井口健二のOn the Production
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2018年09月16日(日) A GHOST STORY(殺る女、13回の新月のある年に、遊星からの物体X、アンクル・ドリュー、シャルロット−すさび−)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『A GHOST STORY』“A Ghost Story”
2014年公開『セインツ 約束の果て』の監督デヴィッド・ロ
ウリーと、主演のケイシー・アフレック、ルーニー・マーラ
が再結集して描いた幽霊譚。
登場するのは郊外の一軒家に暮らす音楽家の夫とその妻。暮
らし向きは裕福ではないが、夫はその家に愛着しているよう
だ。一方の妻は何度も引越しの経験があり、引越すときには
戻って来た時のために小さなメモを残すのだと語る。そして
妻は今も引越しを望み、それが諍いとなる。
ところが夫が交通事故で急死し、病室で看取った妻がシーツ
を遺体の頭から掛けて部屋を出ると、突然そのシーツが持ち
上がり、幽霊の姿となって家へと戻ってくる。しかしその姿
は妻には見えず、妻は引越しの準備をして柱の割れ目にメモ
を押し込み、思い出の残る家を出て行ってしまう。
その様子をもどかしげに見ている幽霊だったが…。幽霊はそ
の後を追うことはできず、隣家の窓にも同様の幽霊がいて、
幽霊は家に居ついて帰りを待つのだと教えられる。そして家
には様々な家族が暮らし、年月が過ぎて行くが、妻は一向に
帰ってこなかった。
夫役のアフレックは、最初の内は普通の容姿で登場するが、
途中からは目の位置に2つの穴の開いたシーツを被ったまま
で、その姿で様々な感情も表現する。これはかなり挑戦的な
演技となっている。
幽霊の存在は作者の思考によっていろいろな解釈が可能にな
るが、本作の場合はある種の地縛霊なのかな。病院から戻っ
て以降は家から出ることもできず、隣家の幽霊ともコミュニ
ケーションはするが直接会いに行くことは叶わない。従って
かなり寂しい状況となるものだ。
それがある切っ掛けから時空を超えた存在となるのだが、そ
の解釈がまたいろいろと頭を悩まされる。その辺が、観客を
悩ませ楽しませる仕掛けにもなっている作品だ。正直僕もか
なりじっくりと考えて、一つの結論には達したが、果たして
それが正しいかどうかも判らない。
幽霊譚というと、2010年10月に日本版のリメイクを紹介した
1990年公開『ゴースト/ニューヨークの幻』が著名だが、本
作もそれに通じるところもある。違うところも多々あるが、
多分、西欧人の幽霊に対するイメージではこれらに共通する
部分が基本なのだろう。
そのイメージの東洋人との違いを考察するのも面白いと思う
が、現世に残した未練みたいなものは世界共通のようだ。そ
こからの解放が本作のテーマのようにも見え、そのある種の
希望が本作を心地良いものにもしている。そんな風な作品に
僕は捉えた。

映画を観ていろいろ考察することも楽しめる作品だ。
公開は11月17日より、東京は新宿シネマカリテ、ヒューマン
トラストシネマ有楽町、渋谷シネクイント他にて全国ロード
ショウとなる。

この週は他に
『殺る女』
(2018年6月紹介『私の人生なのに』などの知英の主演で、
腕の刺青を唯一の手掛りに復讐を誓った殺し屋の女を描いた
作品。幼い頃に両親を殺された主人公はその犯人を追い求め
ていたが…。共演は2018年5月紹介『世界でいちばん長い写
真』などの武田梨奈と、2018年7月29日題名紹介『DTC』
などの駿河太郎。脚本と監督は2012年2月紹介『不良少年』
などの宮野ケイジ。主演の知英は上記作の前に『レオン』と
いう作品にも主演しているが、今回はそれなりのアクション
にも頑張っている。その一方で武田は今回も空手は封印の役
柄で、演技派として悪くはないが、そろそろ何かを期待した
いところだ。お話としてはかなり定番な感じで、希望として
は登場人物それぞれの背景をもう少し描き込んで欲しかった
かな。特に駿河の役柄は2つの時点のギャップが大きくて、
少し違和感にもなってしまった。公開は10月27日より、東京
はシネ・リーブル池袋他で全国ロードショウ。)

『13回の新月のある年に』
            “In einem Jahr mit 13 Monden”
(2016年2月紹介『あやつり糸の世界』などのライナー・ヴ
ェルナー・ファスビンダー監督による1978年の作品。ニュー
・ジャーマン・シネマが脚光を浴びた『マリア・ブラウンの
結婚』と同年に製作されながら、日本未公開だった作品がリ
マスターによって劇場初公開される。主人公は性転換手術で
女性になり、同時に記憶を失った。そんな主人公が初老の娼
婦の助けを得て自らの過去を探求する。そこには数奇な人生
が隠されていたが…。物語は回想シーンなどを一切使わず、
全てが関係者の証言で綴られる。それは新たな映画ムーヴメ
ントの到来を告げたとも言える括目すべき作品だ。出演は、
『マリア・ブラウン』に続いてのフォルカー・シュペングラ
ーと、監督のパートナーでもあったイングリット・カーフェ
ン。そして後に『007/ゴールデンアイ』に登場するゴットフ
リート・ヨーン。公開は10月27日より、東京は渋谷ユーロス
ペース他で全国順次ロードショウ。)

『遊星からの物体X』“The Thing”
(1982年に公開されロブ・ボッティンの独創的な造形で話題
になったジョン・カーペンター監督作品がリマスターにより
再公開される。公開時は1952年『遊星よりの物体X』のリメ
イクと紹介され、ド派手な本作には違和感があったりもした
ものだが。今回観直してこれはリメイクではなく52年版の続
きであることを確認した。そしてXが次々変身し、遂には人
間に紛れ込んでいるかもしれないという展開には、ジョン・
W・キャンベルJr.の原作に回帰した嬉しさも伝わった。但
し造形の派手さに目を奪われることには変わりなかったが。
出演は、2017年5月紹介『ガーディアンズ・オブ・ギャラク
シー リミックス』などのカート・ラッセル。他に、2010年
1月紹介『噂のモーガン夫妻』などのウィルフォード・ブリ
ムリー、2012年12月紹介『クラウド・アトラス』などのキー
ス・デイヴィッドらが登場する。公開は10月19日より、東京
は丸の内ピカデリー他で全国順次ロードショウ。)

『アンクル・ドリュー』“Uncle Drew”
(2012年に話題になったペプシのCMを基にしたコメディ作
品。リオ五輪金メダリストのNBAスター選手カイリー・ア
ーヴィングが老人メイクでタイトルロールに扮し、他にも人
気の選手たちが同様の扮装でストリート大会に挑む。共演は
MTVアワード・コメディ部門受賞者のリルレル・ハウリー
とティファニー・ハディッシュ。監督は2004年公開『ドラム
ライン』などのチャールズ・ストーン3世。最近日本のヴァ
ラエティ番組で著名なアスリートが老人メイクで子供の試合
に参加するというのを見たが、これが基だったのかな。それ
にしても、単に試合に参加するだけでなく、選手を集める展
開や各自の背景までしっかりと面白おかしく描くのは流石と
いう感じの作品だ。そして試合ではパフォーマンスは勿論、
その顛末も巧みに描かれている。見事なエンターテインメン
トだ。公開は11月9日より、東京はTOHOシネマズシャンテ他
で全国ロードショウ。)

『シャルロット−すさび−』
(1945年生まれ、1988年に渡仏してノルマンディーを拠点に
パフォーマンスを展開する舞踊家の岩名雅記が、2004年に開
始した映画製作の第4作。なお過去の作品は世界各地の映画
祭で公式上映され、回顧上映なども行われているようだ。そ
の岩名が本作では、soundanceと称する打楽器演奏と舞踊を
融合したパフォーマンスを行う成田護を主演に迎え、成田が
以前に行ったコップに支えられたガラス板上でのパフォーマ
ンスを基に、現実と幻想が交錯する物語を展開する。そこに
は福島の帰宅禁止地区や、さらに時空を超えた旅が描かれて
行く。正直に言ってテーマはどんどん発散してしまい、観客
にはそれについて行く術もないが、物語は一応シャルロット
という存在を核にそれなりの結末は描かれている。とは言え
全体的には芸術家の妄想の世界であり、観客はそれに付き合
い切れれば充分というところだろう。公開は10月6日より、
東京は新宿K's cinema他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
なお今回も情報解禁前の作品を観ており、その紹介は後日に
させてもらう。


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井口健二