井口健二のOn the Production
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2018年03月18日(日) プリキュア・SS(フロリダ・P、ラジオ・K、家に帰ると、ガザ、女と男の、天命の、猫は抱、枝葉の、ビッグH、カトマンズ、フジコ・H)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『映画プリキュア・スーパースターズ』
2017年は3月19日と10月22日に題名紹介した『映画プリキュ
ア』シリーズの最新作。2005年にスタートし、2009年からは
毎年2作ずつ製作されているシリーズの第24作目の作品だ。
因に秋公開は現ヒロインの単独だが、今回の春公開では前作
までのプリキュアも登場して新ヒロインを盛り立てる。
その物語は「嘘」をテーマにしたもの。主人公が子供の頃に
約束を破り、結果的に嘘をついてしまったことの因果が現在
の世界に災厄をもたらす。しかもそれはプリキュアのいる全
ての世界に波及するのだ。
始りは郊外の花畑駅にやってきた主人公。仲間の2人を待つ
が列車の遅延でなかなか到着しない。それでも約束を信じて
待ち続け、ようやく揃った3人でお花畑にやって来るが…。
そこに巨大怪人ウソバーッカが現れる。
そこで直ちにプリキュアに変身し、怪人と闘う主人公たちだ
ったが、怪人は滅法強くて主人公以外の2人は怪人の中に取
り込まれてしまう。そのため主人公は以前に知り合った過去
のプリキュアに助けを求める。
一方、怪人の放つ言葉から、主人公の記憶に約束を破ってし
まった少年との思い出が甦る。それは子供の頃に両親と行っ
たダブリンでの出来事。そこで迷い込んだ異世界で出会った
少年を外の世界に連れて行く約束をしたのだった。

声優はテレビ版のレギュラー陣に加えて、ゲストに北村一輝
と、『ハリー・ポッター』シリーズの吹替版で主人公の声を
務める小野賢章。実は記者会見も見たが、そこでの北村の普
段見たことのないデレデレぶりが印象的だったものだ。
その北村は本作では怪人の声を担当しているが、その台詞が
「ウソ」という語に纏わる言葉遊びになっていて、その辺が
大人の観客にも楽しめる。他にもクローバーの花言葉など、
結構深い話が展開する。
物語の始まりなどには、テレビシリーズのシチュエーション
を知らないと判り難いところもあるが、その辺はファン向け
のサーヴィスと取れるし、物語の本筋には関らないので見逃
しても問題はない。
それにしても子育てをする中学生という設定は、単純に親の
世代の自分からすると悩ましいものだが。物語の展開ではい
ろいろ細かい点も気に掛けているようで、その点は納得して
観られたものだ。
ただ物語の最初に登場する駅ホームで、駅名票の隣駅の表示
が途中で左右反対になっているのがちょっと気になった。特
にそれで世界が変ったようなところもなく、まあ単なるケア
レスミスということなら問題はないが。

公開は3月17日より、東京は新宿バルト9、渋谷TOEI他
にて全国ロードショウとなる。

この週は他に
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
                “The Florida Project”
(2016年11月13日題名紹介『タンジェリン』などのショーン
・ベイカー監督がフロリダ・ディズニーワールド近くに建つ
安モーテルを舞台に描いたヒューマンドラマ。ウィレム・デ
フォーがオスカー助演賞の候補になった。主人公は6歳の少
女。無職の母親との暮らしは絵に描いたような貧困だが、少
女自身は同じような境遇の悪ガキたちと奔放な遊びに明け暮
れている。そんな少女たちを、モーテルの管理人は時に厳し
く、時に温かく見守っていたが…。少女の母親が違法行為に
走ったことから運命が変わって行く。出演は少女役にフロリ
ダ出身の子役ブルックリン・キンバリー・プリンス、母親役
にはInstagramで発掘された新人のブリア・ビネイトが起用
されている。結末の捉え方で評価は別れると思うが、僕はあ
まり肯定的には観られなかったかな。公開は5月12日より、
東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)

『ラジオ・コバニ』“Radio Kobanî”
(シリア北部のクルド人の町コバニ。2014年9月からISに
占領された町は、2015年1月にクルド人民防衛隊によって解
放されたが、その数か月間の戦闘によって町は瓦礫の山と化
してしまった。そんな中で人々に希望を与えようと手製のラ
ジオ局を立ち上げた少女の奮闘を描いたドキュメンタリー。
監督は2012年に“Mijn Geluk in Auschwitz”というドキュ
メンタリーとアニメーションの作品でデビューしたクルド出
身のラベー・ドスキー。本作では復興の動きを力強く描くと
共に、過去の戦闘の映像なども挿入して、巧みな作品を作り
上げている。復興とラジオの関係では2013年1月に東日本大
震災関連の『ガレキとラジオ』を紹介したが、日本の作品に
は何かもどかしさを感じたのに対して、本作では正に明日へ
の希望が描かれているのも素晴らしかった。公開は5月12日
より、東京はポレポレ東中野他で全国順次ロードショウ。)

『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』
(「Yahoo!知恵袋」への投稿に端を発し、初音ミクでオリジ
ナル楽曲が制作されたり、コミックスエッセイ化など様々な
メディアに展開されたという作品の映画化。映画の主人公は
結婚3年目のサラリーマン。実はバツ1で結婚生活に自信の
ない彼は、再婚相手に3年目の見直しを提案していた。その
3年目が近づいた日、彼が帰宅すると部屋で妻が血を流して
倒れていた。勿論それは狂言だったが、彼には妻がそうする
理由が判らない。しかも翌日は妻がワニに喰われて倒れてい
た…。出演は榮倉奈々と安田顕。監督は2010年2月紹介『て
ぃだかんかん』などの李闘士男。脚本は2017年3月19日題名
紹介『映画プリキュア・ドリームスターズ!』の坪田文が担
当した。原作がどんなものかは知らないが、映画では榮倉の
死にっぷりが結構様になっていた。公開は6月8日より、東
京は角川シネマ新宿他で全国ロードショウ。)

『ガザの美容室』“Degrade”
(パレスチナ自治区ガザで戦火の下でも逞しく生きる女たち
を描いた作品。舞台はガザの街角に立つ美容室。そこには離
婚調停中の主婦やヒジャブを被った信心深い女性、結婚間近
の娘とその母親、さらに出産間近の妊婦など様々な女性が集
まっている。店には大勢の客がいるが、美容師は2人だけで
順番までは時間が掛かりそうだ。そんな女性たちは世間話な
どに花を咲かせていたが…。突然外の街路で戦闘が始まり、
客たちは店を出られなくなる。それでも平静を保とうとする
が、妊婦に陣痛が始まったり、事態は予断を許さなくなる。
脚本と監督は、双子の兄弟のタルザン&アラブ・ナサール。
長編デビュー作の本作はカンヌ国際映画祭批評家週間に出品
された。これもソリッドシチュエーションと言えるのかな?
とにかくもの凄いお話だ。公開は6月23日より、東京は新宿
シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)

『女と男の観覧車』“Wonder Wheel”
(毎年新作を発表するウディ・アレン監督の2017年度作品。
2017年4月9日に題名紹介の前作『カフェ・ソサエティ』は
1930年代の東海岸と西海岸を行き来する話だったが、今回は
1950年代のニューヨーク・コニーアイランドが舞台。そこの
遊園地の象徴でもある観覧車の傍に住む元女優を主人公に、
夢を忘れず必死に生きる人たちが描かれる。出演はとんでも
ない長台詞に渾身の演技を見せるケイト・ウィンスレット。
それにジャスティン・ティンバーレイク、ジム・ベルーシ、
2014年6月紹介『マレフィセント』などのジュノー・テンプ
ルらが脇を固めている。コニーアイランドは、最近では日本
人も活躍するホットドックの大食い大会などでも紹介される
ようだが、その往時の賑わいが見事に再現されている。これ
がアレンの愛するニューヨークなのだろう。公開は6月23日
より、東京は丸の内ピカデリー他で全国ロードショウ。)

『天命の城』“남한산성”
(1936年に起きた「丙子の役」を題材に、清の侵入に抗して
極寒の山城に立て籠もった朝鮮王朝と民衆の47日間に亙った
闘いの物語。韓国でベストセラーとなった小説の映画化のよ
うだが、和睦か、闘いか、韓国人とってはかなり厳しい内容
とも思える物語が克明に描かれる。出演はイ・ビョンホン、
キム・ユンソク、パク・ヘイル、コ・ス。監督は2012年7月
紹介『トガニ 幼き瞳の告発』などのファン・ドンヒョク。
韓国映画界の精鋭が揃った歴史大作だ。また音楽を韓国映画
には初参加の坂本龍一が担当している。小説の映画化だから
どこまでが史実の通りなのかは判らないが、ほんの一歩のと
ころで歴史が変わって行く。そんな哀しみも描かれている作
品だ。その後の日本との関係も含めていろいろ考えさせられ
た。公開は6月22日より、東京はTOHOシネマズ・シャンテ他
で全国ロードショウ。)

『猫は抱くもの』
(大山淳子の同名小説を、2012年8月紹介『のぼうの城』な
どの犬童一心監督が、2017年4月2日題名紹介『武曲』など
の高田亮の脚色で撮った、かなり凝った構成の作品。主人公
は元アイドルグループのメムバー。グループは解散し、半ば
引退状態の主人公はスーパーでバイトしながら何となく時を
過ごしている。そんな彼女の傍には1匹の猫がいて…。物語
は人間界と猫界が交互に進むが、特に猫界の描き方が見事で
感動的だった。出演は沢尻エリカ、吉沢亮。それに本作の音
楽も担当した「水曜日のカンパネラ」のコムアイ、同じくミ
ュージシャンの「銀杏BOYZ」峯田和伸。さらに岩松了らが脇
を固めている。監督の苗字は犬堂だが、2008年5月紹介『グ
ーグーだって猫である』など本当に猫好きのようで、本作で
もそれが良く表れていた。公開は6月23日より、東京は新宿
ピカデリー他で全国ロードショウ。)

『枝葉のこと』
(2012年の「ぴあフィルムフェスティバル」で準グランプリ
を受賞した二ノ宮隆太郎が監督・脚本・主演を務める私小説
的作品。横浜郊外の自動車修理工場に勤める主人公が、周囲
との関わり合いを嫌いながらも、その中に居場所を見つけて
行く姿が描かれる。ただし物語は、正に題名にある通りの枝
葉末節の出来事が綴られて行くもので、その内容に共感でき
るかどうかで評価は分かれることになりそうだ。正直に言っ
て僕自身は余り共感は出来なかったが、こういう世界がある
場所では現実なのだろうし、それに共感する人たちがいるこ
とに理解はする。その程度に現実的な世界が展開されている
作品ではあるのだろう。ただ何か、映画の中にそういうこと
ではない物が欲しくはなる所で、監督の次回作にはその辺を
期待したい。公開は5月、東京は渋谷のシアター・イメージ
フォーラムにてロードショウ。)

『ザ・ビッグハウス』
(前々回『港町』を題名紹介した想田和弘監督による「観察
映画」の第8作。本作の観察対象は監督が本拠を置く合衆国
で、ミシガン州にある全米最大のアメリカンフットボール・
スタジアム「ザ・ビッグハウス」。その試合の舞台裏が観察
される。僕自身がJリーグのサポーターだから、こういう試
合の舞台裏には興味津々だが、それにしてもその規模の大き
さに圧倒される。大体、スタジアム自体が10数万人の客席を
持ち、毎試合10万人超えの観客が集まるというのだから…。
そこでの警備体制や救護体制、さらには10万人以上の腹を満
たす飲食物の調理・販売など、正に戦場のような勢いで進む
様子が映し出される。それと同時にマーチングバンドの準備
風景や選手の到着の様子など、正に僕が観たいものを全て見
せてくれる作品だった。公開は6月、東京は渋谷のシアター
・イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『カトマンズの約束』
(2015年4月25日に発生したネパール大地震を題材にしたド
ラマ作品。監督は東京情報大学の教授でネパール映画研究の
第一人者とされる伊藤敏朗。すでにネパールを題材にした映
画制作で知られる伊藤監督が第3作の制作中に災害が起きた
とのことで、急遽物語を変えて災害に立ち向かう日本の国際
緊急援助隊の活躍を描く。因に映画の製作と主演を務めた俳
優ガネス・マン・ラマは、この活動により民間人では唯一、
日本隊から感謝メダルを授与されたそうだ。ただ映画として
の物語自体は多少ぎこちなさが出てしまっているが、災害の
前後を映し出す映像には重みがある。東日本大震災でもその
後の様子を描いたドラマ作品はいくつか制作されているが、
正に災害現場でのドラマは日本映画ではまだ見ていないよう
な気がする。その点でも注目できる作品だ。公開は4月30日
より、東京は渋谷ユーロライブ他で上映。)

『フジコ・ヘミングの時間』
(1999年放送のテレビ特集で、60歳を過ぎて突然ブレイクし
たピアニストを追った初のドキュメンタリー。ドイツベルリ
ンの生まれで、父親はスウェーデン人の画家・建築家、母親
が日本人のピアニストという彼女は幼くして戦前の日本に帰
国するが、父親は風土に馴染めずヨーロッパに戻ってしまう
など、かなり数奇な運命となる。そんな足跡も追いながら、
彼女の現在の活躍も描かれる。その中にはドイツの生家や留
学時代の下宿先なども訪問し、正にピアニストの全身像が描
かれる。しかもその中に彼女の語録とも言えそうな素敵な発
言も散りばめられ、これこそファン垂涎の作品と言えるもの
だ。それに世界各所でのコンサートの模様が、これもまた素
晴らしい映像と音響で記録されている。その中には「酷いピ
アノ」と言いながらの演奏も含まれているのも面白い。公開
は6月、東京はシネスイッチ銀座他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二