井口健二のOn the Production
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2018年02月25日(日) イカリエ−XB1(私は絶対、聖なる、名もなき、いつだって、ミスミソウ、ブラックP、ロンドン、29歳、大和、熊野、フェリーニ、友罪)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『イカリエ−XB1』“Ikarie XB 1”
1963年にチェコスロヴァキアで製作されたモノクロ・ワイド
のSF作品。日本では、テレビ放映と自主上映されたという
情報はあるようだが、公式には未公開だった作品が2016年に
本国で4Kレストアされ、本邦初公開される。
時代背景は22世紀後半。人類は太陽系外の生命体を探索する
ための宇宙船イカリエ−XB1を発進させる。その目的地は
アルファ・ケンタウリ星系。距離は約4.3光年で、飛行期間
は往復約15年、しかし亜光速で飛ぶことによる時間の圧縮で
船内時間は2年間だとされている。
そのため40名の搭乗員の中には、生まれくる我が子の成長が
見られなかったり、年下の妻が帰還時には年上になっている
などの状況も生じていた。そしてついに地球との交信も限界
に達し、太陽も星々の1つとなり、宇宙船は未知の大宇宙へ
飛び出して行く。
そんな宇宙船の冒険の旅が描かれる。その中では謎の宇宙船
との邂逅や、怪しげな放射線を出す暗黒星雲との遭遇なども
起きる。

原作はポーランドのSF作家スタニスワフ・レムが1956年に
発表した『マゼラン星雲 (Obłok Magellana)』とされている
が、本編にクレジットはされておらず、1960年製作、ポーラ
ンド−東ドイツ合作の『金星ロケット発進す』とは状況が異
なるようだ。
その本作の脚本と監督は児童向けのファンタシー映画などを
数多く手掛けているインドゥジヒ・ポラーク。脚本には同じ
くファンタシー映画を多く手掛けるパヴェル・ユラーチェク
が参加の他、天文学やロケット工学など各分野の科学者が顧
問を務めているそうだ。
衣装はチェコ映画の名作に多く参加しているエステル・クル
ンバホヴァー。撮影も名手とされるヤン・カリシュ。さらに
音楽は、カレル・ゼマン監督1957年『悪魔の発明』や1962年
『ほら男爵の冒険』でも知られるズデニェク・リシュカが担
当している。
出演者にもチェコ映画のベテラン級の俳優が多く名を連ねて
おり、当時の体制下では本格的な作品と言えるものだ。
プレス資料では『スタートレック』との関連性なども取りざ
たされているが。確かに大宇宙への探索というテーマは共通
するものの、1966年スタートのテレビシリーズでは、本作の
公開時にはすでに企画は進んでいると思われ、その関連性は
薄いだろう。
しかし、1968年公開『2001年宇宙の旅』との関連となると、
これはかなり際どいものだ。
特に本作の中で家族とのテレビ電話や、器具を使った運動の
シーンなどは、正しく影響が見て取れる。この他のヴィジュ
アルの面でも思い出させるシーンが何箇所もあり、僕自身が
『2001年』を生涯のベスト1としている者としても、これは
言い逃れは出来ないと思わされた。
勿論、『2001年宇宙の旅』がその他の面でも先駆的な作品で
あることは確かなのだが…。

公開は5月19日より、東京は新宿シネマカリテ他で全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『私は絶対許さない』
(東大医学部卒でアメリカに留学し、トラウマ理論を学んで
きたという和田秀樹監督が、一読して衝撃を受けたという雪
村葉子の手記を映画化した作品。15歳の元旦に集団レイプさ
れた少女が、そのトラウマを抱えたままその後の人生を歩ん
で行く姿が描かれる。主演はグラビア系の平塚千瑛と女優の
西川可奈子だが、画面のほとんどが主人公のPOVという構
成で、開幕すぐの被害シーンでは、僕の後ろにいた女性2人
が退席してしまうほどの迫力だった。共演には佐野史郎、隆
大介、美保純、友川カズキ、白川和子ら実力派が並ぶ。監督
は2008年3月紹介『受験のシンデレラ』など実績があり、脚
本は2010年2月『誘拐ラプソディー』などの黒沢久子、撮影
は監督の前作も担当の高間賢治、音楽には三枝成彰を招き、
監督自ら製作総指揮も務める渾身の作品だ。公開は4月7日
より、東京はテアトル新宿他で、全国順次ロードショウ。)

『聖なるもの』
(宣伝チラシにフェリーニ meets庵野秀明と称される、岩切
一空監督の作品。映画研究会所属の大学3年生が「映研の怪
談」と呼ばれる美少女を追って彷徨う姿をPOVで描く。監
督はPFFアワード準グランプリ受賞者で、本作では音楽に
ボンジュール鈴木を迎えて「MOOSIC LAB2017」向けに製作、
見事グランプリを受賞している。フェリーニは『8½』のつ
もりなのかな? 庵野は後半のシーンのことだろうけど、僕
は1998年の初実写作品『ラブ&ポップ』を思い出していた。
そんな若さも感じさせる作品だ。ただ映画のメイキング的な
作品の割には基となる映画の姿が見えてこず、そのため作品
自体が思い付きだけの羅列に見えてしまう。まあ発表の場か
ら考えて、作品の目的は映画と音楽の融合だから、その点は
良いのだろうが、僕には物足りなかった。公開は4月14日よ
り、東京はポレポレ東中野他で全国順次ロードショウ。)

『名もなき野良犬の輪舞』“불한당: 나쁜 놈들의 세상”
(開幕は刑務所から出獄する若者。外にはやくざ風の男が出
迎えている。若者は3年前に入獄し、無鉄砲な行動で男の目
に留まる。そして男の窮地を救ったことから接近し、先に出
獄した男の出迎えを受ける。男は若者をボスに引き合わせ、
うだつの上がらないボスの甥と共に、組織に君臨して行くよ
うになるが…。信頼と裏切り、そして復讐が思わぬ展開で繰
り広げられる。出演は2014年8月紹介『監視者たち』などの
ソル・ギョングと、ボーイズバンドZE:Aメムバーのイム・シ
ワン。他にキム・ヒウォン、チョン・ヘジンらが脇を固めて
いる。脚本と監督は2012年『マイPSパートナー』などのビ
ョン・ソンヒョン。前作はラヴコメだそうで、かなり角度の
違う新作のようだが、非情な警察内部の描写なども強烈で、
骨太の作品だ。公開は5月5日より、東京は新宿武蔵野館他
で全国順次ロードショウ。)

『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』
         “Smetto quando voglio: Masterclass”
(社会的地位のあまり高くない理系の大学教授たちが合法ド
ラッグを密造して一儲けを企んだものの法の網に掛って主犯
が逮捕。しかし新型ドラッグの蔓延に手を焼く警察から協力
を要請され、元の仲間を集めて彼らの知識でドラッグの出所
を探ろうとするが…。本作は2017年の作品だが、実は2014年
に前作があって、本作の後にも続けて第3作が登場する。内
容はアクション・コメディで、物語は本作だけでも充分判る
が、日本でも3作とも公開が決まっているようで、出来たら
全作を通して観たいものだ。出演は2017年1月紹介『おとな
の事情』などのエドアルド・レオ、2010年9月紹介『シチリ
ア!シチリア!』などのルイジ・ロ・カーショ。脚本と監督
は第1作でデビューしたシドニー・シビリアが3作通して担
当している。公開は5月26日より、東京はBUNKAMURA ルシネ
マ他で全国順次ロードショウ。)

『ミスミソウ』
(押切蓮介原作のサスペンスコミックスを、2016年2月紹介
『ドロメ』などの内藤瑛亮監督が実写映画化。脚本は2014年
『渇き。』などの唯野未歩子が担当した。主人公は雪深い田
舎町に引っ越してきた少女。転校したクラスでは部外者とさ
れて陰湿ないじめに遭っている。しかし廃校間近の学校では
教師もやる気を見せない。そして苛めが頂点に達し、家族に
類が及んだ時、壮絶な復讐劇が開幕する。出演は2017年12月
紹介『野球部員、演劇の舞台に立つ!』などの山田杏奈と、
『渇き。』に出ていた清水尋也。他に森田亜紀、戸田昌宏、
片岡礼子、寺田農らが脇を固めている。原作は恐らく復讐劇
で評価されたのだろうが、映画化ではそれが多少平板かな。
過去に観たようなシーンばかりで、そこに工夫があれば、そ
れなりの評価が出来たと思うのだが。公開は4月7日より、
東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)

『ブラックパンサー』“Black Panther”
(『アベンジャーズ』に繋がるマーヴェル発の新ヒーロー。
2016年『シビル・ウォー』にも登場したが、本作はその起源
を描く。その始りはアフリカの奥地。遥か昔に落下した隕石
に含まれる強力なパワーで超文明国になったワカンダ。しか
しその実態はベールの陰に隠されていた。そして世界にスパ
イを放ち、国益だけを護って来たが…。元スパイの男が悪に
走り、その脅威に若き国王が立ち向かう。出演は2013年9月
紹介『42』などのチャドウィック・ボーズマン。他にマイ
ケル・B・ジョーダン、ルピタ・ニョンゴ、マーティン・フ
リーマン、アンディ・サーキスらが脇を固めている。監督は
2015年『クリード チャンプを継ぐ男』などのライアン・ク
ーグラー。監督、出演者共にブラックパワー満載の作品でア
メリカでの評価は最高のようだ。公開は3月1日より、東京
はTOHOシネマズ日本橋他で全国ロードショウ。)

『ロンドン、人生はじめます』“Hampstead”
(原題のハムステッドは、ネットで調べるとロンドン北部の
古くから文化人が多く住む高級住宅地だそうで、映画で観た
感じはかなり郊外かと思ったがそうでもないらしい。主人公
はそんな土地のアパートで一人暮らしの初老の女性。住居は
亡き夫が遺したものだが、家賃も高く、老朽化した家屋の修
繕費もままならない。そんな時、ふと見かけたホームレスの
男性に惹かれた彼女は、勝手気ままな彼の暮らしにのめり込
んで行くが…。物語は実話に基づくそうだが、結構物事が上
手く行ってしまう夢のようなお話だ。出演はダイアン・キー
トンとブレンダン・グリースン。監督は2010年『新しい人生
のはじめかた』などのジョエル・ホプキンス。法整備のあり
方が日本と違うのはうらやましかったが、実は環境問題はそ
のままで、そこがきょっと気になったかな。公開は4月21日
より、東京は新宿武蔵野館他で全国ロードショウ。)

『29歳問題』“29+1”
(30歳が目前の女性の姿を描いた香港映画。元は本作で監督
デビューのキーレン・パンが12年間演じ続けてきた一人芝居
の舞台劇だそうで、仕事上のキャリアもあり、長年付き合っ
てきた彼氏もいて公私共に充実していたはずの女性が、仮住
まいで暮らし始めたアパートの住人が残した日記を読む内に
人生観が変わって行く。出演は2014年『西遊記 はじまりの
はじまり』などのクリッシー・チャウと、2013年『コールド
・ウォー 香港警察 二つの正義』などのジョイス・チェン。
30歳目前の焦りというのは男性の自分はあまり感じなかった
が、女性は違うのだろう。そんな気持ちが男性にも判り易く
描かれていた。ただ後半の展開が僕には強烈すぎて、これで
は本来のテーマが飛んでしまうような感じもしたが、この衝
撃も作品の評価の一部なのだろう。公開は5月より、東京は
YEBISU GARDEN CINEMA他で全国順次ロードショウ。)

『大和(カリフォルニア)』
(神奈川県大和市と綾瀬市に跨る厚木海軍飛行場。通称厚木
基地の周辺を舞台に、その爆音絶え間ない土地で暮らしなが
らラッパーを目指す少女と、その母親の恋人=米軍人の娘と
の交流を描いた作品。題名は、基地のフェンスの手前は大和
市だけれど向こうは合衆国という意味で、実は自分の生まれ
が近隣の平塚市だったもので、この話は子供の頃に聞いてい
た。当時の説明では、太平洋艦隊の郵便物の合衆国内での取
り纏めがサンフランシスコで、宛名にそう書くということだ
ったが、真偽のほどは知らない。僕自身が子供の頃に基地へ
見学に行ったこともあるし、七夕には米軍人の家族を家に招
いたこともある。そんな環境で育ったからこの作品を見てい
ると、時代は変わったけれど感情は変わっていないという感
じもした。公開は4月7日より、東京は新宿K's cinema他で
全国順次ロードショウ。)

『熊野から イントゥ・ザ新宮』
(2011年8月紹介『海と自転車と天橋立』の田中千世子監督
が2014年から撮り続けている『熊野から』3部作の最終章。
内容は、旅行ライターが熊野地方を旅しながら地元の人々と
交流するセミ・ドキュメンタリーだが、その中で第1作から
少しずつ語られていた幸徳秋水=大逆事件が、本作ではほぼ
メインとして描かれる。それは現在では、社会主義の台頭を
恐れた明治政府のでっち上げであることが定説になっている
ものだが、その定説自体があまり知られていない事実を踏ま
えて、秋水らの復権活動を行っている人々の姿が描かれる。
勿論それと同時に地元の風物なども描かれるが、その辺のバ
ランスが2011年作などは少し違和感だったが、本作ではその
ようなこともなく、巧みに両方が織り込まれていた。公開は
5月下旬より、東京は渋谷のシアター・イメージフォーラム
にてモーニングロードショウ。)

『フェリーニに恋して』“In Search of Fellini”
(イタリアの名匠フェデリコ・フェリーニの世界に魅了され
たアメリカ人の少女が、フェリーニを探してイタリアに旅す
る様子を描いたドラマ作品。主人公は母親に守られて20歳に
なるまで世間を知らずに育った少女。しかしその母親が末期
がんと判り、自立を目指して一歩を踏み出した彼女がふと迷
い込んだのは、名監督の作品上映会だった。そしてその世界
に憧れた少女は監督に会うためイタリアに行くことを決意す
るが…。辿り着いたイタリアは、フェリーニ作品以上に摩訶
不思議な世界だった。酒場で知り合う自称映画監督の名前が
グイドだったり、様々なフェリーニ作品へのオマージュが観
られる。監督は南アフリカ出身のタロン・レクストン、主演
はテレビドラマ『ロスト・ガール』などのクセニア・ソロ。
公開は3月17日より、東京はYEBISU GARDEN CINEMA他にて全
国順次ロードショウ。)

『友罪』
(1997年に起きた酒鬼薔薇聖斗事件、その後を追った少年A
の週刊誌報道に基づく薬丸岳の同名小説を、2017年10月15日
題名紹介『最低!』などの瀬々敬久脚本、監督で実写映画化
した作品。非情なジャーナリストの世界に嫌気が差して退職
した主人公は町工場に試験採用され、一緒に採用された無口
な若者と徐々に信頼関係を築いて行く。しかしその若者は少
年Aだった。そして主人公にはジャーナリストの魂が再燃す
るが…、その前途にはさらに非情な世界が待ち受けていた。
出演は生田斗真と瑛太。佐藤浩市、夏帆、山本美月、富田靖
子らが脇を固めている。少年A自体は手記を出版するなどそ
の反省のなさが僕には不愉快だったものだが、本作ではその
点には触れないものの、それを煽るジャーナリズムの体質の
ようなものが追及されるなど、それなりに納得のできる作品
になっていた。公開は5月25日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二