井口健二のOn the Production
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2018年05月06日(日) クジラの島の忘れもの、ミッドナイト・サン、ウィンチェスターハウス

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『クジラの島の忘れもの』
今年、日本とベトナムが国交樹立45周年を迎えたのを記念し
て製作された両国間の民間レヴェルでの交流を描いた作品。
時代背景は2007年、舞台は沖縄。東京から病気がちの叔母の
許に引っ越してきた主人公は、普段は快活にふるまってはい
るものの何処かに陰のある女性。そんな女性が旅行代理店に
就職し、先輩と共に営業で訪れた会社には東南アジアからの
研修生が働いていた。
そこで彼女はベトナム人の若者と出会う。そして彼からベト
ナムでは誕生日には、その日を迎えた者が産れたことへの感
謝を込めて周囲にプレゼントを渡す風習があると聞かされ、
彼女は自分の誕生日が1月17日だと告げる。
一方、営業先から研修生の修了記念旅行の企画を依頼された
彼女は、座間味島へのホエールウォッチングを提案し、先輩
と共に添乗でその島に向かうことになるが…。そこは震災で
亡くなった母親と再訪を約束した場所だった。

出演は、2014年1月紹介『偉大なる、しゅららぼん』などの
大野いと。それにミャンマー出身で小学4年の時に来日し、
ダンスヴォーカルユニット「PrizmaX」のメインヴォーカル
としても活躍中の森崎ウイン。
なお森崎は、2009年11月紹介『パレード』などに出演。さら
に2018年、スティーヴン・スピルバーグ監督『レディ・プレ
イヤー1』にはオーディションから挑戦して、準主役級に大
抜擢された。
監督は沖縄出身で、大学卒業後に東京の制作会社で短編映画
や広告映像を手掛け、帰沖後は地元で制作会社を立ち上げて
沖縄県内外の映像制作を行っている牧野裕二。また、脚本は
テレビシリーズを多く手掛ける嶋田うれ葉が担当した。
日越の国交樹立は1973年だが、その前にはヴェトナム戦争の
時代があった訳で、日本が直接参戦はしていないものの、特
に沖縄は北ヴェトナムへの爆撃機の発進基地となり、正に当
事者として機能していた。
しかし本作ではそんな歴史には全く触れずに、男女の恋愛事
情に終始している。それは今の日本政府のあり方などを考え
ると正に触らぬ神に祟りなしなのだろうが、ベトナム側はど
うなのだろう?
でもまあ本作は日本映画なのだから、その辺は理解してあげ
なければならないのだろう。なお本作は沖縄県の制作支援で
作られたものだ。
ただ映画の後半は、せっかく現地ロケをしているのだから、
もう少しベトナム各地の風物なども観たかったかな。座間味
島のホエールウォッチングだけでなく、ベトナム側でも観光
映画的な要素も入れて欲しかった。
1995年1月17日の阪神淡路大震災は、当初の何が起きている
か全く判らないという状況から、正に街が震災に遭っている
という感じで強い恐怖を覚えた。それは明らかな自然災害の
東日本大震災とは違う感覚だったと言える。
こんなことを思い出させてもくれる作品だった。

公開は5月12日より、東京は渋谷シネパレス他にて全国順次
ロードショウとなる。

『ミッドナイト・サン タイヨウのうた』“Midnight Sun”
2006年5月紹介『タイヨウのうた』のハリウッド版リメイク
作品。
主人公は、色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum=XP)
という紫外線に当たるだけで皮膚癌を発症する難病の少女。
しかし音楽の好きな少女は昼間は出歩けないため、夕方まで
家に籠って作曲をし、夜の街角でギターを抱えてストリート
ライヴを行っている。
そんな少女は必ず日の出までには帰宅し、夜明けまでの間、
紫外線遮断のスクリーンを下ろした窓から早朝のバス停を眺
める。そのバス停に現れる少年を見るために。それはいくら
夢見ても、絶対に叶うことのないはずの恋だった。
ところがその夜、高校の卒業パーティを抜け出した少年は、
街角の歌声に引き寄せられる。そして卒業後の将来に不安を
感じていた少年はその歌声に魅せられ、一目見た彼女に恋を
するが…。

出演は、ディズニーチャンネルのヒットドラマでブレイクし
たベラ・ソーンと、アーノルド・シュワルテェネッガーの息
子のパトリック・シュワルツェネッガー。他に、‘Saturday
Night Live’出身のロブ・リグル、2011年『処刑教室』など
のクイン・シェパードらが脇を固めている。
監督は、2006年のチャニング・テイタム主演作を第1作とす
る“Step Up”シリーズの第4作を担当したスコット・スピ
アー。彼は3部作で発表された“Immortal City”シリーズ
の小説家でもあるようだ。
因に本作の試写は3月8日に内覧で観たものだが、この時は
情報解禁前だったため紹介を割愛してしまった。しかし今回
は正式のプレス資料も郵送されてきたので、改めて紹介をさ
せてもらう。
そのプレス資料によると、色素性乾皮症の患者は日本では出
生2万2千人に1人。およそ300〜600人がいると推定されて
いるそうだ。
この人数が多いのか少ないのか判らないが、本作のオリジナ
ルの日本映画の公開時には患者会が病気に対して特定疾患と
しての認定を求める署名活動を行っており、僕自身もその署
名をした記憶がある。
というのも、実は僕が応援している湘南ベルマーレの下部組
織に、当時この病気の子供が所属しており、その子のための
署名活動がトップチームの試合会場でも行われて、その折に
署名をしたものだ。
その甲斐があってか、映画公開の翌年の2007年3月12日に特
定疾患の認定となったものだが、案外近くにその患者がいた
ことにも驚かされた。実際に日本人の患者の割合は欧米人の
10倍以上とも言われており、そのことも心に留めて観て貰い
たい作品だ。

公開は5月11日より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロード
ショウとなる。

『ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷』
                    “Winchester”
本作は2018年4月15日に題名紹介したものだが、その際には
仮だったプレス資料の正式のものが送付されたので、改めて
紹介をさせて貰う。
物語は、合衆国国家歴史登録財に指定されているカリフォル
ニア州サンノゼに実在する邸宅Winchester Mystery Houseが
舞台。
建築主のサラは銃器ビジネスで財を成した一族の相続者で、
製造した銃で殺された人々の霊に呪われていると信じ、家を
建築し続ければ生き長らえるとして、1922年に死去するまで
38年間365日24時間ぶっ通しの増築を続けたという。
そこには銃器ビジネスに纏わる展示と共に、天井にぶつかる
階段や、どこにも通じない扉、さらに多数の隠し通路など、
様々な不思議な設計が存在し、正にミステリーハウスの様相
を呈している。
そんな邸宅の様子がオカルト的な物語と共に興味深く描かれ
る。
時代は1906年、精神科医のエリックは銃器会社の取締役会か
ら大株主であるサラの精神鑑定を依頼される。それは彼女の
精神異常が認められれば、彼女が巨費を投じている邸宅の建
設を止められるためだ。
そして訪れた邸宅は、当時7階建て、部屋数500室もの威容
を誇っていた。しかも増築は365日24時間休みなく続けられ
ていた。そんな中で精神科医の仕事は始まるが、彼の傍には
どこからともなく現れる執事などが付き纏う。
そして謎めいたサラの精神鑑定が進む内、彼の周囲には思い
もよらぬ事態が出現し始める。

脚本と監督は2010年9月紹介『デイブレイカー』や、2015年
1月紹介『プリデスティネーション』などのマイクル&ピー
ター・スピエリッグ兄弟。元となる脚本は先にあったようだ
が、兄弟は2年間に亙り何度も邸宅を訪れて脚本を練り上げ
たそうだ。
そして出演は、Dameの称号を持つヘレン・ミレンと、2015年
7月紹介『ターミネーター:新起動』などのジェイスン・ク
ラーク。因にミレンは、オスカーを受賞した2007年『クイー
ン』などで実在の人物を演じることに定評があるが、本作で
もその才能は如何なく発揮されているものだ。
他に、『プリデスティネーション』にも出ていたセーラ・ス
ヌーク、そのスヌークとはテレビシリーズでも母子を演じた
というフィン・シクルーナ=オープレイ。さらにデヴィッド
・リンチ監督の新作『ツイン・ピークス The Return』など
のエイモン・ファーレンらが脇を固めている。
現存のウィンチェスターハウスは4階建のものだが、本作に
描かれるのは7階建て、そうなった理由は映画の後半に明ら
かにされる。個人的には観に行きたかったが果たせなかった
場所の一つで、今回は内部も丁寧に紹介されて存分に楽しむ
ことができた。

公開は6月29日より、東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国
ロードショウとなる。
        *         *
 今週はゴールデンウィークで試写会がほとんど行われてお
らず、今回紹介した最初の作品はサンプルDVDを提供され
たもの。後の2本は正式のプレス資料が送付されて改めて紹
介させて貰った。
 次週からはまた最新の試写会報告をさせて貰いますので、
よろしくお願いいたします。


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井口健二