井口健二のOn the Production
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2018年08月26日(日) あいあい傘、赤毛のアン(音量を上げろ、バルバラ、ビブリア、ボーダーL、ライ麦畑、あまねき、ファイティン、心魔師、ういらぶ、死霊館)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『あいあい傘』
2008年5月紹介『同窓会』などの宅間孝行脚本、監督による
ヒューマンコメディ。宅間は2018年2月11日題名紹介『ラー
メン食いてぇ!』などに出演の俳優でもあるが。本作は、彼
が2007年に主宰していた劇団「東京セレソンデラックス」で
上演した舞台劇を映画化したものだ。
物語の舞台は年に一度の祭りを控えた神社の門前町。祭りの
ために全国からテキ屋たちが集まっている。その1人が車で
乗り付けたところに、旅行者と思われる女性が声を掛ける。
妙に親しげな彼女は、彼に街の案内を頼むが…。
その神社の鳥居前には1軒の茶屋があり、そこでカップルが
汁粉を食べると結婚できるとの言い伝えがあった。しかしそ
の店の女将と亭主は苗字が異なり、入籍していないという。
そしてその家には若い娘もいた。
映画の開幕はかなり暗い感じで、そこからの展開が全く読め
ない。ましてや予備知識を入れずに、時節柄コミックス原作
のラヴコメかと思って観ていた僕には、正しく衝撃の展開が
待っていたという感じだった。

実は今回記事の参考にした映画サイトの紹介文には、かなり
詳しく物語の背景が書かれており、僕的にはそれはこの映画
の興味を削ぐ感じもする。この映画は、是非とも予備知識は
入れずに観て貰いたい作品だ。
出演は倉科カナ、市原隼人。他に高橋メアリージュン、やべ
きょうすけ、入山杏奈、原田知世、立川談春、トミーズ雅、
永井大らが脇を固めている。特に市原が巧みな演技で映画を
引っ張っている。
開幕はかなり暗いと書いたが、それは内容だけでなく画面も
含まれる。しかも妙な映像演出が施され、その意味が不明だ
と、それには少しイラつきも感じさせた。しかしそれが最後
に解明され、さらに2段落ちのような仕掛けまである。
これには全く舌を巻くしかなかった。いやはやこういうカタ
ルシスが映画を観る醍醐味と言えるものだ。舞台では不可能
な展開と思うが、オリジナルからこれを編み出した脚本も称
えたい。久し振りに映画を堪能したと言える。
因に舞台劇は立川の役柄の視点で描かれたそうで、それが映
画では倉科の視点に変えられているものだが。自分の年齢で
観ると、やはり前者の思いが気になる。それが役柄の存在感
が薄い中でしっかり描かれているのも見事と言える。
ただし僕の年齢層は最も映画を観ない世代でもあるようで、
その連中にどうやってアピールするかも重要なようだ。
個人
的には僕らの世代に向けた極めて優れた作品だと思うので、
是非とも成功させて欲しいものだ。
公開は10月26日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。

『赤毛のアン初恋』
       “Anne of Green Gables: The Good Stars”
『赤毛のアン卒業』“Anne of Green Gables: Fire & Dew”
2017年3月12日題名紹介したL・M・モンゴメリ原作映画化
の続き。この3部作によって、1908年に発表され、後に多数
の続編が創作されたシリーズの第1巻が完結する。
前作経緯で老兄妹の家に暮らすようになったアンは、学校で
最初に大喧嘩をしたギルバートとの確執はそのままに、腹心
の友であるダイアナらと共に大自然に包まれた素晴らしい暮
らしを続けている。
そんな中でアンの気掛かりは、徐々に衰えを見せ始めた養父
マシュウの体調だった。その一方でダイアナの家での外泊や
新任牧師夫妻との交流。さらには学校に新たに来た女性教師
など、様々な出来事がアンを成長させて行く。
そして、アンが「アーサー王伝説」に感動してダイアナらと
共に行った野外演劇では、エレインに扮したアンの乗った筏
が増水した川に流され、危機一髪のところをギルバートに救
われるのだったが…。
と、ここまでが『初恋』の展開。そして『卒業』では、大学
進学を目指して学業でもギルバートと競争を始めたアンが、
遂にどの大学にも行ける奨学金を手にするが…。地元の学校
で教師になることを決意する姿が描かれる。

出演は、オーデションで選ばれたエラ・バレンタインが前作
に続けてアンを演じ、共演にはハリウッド俳優のマーティン
・シーン。他に舞台女優であり演出家でもあるサラ・ボッツ
フォード。
さらに、ジュリア・ラロンド、ドゥルー・ヘイタオグルー、
ステファニー・キンバーらの若手がアンの友人たちを演じて
いる。
本作を観ていると、まず豊かな自然に心を惹かれる。僕は神
奈川県湘南の街中の生まれだが、自分自身が子供の頃には、
それでも少し行けばまだこんな自然が広がっていたように記
憶している。
それは、今でも郊外に行けば田園も広がってはいるが、その
中には住宅団地が建設されて、最早自然とは呼べない。だか
ら僕にはノスタルジーに感じられた映像が、今の観客にはそ
うとは取れないのが現実かも知れない。
そんな状況の中で、本作について僕は、特に女性が若い頃に
読むべき定番の物語だとも思っていたが、現状ではそうでは
ないのかもしれないという考えも浮かんでくる。
実際に1年前の前作の公開では、手堅い観客動員はあったも
のの、本来観て貰いたい若年層への浸透は今一つだったよう
で、その続きである本作にもなかなか厳しい状況ではあるよ
うだ。
また原作とのタイアップでも、20種類以上あるという翻訳の
出版では、正に定番商品であるが故の新たな読者の開発にも
腰が重いようで、プロモーション用の帯の装着やポスターの
1枚の貼り出しも難しいとのこと。
なかなか厳しい状況のようだが、描かれているのは友情や血
は繋がっていなくても家族の物語であり、これらはノスタル
ジーなどではなく、今の若い人たちが観て感じて欲しいもの
なのだが。

公開は『初恋』が10月5日より、『卒業』が11月2日より、
東京は109シネマズ二子玉川他で原作出版110周年記念として
全国順次ロードショウとなる。

この週は他に
『音量を上げろタコ!
       なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』
(2013年4月紹介『俺俺』などの三木聡原案、脚本、監督に
よる作品。登場するのは4オクターブの音域と驚異的な声量
で人気絶頂のロック歌手。しかし彼の歌声は「ドービング」
によって人工的に作られたものであり、長年の酷使で限界に
近づいていた。その恐怖に怯える彼は街に飛び出し、そこで
出会った圧倒的に声の小さいストリートミュージシャンに、
自分の過去を重ね合わせるが…。出演は阿部サダヲ、吉岡里
帆。他に千葉雄大、ふせえり、松尾スズキ、田中哲司、麻生
久美子、森下能幸、小峠英二、岩松了らが脇を固めている。
テーマ的には「スタア誕生」を思わせるが、物語の後半はか
なりぶっ飛んだ展開で、これぞ三木ワールドといった感じの
作品になっている。ただ主人公らの来歴の辺りがもう少し欲
しかったかな。でも阿部の強烈なパフォーマンスも観られる
し、ファンは満足できるだろう。公開は10月12日より、東京
はTOHOシネマズ日比谷他にて全国ロードショウ。)

『バルバラ セーヌの黒いバラ』“Barbara”
(2013年2月紹介『コズモポリス』などの俳優マチュー・ア
ルマリックが脚本、監督、出演を務め、2017年カンヌ国際映
画祭「ある視点部門」でポエティックストーリー賞を受賞し
た作品。1997年に没したフランスの伝説的歌手バルバラを描
いた映画を撮るという設定で、その世界にのめり込んで行く
主演女優と映画監督の姿が描かれる。主演はアマルリックの
元パートナーであるジャンヌ・バリバール。作品は実話のエ
ピソードに基づいていると思われるが、その辺の事情が音楽
に疎い僕にはよく判らなかった。でもまあアーティストが全
身全霊を込めて作品に向かって行く姿が、その作品の登場人
物とそれを演じる女優という両面から追及されていることは
理解できる。バルバラという歌手はフランスでは神話とまで
言われるようだが、そんなある種の神秘性も本作の描く目的
なのだろう。公開は11月16日より、東京は渋谷Bunkamura ル
・シネマ他で全国順次ロードショウ。)

『ビブリア古書堂の事件手帖』
(2011年からKADOKAWAメディアワークス文庫より刊行されて
いる三上延原作、文庫本書き下ろしシリーズからの映画化。
同作からは2013年に剛力彩芽の主演によるドラマ化があった
が、今回は黒木華と野村周平のW主演で長編映画化された。
物語は原作の第1巻をベースにしたもので、夏目漱石『それ
から』と太宰治『晩年』の古書を巡って本の落書きに秘めら
れた物語が描かれる。作中では古書に関する薀蓄も多く聞か
れ、本好きには堪らない作品だ。共演は成田凌、夏帆、東出
昌大。ただし映画化の脚本にはかなりアレンジが加えられて
いるようで、これは論議を呼ぶことになるのかな? 脚本は
2017年1月紹介『3月のライオン』などの渡部亮平と2016年
12月4日題名紹介『傷だらけの悪魔』などの松井香奈。監督
は2017年6月18日題名紹介『幼な子われらに生まれ』などの
三島有紀子が担当した。公開は11月1日より、東京はTOHOシ
ネマズ日比谷他にて全国ロードショウ。)

『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』
            “Sicario: Day of the Soldado”
(2016年1月紹介『ボーダーライン』に登場したベニチオ・
デル=トロとジョッシュ・ブローリンのキャラクターを中心
に、米墨国境での違法移民と麻薬カルテルを巡る新たな戦い
を描いた作品。本作の作戦は、麻薬王の娘を誘拐し、彼女を
対抗するカルテルの本拠地に拉致することでカルテル間の抗
争を引き起そうというもの。それは当然違法な作戦だった。
ところが事態は思わぬ方向に展開し、作戦は中止。軍以外の
当事者の抹殺が指令される。その状況下で麻薬王に家族を殺
された元検事と麻薬王の娘の必死の逃亡が始まるが…。脚本
は前作でオスカー候補になったテイラー・シェリダン。監督
にはイタリア人のステファノ・ソッリが起用された。共演は
2017年7月16日題名紹介『トランスフォーマー』などのイザ
ベラ・モナー。他にジェフリー・ドノバン、キャサリン・キ
ーナーらが脇を固めている。公開は11月16日より、東京は角
川シネマ有楽町他で全国ロードショウ。)

『ライ麦畑で出会ったら』“Coming Through the Rye”
(2007年9月紹介『チャプター27』などにも描かれたJ・
D・サリンジャーの小説に影響を受けた若者を主人公にした
作品。本作の背景は1969年。級友と馴染めず孤独な高校生活
を送っている主人公は小説に感銘を受け、演劇作品にするこ
とを思いつく。しかし原作者の許可が必要と教えられ、演劇
サークルで出会った女友達と共に隠遁生活を送る作家探しの
旅に出るが…。2010年に没した原作者は生前に一切の映画化
を認めていなかったそうで、これは苦肉の策なのかな。でも
ある意味原作より可愛い青春作品に仕上がっている。製作、
脚本、監督は1952年生まれで、テレビ出身のジェームズ・サ
ドウィズ。出演は、2017年3月26日題名紹介『パトリオット
・デイ』などのアレックス・ウルフと、2010年公開『ラブリ
ー・ボーン』などのステファニア・オーウェン。それにクリ
ス・クーパー。公開は10月27日より、東京は新宿武蔵野館他
で全国順次ロードショウ。)

『あまねき旋律』“kho ki pa lü”
(インド北東部の山間に位置するナガランド州。ナガという
民族の暮らすその土地では、棚田での農作業はグループごと
に行われ、そこで「リ」と呼ばれる伝承歌が歌われる。それ
は1人が声を発するとそれに呼応して他の誰かが歌い出し、
それが山々に広がって行く。その内容は季節や友愛など生活
の全てが歌で表現される。そんな見事な伝承歌が次々に披露
される。しかしナガ族の歴史は平坦ではない、キリスト教の
伝来で賛美歌が強要され、伝承歌が消えそうになったことも
ある。そして1950年代からはインド軍の侵攻で独立を求める
ナガ族との間に武力対立も発生する。その対立は終結してお
らず、人類史上最も長い独立抗争とも言われているそうだ。
そんな歴史や社会状況も織り込みながら、伝承歌の世界が展
開される。監督はインド南部出身のアヌシュカ・ミーナーク
シとイーシュワル・シュリクマール。公開は10月6日より、
東京はポレポレ東中野他で全国順次ロードショウ。)

『ファイティン!』“챔피언”
(2017年7月紹介『新感染ファイナル・エクスプレス』など
のマ・ドンソク主演で、アームレスラーを描いた作品。主人
公は幼い頃に養子に出され、成長したアメリカで全国チャン
ピオンにもなったという男。しかし東洋人であるが故に八百
長の濡れ衣で競技を追放された。そんな男に母国での復帰の
話が舞い込む。しかもそこには母との再会の期待もあった。
こうして帰国した男は母の家を訪ねるが、母は既に他界し、
家には娘と称する母子の一家が暮らしていた。そんな中で競
技が始まるが、そこにも八百長の陰が絡んでくる。共演は、
2017年6月18日題名紹介『春の夢』などのハン・イェリと、
2015年DVD発売『バトル・オーシャン』などのクォン・ユ
ル。腕相撲というのは多少のテクニックはあるが間違いなし
の力勝負だから観ていてそれだけで面白い。しかも巧みな構
成で競技自体も楽しめる作品になっている。公開は10月20日
より、東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)

『心魔師』
(早稲田大学在学中の作品で評価され、東京藝術大学に進学
して黒沢清らに師事したという今野恭成監督が、日中若手映
画人合同プロジェクトの第1弾として制作したサイコホラー
作品。富士山麓の町で猟奇殺人事件が発生。応援に呼ばれた
不眠症の捜査一課刑事が捜査に加わる。そして町外れの精神
病院に潜入した刑事は、入院中の少女と出会うが…。出演は
ロンドンで演技の勉強をしてきたという生津徹と、映画初主
演の真崎かれん。他に柳憂怜、小橋めぐみ、竹中直人らが脇
を固めている。最終的なテーマは映画ではそれなりの作品も
多く存在するもので、評価はそこに新たなものを付け加えら
れたか、ということになる。本作にそれがないとは言わない
ものの、伏線などが少し弱いかな。特に結末は、これでは物
語の全体が意味不明になってしまうもので、映画だからそれ
が許されるとは言い切れない。公開は10月27日より、東京は
新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)

『ういらぶ。』
(星森ゆきも原作コミックスの実写映画化。同じマンション
で一緒に育った高校生の男女4人組。その中の1組の恋愛模
様が新たなライヴァルの登場によって劇的に展開する。出演
はジャニーズJr.「Mr.KING」の平野紫耀と、2018年4月1日
題名紹介『ママレード・ボーイ』などの桜井日奈子。さらに
2017年9月3日題名紹介『覆面系ノイズ』などの磯村隼人、
2017年2月紹介『サクラダリセット』などの玉城ティナと健
太郎、2017年7月紹介『東京喰種』などの桜田ひよりらが脇
を固めている。脚本は2010年9月紹介『大奥』などの高橋ナ
ツコ、監督は2009年9月紹介『ブラック会社に務めて…』な
どの佐藤祐市が担当した。後半はリゾート地が舞台になるな
ど、まあ何と言うか少女コミックスの定番という感じの作品
で、これをジャニーズ系の主演で撮ると、またリピーター続
出の興行になるのかな。公開は11月9日より、東京はTOHOシ
ネマズ日比谷他にて全国ロードショウ。)

『死霊館のシスター』“The Nun”
(2016年6月紹介『死霊館 エンフィールド事件』など実話
に基づく怪奇現象を扱うシリーズの最新作。実は2013年9月
紹介第1作の後に2015年公開『アナベル 死霊館の人形』が
あったが紹介を割愛していた。さらにその続編の2017年8月
13日題名紹介『アナベル 死霊人形の誕生』もあるから、本
作は第5弾になるかな。ただし本作も番外編という感じで、
1952年にルーマニアの修道院で起きた事件が描かれる。物語
は修道女がキリスト教では禁じられた自殺をしたという事態
に、バチカンから調査員が派遣されるというものだが。実は
その修道院には古代から封じられてきた地獄の門が存在して
いた…。出演は本編主演ヴェラ・ファーミガの妹のタイッサ
・ファーミガと、2014年1月紹介『マチェーテ・キルズ』な
どのデミアン・ビチル。映画は正しくお化け屋敷感覚で、そ
の脅かしぶりが存分に楽しめた。公開は9月21日より、東京
は新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二