井口健二のOn the Production
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2018年03月25日(日) オンリー・ザ・B、50回目のファーストK(モリーズ・G、焼肉D、海を駆ける、ホース・S、超級大国民、最初で最後のK、オンネリ、ガンダム)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『オンリー・ザ・ブレイブ』“Only the Brave”
2013年6月、アリゾナ州プレスコットで発生した山林火災に
立ち向った消防士たちの活動を描く実話に基づいた人間ドラ
マ。僕的には、現時点までの今年のベスト1と思える作品。
物語の始まりは2007年。プレスコットの地元消防に所属する
エリック・マーシュは山林火災に立ち向かっていたが、彼の
所属は「ホットショット」と呼ばれる先端の部隊ではなく、
災害時には周辺処理などに廻されていた。
しかし彼の知識と手腕は並ではなく、それを認めた市長から
「ホットショット」を目指す資格試験への道が開かれる。そ
こでマーシュは個人昇格した隊員の穴を埋める新人を募集す
るが、やってきたのはドラッグ漬けのブレンダンだった。
ブレンダンは恋人が妊娠し、家庭を持つための定職を求めて
来たのだが、山林火災の消防は建物火災の数倍と言われる危
険な仕事だった。そしてマーシュのチームは、全米初となる
地方自治体が持つ「ホットショット」となるが…。
映画の前半ではブレンダンの訓練に併せて山林火災の消防の
実務が紹介され、溝を掘って迎え火を放つ消火のやり方など
が説明される。これは以前から情報として聞いてはいたが、
本作では実際の動きなどが判り易く描かれていた。
そして後半では、その知識などがフル活用される消火作業が
描かれて行くものだ。

出演は、2013年2月紹介『L.A.ギャングストーリー』などの
ジョッシュ・ブローリンと、2017年5月紹介『ダイバージェ
ント』などのマイルズ・テラー。他に2012年4月紹介『バト
ルシップ』などのテイラー・キッチュ、2013年7月紹介『ワ
ールド・ウォーZ』などのジェームズ・バッジ・デール。
さらにジェフ・ブリッジス、ジェニファー・コネリーらが脇
を固めている。
監督は、2010年12月紹介『トロン:レガシー』や2013年4月
紹介『オブリビオン』などのジョセフ・コジンスキー。脚本
は2002年『ブラックホーク・ダウン』のケン・ノーランと、
2009年3月紹介『ザ・バンク 堕ちた巨像』などのエリック
・ウォーレン・シンガーが担当している。
ヴェトナム戦争時代に兵役忌避者に対する交換の任務が山林
火災の消防隊で、それは戦争に行くより危険な任務だと聞い
たことがある。本作を観ていても、あっという間に火に取り
囲まれる恐ろしさは、並大抵のものではなさそうだ。
「建物火災の数倍危険」というのは本作中の台詞だが、消防
士の映画で思い浮ぶのは、その建物火災を描いた1991年公開
『バックドラフト』だろう。しかしその作品での火災が特殊
効果で表現されたのに対して本作は視覚効果(VFX)。
それは山を覆う火災だからCGIで表現するしかないのは当
然だが、その迫力が半端ない。この辺は映画以前にMTVや
コマーシャルフィルムで、ヴィジュアリストとしても名高い
コジンスキー監督の手腕と言えそうだ。
その一方で、実は人間ドラマが要素となる作品では多少の不
安があったのだが、本作ではその点でも見ごたえがあった。
これには脚本の良さもあったのかもしれないが、ブローリン
らの演技も光る作品になっている。
実は試写を観た会場はスクリーンの位置が高く、普段は後ろ
寄りの席で観るようにしていたが、本作の時は席が埋まって
いて前目で観た。しかし本作に関しては、炎が襲い掛かって
くる感覚がより強くなり、前目が正解だった気がする。
恐ろしい出来事の実話に基づく作品ではあるが、本作の映像
では主人公たちの恐怖などの感情がストレートに伝わってく
る感じで、本当に素晴らしい作品だと思う。

公開は6月22日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。

『50回目のファーストキス』
2017年6月25日題名紹介『銀魂』が同年の実写邦画で第1位
の興行成績を記録した福田雄一脚本・監督による、監督初の
ラヴコメ(?)と称する作品。
同監督では2017年10月紹介『斉木楠雄のΨ難』もあったが、
いずれもSFの範疇に入ると思われるこれら作品では、SF
映画ファンとしては何となく歯痒いというか不満な点が多く
残った。
それに対して本作はSFではない。しかしある意味ファンタ
スティックとも取れる設定で、そのファンタスティックな部
分と、ラヴストーリーとコメディが結構バランス良く描かれ
ている感じがした。
主人公はハワイで現地のガイドをしている男性。彼は一夜の
恋人として日本人女性を存分に楽しませるプレイボーイでも
あったが、それには彼なりの理由もあった。天文学を研究す
る彼は米国本土の研究所に勤めるのが夢だったのだ。
ところがそんな彼が、案内先の下見でやって来た街はずれの
カフェで、端っこのテーブルに1人で座る女性を見染める。
そして巧みに言いよって会話が弾み、明日も会おうと約束す
るのだが…。
翌日再会した彼女は、初対面のように彼に対してきた。

出演は山田孝之、長澤まさみ。他にムロツヨシ、佐藤二朗、
勝矢、太賀、山崎紘菜、大和田伸也らが脇を固めている。
本作は2005年5月紹介、アダム・サンドラー、ドリュー・バ
リモア共演による同じ邦題の作品を、舞台はオリジナルと同
じハワイのままに、キャラクターだけを日本人に置き換えて
リメイクしたものだ。
ただし細かい設定はいろいろ変更されていて、中でも山田が
演じる主人公の本来の仕事を天文学者としたのは、ベストと
言えるものになっている。特に星空を背景にする映像は素晴
らしく、これにはハリウッド版も脱帽だろう。
さらにムロツヨシ、佐藤、太賀らのキャラクターも立ってい
て、特にムロツヨシと佐藤は『斉木楠雄』の時は空回り感が
強かったが、本作では山田が演じる部分も含めたナンセンス
なギャグがしっくり収まっていたものだ。
正直には、この山田の力量が映画全体のバランスやギャグの
メリハリなどをしっかりと保持しているようにも感じた。そ
れはオリジナルのサンドラ―以上に、本作の要と言ってよい
存在感に溢れていた。
短期記憶障害というのはかなり厳しい病状で、オリジナルを
観た時には中々その点も理解し難かったが。本作では途中で
描かれる他の患者のことなど、結末までに見事にそれを描き
切っている感じもした。
福田監督に関しては、初期の2009年8月紹介『大洗にも星は
ふるなり』は気に入ったが、本作はその頃の感触にも戻った
感じで、山田、ムロツヨシ、佐藤とのコンビネーションにも
嬉しくなったものだ。

公開は6月1日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショーとなる。

この週は他に
『モリーズ・ゲーム』“Molly's Game”
(モーグルのオリンピック代表候補だった女性が怪我で道を
断念。ところが大学進学までを気儘に過ごそうとやって来た
ロサンゼルスで、彼女はセレブが集う地下カジノの経営に手
を染める。それ自体は違法ではなかったが…。10年後、彼女
はFBIに逮捕される。実在女性の回想録に基づき、2010年
10月紹介『ソーシャル・ネットワーク』などのアーロン・ソ
ーキンが脚色、自らの手で監督した。主演は2014年11月紹介
『インターステラー』などのジェシカ・チャスティン。他に
イドリス・エルバ、ケヴィン・コスナー、マイケル・セラら
が脇を固めている。実際の顧客にはトビー・マクガイア、レ
オナルド・ディカプリオらもいたと言われ、映画のモデルを
考えるのも面白い。それにしても前々回題名紹介の『アイ,
トーニャ』と言い、女性アスリートも大変だ。公開は5月よ
り、東京はTOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショー。)

『焼肉ドラゴン』
(2004年9月紹介『血と骨』などの脚本でも知られる劇作家
鄭義信が2008年に日韓両国で発表した演劇作品を、自らの初
監督で映画化した作品。1970年の大阪万博を背景に、再開発
によって失われて行く大阪の韓国人コミュニティーを描く。
登場するのは伊丹空港近くのバラック街でホルモン屋を営む
一家。父親は戦前の徴用で来日し、そのまま在日となった。
それは棄民であったとするのが監督のスタンスのようだ。そ
れでも懸命に生きる人々の姿が描かれる。出演は2010年10月
紹介『黒く濁る村』などのキム・サンホと、2009年8月紹介
『母なる証明』などのイ・ジョンウンが両親を演じ、3人の
娘たちに真木よう子、井上真央、桜庭ななみが扮する。50年
近くも前の在日の話は僕らには判り難いが、知識を総動員し
てでも観る必要のある作品だ。公開は6月22日より、東京は
TOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショー。)

『海を駆ける』
(2010年11月2日付「東京国際映画祭」で紹介『歓待』や、
2015年10月紹介『さようなら』などの深田晃司監督が、自身
のオリジナル脚本の主演にディーン・フジオカを招きオール
現地ロケで描いたファンタシー要素の強い作品。舞台はイン
ドネシア、スマトラ島北部のバンダ・アチェ。2004年に発生
した震災と大津波で破壊された土地で、復興事業に従事する
母親とその息子。そこに海岸で倒れていた日本人と思しき男
が現れたことから、息子の女友達なども巻き込んだファンタ
スティックな出来事が巻き起こる。共演は鶴田真由、太賀、
2017年11月19日題名紹介『孤狼の血』などの阿部純子。男は
いろいろミラクルな行動をし、そこに周囲の人が巻き込まれ
て行く展開だが、結局男の正体は何? それでも話は成立し
ているから問題はないのだが…。公開は5月26日より、東京
はテアトル新宿、有楽町スバル座他で全国ロードショウ。)

『ホース・ソルジャー』“12 Strong”
(9・11の同時多発テロ事件、その1ヶ月後にアフガニスタ
ンに赴き、テロ集団の本拠地に対して最初の勝利を挙げたと
される12人の特殊部隊の活動を描いた作品。しかし戦略上の
観点から機密とされた作戦がついに情報解禁となり、ヒット
メイカー、ジェリー・ブラッカイマー製作で映画化された。
主人公は実戦経験のない大尉。しかし「全員がゼロからスタ
ート」と主張した彼の部隊が第1陣に選ばれる。ところが現
地の反タリバン勢力は3つの軍閥に分れて競い合っており、
彼にはその外交交渉も任されることになる。そんな中で雪に
閉ざされるまで3週間の猶予しかない任務が開始される。出
演はクリス・ヘムズワース。他にマイクル・シャノン、マイ
クル・ペーニャらが脇を固めている。監督は報道カメラマン
として受賞歴を持つニコライ・フルシーのデビュー作。公開
は5月4日より、全国ロードショウ。)

『スーパーシチズン 超級大国民』“超級大國民”
(1983年『坊やの人形』の一篇で台湾ニューシネマの牽引者
の一人とされたワン・レン監督による1995年の作品。同年の
東京国際映画祭・コンペティション部門で上映されたが、そ
の後の日本では一般公開のなかった作品が、特集上映「台湾
巨匠傑作選2018」で劇場初公開される。1950年代、戒厳令と
白色テロ時代の台湾で、読書会に参加しただけで逮捕された
若者が取り調べ中に仲間の名前を告げたことで減刑される。
しかし名前を告げられた仲間は死刑となり、自らの刑期を終
えた主人公は人目を避け続けるが…。30余年を経て彼は贖罪
の旅を始める。それは高度成長期の台湾を見詰め直す旅とも
なる。回想シーンは日本支配から脱却した直後で、主人公ら
の台詞にも日本語や日本文化の残滓が頻出する。その辺が発
表当時は懸念されたのかな。公開は4月28日から、東京は新
宿K's cinemaで、特集の全28作品と共に上映される。)

『最初で最後のキス』“Un bacio”
(2014年『はじまりは5つ星ホテルから』などの脚本家イバ
ン・コトロネーオが、アメリカで起きた実際の事件に触発さ
れて執筆したという小説から、自ら共同脚本も手掛けて監督
した作品。映画の舞台はイタリア北部ウーディネの高校。理
解ある里親に引き取られてトリノから引っ越してきた主人公
は、個性的なファッションで周囲から浮いた存在になってし
まうが、同様な境遇の男女2人と親しくなる。しかし自分ら
を苛める周囲に対して復讐を試みた時、彼らの運命が大きく
動き始め、残酷で哀しみに満ちた青春ドラマが展開される。
結末は悲劇的なものになっているが、さらにそこに加わる監
督の想いが哀しさを倍加させる。出演はいずれも新人のリマ
ウ・グリッロ・リッツベルガー、ヴァレンティーナ・ロマー
ニとレオナルド・パッザッリ。公開は6月2日より、東京は
新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)

『オンネリとアンネリのおうち』“Onneli ja Anneli”
(『ムーミン』は言うに及ばず、2005年7月紹介『ヘイフラ
ワーとキルトシュー』など児童文学の名作の多い北欧から、
また一つ作品が紹介された。原作は1960年代にフィンランド
で発表されたものだそうで、主人公は偶然(?)拾ったお金と
優しい警官のお蔭でバラ通りの一軒家を購入した2人の幼い
女の子。両隣には気難しい女性と、魔女かも知れない姉妹が
住んでいて、そんなお家で家族と離れた2人だけの生活が始
まるが…。子供の夢のような設定の中で、泥棒騒ぎなど様々
な出来事が起きて行く。出演は2014年の本作の後、15、17年
の作品にも主演のアーヴァ・メリカントとリリャ・レフト。
監督も全作を手掛けるサーラ・カンテル。ナンセンスな部分
もあるが全体はしっかりとした展開で、愛らしい作品になっ
ている。公開は6月9日より、東京はYEBISU GARDEN CINEMA
他で全国順次ロードショウ。)

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 誕生 赤い彗星』
(2017年8月6日題名紹介『THE ORIGIN』シリーズの続編。
10月15日題名紹介の作品とは別系統のもので、本来的には本
作がメインストリームの物語のようだ。そして本作を以って
このシリーズは完結となる。ここからの新たな展開が生まれ
るかは、本作の結果次第だそうだ。それにしても作品の内容
は、激しい宇宙戦闘シーンの連続で、これが戦争マニアには
堪らないのだろうなあと思わせる。ただ戦略的な面ではレー
ダーも効かない宇宙域が戦場のようなのだが、その辺の設定
が良く判らない。特に目視は出来るがレーダーでは捕捉でき
ないというのは一体どのような状況なのか…。そういった科
学考証的なものを、もう少しはっきりとさせて欲しかったか
な? まあそんなことは気にしない観客が相手なのかもしれ
ないが…。公開は5月6日より、東京は新宿ピカデリー他、
全国35館で4週間限定ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二