井口健二のOn the Production
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2018年03月11日(日) ワンダー 君は太陽、ビューティフル・デイ(アンロック、トーニャ、タクシー運転手、マルクス、終わった人、ラスト・ホールド)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ワンダー 君は太陽』“Wonder”
全世界で800万部を超えるというR・J・パラシオのベスト
セラー小説を、2013年9月紹介『ウォールフラワー』の原作
者であり監督のスティーヴン・チョボウスキーが映画化した
作品。
本作では、まずは宇宙ヘルメットを被った子供と思われる体
型の人物のポスターヴィジュアルが目を引いた。とは言え本
作はSFではないのだけれど、ある意味SFに匹敵するファ
ンタスティックな物語だった。
主人公は10歳の普通の少年。しかしある部分が普通ではなか
った。そんな主人公は幼い頃から母親との自宅学習で学んで
きたが、小学5年生の歳についに学校に通うことになる。そ
こには普通でないための障害が待ち構えていたが…。
映画は主人公を含むいくつかの視点が切り替えられて展開さ
れるもので、その構成は普通ではかなりうざく感じたりもす
るもの。しかしチョボウスキー監督はそれを巧みに感動に繋
げていた。

出演は、主人公に2015年『ルーム』の幼い息子役で注目され
たジェイコブ・トレンブレイ。それにジュリア・ロバーツ、
オーウェン・ウィルスン、さらに2015年からのテレビシリー
ズ『スーパーガール』で若き日の主人公を演じたイザベラ・
ヴィドヴィクが共演。
また2003年10月紹介『ピニェロ』などのマンディ・パティン
キンらが脇を固めている。なおエンドクレジットのspecial
makeup effects artistの項目にYoichi Art Sakamotoという
日本人の名前があったが、アカデミー賞の候補者リストから
は漏れていたようだ。
主人公の症状はプロテウス症候群と呼ばれるもので、1980年
のデヴィット・リンチ監督作品『エレファント・マン』の主
人公ジョン・メリックと同じものと思われる。その19世紀の
物語でも心優しかった主人公と同じ感触が本作にもある。
物語自体は、心なき苛めなどいたって定番なもので、それに
対する解決策も定番過ぎるものに見えるが、その底に流れる
人間に対する信頼感が本作を心温まる感動作にしている。そ
の結末が特に素晴らしい。
それは描かれる展開としては、観客の気持ちとはちょっとず
れるのだが、これ自体は教育機関としては致し方ないもの。
そこに本作の監督はいくつかの映像を挿入することで観客の
気持ちを代弁してくれる。そんな優しさに溢れた作品だ。

公開は6月より、東京はTOHOシネマズ日比谷他で全国ロード
ショウとなる。

『ビューティフル・デイ』“You Were Never Really Here”
検索すると“Werewolf Bitches from Outer Space”何て映
画の製作総指揮に名前が出てくる俳優出身ジョナサン・エイ
ムズの原作を、2012年3月紹介『少年は残酷な弓を射る』の
女性監督リン・ラムジーが脚色も手掛けて映画化した作品。
2017年のカンヌ国際映画祭ではラムジーの脚本賞と、主演の
ホアキン・フェニックスが男優賞の、ダブル受賞を果たした
クライムスリラー。サンダンスやサンセバスチャンなど世界
各地の映画祭での招待上映も果たしている。
主人公は元軍人で幾多の修羅場を潜り抜け、現在はトラウマ
を抱えながらも老いた母親と暮らしつつ、行方不明の子供を
専門に探すことを生業としている男性。主人公はその経歴か
ら暴力を全く恐れない。
そんな主人公に政治家の娘を探す依頼が舞い込む。ところが
その依頼は、政治家の父親がもたらした情報で難なく娘を保
護できるのだが…。保護した娘は怯えた様子もなく、感情を
失くしたような様子だった。
しかもその娘は主人公の目の前から再び連れ去られ、やがて
その陰に隠された驚愕の事実が発覚する。

共演は、2008年1月紹介『デッド・サイレンス』に出ていた
というジュディス・ロバーツと、2018年1月紹介『ワンダー
ストラック』にも出演のエカテリーナ・サムソノフ。他に、
2011年1月紹介『ブルーバレンタイン』などのジョン・ドー
マンらが脇を固めている。
監督の前作も人間の闇の部分を突いてくるような作品で、観
ていて震撼としたが。本作ではフェニックスのアクションが
ある分、少しその感じは薄まるかな。ただしそのアクション
もかなり現実的で、神経には触る作品になっている。
とは言えこれが人間の本性であることは確かなのだろうし、
その辺にしっかりと目を見据えて描き切る監督の手腕は確か
なものだ。そんなところがカンヌダブル受賞にも繋がってい
るのだろう。
そんな作品だが、本作では最後に微かな救いがあるのかな。
主人公が少しだけ人としての絆を取り戻す。しかしその前途
は多難なようにも感じるし、ここからの生き様が別の物語に
もなりそうな余韻を残してくれた。
まあ、映画ファン的には別の作品が見えてくるが、それは監
督の意図ではないだろう。

公開は6月より、東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ
となる。

この週は他に
『アンロック 陰謀のコード』“Unlocked”
(2013年4月紹介『マーヴェリックス』などのマイクル・ア
プテッド監督が、2017年8月紹介『セブン・シスターズ』な
どのノオミ・ラパスを主演に迎えて、アメリカCIAの陰謀
を暴くサスペンス作品。主人公はCIAの辣腕尋問官。しか
しあるテロ事件の解明に失敗し、そのトラウマで職を辞して
市井のソーシャルワーカーとして働いている。そこに新たな
テロの情報がもたらされ、彼女は職に復帰するが…。その情
報には巨大な罠が仕掛けられていた。共演はオーランド・ブ
ルーム。他にマイクル・ダグラス、トニ・コレット、ジョン
・マルコヴィッチらが脇を固めている。実は今回最初の作品
と続けて見たが、上作を個人的に少し重く感じていたところ
からは、本作の軽快なアクションの展開にほっとした。テロ
の描写など、決して軽い作品ではないが。公開は4月20日よ
り、東京はTOHOシネマズ新宿他で全国ロードショウ。)

『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』“I, Tonya”
(1992年、94年の冬季オリンピックにフィギュアスケート・
アメリカ代表として出場したトーニャ・ハーディングの半生
を描いた作品。アメリカ人女性では初めてトリプルアクセル
に成功したとされるハーディングは、貧しい暮らしの中、幼
い頃から母親のスパルタ教育でスケート一筋に歩んできた。
そして代表の座を射止めるが、その1992年には元夫がライヴ
ァル選手ナンシー・ケリガンを襲撃するという前代未聞の事
件を引き起し、転落の道を歩み出す。出演は2016年8月14日
題名紹介『スーサイド・スクワッド』などのマーゴット・ロ
ビー。彼女は製作も兼ねている。他に本作でオスカー受賞の
アリソン・ジャネイ、さらにセバスチャン・スタンらが脇を
固めている。監督は、2011年10月紹介『フライトナイト−恐
怖の夜−』などのクレイグ・ギレスピー。公開は5月4日よ
り、全国ロードショウ。)

『タクシー運転手 約束は海を越えて』“택시 운전사”
(2008年3月紹介『光州5・18』にも描かれた軍による民
衆弾圧事件を描いた作品。その事件を世界に知らせたドイツ
人ジャーナリストが如何にして取材し報道したか。そこに隠
された実話が描かれる。主人公はタクシー運転手。どちらか
というと体制寄りで学生運動にも批判的だった彼が、高額の
報酬に惹かれて危険な旅を買って出る。そして検問も掻い潜
り、光州へと突き進むが…。到着した現地では軍による弾圧
が始り、現地のタクシー運転手は民衆側に立って負傷者の搬
送などに従事していた。後半にはちょっとやり過ぎ感もある
が、最後に登場するジャーナリスト本人の映像が、改めて事
件の大きさを物語る。出演はソン・ガンホと2015年『戦場の
ピアニスト』などのトーマス・クレッチマン。監督は2012年
8月紹介『高地戦』などのチャン・フン。公開は4月21日よ
り、東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)

『マルクス・エンゲルス』“Le jeune Karl Marx”
(全世界で「聖書」に次ぐ発行部数とも言われる「資本論」
の著者カール・マルクスと、その盟友フリードリッヒ・エン
ゲルスの若き日の活動を描いた作品。時代は19世紀中葉、産
業革命などで格差社会が生まれようとしていた時代に、社会
をより良き方向に導こうとした若者の姿が描かれる。1848年
の「共産党宣言」を始め、共産主義の根幹の一つとも言える
2人の思想は西欧圏では中々映画化し辛かったと思えるが、
本作は2人が主に活躍したフランス・ドイツ・ベルギーの合
作で実現された。出演は、2010年7月紹介『ソルト』などの
アウグスト・ディールと、2018年2月紹介『ヴァレリアン』
などのシュテファン・コナルスケ。監督は、2018年2月18日
題名紹介『私はあなたのニグロではない』などのラウル・ペ
ック。公開は4月28日より、東京は岩波ホールの創立50周年
記念作品の他、全国順次ロードショウ。)

『終わった人』
(NHK大河『毛利元就』などの脚本家=内館牧子の原作小
説を、舘ひろし、黒木瞳の主演、『リング』などの中田秀夫
監督で映画化した作品。大手銀行で出世街道から外れ、関連
会社に出向してそのまま定年を迎えた元企業戦士が、失業後
はしたいことも見つからないという現実が描かれる。共演は
広末涼子、臼田あさ美と今井翼。因に今井は、本格的な映画
出演は初めてだそうだ。まあ自分も定年退職した身だから、
主人公の気持ちも判らない訳ではないが、僕自身は在職中か
らいろいろやってきたからこの主人公よりは恵まれていたの
かな? でもまあこういう話はよく描かれるから、こちらの
方がより現実的なのだろう。ただ後半の展開は、主人公が恵
まれているんだか、いないんだか。この辺がフィクションの
面白さなのだろうけど…。公開は6月9日より、全国ロード
ショウ。)

『ラスト・ホールド!』
(ジャニーズ「A.B.C-Z」の塚田僚一と「Snow Man」の出演
で、2020年東京オリンピックの競技種目に決まったボルダリ
ング(競技名はスポーツクライミング)をテーマにした青春
群像劇。主人公は大学4年生。所属するボルダリング部の部
員は彼1人で廃部の危機に陥っている。そこは何とか新入部
員で回避するが、集まったのは1人を除いて初心者ばかり。
それでもインカレを目指して活動を開始するが…。物語は友
情や信頼など定番のものばかりだが、目新しい競技のルール
や特徴などはそれなりに理解できるように描かれており、オ
リンピックまでの予習にはよさそうだ。因に日本は個人団体
共に強豪国のようだ。監督は2015年『ボクは坊さん。』など
の真壁幸紀。前作も特定のシチュエーションでの青春ドラマ
はそつなく描いていた。公開は5月12日より、東京は新宿ピ
カデリー他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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