井口健二のOn the Production
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2018年05月27日(日) 第二警備隊(英国総督最後の家、ヒトラーを欺いた、高崎グラフィティ、国家主義の、輝ける人生、祝福、ブエナ・ビスタ)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『第二警備隊』
2018年2月紹介『バケツと僕!』で製作総指揮を務めた柿崎
ゆうじが、自らの監督で、自らが経営する民間警備会社での
実体験に基づく物語を映画化した作品。
柿崎監督は、以前には短編作品で各国の国際映画祭での受賞
歴もあるようだが、長編映画での力量は不明。従って本作に
関しても正直あまり期待は持っていなかった。しかも冒頭に
は追悼の献辞が掲げられていて、これはやばいかなと思って
しまったものだ。
しかし本編に入ると物語は予想以上に巧みに作られていた。
まず物語は墓参のシーンから始まる。ここで登場人物の1人
の死が宣言されてしまう訳だが、ここからその人物の死に至
る物語が展開される。それが見事な緊張感の中でしっかりと
綴られていた。
物語の主題は、ある名刹に対する政治団体による嫌がらせ。
その対策を寺の住職が大学の後輩だった主人公に相談すると
ころから始まる。そこで警備会社を経営する主人公は、住職
家族への身辺警護を開始すると共に、団体からの要求はすべ
て拒否することを確認するのだが…。
街宣車などを使った嫌がらせはどんどんエスカレートして行
くことになる。その嫌がらせに如何に対処して行くのか?
当然警察へも相談を持ち掛けるが、警察は民事不介入を盾に
協力を拒んでくる。そして嫌がらせは近隣住民や寺の総代、
さらには家族の故郷の親族へと広がり始める。
警察の動きの悪さなどには苛々させられ、さらに嫌がらせの
巧みとも言える手口にも呆然とさせられる。そんな我々でも
陥れられるかもしれない恐怖が克明に描き出された作品だ。
しかもこれは実体験に基づいているのだというのだから…、
全く恐ろしいホラーにも似た感覚だった。

出演は、筧利夫、出合正幸、竹島由夏、野村宏伸。他に伊藤
つかさ、伊吹剛、麿赤兒、赤座美代子らが脇を固めている。
試写状に書かれていた作品のコンセプトを読んだ時にはいろ
いろなエピソードの羅列かな?程度に考えていた。しかし作
品は1つの主題で真っ向から押し通す。それだけ作者にとっ
ても思い入れのある内容なのだろう。そんな一途な気持ちも
伝わってくる作品だった。
その一方で、最近の学校でのいじめを描いた映画が、いじめ
を撲滅すると言いながらその手口を紹介しているような作品
が多いのに対して。本作では集団による嫌がらせへの対処法
を克明に綴っている。この点にも好感が持てた。ただそれが
完璧ではないところも、作者の気持ちなのだろう。
そんな作者の想いが様々に伝わってくる作品だ。

公開は、東京は6月16日より新宿武蔵野館、大阪は6月30日
よりシネリーブル梅田で、それぞれ2週間限定ロードショウ
となる。

この週は他に
『英国総督最後の家』“Viceroy's House”
(1947年のインド・パキスタン分離独立に際して最後の英国
総督としてその任を務めたルイス・マウントバッテン伯爵を
描いた作品。第2次世界大戦後のインドでは、ガンジーらの
運動もあって独立の機運が高まる。そこで宗主国イギリスは
その道筋を付けるべく、ヴィクトリア女王の曾孫である伯爵
を送り込む。しかし現地ではヒンディー、シーク、イスラム
の宗教対立が根強く、特にイスラムの指導者が分離独立を唱
え始める。その中でヒンディーのネールらは単一での独立を
望んでいたが、その混乱が国民に波及して行く。映画は豪華
な総督邸の描写に始まり、当時のニュース映像なども織り込
んでその状況を描いて行く。出演は2017年12月10日題名紹介
『パディントン』などのヒュー・ボネヴィルと、『X-ファイ
ル』のジリアン・アンダースン。脚本と監督は2002年『ベッ
カムに恋して』などのグリンダ・チャーダ。公開は8月11日
より、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『ヒトラーを欺いた黄色い星』“Die Unsichtbaren”
(第2次世界大戦下のベルリンでは、ナチスによるジェノサ
イドが行われる中、多数のユダヤ人が密かに暮らしていた。
その数は当初は7000人とも言われ、その内の1500人が戦後ま
で生き延びたとのことだ。そんな4人の生存者の証言に基づ
くドラマ作品。彼らの多くは善良なドイツ市民の庇護で救わ
れるが、中には手先の器用さで身分証明書を偽造し、それを
売ってかなり優雅な生活をしていた猛者もいたようだ。そん
な歴史の裏側のドラマがインタヴュー映像や当時の記録映像
と共に描かれる。インタヴューの画質が甘いのは初期のHD
での撮影と思われるが、挿入される当時の映像の中にカラー
があったことには驚いた。アメリカが沖縄戦線などの記録で
カラーフィルムを使用したのは知っていたが、戦時下のドイ
ツでそれが行われていたのは、映画史的にも貴重な映像だ。
そんな見所もある作品になっている。公開は7月28日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『高崎グラフィティ』
(2016年にスタートした「未完成映画予告編大賞」で第1回
グランプリに選ばれた作品を、川島直人監督が3000万円の助
成金を得て本編映画化した長編デビュー作。群馬県高崎市を
舞台に卒業式を終えた高校3年生の男女5人による青春群像
劇。地元に残る者、東京へ出て行く者。そんな未来への不安
が一杯の中で、いくつかの事件が交錯する。中心になる5人
には佐藤玲、萩原利久、岡野真也、中島広稀、三河悠冴とい
う若手が選ばれ、その脇を川瀬陽太、渋川清彦らが固めてい
る。題名からは1973年のジョージ・ルーカス監督作が思い浮
かぶが、同様に本作も5人の誰かに感情移入できるところが
眼目だろう。そして本作では女子を描いたことに時代を感じ
させる。また渋川の役柄が、後半の展開では先が読めるもの
の、主人公の焦燥感に重なる良いアクセントになっていた。
公開は、すでに4月に行われた高崎映画祭のクロージングで
上映されたようだが、一般公開は8月に予定されている。)

『国家主義の誘惑』“Japon, la tentation nationaliste”
(パリ在住で、フランスやヨーロッパのテレビ向けに多くの
ドキュメンタリー作品を手掛けている渡辺謙一監督が、原状
の日本と戦前の日本とを重ね合せて、日本国の進むべき道を
問うフランス製作の作品。内容的には安倍晋三のやることに
真っ向から反旗を翻しているもので、その論点は判り易い。
しかもそれを海外の歴史学者などへのインタヴューで明らか
にして行く。それは「外国人の言うことなど…」という短絡
的な反論も出てくるだろうが、これが海外の特に知識人たち
が日本を観ている目なのであって、それを看過することはで
きないものだ。その中には日本人には今更の部分もあるが、
日本人では考えない洞察があることも見逃せない。また昭和
天皇及び現天皇の言葉に対する考察も興味深かった。今こそ
全日本人がしっかりと観て考え、議論して、日本の行く末を
見直す材料とするべき作品だ。公開は7月28日より、東京は
ポレポレ東中野他で全国順次ロードショウ。)

『輝ける人生』“Finding Your Feet”
(共に『ハリー・ポッター』シリーズで悪役側を演じたイメ
ルダ・スタウントンとティモシー・スポールの共演で、第2
の人生を歩み出そうとする中年の男女を描いたドラマ作品。
主人公は内助の功で夫が受勲してレディの称号を得た女性。
ところがその祝宴の最中に夫の不倫が発覚し、彼女は下町に
住む疎遠だった姉の家にやって来る。その姉は独身でエコ活
動などに忙しかった。こうして180度違った暮らしに放り込
まれた女性だったが、徐々に昔の暮らしを思い出し、幼い頃
に熱中したダンスを通じて親しい男性もできてくる。監督は
2006年2月紹介『ファイヤーウォール』などのリチャード・
ロンクレイン。「郷に入っては郷に従え」ではないけれど、
自分もこんな年齢になってくると、このようなことがあって
も楽しいかな? しょぼくれてなんかいられない! そんな
気持ちにさせてくれる作品だ。公開は8月より、東京はシネ
スイッチ銀座他で全国順次ロードショウ。)

『祝福〜オラとニコデムの家〜』“Komunia”
(2017年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で最高賞を受賞
した作品。登場するのはポーランド・ワルシャワ郊外の下層
階級の街で、父親と自閉症の弟と共に暮らす少女。母親はお
らず、父親に収入はあるようだが余り覇気は感じられない。
少女はそんな家族を1人で護っている。そして少女のささや
かな夢は、弟が初めての聖体拝受に成功すれば、家族がまた
一つになれるというものだったが…。共産政権時代の名残り
なのか、最低限の社会保障のようなものはあるようだが、生
活レヴェルは最低線という感じ。そんな中で少女は健気に生
きている。映画では何を聞きつけたのか突然母親が帰ってく
るシーンがあったり、それなりの展開はあるが、結局は元と
変わらない生活が続いて行く。哀しいけどこれが現実。ただ
最後のシーンの弟のベルトは、出来るようになったのかな?
公開は6月23日より、東京は渋谷ユーロスペース他にて全国
順次ロードショウ。)

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ アディオス』
          “Buena Vista Social Club: Adios”
(ヴィム・ヴェンダース監督が1999年に発表しオスカー候補
にもなった音楽ドキュメンタリーから18年、高齢化の団員の
何人かは他界して最後の世界ツアーが行われる。その模様を
2013年5月紹介『ヴィック・ムニーズ/ごみアートの奇跡』
のルーシー・ウォーカー監督が描いた2017年の作品。ヴェン
ダース監督作品の公開では世界的なキューバ音楽ブームが巻
き起こり、正にセンセーショナルだったが、本作ではさらに
そのルーツなども掘り起こし、ウォーカー監督らしい見事な
作品になっている。また僕としては、2000年の前作公開時に
は歌詞に字幕が付かず、歯痒い思いのした記憶があるが、今
回は歌の内容もリンクしてより感動の深まる作品になってい
る。それは団員たちが体験したキューバの当時の状況なども
反映したものだ。そんな奥深い部分も描ている作品だ。公開
は7月20日より、東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国順次
ロードショウ。) 
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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