井口健二のOn the Production
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2018年07月29日(日) バーバラと心の、ウルフなシッシ(テル・M、母さんが、DTC、止められるか、黙ってピアノ、純平、デス・W、日日是、僕の帰る、あのコの)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『バーバラと心の巨人』“I Kill Giants”
2010年のアイズナー賞にノミネートされ、2012年日本国際漫
画賞の第1位を獲得したジョー・ケリー原作、ホセ・マリア
・ケン・ニイムラ作画によるグラフィック・ノヴェルの映画
化。
主人公はウサギの耳のカチューシャを頭に付けた少し奇矯な
少女。両親はおらず、成人の姉とシューティングゲームに夢
中の兄と共に暮らしているが、生活は裕福ではない。しかし
彼女はある使命を帯びていた。
それはいつの日か彼女の住む町を襲う巨人を撃退すること。
そのため彼女は、家の周囲や学校、町の各所に罠や警報器を
設置し、いつも携帯するポシェットには往年のスポーツ選手
の名前を冠した最強のアイテムを装備していた。
そんな彼女は、学校では苛めに遭っているが意に介さない。
そしてスクールカウンセラーの言葉にも心は開かなかった。
ところが彼女を気にする転校生の少女が現れ、その少女には
少し心を開きかけた時…。

出演は、2016年6月紹介『死霊館 エンフィールド事件』に
登場し、ホラー映画ファンの間では新スクリームクイーンと
もされるマディソン・ウルフ。
その脇を、2015年1月紹介『JIMI:栄光への軌跡』などのイ
モージェン・プーツ、2016年9月紹介『スター・トレック』
などのゾーイ・サルダナ。さらにテレビの“Doctor Who”や
“Sherlock”にも出たというシドニー・ウェイドらが固めて
いる。
脚本は原作者のケリーが担当し、監督は、“Helium”という
作品で2014年のアメリカアカデミー賞短編ドラマ部門にノミ
ネートされたデンマーク出身のアナス・バルター。製作は、
2012年1月紹介『ヘルプ・心がつなぐストーリー』などのク
リス・コロンバスが務めた。
物語は、巨人が主人公の妄想なのか否かという点で終始する
が、映画的にはもう少し明確な結論が欲しかったかな。勿論
観客は理解するものだが、少しカタルシスが物足りない感じ
もした。
でもまあ日本アニメは大体がこんな感じだし、この辺が日本
文化の影響というところかもしれない。一方、主人公が装備
する最強のアイテムに関しては、これは成程と思わされたも
ので、これがアメリカ文化ということだ。
因にケン・ニイムラは、1981年マドリッド生まれ、スペイン
育ちでスペイン版のウィキペディアではスペイン人とされて
いた。

公開は10月より、東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国順次
ロードショウとなる。

『ウルフなシッシー』
2017年のTAMA NEW WAVE コンペティションで、グランプリ、
ベスト男優賞と、ベスト女優賞も受賞した大野大輔脚本、監
督、主演による作品。
登場するのはオーディションに落ち続けている女優と、新米
AV監督のカップル。今日も落選を通知されて女友達と飲み
会を開いている女優の許に監督が現れる。しかも居場所をス
マホのGPSで突き止めて。
この状況に女優が切れて言い争いが始まり、それは2人が自
宅に帰ってからも続いて行く。その止め処ない痴話げんかが
約80分間の上映時間の間中展開される。それは些細な行き違
いから2人の人生観まで多岐に亘ったものになる。
試写状の内容紹介からは、2人の住む1部屋だけを舞台にし
たソリッド・シチュエーション的なものを想定したが、実際
はそれ以前の設定もしっかりと描いて、それは丁寧に作られ
た作品だった。

女優役は、2017年4月23日題名紹介『獣道』に出演の根矢涼
香。他に真柳美苗、中村だいぞう、2011年10月紹介『ミツコ
感覚』などの本村壮平らが脇を固めている。
大野監督は、カナザワ映画祭2016で「期待の新人監督」に選
ばれているものだが、その際の『さいなら、BAD SAMURAI』
も自主映画製作の舞台裏を描いて、かなり本音がぶちまけら
れる作品だったようだ。
それに対して本作では、演劇界の舞台裏に加えて男と女の本
音みたいなものが丁寧且つ壮絶に描かれている。それは自分
が40年連れ添った妻との関係に照らしても成程なあと納得で
きるものだった。
ただし、この作品では言い分が男性側に偏っているような感
じがして、それは男性の観客としては納得できるものだが、
女性の観客にはどうなのだろう? その点がちょっと気にな
りはしたものだ。
まあ、現場のキャストやスタッフには女性もいるのだから、
その点の意見交換などはしているものと思うが。その点も含
めて、僕にこの様な感じを抱かせない工夫が欲しかったとは
言えそうだ。
なお映画の初めの方で、女優がオーディションの後に有料の
ワークショップに誘われるシーンでは、僕が以前に職安から
紹介された会社に面接に行ったら、面接もそこそこに講習会
の勧誘を受けたことを思い出し、ニヤリとしてしまった。
こんなことはあるものなのだ!

公開は9月15日より、東京は新宿K`cinemaにて連夜19:00か
ら、2週間限定のイヴニングロードショウとなる。

この週は他に
『テル・ミー・ライズ』“Tell Me Lies”
(ピーター・ブルック監督によって1968年に製作され、この
年のヴェネツィア国際映画祭では審査員賞などの評価を与え
られたものの、政治的な内容から各国での上映は見送られ、
一時はフィルムの紛失も伝えられた作品が発見、修復されて
日本初公開となる。製作年に僕は予備校生で、当時のことは
記憶にも残っているが。現時点でこの作品を観ていて、当時
の自分が何を考えていたのか、いろいろな想いが錯綜した。
実際に本作は「究極の反戦映画」と呼ばれているものだが、
結論としてヴィエトナム戦争は反戦運動によっては終らず、
北の攻勢で米軍が敗退するまで続いたもの。そんな虚しさも
改めて込上げてきた。今やヴィエトナム戦争も知らない子供
たちの時代だが、当時から続く沖縄占領基地は解消されず、
その返還運動も実らないままなのが、我々の過ごした半世紀
なのだ。公開は8月25日より、東京は渋谷シアター・イメー
ジフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『母さんがどんなに僕を嫌いでも』
(マイノリティへの理解を求め続ける作家・まんが家、歌川
たいじによる実体験に基づくコミックスエッセイの映画化。
主人公は家庭を顧みない父親と、子供に暴力を振う母親の許
に育ち、幼児期に施設に強制入所させられるなど虐待を受け
るが、血の繋がらない祖母のような女性に助けられる。しか
し両親の離婚によってその「祖母」と離れ離れになり、17歳
で家出。社会人となるもPTSDに悩まされ続ける。そんな彼が
演劇を志し、そこから支援してくれる仲間ができ、遂には母
親との再会を決意するが…。出演は太賀と吉田羊。他に森崎
ウィン、白石隼也、秋月三佳、木野花らが脇を固める。監督
は2013年公開『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』などの
御法川修。壮絶な物語だが、報道などを観ると幼児の虐待死
など、今の時代にはそこら中にある話のようで、その現実を
考えると恐ろしくなった。公開は11月16日より、全国ロード
ショウ。)

『DTC 湯けむり純情篇 from HiGH&LOW』
(2017年10月29日題名紹介『HiGH&LOW』から派生の番外編。
SWORD 地区での官民入り混じった闘いが終結し、闘いに明け
暮れていた山王連合会のダン、テッツ、チハルは旅に出る。
ところが資金が尽きて転がり込んだ老舗旅館で、その店を仕
切る子持ち未亡人の女将を巡る人生模様に巻き込まれる。出
演は山下健二郎、佐藤寛太、佐藤大樹。ゲストに笛木優子、
駿河太郎と子役の新井美羽。その他にSWORD 地区の面々もい
ろいろな形で登場する。本作は松竹映画配給だが、オリジナ
ルではブランドイメージとはちょっと異なるド派手なアクシ
ョンが展開されていた。それが一転、本作では看板作品だっ
た『男はつらいよ』を思わせる人情ドラマで、企画のEXILE
HIROやるなあと思わせる作品だ。脚本はオリジナルを手掛け
てきた渡辺啓、上條大輔らで、監督もオリジナルの脚本に携
わってきた平沼紀久の長編デビュー作となっている。公開は
9月28日より、全国ロードショウ。)

『止められるか、俺たちを』
(若松孝二監督が逝去した2012年から6年ぶりに再始動した
若松プロダクション製作の作品。1969年を時代背景に、騒然
とした世相と当時の映画製作の模様が、実在の女性助監督の
目を通して描かれる。出演は門脇麦、若松作品の常連だった
井浦新。さらに山本浩司。他に満島真之介、渋川清彦、高良
健吾、寺島しのぶ、奥田瑛二らが脇を固めている。監督は、
若松プロ出身で2017年11月19日題名紹介『孤狼の血』などの
白石和彌。劇中には当時の若松プロ作品のクリップも多数挿
入され、映画ファンには贈り物という感じにもなっている。
なお当時の様子は2012年6月紹介のドキュメンタリー『足立
正生』でも観られたものだ。また新宿ゴールデン街の様子も
面白く再現されているが、ただ当時の風景を現在の新宿で写
しているのは、覚悟の上の描写なのだろうが、両方を知る者
には多少の違和感だったかな。公開は10月13日より、東京は
テアトル新宿他で全国順次ロードショウ。)

『黙ってピアノを弾いてくれ』
            “Shut Up and Play the Piano”
(2010年12月紹介『トロン:レガシー』の音楽を担当したダ
フト・パンクらとも共演するヒップホップ系シンガーソング
ライターでありながら、繊細なピアノ演奏でウィーン放送交
響楽団とステージでのパフォーマンスも繰り広げるミュージ
シャン、チリー・ゴンザレスの生き様と魅力に迫るドキュメ
ンタリー。中には本人へのインタヴューも挿入されるが、中
心はステージ・パフォーマンスで、だみ声をがなり立てるラ
ップやパンクロックからクラシカルなピアノ演奏まで、多彩
な才能が披露される。その一方で交響楽団のコンサートマス
ターからは「ピアノの実力は並」というような発言も収録さ
れ、呼応するように自宅で練習に励む姿なども紹介される。
製作者にはゴンザレス自身も名を連ねており、正に自身をさ
らけ出した作品と言えそうだ。でも思い上がった風もなく常
に真摯な態度なのは好感した。公開は9月29日より、東京は
渋谷シネクイント他で全国順次ロードショウ。)

『純平、考え直せ』
(2017年4月2日題名紹介『22年目の告白』などの野村周平
と、2017年2月26日題名紹介『破裏拳ポリマー』などの柳ゆ
り菜の共演で、直木賞作家・奥田英朗の同名小説を映画化。
現代の新宿歌舞伎町を舞台に、対立する組の幹部を狙う鉄砲
玉に指名された若者が、1丁の拳銃と数10万円の資金で行き
ずりの女と共に最後の時を過ごす。その模様が彼女の発信す
るSNSの投稿と共に描かれる。共演は2018年5月紹介『万
引き家族』などの毎熊克哉、2018年7月15日題名紹介『オズ
ランド』などの岡山天音、『仮面ライダー鎧武』の佐野岳。
他に下條アトムらが脇を固めている。監督は2009年7月紹介
『女の子ものがたり』などの森岡利行。SNSなど今風では
あるが、歌舞伎町の各所でロケした映像にはヌーヴェルヴァ
ーグの味わいも微かにあるかな? そんな映画ファンには、
内容も含め懐かしさも感じられる作品だ。公開は9月22日よ
り、東京は新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)

『デス・ウィッシュ』“Death Wish”
(1974年に『狼よさらば』の邦題で公開されたブライアン・
ガーフィールド原作、マイクル・ウイナー監督、チャールズ
・ブロンスン主演のアクション作品を、2015年公開『グリー
ン・インフェルノ』などのイーライ・ロス監督、ブルース・
ウィリスの主演でリメイクした作品。犯罪都市と化したシカ
ゴを舞台に、妻を惨殺された敏腕外科医が復讐の鬼と化して
警察の手も届かない犯人に迫って行く。共演は、ビンセント
・ドノフリオとエリザベス・シュー、それにモデル出身のカ
ミラ・モローネ。オリジナルはニューヨークが舞台だったは
ずだが、今やシカゴも同じ状況のようだ。そんな高架鉄道の
走る都会で、観客の心を鷲掴みにする復讐劇が展開される。
でもまあ所詮は銃社会が背景で、そこに迎合的なのは致し方
ないのかな? なお、オリジナルは1994年に第5作まで作ら
れるヒットシリーズになったものだ。公開は10月19日より、
東京はTOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)

『日日是好日』
(黒木華、樹木希林、多部未華子の共演で、茶道をテーマに
した森下典子原作エッセイの映画化。始りは25年前、20歳の
女子大生の主人公は、「本当にやりたいこと」が見つからな
いまま日々の生活を送っていた。そんな時、近所のただもの
ではないと噂のおばさんが茶道の先生と知った両親は、彼女
に入門を勧める。その勧めに乗り気でない主人公だったが、
同い年の従姉妹が乗り気になり、止む無く付き合いで行くこ
とに。それは最初は訳の判らない所作の決まり事の教えばか
りだったが…。やがてそれが彼女を支え、人生の機微を教え
ることになって行く。脚本と監督は2017年9月3日題名紹介
『光』などの大森立嗣。茶道は僕が子供の頃に母親が少しや
っていたことがあり、基本の基本みたいなものは心得ていた
が、そこから深度を増して行く展開が面白く。結構嵌って観
てしまった。和装姿の黒木と多部の共演も楽しめる。公開は
10月13日より、全国ロードショウ。)

『僕の帰る場所』
(2017年東京国際映画祭「アジアの未来」部門に出品され、
同部門の作品賞と、国際交流基金アジアセンター特別賞をW
受賞した作品。日本とミャンマーを舞台に、ある在日ミャン
マー人家族に起きた実話を基に描いたドラマ。登場するのは
東京の小さなアパートに暮らす母親と幼い兄弟。父親は入国
管理局に捕まっており、母親が拙い日本語で懸命に家族を支
えている。しかし父親の難民申請は中々受理されず、釈放の
見込みは薄い。そして父親の不在が子供たちにも影を落とし
ている。そんな中で母親は母国への帰国を考え始めるが…。
日本育ちの子供たちにはそれも過酷な選択だった。本作がデ
ビュー作の藤元明緒監督は、長年在日ミャンマー人の取材を
続け、その中から生み出された作品のようだ。しかし世界一
難民に厳しいとされる日本ではその表現も難しく、本作の完
成には5年の歳月が費やされている。公開は10月より、東京
はポレポレ東中野他で全国順次ロードショウ。)

『あのコの、トリコ。』
(白石ユキ原作同名少女コミックスの実写映画化。芸能界を
舞台に幼馴染みの三角関係が描かれる。頼、雫、昴の3人は
幼い頃から人気スターの夢を誓いあっていた。そして頼は雫
の危機を自らの手で救ったことで彼女の虜にもなっていた。
しかし雫と昴が次々オーディションに受かる中で頼は落選が
続き、引っ越しもあっていつしか夢を諦めていた。ところが
雫と昴の活躍を知り、2人の通う学園に転入を決意する。そ
れでもあまり目立たない頼だったが…。出演は、2018年3月
18日題名紹介『猫は抱くもの』の吉沢亮、2017年11月26日題
名紹介『悪と仮面のルール』の新木優子、2018年06月10日題
名紹介『きらきら眼鏡』の杉野遥亮。他に高島礼子、岸谷五
朗らが脇を固めている。脚本は2018年4月1日題名紹介『マ
マレード・ボーイ』などの浅野妙子、監督はテレビで数多く
のラヴコメを手掛け、本作で長編デビューの宮脇亮が担当し
た。公開は10月5日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二