井口健二のOn the Production
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2018年07月08日(日) マルセルの夏/マルセルのお城、かごの中の瞳(ブッシュウィック、ペギー・G、MEG、春画と日本人、愛しのアイリーン、スペースバグ)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『プロヴァンス物語 マルセルの夏』
               “La gloire de mon père”
『プロヴァンス物語 マルセルのお城』
               “Le château de ma mère”
1895年生―1974年没のフランスの小説家、劇作家、映画作家
であるマルセル・パニョルが、1957年に発表した自伝『少年
時代の思い出』を、1961年『わんぱく戦争』などのイヴ・ロ
ベールの脚色、監督により、1990年に2部作として映画化し
た作品。それが4Kリマスターにより再公開される。
その第1部で、小学校教師の父親とお針子の母親を両親に持
つマルセルは、幼い頃から読み書きが出来、学校から名門校
への推薦枠に選ばれる。だが勉強が厳しくなり、母親はあま
り賛成ではないようだ。
そして弟と妹も生まれた9歳の夏休み。一家は伯父夫妻と共
にラ・トレイユ(プロヴァンス)の自然の中に建つ家へとや
って来る。そこで野山で暮らす少年リリーと出会ったマルセ
ルは、大自然の素晴らしさを体感する。
その一方、父親も初めて手にした旧式の猟銃で大きな山鳥の
狩猟に成功するなど自然を満喫して行ったが…。やがて夏休
みも終わりの時を迎える。
そして第2部では、クリスマスと復活祭の休暇にもラ・トレ
イユにやってきた一家。そこでマルセルは少し異様な初恋と
失恋も体験する。それでも母親は毎週末のラ・トレイユ行き
を提案し、ちょっとした策略でそれを実現してしまう。
しかし列車の終着駅から徒歩4時間の道のりは幼い子供もい
る一家にはかなり過酷だった。そんな時、父親の教え子だっ
た運河の管理人に近道を教わるが…。

出演は、マルセル役のジュリアン・シアマーカと、リリー役
のジョリ・モリナス。2人はこの2作以外にはフィルモグラ
フィーが見つからなかった。他には2006年『裏切りの闇で眠
れ』などのフィリップ・コーベール、2007年『屋敷女』など
のナタリー・ルーセルらが脇を固めている。
また第2部には、2003年2月紹介『ロスト・イン・ラ・マン
チャ』などのジャン・ロシュホールが出演している。
原版は1991年の夏と年末に日本でも公開されているが、前編
は好評だったが、後編を観たという人が意外と少なかった。
それは後編を観ると確かに内容がかなりシビアで、少し心が
痛む作品のせいかもしれない。
しかしこれは20世紀初頭の現実なのだし、観客はその悲しみ
もしっかりと受け止めるべきものだろう。海外では第2部の
ポイントを高くしている紹介も多いようだ。
因に原作者の遺体はラ・トレイユの市営墓地に、両親と弟、
妻と共に埋葬されているが、その傍にはリリーの墓もあるそ
うだ。

公開は8月4日より、東京はYEBISU GARDEN CINEMA他にて、
2作同時ロードショウとなる。

『かごの中の瞳』“All I See Is You”
2017年4月9日題名紹介『カフェ・ソサエティ』などのブレ
イク・ライヴリーと、2018年5月紹介『ウィンチェスターハ
ウス』などのジェイスン・クラークの共演で、かなり捻りの
利いた夫婦関係のドラマ。
主人公は幼い頃に両親と同乗した交通事故で視力を失った女
性。夫の仕事の都合でタイで暮らしているが、視覚障害の上
に言葉も通じない生活はかなり大変そうだ。それでも彼女は
懸命に生きている。
そんな時、医師の診断で角膜移植をすれば視力回復の可能性
のあることが判り、しかも早速に手術のチャンスが訪れる。
そして手術は成功し、視力も徐々に回復し始めるが…。
最後に見たのは事故で死んだ両親の顔だった彼女は、視力の
回復に喜びを隠せない。しかしそんな彼女の周囲で様々な出
来事が起こり始める。その一方で彼女はギターを習い、ある
思いを込めた歌を作ろうとする。

共演は、2013年『フルートベール駅で』などのアナ・オライ
リー、2014年6月紹介『アイ・フランケンシュタイン』など
のイヴォンヌ・ストラホフスキー、2016年12月紹介『汚れた
ミルク』などのダニー・ヒューストンらが脇を固めている。
脚本と監督は、2014年3月紹介『ディス/コネクト』などの
マーク・フォースター。製作も兼ねての作品だ。
視力の回復して行く様子が視覚効果を駆使して描かれ、それ
は観客にも一緒に体験できるような感覚になっている。その
ヴィジュアルは、最近のCGI一辺倒のVFXとはちょっと
違った感覚で、少し懐かしさも感じてしまった。
事故で失った視力を手術で取り戻すという展開には、1977年
に大林宣彦監督が手塚治虫の原作を映画化した『瞳の中の訪
問者』を思い出したが。本作ではより現実的に夫婦の心のす
れ違いを描く。それはかなり際どい描写も含むものだ。
実は本作の試写は先週紹介のタイミングで行われたが、邦題
などの情報制限があり紹介を遅らせた。その先週分ではシア
ーシャ・ローナン主演の『追想』を題名紹介しているが、ど
ちらも夫婦関係のちょっとした行き違いを描いたものだ。
両作とも少し特殊なシチュエーションではあるが、夫婦間の
信頼など、基本的な部分は普遍的なものであり、現代にこう
いう機微を映画が描くことの意義も感じた。
それと本作では結末に多少議論を呼びそうだが、これも先週
題名紹介の『タリーと私の秘密の時間』と同様に、鑑賞した
後でいろいろ話し合って欲しいもの。さらにタイ、スペイン
にロケした風物も楽しめる作品になっている。

公開は9月より、東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『ブッシュウィック 武装都市』“Bushwick”
(2007年9月紹介『ヘアスプレー』などのブリタニー・スノ
ウと、2017年5月紹介『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシ
ー』などのデイヴ・バウティスタ共演で、見慣れた街が侵略
者に襲われる恐怖を描くサヴァイヴァルアクション。主人公
が祖母の住むNY近郊の地下鉄駅に降りた時、ホームには人
影がなかった。それでも気にせず改札口に向かう主人公だっ
たが、そこに火だるまの人間が転がり込んでくる。そして恐
る恐る出口から覗いた主人公の目に入ったのは、街中で繰り
広げられる戦闘シーンだった。それでも祖母の家に向かう決
意を固めた主人公は途中で屈強な男と出会い、徐々に事態も
判明してくるが…。物語は架空イヴェントものとして、それ
なりに巧みに作られている。原案と監督は、2015年12月紹介
『ゾンビスクール!』などのジョナサン・ミロとカリー・マ
ーニオン。公開は8月11日より、東京は新宿シネマカリテ他
で全国順次ロードショウ。)

『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』
           “Peggy Guggenheim: Art Addict”
(美術館で知られる富豪一族の女性が、その展示の中心とな
る現代美術をコレクションするに至る軌跡と、芸術家たちと
の交流を描いたドキュメンタリー。金持ちの芸術愛好なんて
所詮は鼻持ちならないものだが。本作の場合はそのスケール
が違うし、さらに彼女が居なければ陽の目を見なかったかも
しれない芸術家を見い出したことに関しては、ある種の痛快
さも感じる不思議なものになっている。その彼女に見い出さ
れた芸術家では、2003年に映画化されたジャクスン・ポロッ
クが有名なようだが、本作によるとオスカー俳優ロバート・
デ・ニーロの両親もその恩恵に与っていたそうで、俳優自身
がその様子を語る姿には映画ファンとして親しみを感じさせ
るものにもなっていた。作品は伝記用に生前録音されて長く
行方不明だったインタヴューに基づいており、中には新たな
認識もあるようだ。公開は9月上旬より、東京は渋谷のシア
ター・イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『MEGザ・モンスター』“The Meg”
(アメリカのSF作家スティーヴ・オルテンが1997年に発表
したデビュー作で、その後シリーズ化もされている長編小説
の映画化。古代に生息した巨大鮫メガドロンがある事情から
現代に出現しパニックを引き起こす。発端は中国沖合の公海
上に作られた海洋研究施設。そこでは世界最深とされるマリ
アナ海溝の海底の下にさらに水域があるという仮説の許に、
その水域を探査する研究が進んでいた。そして遂に探査艇が
水域への侵入に成功するが、それは古代よりそこに生息して
いたメガドロンを外部におびき出すことになってしまう。し
かもテリトリーを犯された巨大鮫は人類に襲い掛かる。出演
はジェイスン・ステイサム、リー・ビンビン。他にルビー・
ローズ、TVシリーズ『ヒーローズ』のマシ・オカらが脇を
固めている。監督は、2004年12月紹介『ナショナル・トレジ
ャー』などのジョン・タートルトーブ。これも巨大生物もの
の一環かな? 公開は9月7日より、全国ロードショウ。)

『春画と日本人』
(2013年10月から2014年1月にロンドンの大英博物館で開催
された「大春画展」。その巡回展の日本での開催実現を巡る
ドキュメンタリー。イギリスでの展示にも「16歳未満保護者
同伴」の規定が設けられたそうだが、日本ではそれ以前に公
立の施設では開催そのものが拒否されたそうだ。それは当初
は好意的に進むものの、最後は何処かの反対で拒絶されると
いう。最終的には細川護熙氏が運営する永青文庫美術館で開
催されたが、そこに至る状況が描かれる。一方、本作では春
画そのものに対する研究者らの解説も実物に則しながら丁寧
に行われ、そこでは春画に対する認識を新たにすることもで
きた。正直には外国映画で日本人男性が‘Oh! UTAMARO’と
称される訳も明白に理解できたもの。実に興味深い作品だ。
なお本作は特別に上映を見せて貰ったが、プレス資料等はな
く、映画サイトにも情報は出ていない。公開の予定はあるよ
うなので、その時に改めて紹介したいものだ。)

『愛しのアイリーン』
(地方の農村を舞台にフィリピン妻を迎えた農家の跡取りを
巡る騒動を描いた作品。主人公は、畑仕事は老いた母親に任
せ、現金収入のあるパチンコ屋で働いている40代男性。同僚
の女性に食事に誘われ有頂天になるが、本気は困ると宣告さ
れる。そんな息子の不甲斐なさに業を煮やした母親がついに
詰ってしまうと、息子はふいと居なくなる。その留守中に認
知症だった父親が死去し、その葬儀の最中に息子が帰ってく
る。しかもフィリピン妻を連れて…。というお話だが、ここ
からの展開がかなり過激で、正直唖然としてしまった。でも
これがフィクションの面白さだし、こんなこともあるかな?
といった感じのお話だ。出演は、安田顕とフィリピン女優の
ナッツ・シトイ。他に木野花、伊勢谷友介、田中要次、品川
徹らが脇を固めている。脚本と監督は、2016年2月紹介『ヒ
メアノ〜ル』などの𠮷田恵輔。公開は9月14日より、東京は
TOHOシネマズシャンテ他で全国ロードショウ。)

『スペースバグ 7話〜12話』
(6月3日に紹介した作品の続き。前回宇宙ステーションを
辛くも脱出したコオロギ、クモ、ネムリユスリカの3匹は宇
宙連絡船で一路地球を目指すが、宇宙嵐に遭遇。操縦不能の
まま砂漠の惑星に不時着する。そこで破壊された宇宙船を発
見し、さらにミツバチのエレンと出会う。しかしその星には
3匹の後を追うカエルたちも辿り着いていた。こうして砂漠
の惑星での新たな冒険が始まる。どうもシリーズ全体のコン
セプトが6話ごとに新たな星に辿り着くようで、環境の違う
中での異なる冒険が展開される。話は様々なギミックも登場
してそれなりに楽しめるものだ。ただ今回の展開では、11話
と12話の間で話が少し飛んでいる感じで、それはまあ前後の
状況から補間することは出来るが、少し気になった。出来れ
ばこの先も紹介したいものだが、どうもサンプルDVDの作
成が順調でないようで、その場合はご容赦願いたい。公開は
7月8日より、東京はMXテレビで放映中。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二