井口健二のOn the Production
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2018年09月02日(日) 青の帰り道、INGRESS(栞、飢えたライオン、あの頃、エリック・クラプトン、クレイジー・R、恐怖の報酬、人魚の眠る家、ブレイン・G)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『青の帰り道』
元お笑いタレント・おかもとまりの原案から、俳優で監督も
手掛けるアベラヒデノブが脚本を執筆、2017年12月紹介『悪
魔<TANIZAKI TRIBUTE>』などの藤井直人共同脚本・監督で
描いた群馬県前橋市と東京が舞台の青春群像劇。
2008年、高校3年の夏。男女7人の生徒が校舎から真直ぐに
続く田園の通を帰って行く。そこにいるのは卒業したら歌手
を目指して上京するという女子や、彼女に音楽を教えた張本
人で自分も音楽をやりたいが、家業のために医大を受験しな
ければならない男子。
さらに母親との確執で家を出たいとする女子。仲間内で恋愛
関係にあるカップルに、将来に何の展望もない男子。そして
東京の大学への進学を決めて、地元を出て行こうとしている
男子。そんな彼らは河川敷で仲間の誕生日を祝い、音楽で繋
がる2人の歌声を楽しむ。
そんな彼らのそこからの10年間が描かれる。それは物語の最
後を2018年とする、正に今を生きている若者たちの姿だ。

出演は、「ハロプロ」出身で2018年1月28日題名紹介『坂道
のアポロン』や2015年7月紹介『パトレイバー』などの真野
恵里菜。2017年8月20日題名紹介『南瓜とマヨネーズ』など
の清水くるみ。
東映「スーパー戦隊」出身で2018年4月15日題名紹介『虹色
デイズ』などの横浜流星。2017年7月23日題名紹介『あさひ
なぐ』などの森永悠希。
さらに2018年7月29日題名紹介『純平、考え直せ』などの戸
塚純貴。同日題名紹介『母さんがどんなに僕を嫌いでも』な
どの秋月三佳、2018年4月22日題名紹介『明日にかける橋』
などの冨田佳輔。
今が旬というか、正に人気も実績も充分な若手が勢揃いだ。
他に工藤夕貴、平田満らが脇を固めている。
作中では若手の7人が全員それぞれの10年間を演じ切ってお
り、今だからこそできる、という感じの作品になっている。
そして描かれるのは若者の夢を阻む様々な問題。そこには親
子の断絶など定番なものから、家庭内暴力、結婚詐欺。さら
には「振り込め詐欺」などの犯罪行為に陥る者まで、正しく
今の若者が直面している状況が描かれる。
群馬県を舞台にした青春群像劇では、2018年5月27日題名紹
介『高崎グラフィティ』が先にあったが、コメディとして完
成度の高かった先の作品に対して、本作ではリアルな問題提
起が数多くなされているように感じた。
最近このような青春群像劇は何本も観ているが、その中では
1枚上手の出来と言える作品だ。

公開は、11月30日から群馬県前橋市のユナイテッド・シネマ
前橋で先行上映の後、12月7日より、東京は新宿バルト9他
で全国ロードショウとなる。

『INGRESS THE ANIMATION』
2018年10月より、フジテレビの深夜に放送される新アニメ枠
「+Ultra」の第1弾作品。2012年に運用が開始されて「ポケ
モンGO」の基になったとされるスマートフォン向け位置情報
ゲームのドラマ化。そのエピソード1〜4を見せて貰った。
背景は、2013年に「エキゾチック・マター(XM)」と呼ば
れる物質が発見され、それは古来より人々の精神・能力に感
応し、人類の歴史にも大きな影響を与えてきたとされる。
その物質を巡って人々は、XMの力を受け入れて人類の進化
に利用しようとする「エンライテンド」と、XMを脅威と見
做してコントロールしようとする「レジスタンス」とに2分
され、互いに覇権を争うようになる。
そんな中、物語は2018年の東京で、1人の男が研究者らしき
男性に接触するところから始まる。その男性は別の研究者の
女性の保護を求めるが、その直後に2人は襲われ、研究者の
男性が拉致される。
一方、保護対象だった女性は、とある研究所でXMに纏わる
重大な秘密を知ってしまう。そして警備員らに追い詰められ
るが、そこで拉致された男性と引き合わされ、その直後に研
究所で爆発が巻き起こる。
その事件現場に、警視庁・嘱託特殊捜査官の主人公がやって
来る。彼は物体に触れるとそこに記憶された情報を感知する
「サイコメトラー」の能力を有していた。そして彼が昏睡状
態で発見された女性の指輪に触れた時…。
という状況が判明するのがエピソード2ぐらいだが、物語は
そこまでほぼアクションの連続で綴られて行き、それにぽつ
ぽつと謎が散りばめられている感じだ。それは中々巧みな展
開で、基のゲームを知らない僕でも引き込まれた。

監督は、2015年公開の岩井俊二監督作品『花とアリス殺人事
件』でCGディレクターを務めた櫻木優平。セルルックであ
りながら全て3DCGの「スマートCGアニメーション」と
称される、こだわりの映像が展開される。
正直に言って物語は途中までなので、全体的な評価はできな
いが。「ポータル」と呼ばれる現実の地点を巡る陣取り合戦
が、放送が始まるとゲームの状況ともリンクして進められる
とのことで、これは社会も巻き込んだ展開になりそうだ。
ただし、絶対的な権力を持って登場する第3陣営の実態や、
「ポータル」と主人公らの能力との関連性などがまだ明白で
はなく。さらにエピソード5以降では舞台が全世界にも広が
るようで、興味は尽きない作品だ。

放送はフジテレビの他、関西テレビ、東海テレビ、テレビ西
日本、北海道文化放送、BSフジの各局でも行われ、さらに
NETFLIXにて全世界配信も実施される。

この週は他に
『栞』
(大きな病院で患者のリハビリなどに携わる理学療法士の姿
を描いた作品。描かれる患者は3人で、難病の幼児と、脊椎
損傷のアスリート、それに主人公の父親。ただし実践的なリ
ハビリの様子が描かれるのはアスリートだけで、後の2人に
関しては人間関係の様子を描くに留まる。その辺が実は映画
の描き方として正しいかどうか疑問に感じたところで、特に
幼児に関しては後半の重要なポイントでもあるので、その病
名と共に主人公が行ったリハビリの内容も具体的に知りたか
った。ただ本作は元々が理学療法の関係者に見せる目的で制
作されたそうで、専門家の目で観ると別の評価になるものな
のかもしれない。出演は三浦貴大。他に鶴見辰吾らが脇を固
めている。原案と脚本、監督は理学療法士の資格を持つ榊原
有佑。これが現実ということなのだろうけど、もう少し何か
ドラマティックなものが欲しかったかな。公開は10月26日よ
り、東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)

『飢えたライオン』
(昨年の東京国際映画祭でプレミア上映され、その後に海外
の映画祭などで評価されて、ティーチインを伴う学生向けの
特別上映なども行われているというSNSを題材にしたドラ
マ作品。性犯罪で教師が連行され、その教師の許から流出し
た映像に教え子である主人公が映っているとの噂が流れる。
その噂をデマだと主張する主人公だったが、事態は徐々に彼
女を追いこんで行く。脚本と監督は、2013年公開『子宮に沈
める』などの緒方貴臣。実は前作も試写で観ていたが、何と
言うか重大な社会問題を扱っている割には描写が表面的で、
しかも主人公に集中し過ぎて周囲が見えてこない。そんなも
どかしさを感じた。それは本作も同じで、宣伝コピーなどか
らは傍観者であることの罪を主張したいようだが、これでは
制作者自身も同罪であるように感じる。それが目的かも知れ
ないが。公開は9月15日より、東京はテアトル新宿他で全国
順次ロードショウ。)

『あの頃、君を追いかけた』
(2011年公開の台湾映画“那些年,我們一起追的女孩”(邦
題は同じ)を、2018年4月15日題名紹介『虹色デイズ』など
の山田裕貴と、「乃木坂46」の齋藤飛鳥の主演でリメイクし
た日本映画。1990年代の地方都市の高校を舞台に、優等生に
認められたことから、学業に目覚めて行く若者の姿を描く。
実はこの作品のオリジナルも公開当時に試写を観ていて、そ
の時には台湾の高校の様子が馴染めなかった。その違和感は
日本映画になって薄められたが、胸に学籍番号の入った制服
をそのまま採用したのは何の意味があったのかな。ただ背景
を30年近く過去に置いていることで、いろいろノスタルジー
は感じさせたいのだろうが、その分のリアルさが失われてい
るようにも感じた。監督は、2016年3月紹介『探偵ミタライ
の事件簿』などの脚本家の長谷川康夫。ただし今回の脚本は
ノータッチのようだ。公開は10月5日より、東京はTOHOシネ
マズ日比谷他で全国ロードショウ。)

『エリック・クラプトン 12小節の人生』
           “Eric Clapton: Life in 12 Bars”
(ギターの神様とも称されるギタリストが、自らの人生を語
る音楽ドキュメンタリー。映画は2015年に他界したブルース
の巨人B・B・キングへの追悼の言葉から始まり、クランプ
トン自身のナレーションというかインタヴューの音声で綴ら
れる。それは幼少期の家庭環境など、まあこの手のものでは
定番ではあるが、それでも壮絶とも言える人生だ。しかも家
を持たなかった音楽家が始めて家を持つところから始まる、
隣家の音楽家の妻との経緯は赤裸々というか、よくもここま
でプライヴェートを語ったかという展開にもなる。監督はリ
リ・フィニー・ザナック。ドラマの監督経験はあるが、ドキ
ュメンタリーは初めてというオスカー受賞のプロデューサー
が、「君が監督するなら」というクランプトンの信頼を得て
作り上げている。それは後半には涙必至の展開も含めて見事
な作品だ。公開は11月23日より、東京はTOHOシネマズシャン
テ他で全国ロードショウ。)

『クレイジー・リッチ!』“Crazy Rich Asians”
(8月15日に全米公開され、封切り週末から2週連続の興行
第1位を記録しているシンガポールが舞台のラヴコメディ。
主人公は苦学の末にNY大学で史上最年少の教授になったと
いうアジア系の女性。そんな彼女が古い体育館でバスケット
ボールに興じていたアジア系の男性との恋に落ち、母国で開
かれる親戚の結婚式に招かれる。ところが空港で案内された
のは個室のファーストクラス。身分の違い過ぎる状況に直面
した彼女は…。監督は2016年7月紹介『グランド・イリュー
ジョン2』などのジョン・M・チュウ。出演はコンスタンス
・ウー、ヘンリー・ゴールディング。他にミシェル・ヨーら
アジア系の俳優が脇を固めている。原作はアメリカ在住の作
家ヴィン・クワンによるもので、内容は2011年5月紹介『ハ
ングオーバー』に通じるかな? そんな大人向けのコメディ
だ。因に原作は3部作が発表されているそうだ。公開は9月
26日より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)

『恐怖の報酬』“Sorcerer”
(アンリ=ジョルジュ・クルーゾーが1953年に発表したフラ
ンス映画を、『フレンチ・コネクション』で1972年オスカー
受賞のウィリアム・フリードキン監督が、1977年にリメイク
した作品。南米の奥地で油井火災が発生し、それを爆風消火
するためのニトログリセリンを陸路運搬する。その危険な仕
事に人生の賭けをする男たちを描く。実は公開当時の興行に
失敗し、日本を含むアメリカ以外は監督に無断の短縮版で配
給された作品が、オリジナル版に復元されて再公開される。
僕はフランス版は観たが、リメイク版は上記の事情も知って
いたので当時は観なかった。そんな作品だが、映画は巻頭か
ら爆発シーンが連続して、CGIもない時代によくぞ撮った
と思えるものだった。フランス版の記憶は定かではないが、
ここまで強烈ではなかったと思う。間違いなしの恐怖は味わ
える作品だ。公開は11月24日より、東京はシネマート新宿他
で全国順次ロードショウ。)

『人魚の眠る家』
(1985年作家デビューの東野圭吾が、その30周年に発表した
小説の映画化。水泳プールで溺れて脳死と推測される少女の
生存を巡って、医療機器メーカーの創業一族である家族が、
最新技術を駆使してその甦りに傾注する。SF映画ファンの
視線で観ると、これは東野版「フランケンシュタイン」なの
かなと思ってしまう。そんなオマージュ的な部分も感じてし
まう作品だ。出演は篠原涼子、西島秀俊、坂口健太郎。他に
川栄李奈、山口紗弥加、田中哲司、田中泯、松坂慶子らが脇
を固めている。脚本は2008年公開『映画 クロサギ』などの
篠崎絵里子、監督は、2016年11月20日題名紹介『RANMARU』
などの堤幸彦が担当した。脳波を直接読み取ってロボットの
手を操作するなど、正にSFとも言えるシーンも登場する作
品だが、後半には涙腺を決壊させる場面も設けられ、これぞ
エンターテインメントという作品だ。公開は11月16日より、
全国ロードショウ。)

『ブレイン・ゲーム』“Solace”
(アンソニー・ホプキンスとコリン・ファレルの共演で、予
知能力とも言える卓越した洞察力を持つ捜査官と犯罪者の対
決を描いた作品。被害者に苦痛を与えない特殊な殺し方の連
続殺人が発生し、全く痕跡を残さない殺人者の捜査に行き詰
ったFBIの捜査官が、予知能力があると噂される元同僚に
助けを求める。その元同僚は最初は非協力的だったが、ある
予感から捜査に参加する。しかし彼は犯人が自分以上の能力
を持つことに気付く。そして犯人の行動に特別な思いがある
ことも…。共演は2012年3月紹介『キリング・フィールズ』
などのジェフリー・ディーン・モーガンと、2018年1月紹介
『ジオストーム』などのアビー・コーニッシュ。監督はブラ
ジル出身で、2017年1月紹介『トゥー・ラビッツ』などのア
フォンソ・ポイヤート。予知のシーンの映像は以前にあった
気もするが、全体は緻密で優れた作品だ。公開は10月6日よ
り、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
なお今週は、もう1本内覧試写を観ているが、公開情報等が
未確定なので、それが確定してからの掲載とする。


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井口健二