井口健二のOn the Production
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2018年06月10日(日) アラーニェの虫籠(きらきら眼鏡、最後のランナー、2重螺旋の恋人、性別がない、ストリート・オブ・ファイヤー)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『アラーニェの虫籠』
NHK「みんなのうた」や、押井守監督作『イノセンス』の
ディジタル・エフェクトなどを手掛けてきたアニメーション
作家の坂本サクが、原作・脚本・アニメーション・音楽の全
てを1人の手で作り上げた75分の作品。
物語の舞台は、郊外の工場跡地に建つ巨大集合住宅。そこに
引っ越してきた女子大生が主人公。ところがそこは、女子高
生の変死体が発見されたり、不可解な心霊現象が目撃される
など、怪異な噂が絶えない場所だった。
そしてある夜、救急車で搬送される老婆の腕から大きな虫が
飛び出るのを目撃した主人公は、その虫のことを調べる内、
民俗学者と出会い、過去にもこの地域で、奇妙な虫の目撃例
が多発していたことを知る。
それは“心霊蟲”と呼ばれ、古来から人知れず存在していた
という。しかもその“虫”を見た者の中には、不気味な予兆
と共に、変死を遂げた者も少なくないため、“虫の呪い”と
も言われていた。
そんな呪いの恐怖に怯えながらも、彼女は様々な人たちとの
出会いを通して、自らも蟲や心霊現象の正体に迫って行くこ
とになるが…。

声優は、主人公に2017年3月紹介『夜は短し歩けよ乙女』な
どの花澤香菜。他に、2018年4月22日題名紹介『仮面ライダ
ーアマゾンズ』などの白本彩奈、2004−05年『特捜戦隊デカ
レンジャー』などの伊藤陽佑らが脇を固めている。
映画の前半は、その映像や雰囲気などが、1977年のダリオ・
アルジェント監督作『サスペリア』を思い出させるような見
事なホラーが展開される。これでこのまま最後まで描き切れ
たらとんでもないものになるという予感もしたものだ。
しかし後半になると、ある種の日本アニメの定番のような展
開で、それは伏線もしっかりと敷かれて破綻のない展開では
あるのだが、ホラー好きの自分としてはちょっと物足りない
感じではあった。
もちろんこれが日本アニメに求められているものだし、この
展開が内外のファンに喝采されることは理解しているもので
はあるのだが、前半の雰囲気を最後まで全うしてくれたら、
それも凄い作品になったのではないかと思う。
でもそれをやっちゃったら、日本のアニメファンにはそっぽ
を向かれてしまうのかな?

作品は、6月のアヌシー国際アニメーション映画祭で併催の
世界最大級のアニメ見本市MIFA(Marché international du
film d'animation)への出展が決定しており、そこでの評価
も楽しみだ。
日本公開は8月中旬より、東京はシネリーブル池袋他で全国
順次ロードショウとなる。

この週は他に
『きらきら眼鏡』
(2014年9月紹介『ヲ乃ガワ』の製作者で、2016年『つむぐ
もの』などの犬童一利監督が、2011年1月紹介『津軽百年食
堂』などの森沢明夫による同名の小説を映画化。主人公は恋
人を事故で失って以来、人との付き合いを避けて暮らしてき
た若者。そんな彼がふとした切っ掛けで出会ったのは、心に
「きらきら眼鏡」を掛けていると称する女性だった。しかし
彼女にも秘めた苦悩があり、それが2人の出会いに影を落と
す。出演は本作で映画デビューの金井浩人と、2014年2月紹
介『そこのみにて光輝く』などの池脇千鶴。他に安藤政信、
2017年7月紹介『東京喰種』などの古畑星夏らが脇を固めて
いる。物語では「きらきら眼鏡」という発想が素晴らしい。
しかしそれが映像では表現されない。それは外連を避けたた
めと推察されるが、映画人としてここには挑戦があっても良
かったのでは? 公開は9月15日より、東京は有楽町スバル
座他で全国順次ロードショウ。)

『最後のランナー』“On Wings of Eagles”
(オスカー受賞作『炎のランナー』のモデルとなった1924年
パリオリンピックの金メダリスト、エリック・リデルのその
後を、実話を基に描いたとされる人間ドラマ。敬虔なクリス
チャンだったリデルは宣教師となり、オリンピックの翌年に
元々の生地だった中国天津に赴任する。しかし1937年、日本
軍の占領によって欧米人の人権は迫害されるようになってゆ
く。そんな中で、金メダリストがいると知った敵国人収容所
の指揮官がリデルに勝負を申し入れるが…。出演はジョセフ
・ファインズ。製作、脚本、監督は、1994年『項羽と劉邦』
などのスティーヴン・シン。実話に基づくとされているが、
本作の基になったと思われるリデルの天津での教え子スティ
ーヴン・メティカフの自伝では、彼らが居た敵国人収容所の
環境は、戦争捕虜収容所ほど過酷ではなかったそうで、この
辺には多少の誇張があるようだ。公開は7月14日より、東京
は有楽町スバル座他で全国順次ロードショウ。)

『2重螺旋の恋人』“L'amant double”
(2010年9月紹介『Ricky』などのフランソワ・オゾン
監督が、アメリカの女性作家ジョイス・キャロル・オーツの
短編小説を脚色、映画化した作品。原因不明の腹痛に苦しむ
女性が精神科医を訪ね、痛みから解放されると共に彼と恋に
落ちる。そして一緒に暮らし始めた彼女だったが、ある日、
街で彼にそっくりな男性を見掛け、その男性もまた精神科医
だった。その男性にも興味を持ち接近する彼女だったが…。
出演は、オゾン監督の2013年作『17歳』に主演したマリー
ヌ・バクト。相手役に2017年1月29日題名紹介『午後8時の
訪問者』などのジェレミー・レニエ。他にジャクリーン・ビ
セットらが脇を固めている。事前に周到なリサーチを重ねる
オゾン監督らしく、本作でもまた不思議な医学的症例を物語
に被せてくる。また、主人公が務める美術館の様々な展示品
にも興味が湧いた。公開は8月4日より、東京はヒューマン
トラストシネマ有楽町他で全国ロードショウ。)

『性別が、ない!』
(日本では半陰陽とも呼ばれる、インターセックス=医学的
に染色体などが非定型的、つまり男性でも女性でもないとさ
れる人たちを追ったドキュメンタリー。登場するのはそれを
カミングアウトしている漫画家の新井祥。30歳までは女性と
して暮らし結婚もしたが、染色体検査でインターセックスと
判明し、ホルモン注射などで男性化。そのため離婚して東京
から名古屋に転居。現在は専門学校の非常勤講師をしながら
自らを題材にしたエッセイ漫画を発表している。そして漫画
家には美少年でゲイのアシスタントがいて、彼もカミングア
ウトした漫画でデビューを果たす。そんな2人がタイに取材
に行ったり、他のインターセックスの人との交流などが描か
れる。ゲイや女装家に関しては、僕自身は正直半信半疑な部
分もあるが、本作は正に医学的にもそうである訳で、その実
体験などは聞くに値するものだ。公開は7月28日より、東京
はUPLINK渋谷他で全国順次ロードショウ。)

『ストリート・オブ・ファイヤー』“Streets of Fire”
(2017年12月紹介『レディ・ガイ』などのウォルター・ヒル
監督が1984年に発表した青春アクション。物語は、地元出身
の女性歌手が故郷で開いたチャリティーコンサートの会場か
らギャング団にさらわれ、その救出のため歌手の元恋人の主
人公が呼び戻される。そして歌手のマネージャーと流れ者の
女性兵士と共に、ギャング団の本拠に乗り込むというもの。
出演は、マイクル・パレとダイアン・レイン。それにリック
・モラニス、ウィレム・デフォーらが脇を固めている。製作
者として『エイリアン』を成功させたヒルの、監督としては
『48時間』の次の作品であり、当時42歳の監督の最も脂の乗
った作品とも言える。それでいながらロック音楽をど真ん中
に据えて、正に若さを感じさせる作品だ。因にレインの歌声
は吹替えだが、複数の歌手のユニゾンを合成したという歌唱
の迫力もディジタル・サウンドで復活する。公開は7月21日
より、東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二