井口健二のOn the Production
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2018年04月22日(日) 名前(縄文に、仮面ライダーA、カメラを止、母という名、ルイ14世、明日にかける、バトル・S、レディ・B、30年後、犬ヶ島、ゼニガタ)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『名前』
直木賞受賞者で、テレビのクイズ番組などに回答者/出題者
としても登場するミステリー作家の道尾秀介が、書き下ろし
の原案を提供したかなり捻りのあるヒューマンドラマ。
描かれるのはいくつもの名前を使い分けて、その場しのぎの
自堕落な生活を続けている男。男は田舎町の一軒家に住み、
生活費はペットボトル再生工場での力仕事で賄っているが、
そこでも嘘の経歴で職に就いていたようだ。
ところがその嘘がばれそうになった時、ふと現れた少女が彼
の窮地を救う。そしてその少女の出現によって彼の人生が動
き始める。その後も彼の許に現れ続ける少女は、彼の過去に
関りがあるようなのだが…。

出演は、2017年12月3日題名紹介『ニワトリ★スター』など
の津田寛治と、2017年3月26日題名紹介『心に吹く風』など
の駒井蓮。他に筒井真理子、内田理央、波岡一喜らが脇を固
めている。
監督は、2014年11月紹介『横たわる彼女』などの戸田彬弘。
脚本は2017年4月9日題名紹介『ラオス 竜の奇跡』などの
守口悠介。因に、少女の学園生活の部分は道尾の原案にはな
かったものだそうだ。
その少女の存在はかなり謎めかされており、一部にはオカル
トを期待したくなる描写もあるのだが…。全体的には論理的
な物語で、その各ピースがぴたりと嵌って行く展開も心地よ
く感じられる作品だった。
男の生活態度については、謎が解き明かされて行く中でその
理由も理解されるようになっており、それは人生で陥り易い
陥穽かな。別に誰が悪い訳でもないのに、そんな状況になっ
てしまっている。
個人主義が進む現代社会では有り勝ちかもしれない、そんな
ことも考えさせられる。つまり本作は、そんな現代社会の一
面を見事に切り出した作品のようにも見えるものだ。しかも
それが心の襞に吹く暖かい風のように描かれている。
最近の日本映画を観ていると、ヴィジュアルやアクションに
頼って物語がおろそかな作品が多いように感じる。それに対
して本作はまず物語がしっかり構築され、そこにいろいろな
シーンが散りばめられる。
そんな本来の映画の面白さが具現化された作品のようにも感
じられた。そこに道尾の原案が見事に活かされた作品と言え
そうだ。なお道尾の原作料は、芋焼酎の一升瓶1本だったそ
うだ。

公開は6月30日より、東京は新宿シネマカリテ他で全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『縄文にハマる人々』
(約1万5,000年前から約2,300年前まで日本列島で発展した
新石器時代に相当する縄文文化。遮光器土偶や火焔型土器な
ど独特の様式を持った時代に魅せられた人々がその想いを語
るインタヴュー中心のドキュメンタリー。その文化形態には
平等性など現代人の心をくすぐるようなものも多いようだ。
とは言うもののインタヴューを受ける側にはかなり怪しげな
人物もおり、全体的にはうさん臭さも感じられる。でも多分
それが狙いでもある作品なのだろう。正直には環状列石など
も登場する縄文文化には、もう少し世界的な視野に立った解
説も欲しかったところで、敢えて縄文文化の独自性を優位に
描こうとする姿勢には、そこにもうさん臭いものを感じてし
まった。なお本作は土器の魅力を伝えるため、全篇3Dでの
撮影が行われているそうだ。公開は7月上旬より、東京は渋
谷イメージフォーラムにてモーニング&レイトショウ。)

『仮面ライダーアマゾンズ THE MOVIE 最後ノ審判』
(1974〜75年に放送されたテレビシリーズを基に、2016年に
Amazonプライム・ビデオ初の日本オリジナル作品として製作
された新シリーズの完結編。実はシリーズは観ていないが、
本作では人工生命体アマゾンズの殲滅作戦が佳境を迎え、主
人公を含む2体だけが残っているという設定。そして山奥の
村に追い詰められた主人公の前に、人類の危機を背景とした
アマゾンズを巡る新たな展開が登場する。人工生命体という
設定からテーマには2010年12月紹介『わたしを離さないで』
に通じるものも感じられる。アクション中心だがそれなりに
奥深いものもある作品だ。なお描写には地上波テレビ向きで
はない(?)と思わせるものも登場する。出演は藤田富、谷口
賢志、武田玲奈。監督は石田秀範、脚本の監修を小林靖子が
務める。公開は5月19日より全国ロードショウ。なお本作に
先立ってシリーズの総集編も2作公開される。)

『カメラを止めるな』
(2017年11月にイヴェント上映されて大好評を博したという
映画専門学校「ENBUゼミナール」製作の作品。巻頭に37分に
及ぶ1カメラ、1カットのゾンビ映画が登場し、そこからそ
の映画のメイキングのようなバックステージのドラマが展開
される。脚本と監督は、短編映画では各地の映画祭で話題を
振りまいたという上田慎一郎の長編第1作。巻頭の展開では
多少まだるっこしいシーンもあるが、それらの理由は後半で
説明される。その流れは映画ファンのツボには嵌るかな?
でも一般の観客にはどうなのだろう。特に巻頭の部分が多少
稚拙に見えてしまうのは、映画としては勿体ない気がした。
ただしエンディングロールの登場する映像には、本作の別の
側面も見えてくるもので、ここには監督のしたたかさが感じ
られて、正しく脱帽した。公開は6月23日より、東京は池袋
シネマ・ロサ、新宿K's cinemaにて2館同時上映。)

『母という名の女』“Las hijas de Abril”
(2012年『父の秘密』、2015年『或る終焉』でカンヌ国際映
画祭「ある視点」部門の連続受賞を果たしているメキシコ人
監督ミシェル・フランコの最新作。リゾート地に暮らす姉妹
を中心に、幼くして妊娠した妹とそこに現れる母親の確執が
描かれる。とは言うものの、筆者が男性の目で傍から見る感
じだと、正にいやはやという感じかな。日本でもこういう親
のことは「毒親」などの言葉で一般化しているようだが、人
の闇を描き続けるフランコ監督の目には格好の題材だったよ
うだ。出演は、2016年8月28日題名紹介『ジュリエッタ』で
ゴヤ賞受賞のエマ・スアレス。他に、アナ・バレリア・ベセ
リル、エンリケ・アリソン、ホアナ・ラレキ。それにしても
男性には判り難いというか…。でも言葉が一般化するほどの
状況があることも事実なのだろう。公開は6月16日より、東
京は渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『ルイ14世の死』“La mort de Louis XIV”
(「朕は国家なり」の言葉でも知られるフランス王国国王の
最晩年を描いた作品。1715年9月1日に崩御するまでの数日
間が、まるでタイムマシンに乗って現地に行ったかのように
克明に描写される。「ギネス世界記録」にも認定される史上
最長72年もの治世を行い、太陽王とも称される栄華を極めた
国王は、その一方で度重なる戦争によって国を疲弊させ、晩
年には国民の心も離れていたとされる。そんな国王の陳腐と
も言える死の様子。それは他国人の目からすると「だから何
なの」と言いたくなるようなものでもあるが、その国民から
すれば、ある種の覗き見をしたくなるようなものなのかもし
れない。出演は、ヌーヴェルヴァーグの申し子とも呼ばれた
ジャン=ピエール・レオ。脚本と監督はスペインの鬼才アル
ベルト・セラ。公開は5月26日より、東京は渋谷シアター・
イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『明日にかける橋 1989年の想い出』
(2002年『Returner』で人類の未来を救った鈴木杏が、再び
時間を超えて未来を変えようと奮闘する上映時間2時間11分
の作品。2010年、地方都市の中小企業に勤めるOLの主人公
は、20年前の花火大会の朝に弟を失い、当時のバブル経済の
崩壊と共に家族も崩壊した過去を背負って生きていた。そん
な彼女が全力で走り抜けると願いが叶うという橋の伝説を実
行、彼女は花火大会の前日にやって来るが…。脚本と監督は
2015年『向日葵の丘 1983年・夏』などの太田隆文。監督は
バブル期への特別な思いがあるらしく、本作でもその思い出
に浸るようなシーンが羅列される。ただ遠景で風力発電用の
風車が林立しているのは違うと思うが。いずれにしてもその
ノスタルジーに共感できる人には喜ばれるのだろう。しかし
SFとしての共感はあまりなかったかな? 公開は6月30日
より、東京は有楽町スバル座他で全国順次ロードショウ。)

『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
                “Battle of the Sexes”
(1970年代初頭のテニス界において、大会のオープン化に伴
う賞金制度での男女間不平等を訴え、「女子テニス協会」の
設立などに貢献したプロテニスプレイヤー、キング夫人。彼
女が1973年にボビー・リッグスとの「性差を超えた戦い」を
行うまでを描いた実話に基づく作品。内容には多少微妙な点
も含むが、作品はそれらを超えた社会問題として描き切られ
ている。出演はエマ・ストーンとスティーヴ・カレル。カレ
ルのコメディは日本人にはなかなか難しいが、本作はそれを
逆手に取って巧みにクライマックスを盛り上げる。製作はダ
ニー・ボイル、脚本は『スラムドッグ$ミリアネア』のサイ
モン・ボーフォイ。監督は『リトル・ミス・サンシャイン』
のヴァレリー・ファリス&ジョナサン・デイトン。コンペテ
ィションを描くには最強のチームだ。公開は7月6日より、
東京はTOHOシネマズ・シャンテ他で全国ロードショウ。)

『レディ・バード』“Lady Bird”
(2017年4月16日題名紹介『20センチュリー・ウーマン』な
どの女優で、脚本家でもあるグレタ・ガーウィグが、自作の
脚本を初の単独監督でオスカー候補になった作品。監督の出
身地であるカリフォルニアの州都サクラメント市を舞台に、
東部の大学への進学を望む女子高生の最終学年での暮らしぶ
りが描かれる。出演は、2007年12月紹介『つぐない』などの
シアーシャ・ローナン。他に『トイ・ストーリー』シリーズ
のアンディの母親役でも知られる舞台女優のローリー・メト
カーフらが脇を固めている。サクラメントは上記のように州
都であり、都市圏人口は全米27位という街だが、監督の故郷
に対するの印象は違うのかな? 映画では「それどこ?」と
言われて慌ててサンフランシスコと言い直すシーンも出てく
る。でも監督の故郷に対する愛情はしっかりと伝わってくる
作品だ。公開は6月1日より、全国ロードショウ。)

『30年後の同窓会』“Last Flag Flying”
(2014年10月紹介『6才のボクが、大人になるまで。』など
のリチャード・リンクレーター監督が、同作でも感じさせた
国家への不信感を露わにした作品。試写会では馬鹿笑いして
いる奴もいたが、僕には監督の想いの痛々しさしか感じられ
なかった。出演は同じ日2本目だったスティーヴ・カレル。
ヴェトナム戦争で不名誉除隊だった主人公が、30年ぶりに戦
友に会いに来る。それはイラクで戦死した息子を共に弔うた
めだった。しかし基地で遺体を見た彼はアーリントン墓地へ
の埋葬を拒否し、故郷へ連れ帰ることにする。その遺体には
息子の戦友が付き添い。そこで真相が明らかになる。原題の
後ろの2語は国旗掲揚の意味だが、その前にLastと付くのが
痛々しい。共演はブライアン・クランストンとローレンス・
フィッシュバーン。公開は6月8日より、東京はTOHOシネマ
ズ・シャンテ他で全国ロードショウ。)

『犬ヶ島』“Isle of Dogs”
(2012年12月紹介『ムーンライズ・キングダム』などのウェ
ス・アンダースン監督が、ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受
賞。近未来の日本を舞台に、少年と犬との交流を描いた人形
アニメーション作品。犬との共存が長く続いていた日本の大
都市。しかし犬に流行病が発生し、島に隔離する政策が実行
される。その第1号は主人公と長年一緒だったガードドッグ
だった。ところが流行病は収まらず、ついに隔離した犬も抹
殺する法律が施行されることに…。主人公は愛犬を探すため
小型機を奪って島に渡り、そこで出会った犬たちと共に大冒
険が始まる。通訳機によって犬語も他の言語も理解出来ると
いう設定だが、その辺がちょっと判り難いかな。でもまあ犬
好きには堪らない描写も多く、監督の犬好き度は理解できる
作品だ。豪華な声優陣も注目される。公開は5月25日より、
東京はTOHOシネマズ・シャンテ他で全国ロードショウ。)

『ゼニガタ』
(テレビドラマで人気を集め、2018年3月18日題名紹介『家
に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』などに出演の
大谷亮平が、映画初主演で居酒屋の店主と闇金屋の2つの顔
を持つ男を演じる人間ドラマ。闇金の実態がどんなものかは
知らないが、2016年8月紹介『闇金ウシジマくん』などもあ
る中、本作は荒唐無稽とも思える設定でドラマが作られてい
る。それは山田孝之主演作も荒唐無稽だが、本作はちょっと
度が過ぎるかな。どっちがより現実的かは判らないが…。そ
の辺は観客の好みと言えそうだ。共演は小林且弥、佐津川愛
美、田中俊介。他に安達祐実、升毅、渋川清彦らが脇を固め
ている。脚本は『人狼ゲーム』シリーズなどの企画を手掛け
る永森裕二。監督は園子温作品の助監督で『人狼ゲーム』シ
リーズで監督デビューした綾部真弥。公開は5月26日より、
全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二