| 2018年11月03日(土) |
第31回東京国際映画祭<コンペティション部門> |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※今回は、10月25日から11月3日まで行われていた第31回※ ※東京国際映画祭で鑑賞した作品の中から紹介します。な※ ※お、紙面の都合で紹介はコンパクトにし、物語の紹介は※ ※最少限に留めたつもりですが、多少は書いている場合も※ ※ありますので、読まれる方はご注意下さい。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ <コンペティション部門> 『詩人』“诗人” 中国映画の開幕は蒸気機関車。女性が露天掘りの鉱山で働く 夫に弁当を届けに行く。その夫は詩人でもあり、投稿した詩 が雑誌に掲載されて原稿料が送られてくる。そんなこともあ り夫は有名になって行くが…。背景は1980年代、��小平政権 が経済改革を進め始めた頃。徐々に変って行く社会の中で、 夫婦の立場も微妙に変化して行く。昨年の<ワールド・フォ ーカス部門>では韓国映画の『詩人の恋』が上映されたが、 本作は時代背景も含めて少し違った物語にはなっている。た だしそれが観客の目にどう映るか、それが少しノスタルジー に偏っている点が気にはなった。しかもこのノスタルジーは 部外者には判り辛い。また結末が少し前から読めてしまうの も、多少物足りない感じがした。
『堕ちた希望』“Il vizio della speranza” イタリア映画の開幕は川面を疾走するボート。そこには若い 女性と舟を操縦する中年の男性が乗っており、彼らは多数の 男たちに追われている。そして主人公は売春組織に関ってい るらしい女性。彼女は組織の中で売春婦たちの手配をしてい る。しかもその組織では妊娠した売春婦に別の使い道もある ようだ。実はこの展開を理解するまでに多少手間取った。し かし判ってみるとその内容はかなり強烈だった。物語は最後 に救いはあるが、主人公の名前や彼女が辿る運命に宗教的な 意味合いも感じられ、その点がいろいろ悩ましくもあった。 でもまあ普段のイタリア映画からは想像もつかないような風 景の中で、骨太な物語が展開されて行く。こういう映画が観 られるのも映画祭の魅力だ。
『ホワイト・クロウ』“The White Crow” 日本では2011年12月紹介『英雄の証明』以来となるイギリス の俳優レイフ・ファインズによる監督作品。旧ソ連の出身で 史上最高のバレエダンサーと言われたルドルフ・ヌレエフの 姿を、現役ダンサーのオレグ・イヴェンコを主演に迎えて映 画化。田舎町の出身ながらトップクラスのバレエ団に上り詰 めるまでの道のりと、初のヨーロッパ公演での出来事が並行 して描かれる。映画では過去の出来事がモノクロワイドと、 1961年当時の出来事がカラービスタサイズで描かれるが、実 は1961年当時の出来事には2つの状況があって、それらが区 別されていないのが判り難い。主人公の服装や髪形など微妙 に違ってはいたようだが、主人公の決断に至る肝心の部分は もっと明確に描き分けて欲しかった。
『翳りゆく父』“A Sombra Do Pai” 母親を亡くした少女が怪しげなまじないに傾倒して行き、一 方の父親はリストラなども重なって徐々に尋常でなくなって 行く。そんな中で娘の行動は過激さを増して行き…。女性監 督の作品だが、劇中には『ペット・セメタリー』や『ナイト ・オブ・ザ・リビング・デッド』なども引用され、主人公の 少女との繋がりも巧みに表現された作品だった。正に王道の ホラーという感じの作品でもある。なお本作ではQ&Aにも 参加したが、そこでプロデューサーは本国での大統領選挙の 行方を気にしており、極右候補が当選したら今後のブラジル 映画はかなり窮屈になりそうだとのことだった。結果はそう なってしまったものだが、同国の映画では社会性のある作品 も多かったので、気掛かりなところだ。
『三人の夫』“三夫” 2018年2月4日題名紹介『メイド・イン・ホンコン』などの フルーツ・チャン監督による香港の人魚伝説に基づく作品。 映画祭のジャンル分けではSFファンタシーとなっているも のだが、期待して観に行ったらかなり頭を抱えてしまった。 特にジャンルに関してはどこがそうなのかも理解できなかっ たもので、一応そのテリトリーにいる者としては対処に困っ たものだ。内容は人魚かも知れない女性が登場し、彼女を食 い物にする3人の夫との関係を描いたものだが、自分の理解 力が乏しいのか、これがファンタシーとはどうしても思えな かった。それに風刺性も、過激と言えば過激な映像に隠れて 読み取ることができないものだった。内容に合わせた演技の 主演女優が頑張っていたことは認めるが…。
『アマンダ』“Amanda” 今ヨーロッパで起きている新たな悲劇を題材にしたフランス 映画。この題材自体は先に描かれているのかもしてないが、 その当事者をここまで描き切った作品は初めてのように思え る。特に悲劇の後で泣くことさえ忘れたような少女の姿が痛 切に心に刻まれた。また彼女を困難の中で支えようとする若 者の姿も素晴らしい。状況の異なる日本では、海外から頻繁 に報道されるこの悲劇を真に理解することは難しいと思って いたが、この作品を観ているとその心情を共有することがで きる気持ちにもなった。もちろんこれで悲劇が終る訳ではな いし、今後も繰り返されてしまうかもしれないが、この気持 ちを理解した上で今後の報道に接したいとも思ったものだ。 正に今観るべき映画と言える作品だ。
『テルアビブ・オン・ファイア』“Tel Aviv Al HaEsh” パレスチナの女スパイがイスラエルの将校との恋に落ちると いう展開の昼メロドラマの撮影現場を背景に、そのドラマで ヘブライ語の台詞の言い回しなどの監修を行うことになった プロデューサーの甥が、仕事熱心さ故にいろいろなトラブル を引き起こす。まあコメディとしては有り勝ちな展開のよう にも思えるが、何せ舞台がイスラエル/パレスチナというこ とで政治的な背景などが巧みに描かれて行く。それは部外者 には判り難いところもありはするのだが、観ていると何とな く納得できるように作られているのも見事と思える作品だ。 それに落ちの付け方が、吉本新喜劇張りに強引なものなのだ けれど、それが映画と劇中劇のドラマの両方で巧みに収まる のも感心する作品だった。
『シレンズ・コール』“Son Çıkış” イスタンブール市街地の再開発工事に関っていた主人公が、 以前に知り合いだった女性から南部で運営されているオーガ ニックなコミュニティを教えられ、嫌気の差していた勤務先 を退職してそこに向おうとする。ところが退職と同時に支給 されていた乗用車は返却、クレジットカードも停止され、そ れでも突き進もうとする主人公はいろいろなトラブルに巻き 込まれる。基調はコメディで主人公を襲うトラブルにはかな り強烈なものも含まれる。ここは少しスラップスティックな 感覚もあって楽しめた。ただし前半の面白さに比べると後半 が平凡かな。特に結末は主人公のそこまでの有りようからす ると、これではあまりに普通な気がして、ここにはもっと過 激な捻りの欲しい感じがした。
『ザ・リバー』“Ozen” 文明から隔絶された辺境の地に暮らす5人兄弟の日々を描い たカザフスタンの作品。両親はいるがあまり関っては来ず。 幼い末弟もいる兄弟は長男を中心に家庭内のいろいろな仕事 を分担し、また遊びも5人で一緒だった。ところがそこに都 会育ちの少年がきて、兄弟の関係性が崩れ始める。そしてあ る事件が起きる…。時代背景などが今一つ不明で、物語には 何か寓意があるようにも感じられるが、それも明確にはなら ない。ただ砂丘や岩山や急流の大河も含む風景は、何となく ファンタスティックで、その辺の描写は面白く感じられた。 風景には2014年<コンペティション部門>で上映『草原の実 験』も思い出したが、文明に対する批判もあるのかな。その 辺も理解できなかった。
『氷の季節』“Før frosten” 19世紀デンマーク、その農耕地帯を舞台にした人間ドラマ。 物語の中心は父親と娘、それに甥2人の4人暮らしの一家。 しかし凶作などで極貧の生活になっている。そこにスウェー デン人の豪農が現れ、新たな作物のために土地の買収を申し 出る。これに対して父親は、寡男の豪農に娘を嫁がせ、一つ の家族にして安泰を考えるが…。その祝いの宴の最中に事件 が起きる。物語を書くとかなりとんでもない話のようにも見 えるが、映画自体はオーソドックスで破綻もない。寧ろ上手 く行き過ぎるという感じもしてしまうものだ。でも描かれる 物語は厳しい。雰囲気には、時代背景は異なるが2002年2月 紹介『シッピング・ニュース』を思い出すかな。これが北欧 の感じなのだろう。
『ヒストリー・レッスン』“Clases de Historia” 世代の異なる女性2人の交流を描いたメキシコ映画。主人公 はベテラン教師。その教室に反攻的な転校生が入ってくる。 そして生じたトラブルから2人は共に学校へ行くことができ なくなる。ところが生徒が教師の自宅を訪ねて来て、徐々に 交流が深まって行く。そして2人は、生徒が子供の頃に父親 に連れて行かれたという伝説の山の洞窟を目指すことになる が…。映画祭のジャンル分けではただのドラマになっている が、物語には多少ファンタスティックなところもあり、特に 結末のシーンには不思議な雰囲気も漂っていた。これを無理 にファンタシーと呼ぶ気はないが、魔女伝説への言及など、 僕の心には何かが響く感じもした。もしかすると2人のどち らかが? そんなことも考えてしまった。
『大いなる闇の日々』“La Grande Noirceur” 第2次世界大戦下のアメリカで、チャップリンの物真似をす る芸人が辿る数奇な運命を描いたカナダ作品。主人公は道端 で親切そうな男に声を掛けられ、男に言われたままにとある 町に辿り着くが、そこではとんでもない事態が待ち受けてい た。大戦下ということのいろいろな事象は提示されるが、物 語自体は時代背景を超えた不条理劇のような感じで、何とも 摩訶不思議な展開になる。これが何を意味しているのかは理 解し辛いが、中で流されるアーカイヴの音声には現代に対す る批判のような感じもして、それが制作者の意図なのかとも 思わされた。不条理劇ということではファンタシーの範疇に なるかとも思わせるが、そこまでの意図はないと考える。で も不思議な感覚の作品だった。
『ヒズ・マスターズ・ヴォイス』“Az Úr hangja” スタニスワフ・レムが1968年に発表した長編小説の映画化。 ハンガリー人の若者が幼い頃に姿を消した科学者の父を探し てアメリカにやって来る。実は過去に起きた未解決事件を探 るテレビ番組に父親の足跡を見出し、その真相を探ろうとし ていたのだ。ところがその事件には米国防省が関っているよ うで、中々真相には辿り着けないが…。レムの原作は邦訳が 見つからなかったが、ウィキペディアの記事によると科学者 の父親側の話だけのようで、息子の話は映画化の創作のよう だ。それでその部分がSFかどうかが問題になるが、多少微 妙かな。それより原作のSFの部分がかなり削られているよ うで、それも問題だろう。ただしプロローグと間奏の部分が 原作にあるかどうか判らないが、これがかなり気になった。
『愛がなんだ』 2017年1月29日題名紹介『退屈な日々にさよならを』などの 今泉力哉監督が、直木賞作家・角田光代の同名恋愛小説を映 画化。1人の男性に想いを寄せるも、その想いに応えて貰え ない女性を描く。主人公は勤務中も彼氏からのメールを待ち 続け、呼び出しがあれば夜中でも彼氏の許に駆けつける。そ んな献身的な女性だが、彼氏の方は用事が済めば適当に追い 返したり、遂には別に彼女ができたと言ってその場に主人公 を呼び出したりもする。以前にも書いたように、この監督の 作風は性に合わないが、本作でもその点は同じ。ただし本作 は原作物ということで違いが出るかと思ったが、作品は原作 の台詞をそのまま朗読劇のように描いている感じで、違いは 出たものの好ましくはなかった。
『ブラ物語』“The Bra” アゼルバイジャン・バクー鉄道を背景に、住宅地の軒先すれ すれを走る列車の機関士が、その前面に貼り付いた洗濯物の ブラジャーを巡って物語を紡ぎ出す。機関士はそのブラの持 ち主を探して沿線の住宅を巡り歩くのだが、それが人々との 交流やトラブルも生じさせてしまう。何しろ軒先すれすれを 走る機関車の存在感が抜群で、それに絡むエピソードはどれ も面白い。それに比べると機関車を離れてからの主人公の行 動はちょっと変化に乏しいかな。途中では思い切ったことも してはくれるが、その後がまた単調になってしまう。ここに はもう二捻りか、三捻りくらい欲しかった。それと台詞なし というアイデアは悪くはないが、ちょっと無理が感じられる ところもあり、活かし切れてはいなかった。 * * 以上で今回はコンペティション部門の16作品中15本を会期 中に鑑賞した。実は今回は、コンペ作品を会期中に観なけれ ばならない制約があったため、すでに試写状が届いている日 本映画を後回しにしたものだ。 そこで僕が選ぶ各賞は、 東京グランプリ:ヒズ・マスターズ・ヴォイス 審査員特別賞:アマンダ 最優秀監督賞:ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ (翳りゆく父) 最優秀女優賞:イゾール・ミュルトゥリエ(アマンダ) 最優秀男優賞:イェスパー・クリステンセン(氷の季節) 最優秀芸術貢献賞:氷の季節 最優秀脚本賞:ヒストリー・レッスン 観客賞:テルアビブ・オン・ファイア
これに対して実際の受賞は 東京グランプリ:アマンダ 審査員特別賞:氷の季節 最優秀監督賞:エドアルド・デ・アンジェリス (堕ちた希望) 最優秀女優賞:ピーナ・トゥルコ(堕ちた希望) 最優秀男優賞:イェスパー・クリステンセン(氷の季節) 最優秀芸術貢献賞:ホワイト・クロウ 最優秀脚本賞:アマンダ 観客賞:半世界
グランプリに関しては、今年の僕は敢えてSF作品を推さ せて貰う。この作品は昨年度のグランプリに比べても優れて いると思うし、上ではいろいろ書いたけれど、映画用に創作 された部分は、それがレムかどうかは別としてそれなりに良 く出来てはいた。特にプロローグと間奏の部分は、物語に新 たな解釈を加えるもので、それもSF的に面白かった。 審査員特別賞は、時節的に選ばれて良い作品だし、実際の 受賞でグランプリなのも頷ける。監督賞は、実は女性の監督 だったことにも驚いたもので、ジャンルへの思い入れなどに 期待を込めて選んだ。 その他の賞では、観客賞に関しては実際に選ばれた作品を 僕はまだ見ていないので、本来は保留とするべきだろうが、 自分で選んだ作品は今回鑑賞した中では一番面白かったし、 テーマ的にも惹かれるところが多かった。
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