井口健二のOn the Production
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2018年02月11日(日) ヴァレリアン、ガッチャマン(ばぁちゃんロード、男と女、しあわせの絵の具、15時17分、ラーメン、Oh Lucy!、犯罪都市、キング)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』
    “Valerian and the City of a Thousand Planets”
1967年から2010年までフランスで出版され、英語にも翻訳さ
れて1977年『スター・ウォーズ』にも影響を与えたとされる
SFコミックス(バンド・デシネ)を、リュック・ベッソン
の製作、脚本、監督により映画化した作品。
物語の背景は、国際宇宙ステーションに地球中の国々が参加
し、さらに異星からの参加も増加。各自が施設を増設したた
めに質量が増大して、地球への落下の懸念から、ブースター
を取り付けて大宇宙に旅立させたという経緯。
その大宇宙を進むステーションにはさらに多くの異星の生物
が集まり、ステーションは複数の区画に分けられて水棲人な
ど各住人に適した環境が設けられている。そんな巨大ステー
ションは「千の惑星の都市」とも呼ばれていた。
主人公は、そんなステーションの秩序を守るために組織され
た連邦委員会の直属で、有能な働きを示してきた諜報員。そ
んな彼にステーションの中心部に突如発生した危険エリアの
調査が命じられる。
そこには明らかな敵対行動があり、そこへの侵攻作戦を指揮
していた司令官が敵側に拉致されてしまう。その救出に向か
う主人公だったが。その事件の裏には記録から存在の抹消さ
れた惑星ミュールに纏わる陰謀が隠されていた…。
そんな物語が、華麗なVFXや多彩な異星人の造形と共に描
かれる。

出演は2013年8月紹介『クロニクル』や同年10月紹介『メタ
リカ・スルー・ザ・ネヴァー』などのデイン・デハーンと、
2016年8月14日題名紹介『スーサイド・スクワッド』などの
カーラ・デリヴィーニュ。
さらにクライヴ・オーエン、イーサン・ホーク、ジョン・グ
ッドマン、ルトガー・ハウアー、クリス・ウー、ミュージシ
ャンのリアーナ、ハービー・ハンコックなど多彩な顔ぶれが
登場する。
ベッソンは幼い頃から原作のファンで、1997年『フィフス・
エレメント』制作の際に、コンセプトデザイナーとして招い
た本作の原作者ジャン=クロード・メジエールから、「なぜ
『ヴァレリアン』をやらないのか?」と問われたそうだ。
以来、20年掛りで実現されたのが本作という。しかし昨年の
ヨーロッパ、アメリカ公開では、必ずしも大成功という興行
にはならなかった。その原因を考えると、少し設定が判り難
かったかな、という印象は否めない。
それは「原作のファン」という監督らが関わると陥り易い問
題だが。特に本作のように現実の宇宙開発をベースに、そこ
から設定を未来に発展させようとすると、原作を知らない観
客にはそのギャップを埋めるのが難しくなる。
そのギャップ自体は、SFを観馴れている目からするとそれ
ほどではないのだが、それが評価の分かれ目になったかな?
そんな感じはする程度のものだ。そのギャップを乗り越えれ
ばそれなりに楽しめるのだが。
雰囲気的には、1967年『バーバレラ』などを髣髴させるもの
もあり、正しくフランスSFという感じのする作品だ。ガジ
ェットで一杯の映像は、日本の若い観客には受けそうな気も
するが…。

公開は3月30日より、東京はTOHOシネマズ日本橋他で、全国
2D/3Dロードショウとなる。

『Infini-T Forceガッチャマン さらば友よ』
2017年9月紹介『Infini-T Force』の記事の中でも記載した
テレビシリーズに続く劇場版。タツノコプロ設立55周年記念
の作品で、1970年代の4大ヒーローが再び結集する。
実はテレビシリーズは見損ねたが、シリーズでの敵は殲滅さ
れ、世界は復活してヒーローたちは各々の世界に戻ったよう
だ。ところが安定したはずのパラレルワールドが再び揺らぎ
始める。
それは各パラレルワールドに存在する特異点、現在世界では
渋谷の交差点に存するそれの揺らぎによるものだったが…。
その現在の特異点が不自然に作動していた。そしてそこは、
「科学忍者隊ガッチャマン」の世界だった。
その現在世界に降り立ったヒーローたちは、渋谷の交差点に
構築されたドームを目撃する。そのドームでは科学忍者隊の
生みの親・南部博士が、ギャラクターとの闘いのエネルギー
を得るため特異点を利用していたのだ。
しかも博士は、ギャラクターを退けた後も、そのエネルギー
を操って世界の新たな支配者になろうとしていた。斯くして
ガッチャマン=鷲尾健は、最も手強い敵との戦いを余儀なく
される。

声優は、シリーズと同じ茅野愛衣、関智一、鈴村健一、斉藤
壮馬、櫻井孝宏に加えて、船越英一郎、鈴木一真、遠藤彩。
シリーズ構成は、2014年『PSYCHO-PASSサイコパス 2』など
の脚本家の熊谷純。監督は、2010年『閃光のナイトレイド』
などの松本純が担当した。
この作品もパラレルワールドの設定などが多少ややこしいか
な。ただしこの作品の場合は先行のテレビシリーズがある訳
だが、僕は昨年シリーズの一部を見せて貰っているから良い
ものの、直接これだけを見せられたら混乱したかな。
しかも、どうやらテレビシリーズの最後に本作のプロローグ
があったようで、今回はその部分がカットされているから、
正直かなり混乱した。本編は91分の作品だが、ここまでの経
緯の説明をもう少し工夫して欲しかったかな。
でもまあそれでも僕は了解できたのだから、これで良いのか
もしれないが。あと数分の説明を追加してくれたら、もっと
判り易くなったのではないかとは思ったところだ。
とは言え、狙いはヒーローたちのバトルアクションにある作
品だから、これで良いと言ってしまえば良いのだろうとは思
うが…。

公開は2月24日より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロード
ショウとなる。

この週は他に
『ばぁちゃんロード』
(2018年1月28日題名紹介『おみおくり』などの文音が主演
する富山県を舞台にしたヒューマンドラマ。結婚を控えた女
性が、足の怪我で施設に入ったままの祖母に「ヴァージンロ
ードを一緒に歩きたい」と言ったことから、祖母はリハビリ
に真剣に取り組むようになる。しかしそこには紆余曲折が待
ち構える。祖母役を草笛光子が演じ、他に三浦貴大、鶴見辰
吾、2011年10月紹介『王様ゲーム』などの桜田通らが脇を固
めている。監督は2006年8月紹介『地下鉄に乗って』などの
篠原哲雄。脚本は初監督した自主製作作品で城戸賞最終選考
まで残ったという上村奈帆。この脚本は「映画美学校プロッ
トコンペティション2016」にて最優秀賞を受賞している。話
の着目点は良いと思うけれど、挿入されるエピソードはもう
少し掘り下げて欲しかったかな。公開は4月14日より、東京
は有楽町スバル座他で全国順次ロードショウ。)

『男と女、モントーク岬で』“Return to Montauk”
(1979年『ブリキの太鼓』でカンヌのパルム・ドールに輝い
たフォルカー・シュレンドルフ脚本、監督による大人のラヴ
ストーリー。世界を旅して小説を発表している人気作家が、
思い出の地ニューヨークを舞台にした作品を出版、プロモー
ションのために思い出の地を訪れる。そこで過去を共にした
女性と再会を果たすが…。出演はステラン・スカルスガルド
と、2012年11月紹介『東ベルリンから来た女』などのニーナ
・ホス。他にスザンネ・ウォルフ、ニエル・アレストリュブ
らが脇を固めている。題材は監督の盟友でもあった作家マッ
クス・フリッシュの著作に基づくが、故人となった作家とは
生前にそのままでは映画化に適さないと話し合っていたそう
だ。映画は米国東海岸の風景も美しい作品になっている。公
開は5月26日より、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロード
ショウ。)

『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』
                      “Maudie”
(カナダ・ノバスコシア州のプリンスエドワード島で生涯を
過ごし、ガスも電気も水道もない4m四方の小さな家で絵を
描き続けた素朴派女性画家を描いたドラマ作品。画家は若年
性関節リウマチで身体が不自由だったが、絵に対する情熱は
尽きることなく、晩年は雑誌やテレビでも紹介されてニクソ
ン米大統領からも作品の依頼があったとされる。そんな女性
画家と彼女を支えた夫の姿を、2017年11月紹介『シェイプ・
オブ・ウォーター』などのサリー・ホーキンスと、『ヴァレ
リアン』にも出演イーサン・ホークが演じている。他にカナ
ダ人女優のカリ・マチェットとガブリエル・ローズが共演。
脚本はカナダのシェリー・ホワイト、監督はアイルランドの
アシュリング・ウォルシュが担当した。映画では画家の描い
たアートハウスが見事に再現されている。公開は3月3日よ
り、東京は新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)

『15時17分、パリ行き』“The 15:17 to Paris”
(2015年8月21日、アムステルダム発パリ行きの高速列車タ
リスの車内で発生したイスラム過激派によるテロ事件。その
犯人に立ち向かった3人のアメリカ人青年を描いたクリント
・イーストウッド監督による実話に基づく作品。映画は幼馴
染であった3人の幼少期から説き起こし、事件に遭遇するま
での足跡が描かれる。それは最初は作品を間違えたかと思う
ような展開で始まるが、映画の終盤になると、なるほどそう
れが言いたかったかのかと納得できる。しかも主役の3人を
事件の当事者本人に演じさせているのだから、この大胆さは
イーストウッド監督ならではのものだろう。いやはや脱帽の
作品だ。前作2016年9月紹介『ハドソン川の奇跡』では主役
以外の救護者たちに本人を起用していたが、それは本作への
前哨戦だったのかな。公開は3月1日より、東京は新宿ピカ
デリー他で全国ロードショウ。)

『ラーメン食いてぇ!』
(ページ閲覧数が100万回を超えるという林明輝原作ウェブ
漫画の実写映画化。群馬県高崎市と中央アジアのキルギスを
舞台に、閉店したラーメン店の再興と食を通じた異文化交流
が描かれる。中央アジア篇では実際に現地ロケが敢行され、
雄大な風景と素朴な遊牧民の生活振りが紹介される。一方の
高崎篇では落ち毀れ気味の女子高生と親友との友情とラーメ
ン修行が語られる。この修行ではかなりの薀蓄が披露され、
特にヒロイン2人が挑む平かごを使った湯切りなどは、相当
の練習の跡が見えるものだ。他に高崎とキルギスを繫ぐ食材
の話なども納得の行くものだった。出演はNHK朝ドラ『ま
れ』などの中村ゆりかと『わろてんか』で主演の葵わかな。
他に片桐仁、石橋蓮司。脚本と監督は、2018年1月21日題名
紹介『ROKUROKU』の脚本を務めた熊谷祐紀。公開は3月3日
より、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『Oh Lucy!』
(寺島しのぶ、南果歩、忽那汐里、役所広司、ジョッシュ・
ハートネットの共演で、英会話を学び始めたことから自分を
変えて行く女性の姿を描いた作品。脚本と監督の平柳敦子は
長野県生まれ、千葉県育ちで、高校2年生時に渡米してロサ
ンゼルスの高校を卒業。州立大学で演劇の学位を得た後に、
奨学金を受けてニューヨーク大学大学院で映画制作の修士号
を取得。そして桃井かおりを主演に迎えた修了作品の短編映
画でカンヌ国際映画祭の学生映画部門の第2位を獲得した。
その短編を自ら長編化したのが本作とのことだ。因に本作は
脚本段階でサンダンス・インスティデュート/NHK賞を受
賞し、同賞の支援で本作が製作されている。内容的には南カ
リフォルニアの様子など実態に則したものだろうが、お話自
体は意外な展開の割には真面な感じで、もっと弾けたものが
欲しい感じもした。公開はゴールデンウィーク。)

『犯罪都市』“범죄도시”
(1990年代、ソウルに定着した中国同胞は中国街を形成し、
そこではいくつかの組織が縄張りを作っていた。そんな中に
新たに中国から渡って来た勢力が勃興。彼らは組織の一つを
乗っ取り、残虐な手段で他に圧力を掛け始める。この状況に
警察も動き始めるが…。物語は2004年に起きた実際の事件に
基づくとのことだ。出演は2017年7月紹介『新感染 ファイ
ナル・エクスプレス』などのマ・ドンソク、2017年6月18日
題名紹介『バッカス・レディ』などのユン・サンゲ。脚本と
監督は本作がデビュー作のカン・ユンソン。本国の公開では
連続第1位を記録し、華々しいデビューとなった。映画の最
後にはちょっと意外なテロップもでるが、組織の状況や残虐
な手段などには2017年11月19日題名紹介『孤狼の血』を髣髴
とさせるものもあり、日韓で同時期に同様な作品が登場する
のも興味深い。公開は4月28日よりロードショウ。)

『ザ・キング』“더 킹”
(1980年から2010年の韓国政治史を背景に、低所得者層から
中央政界にも目を光らせるソウル地検検事に成り上がった男
を描いたドラマ作品。物語はフィクションのはずだが、映画
にはニュース映像も随所に挿入され、あり得るかもしれない
政治の裏面が描かれて行く。それは暴力団なども関る悪に満
ちたものだ。出演は2009年11月紹介『霜花店』などのチョ・
インソンと、2014年8月紹介『監視者たち』などのチョン・
ウソン。脚本と監督は2013年『観相師』などのハン・ジェリ
ム。ニュース映像に沿うドラマ部分では「江南開発」など他
の韓国映画でも観た政治腐敗の話なども登場して現実味に富
んだ展開になって行く。ただ結論がちょっと尻すぼみな感じ
で、どうせなら最後まで貫いて欲しい感じはした。まあそこ
までも充分衝撃の作品ではあったが。公開は3月10日より、
東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二