井口健二のOn the Production
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2018年04月29日(日) 審判(告白小説、アメリカン・アサシン、兄友、ガチ星、ゲティ家の身代金)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『審判』
1924年に没したチェコの作家フランツ・カフカによる、作者
死後の1927年に発表された未完(ただし発端と結末は完成さ
れていた)長編小説の映画化。
主人公は30歳の誕生日に逮捕される。逮捕と言っても通知が
あっただけで、その通知に来た男たちに付き纏われる以外は
生活に何ら変わりはない。とは言っても通知に従って裁判所
に出向いた主人公は、具体的な罪状も聞かないまま、意味不
明の審理に付き合わされることになる。
このような発端から、主人公の勤務先や住まいの隣人との奇
妙な出来事が綴られて行く。その中には逮捕の通知に来た男
が繰り返し観るという門番のいる謎めいた建物の話なども語
られる。そして主人公は、叔父やその叔父に紹介された弁護
士らと共に逮捕回避の道を探るのだが…。
なお今回の映画化では、物語の背景は現代の日本と思われる
時代に変更されて再構築されている。

脚本と監督は、英国生まれで1988年に来日、上智大学外国語
学部英語学科教授のジョン・ウィリアムズ。監督は2001年の
デビュー作以来4作目で、過去の作品は各国の映画祭などで
グランプリを含む多くの受賞に輝いている。
出演は、監督の過去作にも出ているにわつとむを始め、多く
は常連俳優が締めるが、他に高橋長英、品川徹、歌舞伎役者
の坂東彌十郎らが脇を固めている。
カフカの作品は不条理と呼ばれ、常識では在り得ない物語が
展開されて行くものだが、本作においても社会通念を超えた
理不尽さが随所に描かれる。とは言ってもそれは主人公の立
場から見たものであり、相手側にはそれなりの理論があるの
かもしれない。今回の映画化ではそんなことも感じた。
20世紀を代表する文学の一つともされる原作からは、過去に
も1963年オーソン・ウェルズ監督版や、1992年デヴィッド・
ジョーンズ監督版が知られるが、92年版が1912年を背景にし
ているのに対して、63年版と本作はそれぞれの映画の制作時
が背景にされている。
それは原作の普遍性にもよるものだが、特に今回の映画化を
見ているとむしろ現代の日本にこそ、この作品の意味がある
ようにも感じられた。それはまあ日本に限らず現代の世界の
どの国にも当て嵌まるのかもしれないが…。
因にカフカはユダヤ人だが、ナチスの台頭は原作者の死後の
1933年以降のことだ。

公開は6月30日より、東京は渋谷ユーロスペース他で全国順
次ロードショウとなる。

この週は他に
『告白小説、その結末』“D'après une histoire vraie”
(2012年1月紹介『おとなのけんか』などのロマン・ポラン
スキー監督による2014年『毛皮のヴィーナス』以来、4年ぶ
りの新作。主人公は自らの家族を綴った小説がベストセラー
になった女流作家。しかし次作の筆が進まない彼女の許に、
エルと名のる女性が現れる。彼女は著名人の自伝のゴースト
ライターだと言い、作家同士で理解し合える彼女を自宅に招
いた作家は奇妙な共同生活を始めるが…。出演は監督夫人で
もあるエマニュエル・セニエと、2012年5月紹介『ダーク・
シャドウ』などのエヴァ・グリーン。他にヴァンサン・ペレ
ーズらが脇を固めている。1990年『ミザリー』に似た感じも
あるが、物語はフランスの女性作家デルフィーヌ・ド・ヴィ
ガンの原作に基づくもので、かなり捻りの利いたものだ。脚
本はポランスキーと、2017年4月16日題名紹介『パーソナル
・ショッパー』などのオリヴィエ・アサイヤスが共同で執筆
した。公開は6月23日より、東京はヒューマントラストシネ
マ有楽町他で全国順次ロードショウ。)

『アメリカン・アサシン』“American Assassin”
(2017年3月5日題名紹介『バーニング・オーシャン』など
のディラン・オブライエン、2014年3月紹介『ロボコップ』
などのマイクル・キートン共演で、CIA内の対テロ組織専
門極秘スパイチームにリクルートされた男を描く、ビンス・
フリン原作「ミッチ・ラップ」シリーズ初の実写映画化。主
人公は恋人を無差別テロで殺され、以来独自の手法でCIA
も近づけなかったテロ首謀者を襲った男。その手腕を買われ
た男は、さらに元ネイビーシールズの鬼教官の許で過酷な訓
練を積む。そしてロシアで盗まれた原爆の材料を追うが…。
そこにゴーストと呼ばれる謎の敵が現れる。共演は、2016年
7月紹介『グランド・イリュージョン』などのサナ・レイサ
ンと、2018年3月紹介『オンリー・ザ・ブレイブ』などのテ
イラー・キッチュ。監督はテレビ出身のマイクル・クエスタ
が担当した。クライマックスのVFXは豪華だが、日本人と
してはいろいろ考えてしまうかな。公開は6月、東京はTOHO
シネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)

『兄友』
(累計発行80万部を超えるという赤瓦もどむ原作少女コミッ
クスの実写映画化。2人兄妹の妹と、兄の友人で全く初心な
男子とのややこしい恋愛事情が描かれる。何と言うかそれに
してもという感じのお話で、還暦過ぎのおっさんには何とも
評価が難しいかな。ただ、最近の荒唐無稽のラヴコメでない
ところが多少救われるのかな。まあおっさん的には、初心な
男子より、濡れた靴に新聞紙を詰めるなど家事万端の妹の方
に注目したが、女性にはどうなのだろう? 出演は、2018年
1月28日題名紹介『honey』などの横浜流星(初単独主演)
と、2017年3月12日題名紹介『トモシビ』などの松風理咲。
他に松岡広大、古川毅、小野花梨、人気声優の福山潤らが脇
を固めている。監督は2015年4月紹介『サムライ・ロック』
などの中島良、脚本も同作の中川千英子が担当した。公開は
5月26日より、東京は新宿バルト9他にて1週間限定ロード
ショウ。なお、映画の公開前に同じキャストによる全4話の
ドラマ版も、MBS/TBS系で放送されるようだ。)

『ガチ星』
(戦力外通告されたプロ野球選手が一念発起、競輪選手を目
指すというスポーツ根性ドラマ。サッカーだと下部組織から
トップに上がれなかった選手が競輪を目指すという話は聞く
が、元々足腰が勝負のサッカー選手はともかく、野球のまし
てや投手というのはどうなのかな。ただしプレス資料による
と20代で地方リーグから競輪選手になった人はいるのだそう
だ。そんなお話だが、映画では伊豆の競輪学校がかなり丁寧
に写され、以前にテレビ番組で観たことはあったが中々興味
深かった。出演は自身が元高校球児で、競輪選手だった父親
の影響で卒業後にその道を目指したが、怪我で断念したとい
う安部賢一。実はその後に俳優になるも鳴かず飛ばずだった
安部が「これをやるのは自分しかない」との信念で主演を勝
ち取ったそうだ。他に2017年12月紹介<TANIZAKI TRIBUTE>
『富美子の足』などの福山翔大。さらにモロ師岡、博多華丸
らが脇を固めている。公開は5月26日より、東京は新宿K's
cinema他で全国順次ロードショウ。)

『ゲティ家の身代金』“All the Money in the World”
(1973年にローマで起きた当時世界一の富豪とされるゲティ
家3世の誘拐事件。それは莫大な身代金の金額と共に、その
支払いを当主が拒否したことでも話題になる。その事件の真
相が、誘拐された3世の母親とゲティ家に仕える元CIAの
戦略担当者の目から描かれる。事件自体がセンセーショナル
だけれど、その裏側がさらに興味深い作品だ。出演は2018年
1月紹介『ワンダーストラック』などのミシェル・ウィリア
ムスと、2014年7月紹介『トランスフォーマー』などのマー
ク・ウォールバーグ。そしてクリストファー・プラマー。プ
ラマーは前配役のキャンセルを受け急遽登板したものだが、
違和感のない演技を見せる。他にロマン・デュリス、ティモ
シー・ハットンらが脇を固めている。脚本はジョン・ピアス
ンの原作からデヴィッド・スカルパが脚色。本作は2015年の
ブラックリストに選出され、それをリドリー・スコットが監
督した。公開は5月25日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他
で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二