井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2018年09月23日(日) ルイスと不思議(生きてる、Merry Christmas、宇宙の法、モダンライフ、ポルトの、MAKI、アンナ、シシリアン、第三世代、暁に祈れ)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ルイスと不思議の時計』
        “The House with a Clock in Its Walls”
アメリカのゴシック作家ジョン・ベレアーズが1973年に発表
したジュヴナイル小説「ルイスと魔法使い協会」シリーズの
第1巻「壁のなかの時計」を、2018年7月29日題名紹介『デ
ス・ウィッシュ』などのイーライ・ロス監督が映画化。
時代背景は1955年。両親の突然の死で伯父の家に引き取られ
ることになったルイスは、長距離バスでミシガン州の田舎町
にやって来る。そこで伯父には快く迎えられたルイスだった
が、その伯父は二流の魔法使いで、住んでいる家は不思議な
現象の宝庫だった。
一方、伯父の家の隣りにはトラウマを抱えた一流の魔女が住
んでおり、伯父とは長い付き合いのようだが、ちょっと偉そ
うだ。そんな伯父の家で生活するようになったルイスだが、
伯父からは棚に置かれた降霊術の本だけには絶対に触っては
いけないと釘を刺される。
こうして地元の学校にも通うようになったルイスだが、なか
なか馴染めない少年は伯父に習ったちょっとした魔法で友達
の気を引こうとする。しかし上手く行かないルイスは、遂に
禁断の本に手を伸ばすが…。
その頃、伯父たちは先代家主の魔法使いが家の何処かに隠し
た時計を探していた。その時計は世界を破滅に導くもので、
先代の魔法使いはそれを動かす直前に亡くなっていたのだ。
果たして伯父たちは時計を発見して破壊し、世界の破滅を阻
止することができるのか?

出演は、2012年5月紹介『ビッグ・ボーイズ』などのジャッ
ク・ブラックと、2016年4月紹介『ニュースの真相』などの
ケイト・ブランシェット。そしてタイトルロールのルイス役
には、2015年“Daddy's Home”で新旧2人の父親に振り回さ
れる息子を演じたオーウェン・ヴァカーロが扮している。
さらに『ツイン・ピークス』のカイル・マクラクランが久々
スクリーンに登場する。
脚本は、2006年5月紹介『ブギーマン』で原案と初期の脚本
を手掛けたエリック・クリプキ。テレビの“Supernatural”
なども手掛ける人気クリエーターは、本作のプロデューサー
にも名を連ねている。
そしてロス監督は、元々は2001年『キャビン・フィーバー』
で人気を博したヴァイオレンス・ホラーの名手だが、本作で
は子供向けに無邪気に楽しめる作品を誕生させた。
『ハリー・ポッター』ほどのビッグスケールではないが、家
の中に散りばめられた魔法のギミックは存分に楽しめるし、
それらが主人公たちを襲うホラー感覚にはロス監督らしさも
見せてくれる。そんなほどほどの恐怖と楽しさに溢れた作品
と言える。
因に原作シリーズは、原作者が1991年に没するまでに3作を
発表しており、さらに大学教授でSF・ファンタシー作家の
ブラッド・ストリクランドに引き継がれて、原作者の原案に
基づく3作とその後も全12作が発表されているようだ。

公開は10月12日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。(9月9日付未掲載分)

この週は他に
『生きてるだけで、愛』
(2014年3月紹介のオムニバス『恋につきもの』で表題作に
出演の趣里と、2017年9月17日題名紹介『あゝ、荒野』など
の菅田将暉の共演で、芥川賞作家・本谷有希子の同名小説を
映画化。ゴシップ雑誌の記者と自称鬱病の女性のカップル。
女性は病気を理由にいつもグダグダとしてたが、そこに記者
の元カノが現れて事態が動き始める。共演は仲里依紗。他に
田中哲司、西田尚美、松重豊。さらに2018年6月24日題名紹
介『きみの鳥はうたえる』などの石橋静河、2016年4月紹介
『秘密』などの織田梨沙らが脇を固めている。自分も結婚生
活が長くなると、どんな状況でも相手を愛し続けるのが男性
だと思える。本作の女性はかなり面倒臭いが、それでも彼は
彼女を護り続けるだろう。正直前半はきついが、元カノの登
場からの展開は良い。脚本と監督は、数多くのCMやPVを
手掛ける関根光才の長編デビュー作。公開は11月9日より、
東京は新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)

『Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男』
          “The Man Who Invented Christmas”
(イギリスの作家チャールズ・ディケンズが、1843年『クリ
スマス・キャロル』を執筆するに至る経緯を、作家の半生と
言霊のような登場人物たちと共に描いたファンタスティック
なシーンもある作品。『オリヴァー・トゥイスト』の成功で
人気作家となったディケンズはアメリカ旅行を敢行。しかし
帰国後に発表した作品の評価は芳しくなかった。そこで次作
を自らの手で出版することに決めるが、アイデアは一向に浮
かばない。そんな時、ふと聞いたアイルランドの民話から、
自らの過去も照らした物語を書き始めるが…。当時イギリス
ではクリスマスの風習は廃れかけており、彼の書籍が人々の
心を取り戻したとも言われているそうだ。出演は2017年8月
紹介『シンクロナイズド・モンスター』などのダン・スティ
ーヴンス。他にクリストファー・プラマー、ジョナサン・プ
ライスらが脇を固めている。公開は11月30日より、東京は新
宿バルト9他で全国ロードショウ。)

『宇宙の法 黎明編』
(大川隆法原案、製作総指揮による「幸福の科学出版」製作
の長編アニメーション。2015年公開『UFO学園の秘密』の
続き。前作で宇宙生命体の侵攻から地球を守る闘いを繰り広
げた若者たちが、さらに時空を超えた戦いに巻き込まれる。
前作では、単なる宇宙生命体との闘いだったが、本作ではさ
らに地球文明の根源に纏わる神の意思のようなものが提示さ
れる。それが題名の由来でもあるようだ。とは言え、物語自
体は地球への侵略に対する防衛戦を描いているに過ぎない。
ただし、本作で神の言葉の中に言及される「金星での試み」
のその後や、基より本作の舞台となる3億3000万年前に築か
れた宇宙規模の地球文明と現代との繋がりがどうなっている
のか。それは今後の作品で明らかになるのだろうが、その展
開には興味が湧く。公開は10月12日より、東京は丸の内TOEI
他で全国ロードショウ。また本作はアメリカでも同時公開と
なるようだ。)

『モダンライフ・イズ・ラビッシュ
ロンドンの泣き虫ギタリスト』“Modern Life Is Rubbish”
(イギリスのロックバンドblurが1993年に発表したアルバム
と同じ題名の映画作品。iPadなどの配信に反発し、手造りの
音楽をこよなく愛するギタリストと、彼が心から愛した女性
を巡る物語。主人公はレコード店でblurのアルバムを手にし
た女性に声を掛け、レコードジャケットのデザイナーを夢見
る彼女と同棲を始める。しかしやがてレコード店は閉店し、
配信音楽にはジャケットの需要もない。そんな中でも理想の
音楽を目指してもがき続ける主人公だったが、広告代理店に
職を得た女性とすれ違いが生じてしまう。物語には、blurや
レディオヘッドなど英国ロックの楽曲が彩を添える。出演は
2016年“The Receptionist”などに主演のジョシュ・ホワイ
トハウスと、2016年公開『アナザー』などのフレイア・メー
バー。結末の切っ掛けはちょっと皮肉だが、そこからの展開
が素敵でもっと観たくなった。公開は11月9日より、東京は
新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)

『ポルトの恋人たち 時の記憶』
(2009年9月紹介『谷中暮色』や2012年8月紹介『フタバか
ら遠く離れて』などの舩橋淳監督による日本・ポルトガル合
作作品。1755年のリスボン震災、その5年後の復興に関った
日本人男性と、2021年の不況に喘ぐ浜松に暮らすポルトガル
人女性を繋ぐ宿命と呼べる物語。250年前の男性は鍛冶の腕
を持つが身分は奴隷で、女性を愛したことが主人の不興を買
う。そして現代の男性はポルトガル人妻と暮らす日系ブラジ
ル人の工員、ポルトガルギターの演奏家でもあったが、勤務
先はリストラを進めていた。そんな状況下で復讐劇が展開さ
れる。出演は柄本佑、2013年公開『熱波』などのアナ・モレ
イラ、2017年2月26日題名紹介『ママは日本へ嫁に行っちゃ
ダメと言うけれど』などの中野裕太。2つの時代の主人公が
共に技術を持つのに不遇というのには、監督の想いも感じら
れる。結末は時の流れの結果かな? 公開は11月10日より、
東京はシネマート新宿他で全国ロードショウ。)

『MAKI』
(ニューヨークの歓楽街に勤める日本人女性を描いた作品。
主人公は語学留学と称しているが、日本人向けクラブのホス
テスでは英語も学べていない。そして職場の決まりで従業員
同士の恋愛は禁止だが、彼女はバーテンダーと付き合ってい
る。こんな話は歌舞伎町でもありそうだが、そこにアメリカ
ならではの事件が関ってくる。ただ事件の背景などが不明確
で、全体としてはメリハリに欠けるかな。特に主人公の心理
面の葛藤などはもっと描き込まないと、観客には現象としか
受け止められない。出演は、モデルでユニクロのCMなどに
登場のサンドバーグ直美、東京出身でブロードウェイの舞台
にも立つというジュリアン・スィーヒ、それに原田美枝子。
脚本と監督は、イラン出身で2011年10月紹介『カット』など
のアミール・ナデリ監督に師事したというナグメ・シルハン
の長編第2作。公開は11月より、東京は渋谷ユーロスペース
他で全国順次ロードショウ。)

『アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語』
“Анна Каренина. История Вронского”
(トルストイの名作をモスフィルムが再度映画化した作品。
同社では1967年タチアナ・サモイロワ主演版も記憶に残る。
2013年1月紹介のジョー・ライト監督版も構成がトリッキー
だったが、本作ではヴロンスキーがアンナの息子に語る回想
という形式。しかも語る場所が満州という、これはかなりの
展開だ。しかしこれによりアンナの内面が浮き彫りにされ、
悲劇の結末に向かう状況もより理解できる感じがした。なお
満州のシーンは、日露戦争に従軍した軍医で文人のヴィケー
ンチイ・ヴェレサーエフの原作に基づくとされる。出演はマ
クシム・マトヴェーエフとエリザヴェータ・ボヤルスカヤ。
2人は実生活で夫婦だそうだ。監督はカレン・シャフナザー
ロフ。競馬や観劇、舞踏会のシーンなども豪華に再現され、
モスフィルムのロゴとロシア語の台詞が、これぞ本物という
感じを与える。公開は11月10日より、東京はヒューマントラ
ストシネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。)

『シシリアン・ゴースト・ストーリー』
               “Sicilian Ghost Story”
(1993年に起きた実話に基づくとされる作品。主人公は13歳
の少女。彼女は同級生の少年に恋をするが、彼女の母親はそ
れを許さない。それは少年の一家がマフィアであるからだ。
しかし少年の後を追う少女は、少年のバイクで向った馬場で
彼が馬術に興じる姿なども楽しむ。ところがその場所で少年
は姿を消し、以来登校もしなくなってしまう。だが大人たち
はその事実に見て見ぬ振りをするばかりだった。そして時が
流れて行くが、そんなある日、少女は幽霊に導かれるように
少年が閉じ込められている場所を目撃する。それは幻だった
のか…? 脚本と監督は、デビュー作の『狼は暗闇の天使』
がカンヌ国際映画祭批評家週間でグランプリに輝いたファビ
オ・グラッサドニア&アントニオ・ピアッツァ。出演はいず
れも新人のユリア・イェドリコウスカとガエターノ・フェル
ナンデス。とは言え強烈な作品だ。公開は12月22日より、東
京は新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)

『第三世代』“Die dritte Generation”
(前回紹介『13回の新月のある年に』と共に日本初公開され
るライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督による1979年
の作品。映画が製作された1970年代末を背景に、過激派テロ
組織の活動が、実は企業家の手でコントロールされていたと
いう、当時としては先見的だったのかなと思える物語が展開
される。これを1970年代前半に起きた連合赤軍事件の余韻が
冷めやらぬ頃に観たら、いろいろ考えるところもあったかと
思える作品だ。とは言え、近年のアメリカやヨーロッパでの
イスラム系テロの状況を見ると、ファスビンダーもそこまで
は読み切れなかったかとも考えてしまうところで、監督には
もう少し長く生きて、この状況を見て欲しかったという感じ
もした。個人的には前回紹介作の方が、登場人物の痛みが理
解できる感じで好ましかったが、本作も時代を知る上では重
要と言えるものだ。公開は10月27日より、東京は渋谷ユーロ
スペース他で全国順次ロードショウ。)

『暁に祈れ』“A Prayer Before Dawn”
(2009年3月紹介『ジョニー・マッド・ドッグ』のジャン=
ステファーヌ・ソヴェール監督が、麻薬所持の罪で地獄と呼
ばれたタイの刑務所に3年間収監され、過酷な環境をムエタ
イの技を磨くことで生き抜いたイギリス人青年を描いた実話
に基づく作品。主人公はボクサーだったが、麻薬の常習で母
国を追われタイに流れ着く。そしてそこでも麻薬に溺れ、遂
に警察に捕われ刑務所送りとなる。そこは全身刺青の男たち
がすし詰めで雑魚寝する劣悪な場所。しかも言葉も判らず、
所内のルールも学べない彼には正に生き地獄だった。ところ
が元々ボクサーの彼は所内のムエタイのチームに加わり、頭
角を現して行く…。と書くと単純な成功物語に聞こえるが、
映画はその過程を、現地での撮影などリアル且つシビアに描
き込んだものだ。出演は2018年2月4日題名紹介『きみへの
距離、1万キロ』などのジョー・コール。公開は12月8日よ
り、東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二