井口健二のOn the Production
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2018年09月30日(日) single mom、ボクはボク(ピアソラ、おかえり、アラン・デュカス、ハナレイ、ぼけますから、選挙に出たい、Journey、ヨーロッパ横断)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『single mom 優しい家族。 a sweet family』
2011年1月紹介『心中天使』などの内山理名主演で、北海道
ニセコ町を舞台に、シングルマザーとその子供の姿を実話に
基づくエピソードを中心に描いた、少しファンタスティック
な展開もある作品。
主人公は11歳の娘を女手一つで育てている。その経緯は明白
ではないが、夫は外国人でDVもあったようだ。そして親子
はニセコ町の一軒家に住んでいるが、食べるものにも事欠く
状況で、貯金も尽きかけている。しかしプライドが許さない
のか、生活保護の申請は拒絶してしまう。
そんな母親が、自らもシングルマザーだという自治体職員の
アドヴァイスを受け始める。それは親身なものであったが、
その言葉は中々彼女の心に届かない。それでも一歩ずつ進み
始める母親ではあったが…。
一方、娘は偶然立ち入った家に住む、普段は寡黙なミニカー
職人の男性と交流を始める。そして娘はその家の屋根裏部屋
であるモノを発見していた。ところがその後に男性の何気な
い言葉から気を回した娘は万引きを働き、それに気付いた母
親から激しい叱責を受けてしまう。
だがそれは、母親自身がやはりシングルマザーだった自分の
母親から受けた仕打ちの繰り返しだった。

共演は、撮影当時11歳だった長谷川葉音。秋葉原を中心に活
動する鉄道アイドルグループ=ステーション♪のメムバーで
もあるニューフェイスが映画初出演を飾っている。他に石野
真子、木村祐一らが脇を固める。
脚本と監督は、「マツモトキヨシ」の創業者の孫で元衆議院
議員の松本和巳(小泉チルドレン)。48歳で政治活動を休止
し、2013年からは劇団を主宰して若手アイドルタレントの育
成を目指しているという監督の長編デビュー作だ。
実は、上映をベテランの映画評論家の方たちと一緒に観させ
て貰い、上映後の監督とのQ&Aも聞かせて貰った。その際
の監督の発言によると、ミニカー職人の件以外は全て実際に
取材したシングルマザーの体験に基づいているとのこと。
また劇中に描かれるFood loss の運動に関しては、取材して
認識が変ったとのことで、監督自身が現在もその運動に協力
しているそうだ、
ただ僕個人としては、ミニカー職人の件に関連して娘が発見
するモノの来歴が不明確で悩ましかったが。この点に関して
は、出席していた評論家の人から「大林宣彦みたい」という
発言があり、一般的にそういう認識なのだと理解した。その
点がファンタスティックと言える作品ではある。
なお劇中の長谷川の役名がエミリーで、木村扮するミニカー
職人がその名前を呼ぶシーンがあり、僕はそこでもニヤリと
したが、その点は誰も訊いてはくれなかった。

羊蹄山の雄姿など北海道の大自然を写したドローン撮影も素
晴らしく、その中で感動的なドラマが展開される。
公開は10月6日より、東京はヒューマントラストシネマ有楽
町他で全国順次ロードショウとなる。

『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでいる』
2009年10月20日付「東京国際映画祭」で紹介『ザ・コーヴ』
などでも取り上げられた和歌山県太地町を背景にした青春群
像ドラマ。
舞台になるのは「太地町立くじらの博物館」。日本唯一、世
界でも珍しいとされるクジラに特化した博物館には、太地町
伝統の捕鯨文化やクジラの生態を解説する展示と共に、館外
には、クジラのダイナミックな演技が披露されるショウの会
場が設けられている。
しかし観客動員は年々減少し、クジラの飼育員も次々に辞め
て行く状況の中、経営の立て直しのため招かれた新館長は、
ベテランの飼育員リーダーに代えて「クジラバカ」と自他共
に認める純粋な若者を新リーダーに抜擢。それと共に東京か
ら新たなトレーナーがやって来るが…。
交代させられた前リーダーやその取り巻きたちとの確執や、
さらには新婚家庭に問題を抱える飼育員など、様々な人間模
様が交錯する中で、博物館再興のプランが新リーダー、新ト
レーナーらの間で練られて行く。果たしてそのプランは実現
し、博物館に客足を取り戻すことはできるのか?

出演は、ホリプロ50周年事業「身毒丸」のオーディションで
グランプリを獲得し、2018年5月13日題名紹介『空飛ぶタイ
ヤ』などにも出演の矢野聖人と、2018年5月紹介『世界でい
ちばん長い写真』などの武田梨奈、それに和歌山県出身で、
2017年2月紹介『サクラダリセット』などの岡本玲。
他に、近藤芳正、鶴見辰吾らが脇を固めている。
脚本は本作のプロデューサーも務める菊池誠が担当、監督は
2015年に『U・F・O Ushimado's Fantastic Occurrence
うしまどの、ふしぎなできごと』という作品を発表している
藤原知之が手掛けた。
ところで武田梨奈は、2018年9月16日題名紹介『殺る女』と
きにも「そろそろ何かを期待したい」と書いたが、本作では
けり一発と、本人ではないけど「ぷしゅー」の台詞もあって
ファン的にはそれなりに満足かな。
それに加えて本作では、当初はスタントマンの吹き替えも考
えられたクライマックスのクジラとのパフォーマンスを見事
に自身で決めており、さすがの空手で鍛えた身体能力とそれ
をやり遂げる根性にも感動させて貰えた。
それにしても武田は、2013年11月紹介『祖谷物語』の徳島県
以降、2016年5月22日題名紹介『海すずめ』の愛媛県、今年
は『世界でいちばん…』の愛知県に続き本作の和歌山県と、
地方発信ドラマに着実に出ているのも頼もしい。
因に武田は、動物愛護アンバサダーとしての活動もしている
そうだ。
さらに本作は、物語の後半に反捕鯨団体の話なども登場し、
抑えるところはしっかりと押さえた作品になっている。

公開は、10月12日から和歌山県で先行上映の後、11月3日よ
り、東京はシネリーブル池袋他で全国ロードショウとなる。

この週は他に
『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』
             “Astor Piazzolla inédito”
(1921年アルゼンチンに生まれ、タンゴを単なる踊りの伴奏
から演奏と認められるまでに進化させ、タンゴに革命を起こ
したとされるバンドネオン奏者で作曲家アストル・ピアソラ
の生涯を、家族所蔵の映像を基に描いたドキュメンタリー。
本国の生まれだが、幼い頃に一家はニューヨークへ移住し、
15歳までの暮らしでジャズなどに親しむ。そこでタンゴへの
興味は薄かったがバンドネオンの演奏で認められ、帰国後に
父親が開いたレストランで演奏活動を開始。タンゴに目覚め
て行く。しかし活動に行き詰まりパリへ留学。彼の地で再認
識に至るが、帰国後に行った先鋭的な演奏では「タンゴの破
壊者」とも罵られ、命を狙われるようにもなってしまう。そ
んな20世紀を代表するともされる音楽家の激動の生涯が描か
れる。作中には華麗な演奏シーンも多数登場し、音楽好きに
は堪らない作品と言える。公開は12月1日より、東京は渋谷
Bunkamuraル・シネマ他で全国順次ロードショウ。)

『おかえり、ブルゴーニュへ』“Ce qui nous lie”
(2006年4月紹介『ロシアン・ドールズ』などのセドリック
・クラピッシュ監督が、ワイン生産者の一家を描いた新作。
10年前に父親への反発から海外に飛び出していた長男が、父
危篤の報に帰ってくる。その生家は妹が守っており、末弟は
大規模ワイナリーの婿養子となっていたが、それぞれ悩みも
抱えていた。そして父親が死去し、その相続の問題が発生す
る。そんな中でブドウの収穫期が訪れ、新酒の仕込みが始ま
るが…。2018年7月22日題名紹介『ウスケボーイズ』に続い
てのワインの話で、日本とフランスの文化の違いはあるもの
の、どちらもワイン生産の面白さやいろいろな問題は判り易
く紹介されていた。特に本作では、それぞれの家族の機微が
巧みに描かれ、さすがベテラン監督の手腕とも思わされた。
また四季の変化を定点カメラで写した映像も見事だった。公
開は11月17日より、東京はYEBISU GARDEN CINEMA他にて全国
順次ロードショウ。)

『アラン・デュカス 宮廷のレストラン』
             “La quête d'Alain Ducasse”
(2018年8月に他界したジョエル・ロブションと並び、ミシ
ュランで最も多くの星を獲得したとされるフランスの料理人
に2年間の密着取材を敢行したドキュメンタリー。1990年、
33歳の時に史上最年少での3ツ星を獲得。世界に展開される
20以上のレストランで合計18もの星に輝いている料理人が、
新たにヴェルサイユ宮殿の中にレストランを開店する。その
準備の様子と、料理人が世界各地を飛び回って現地の食材を
試したり、新たな食材を求めて行く姿が描かれる。その中で
は中国でチョウザメを養殖して最高級のキャビアを作り出し
たり、モンゴルのゴビ砂漠でチンギスハンの都カラコルムを
訪ねたり…。その一方で料理人はフィリピンのマニラに調理
師学校を設立し、そこではストリートチルドレンに奨学金を
与えて料理人を育ててもいる。そんな世界を股に掛けた料理
人の活動がカメラに収められている。公開は10月13日より、
東京はシネスイッチ銀座他で全国順次ロードショウ。)

『ハナレイ・ベイ』
(2011年1月紹介のドキュメンタリー『ピュ〜ぴる』などの
松永大司脚本、監督で、2005年に発表された村上春樹の短編
集「東京奇譚集」に収録の同名小説を実写映画化した作品。
物語はハワイでのサーフィン中の事故で息子を亡くしたシン
グルマザーの女性が、遺体の確認後に事故の起きた浜辺に向
かう。そこでひと時を過ごした女性は、その後は毎年命日の
頃に浜辺を訪れ、数週間を過ごすようになる。その10年後、
女性は亡くなった時の息子と同じような年頃の日本人の若者
から、浜辺で片足の日本人サーファーを見掛けたと教えられ
る。その風体は息子に似ていたが…。出演は2018年7月29日
題名紹介『母さんがどんなに僕を嫌いでも』などの吉田羊、
同年4月15日題名紹介『虹色デイズ』などの佐野玲於、同年
8月12日題名紹介『銃』などの村上虹郎。他に佐藤魁、栗原
類らが脇を固めている。公開は10月19日より、東京は新宿ピ
カデリー他で全国ロードショウ。)

『ぼけますから、よろしくお願いします』
(自らの乳がん闘病記で海外映画祭での受賞を果たしたTV
ディレクターの信友直子が、認知症の母親と耳の遠い父親を
題材に描いたドキュメンタリー。僕の両親はすでに亡いが、
母親が認知症を患っていたこともあり、他人事では観られな
い作品だった。特に部屋の中に無造作に置かれた石油ストー
ブなどを見ると、ハラハラしてしまう場面も多くなってしま
った。だから一緒に観た他の人たちのように笑ってばかりで
はいられなかったが、作品にはユーモアも込められ、また愛
情もたっぷりに作られていた。内容的には2014年5月紹介や
2018年4月15日題名紹介の『毎日がアルツハイマー』もあっ
たから、特段記すようなものでもないが、どちらも介護する
側が元気でないとやっていけないなとは思わされた。それと
本作では、過去の映像が残っていることに現実の厳しさも感
じてしまった。公開は11月3日より、東京はポレポレ東中野
他で全国順次ロードショウ。)

『選挙に出たい』
(2015年に行われた統一地方選挙で東京都新宿区区議会議員
に立候補した元中国人の男性を、日本在住中国人の女性監督
が追ったドキュメンタリー。男性は来日から20年。来日直後
に訪れた新宿歌舞伎町で、外国人観光客相手に飲食店や風俗
店を紹介する案内業を始め、やがて「歌舞伎町案内人」と題
する著書も出版して知られた存在となる。そんな彼が母国籍
を捨て、日本に帰化して選挙に立候補する。しかしこれには
背景があって、実は彼の父親は政治家だったが文化大革命当
時に罪を着せられて失脚。そんな思いが彼を選挙に駆り立て
たようだ。ところが政党のアドヴァイスで国籍を取得し、立
候補はしたものの公認は得られず、さらに地盤割り当てで街
頭演説の場所も制限されてしまう。そんな理不尽に曝されな
がらも選挙戦は続けて行くが…。内容は日本の選挙の裏側が
垣間見えて、予想以上に面白かった。公開は12月1日より、
東京はポレポレ東中野他で全国順次ロードショウ。)

『アジア三面鏡・Journey』
(2016年11月5日付「東京国際映画祭」で紹介した映画祭が
独自に製作する映画の第2弾。今回は中国のデグナー、日本
からは『ハナレイ・ベイ』の松永大司、それにインドネシア
のエドウィンが参加してそれぞれ30分程度の3作品が制作さ
れた。多分副題がテーマを示しているのだろうが、1本目で
は母と娘がある目的で車旅をする。2本目はヤンゴンを走る
環状線の高速化のためやって来た日本人技術者の話。3本目
ではある目的で日本を訪れた倦怠期の夫婦の話が描かれる。
それぞれ旅に関る話ではあるが一貫性はなく、独立した作品
だ。その中で僕は2本目の松永監督作品が一番好きかな。鉄
道が描かれているのも良かったし、地元の人との交流や物語
自体にもしっかりとした社会的なテーマが感じられた。公開
は11月9日より、東京は新宿ピカデリー他で全国順次ロード
ショウ。なお、それに先立って第1弾『リフレクションズ』
も10月12日より同劇場で公開される。)

『ヨーロッパ横断特急』“Trans-Europ-Express”
(1961年公開、アラン・レネ監督『去年マリエンバードで』
の脚本などで知られ、2008年に亡くなったフランスの小説家
で映画監督でもあったアラン・ロブ=グリエが、1966年に自
身の監督第2作として発表した作品。パリ―アントワープ間
の高速列車に乗り込んだ監督が映画の構想を練るという設定
の許、その構想に登場する麻薬の運び屋の物語が並行して展
開される。出演は、2013年1月紹介『愛、アムール』などの
ジャン=ルイ・トランティニャン。彼は同年『男と女』にも
主演している。物語は監督の構想によって左右され、しかも
それらが交錯するという、正にメタフィクションと呼べるも
のになっており、ヨーロピアン・アヴァンギャルドの最重要
作品とも呼ばれているそうだ。でも話は判り易くて面白い。
公開は11月下旬より、東京は渋谷シアター・イメージフォー
ラム他にて全国順次に開催される監督の回顧上映6作品の内
の1本として、日本では劇場初公開となる。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二