名付けられたカフェとゲストハウスを兼ねた場
所が主な舞台となり、その場所に集う近所の人々や異国の人
たちとの交流が彼女の心を癒して行く。しかもそこにかなり
壮絶な物語が隠されているのも味噌と言えそうだ。そして彼
女の心にもちょっとした秘密がある。

出演は、K-POP 少女時代のメムバーだったチェ・スヨン。近
年は女優業にも力を入れている彼女の映画初主演作となる。
共演は、名古屋のローカルアイドルグループ「ボイメン」の
田中俊介。
他に韓国からペ・ヌリ、ドン・ヒョンベ、アン・ボヒョン、
イ・ジョンミン。いずれも韓国テレビで活躍中の俳優のよう
だ。
これに対し日本からは、2005年『魔法戦隊マジレンジャー』
などの平田薫、2017年11月5日「第30回東京国際映画祭」で
紹介『アイスと雨音』に出演の若杉凩(当時の名前は若杉実
森)らが脇を固めている。
脚本と監督は、2009年の短編映画「The after…」が広島の
映画祭でグランプリを受賞。その後にあいち国際女性映画祭
に招待され、名古屋で日韓合作の短編作品も手掛けたという
チェ・ヒョンヨン。
その後は韓国で、外国映画の買い付け配給や映画スタッフの
環境改善にも尽力しているという才媛が、長編監督デビュー
を飾っている。
正直に言ってこの手の作品を自分が紹介するとは考えていな
かった。しかし本作に関しては何処か自分の感覚に触れると
ころがあり、書くべきところはあまり無かったのだけれど紹
介することにした。
それは何か人の痛みが判っているような作品であり、いろい
ろな面で巧みに作られている作品だ。原作の良さもあるのだ
ろうが、それを設定を変えてさらに巧みに引き出した作品と
も言えそうだ。

公開は2019年2月2日から名古屋のシネマスコーレにて先行
上映の後、東京は2月16日より、新宿武蔵野館他で全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『半世界』
(2016年4月紹介『団地』などの阪本順治監督と、元ジャニ
ーズの稲垣吾郎の主演で、今年の東京国際映画祭コンペティ
ション部門に出品されて観客賞を受賞した作品。父親の後を
継いで炭焼き職人となった男の前に、自衛隊を除隊してきた
幼馴染が現れる。そして親が営む中古車屋の息子と3人で、
40歳目前のひと時を過ごすことになるが…。共演は長谷川博
己、池脇千鶴、渋川清彦。他に竹内都子、堀部圭亮、石橋蓮
司らが脇を固めている。地方の過疎化から自衛隊の海外派遣
まで、今の日本を象徴する様々な事象が語られるが、それら
が主人公の生き様に上手く絡まってこない。実際に映画祭の
審査委員長を務めたフィリピン人監督からは批判的な意見が
出されたようだが、阪本監督の割には映画としての骨格が定
まっていない感じがした。主演俳優のファンにはこれでOK
だったようだが…。公開は2019年2月15日より、東京はTOHO
シネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)

『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』
                  “I Feel Pretty”
(2017年1月15日題名紹介『エイミー、エイミー、エイミー
!』などのエイミー・シューマー製作、主演で、容姿に自信
のない女性がほんの少しの切っ掛けで自分の道を切り開いて
しまうコメディ作品。主人公はかなり太めの体形で、容姿に
も全く自信のない女性。そんな女性がジムのエアロバイクか
ら転落し、意識不明から目覚めた時、彼女は魔法の力で自分
の見た目が絶世の美女になったと思い込む。そのため超ポジ
ティヴになった彼女は仕事に恋に邁進し、全てに良い結果を
産み出すが…。共演はミシェル・ウィリアムズと、昨年73歳
でVOGUE 誌の表紙を飾り話題になったローレン・ハットン。
脚本と監督は、2012年4月紹介『君への誓い』などの脚本家
コンビ=アビー・コーン&マーク・シルヴァースタインが監
督デビューも飾っている。物語は願望充足型だが、落としど
ころが上手くて嫌味に感じさせない。巧みな作品だ。公開は
12月28日より、全国ロードショウ。)

『ちいさな独裁者』“Der Hauptmann”
(ドイツ出身で2017年5月紹介『ダイバージェント FINAL』
などのロベルト・シュヴェンケ監督が16年振り母国に戻り、
脚本と共に手掛けた実話に基づくとされる作品。第2次世界
大戦末期の北部戦線で、ふとしたことから将校の軍服を手に
入れた脱走兵が、その将校になりすまして脱走兵の収容所を
訪れ、権威を振りかざして暴虐の限りを繰り広げる。それは
正に戦争の狂気とも呼べるものだが、結末にはかなり呆然と
するシーンも用意されていた。出演は2017年『まともな男』
などのマックス・フーバッヒャー。他に、2017年1月29日題
名紹介『僕とカミンスキーの旅』などのミラン・ペシェル、
2009年3月紹介『伯爵夫人』(公開題名『血の伯爵夫人』)
などのフレデリック・ラウらが脇を固めている。結末をどう
捉えるかがポイントになると思うが、僕はかなりきな臭さも
感じてしまった。公開は2019年2月8日より、東京はヒュー
マントラストシネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。)

『ナポリの隣人』“La tenerezza”
(2012年9月紹介『最初の人間』などのジャンニ・アメリオ
監督がナポリ出身の作家ロレンツォ・マローネの原作を脚色
・映画化した作品。高齢の元弁護士は妻の死後、子供たちと
の関係を断っていた。その彼の住むアパートの隣家に2人の
子供を持つ若い夫妻が引っ越してくる。その一家と親しくな
った主人公は、新たな家族のように付き合いを深めるが、そ
こに重大な事件が起きてしまう。映画の中にも「ナポリは新
参者には住みにくい街」というような台詞が出てくるが、何
ともやるせない展開の物語ではある。でもそんな中で家族の
あり方を問いかけるような作品になっている。出演は本作で
イタリアのアカデミー賞とされるダビッド・デ・ドナテッロ
賞の主演男優賞を受賞したレナート・カルペンティエーリ。
他に2011年3月紹介『愛の勝利を』などのジョヴァンナ・メ
ッツォジョルノらが脇を固めている。公開は2019年2月9日
より、東京は岩波ホール他で全国順次ロードショウ。)

『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』
                 “Rebel in the Rye”
(2018年8月26日題名紹介『ライ麦畑で出会ったら』に続い
て、2010年に亡くなったアメリカの人気作家J・D・サリン
ジャーを描いた作品。先の作品は周囲からのものだったが、
本作では作家本人が描かれている。それはユダヤ系の裕福な
家庭に育ち、作家を目指してコロムビア大学に学び、そこで
講師だった人物の手で作品が世に出される。しかし高級紙に
掲載予定だった作品は戦時下で無期延期となり、本人も従軍
してノルマンディー上陸作戦に参加。その間にも書き続けた
のが『ライ麦畑でつかまえて』だった。そして出版された作
品はベストセラーとなり、青春のバイブルとまで言われるよ
うになるが…。出演はニコラス・ホルト、ケヴィン・スペイ
シー、ゾーイ・ドゥイッチ。脚本と監督はダニー・ストロン
グ。2015年『ハンガーゲーム FINAL』などの脚本家の監督デ
ビュー作となっている。公開は2019年1月18日より、東京は
TOHOシネマズシャンテ他で全国順次ロードショウ。)

『宵闇真珠』“白色女孩”
(2015年にカメラマンのクリストファー・ドイルが監督した
“Hong Kong Trilogy”の製作を担当したジェニー・シュン
がドイルと共同で監督デビューを果たしたメルヘンと言える
作品。主人公は香港の漁村で暮らす少女。父親から太陽光に
当っては駄目と教えられ、夜間にだけ出歩いている。そこに
裏山の廃墟に住む男性が話し掛け、交流が始まるが…。出演
は初主演のアンジェラ・ユンとオダギリ・ジョー。背景とな
る漁村は、多分2018年11月3日付「第31回東京国際映画祭」
で紹介『三人の夫』と同じ場所と思えるが、内容的には本作
の方が真面かな。少なくとも開発で消滅し掛っている漁村の
問題は描かれている感じがした。しかし廃墟の中の仕掛けな
ど面白いものはいろいろ描かれているが、物語の中にそれが
活かされていないのは残念。まあドイルの監督作品は大体が
そんなものだが。公開は12月15日より、東京は渋谷シアター
・イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『雪の華』
(中島美嘉のヒット曲をモチーフにした物語を、2018年8月
5日題名紹介『3D彼女』などの中条あやみと、EXILE「三
代目 J Soul Brothers」登坂広臣の共演で映画化した作品。
主人公は難病で余命宣告された女性。その女性がある切っ掛
けで男性を好きになり、病気は伏せたまま期間限定の恋人関
係を依頼する。そして両親の思い出の地フィンランドで赤い
オーロラを観ることを夢見るが…。共演は高岡早紀、浜野謙
太、田辺誠一。脚本は、2017年10月29日題名紹介『8年越し
の花嫁』などの岡田惠和。監督は、2018年『羊と鋼の森』な
どの橋本光二郎が担当した。女性が罹った正確な病名が提示
されないなど、お話としてはかなり無理はあるが、フィンラ
ンドロケも充分に活かされているし、試写会では隣りにいた
男性が目頭を押さえるなど、それなりの感動は呼んでいたよ
うだ。公開は2019年2月1日より、東京は丸の内ピカデリー
他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二