井口健二のOn the Production
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2018年08月19日(日) ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間(ジャクソンハイツヘようこそ、ごっこ、いつもの月夜に米の飯)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間』
スタジオジブリ出身の西村義明プロデューサーが、2017年公
開『メアリと魔女の花』の製作のために立ち上げたスタジオ
ポノック。その会社が新たに手掛けるレーベル「ポノック短
編劇場」の第1弾。
「劇場」は3作で構成され、その1本目は2010年公開『借り
ぐらしのアリエッティ』などの米林宏昌監督が初のオリジナ
ルストーリーに挑戦した「カニーニとカニーノ」。
と言っても、お話は『アリエッティ』に繋がる小さな人が主
人公で、水中を自由に泳ぎながら蟹の爪を道具に小魚を捕え
て暮らしている父親と息子と娘の生活が描かれる。
そして兄がようやく1人で漁ができるようになり、暮らしぶ
りも安定するかに見えたが、彼らを一飲みにする大形魚や、
急な増水など脅威は絶えない。そして…。
一家の母親の行動は沢ガニの生態を基にしているのかな?
でも生物としてのカニ自体は他にも登場しており、その辺は
ファンタシーな登場人物ということのようだ。

声優には2016年2月紹介『スキャナー』などの木村文乃と、
2017年7月紹介『ナミヤ雑貨店の奇跡』などの鈴木梨央らが
起用されている。
2本目は、高畑勲の右腕と言われた百瀬義行監督が2002年に
ジブリで撮って以来の第2作で「サムライエッグ」。
卵アレルギーに苦しむ少年を描いた実話に基づく物語とのこ
とで、かなりリアルにその恐怖と、それに対決する主人公の
勇気が描かれる。

声優には『ナミヤ雑貨店の奇跡』などの尾野真千子、2017年
2月26日題名紹介『破裏拳ポリマー』などの篠原湊大、同年
8月6日題名紹介『ナラタージュ』などの坂口健太郎が起用
されている。
そして3本目は、多くのジブリ作品で作画監督を務めてきた
山下明彦監督の「透明人間」。
登場するのはH・G・ウェルズが創造したような透明人間。
ただし着衣はしているが、顔に包帯を巻くようなことはして
おらず、見るからに透明人間だ。しかも体重もないらしく、
常に消火器などの重いものを持って行動している。
という展開だが、実は彼の存在も「透明」のようで、職場な
どでも無視され、題名自体が寓意なのかとも思わせる。そん
な彼が盲導犬を連れた人物と出会い…。

声優には2017年9月24日題名紹介『エルネスト』などのオダ
ギリジョーと、2013年11月紹介『祖谷物語』などの田中泯が
起用されている。
3作品は、内容の分類ではファンタシーであったり、実話で
あったり、SFであったりとヴァラエティに富んでいるが、
いずれもがある局面で勇気を持つ、ちいさな英雄たちの物語
ということになる。

上映時間も全体で54分というのは、ちょっと映画を観るには
良い作品と言えそうだ。
公開は8月24日より、東京はTOHOシネマズ日比谷、TOHOシネ
マズ府中他で全国ロードショウとなる。
なお25日には日比谷で舞台挨拶。また府中では監督らによる
ティーチインも行われるようだ。

この週は他に
『ニューヨーク、ジャクソンハイツヘようこそ』
                “In Jackson Heights”
(2018年3月18日題名紹介『ザ・ビッグハウス』の想田和弘
監督「観察映画」を思い出すような、ニューヨークの下町を
記録したドキュメンタリー。その町は1990年にゲイの若者が
殺されたことに端を発するゲイパレードの発祥地ともされ、
そのためマイノリティに優しく、多国籍化によって167の言
語が話されているとも言われる。ところがそんな町に再開発
特区の動きが顕著化し、古くからの商店には立ち退きが迫ら
れ、育まれてきた文化が消え去ろうとしている。そんな町が
ナレーションもなく、ただ人々の活動を記録するだけで綴ら
れる。そこでは様々な音楽や宗教が入り混じるように紹介さ
れ、また高齢化による老人たちの繰り言のような会話や、一
方では立ち退きを迫られる商店主の悩みなども聞かれるが、
その背景は常にマイノリティの問題に帰結する。長尺だがそ
れも納得の作品だ。公開は10月より、東京は渋谷シアター・
イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『ごっこ』
(2016年に46歳で夭逝した大阪府出身の漫画家小路啓之が、
2010−12年に雑誌連載した作品の映画化。映画化は原作者の
生前に発表され、2017年に撮影されたが、諸般の事情で公開
が延期されていた。40歳目前ニートの男性が子連れで故郷の
町に帰ってくる。そこには幼馴染みの婦人警官もいて、彼女
は男性を「パパやん」と呼ぶ娘の存在に疑いを持つが…。や
がて彼らを取り巻く様々な事情が明らかになる。出演は千原
ジュニア、優香、2017年9月17日題名紹介『ユリゴコロ』で
主人公の幼少期を演じた平尾菜々花。他にちすん、清水富美
加、秋野太作、中野英雄、石橋蓮司らが脇を固めている。脚
本は2017年12月10日題名紹介『サニー/32』などの高橋泉。
共同脚本と監督を『ユリゴコロ』の熊澤尚人が務めた。後半
に怒涛の展開を設けるのは原作者の手法のようだが、映画も
それを見事に映像化している。公開は10月20日より、東京は
渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『いつもの月夜に米の飯』
(2017年10月15日題名紹介『最低!』で主演者の1人だった
山田愛奈の初単独主演作。母親が嫌いで故郷の新潟を離れ、
1人で東京の高校に通っていた女子の許に母親が失踪したと
連絡が来る。そこで実家の居酒屋に戻った彼女は若い料理人
と会い、主人のいない店の切り盛りを始めるが。常連客との
会話の中で母親の実像が見えてくる。そして彼女は料理人に
惹かれて行くが…。共演は和田聰宏。他に高橋由美子、渡辺
佑太朗、小倉一郎、角替和枝、春花、MEGUMI、森下能幸らが
脇を固めている。脚本と監督は2015年公開『おんなのこきら
い』などの加藤綾佳。ご当地ものと言える作品だが、主人公
と母親、料理人の三角関係は面白かった。ただし故郷の町と
漁港との距離感や、地元の食材などはもう少し見たかったか
な。それとエンドロールの後のシーンは必要かな? やるな
らもう少し工夫が欲しかった。公開は9月8日より、東京は
新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二