井口健二のOn the Production
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2017年11月19日(日) 霊的ボリシェヴィキ、フラットライナーズ、ダークタワー、星くず兄弟の新たな伝説

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『霊的ボリシェヴィキ』
1996年『女優霊』や『リング』シリーズの脚本家=高橋洋に
よる2012年4月紹介『コラボ・モンスターズ!!』の一編『旧
支配者のキャロル』以来となる脚本・監督作品。
題名の「ボリシェヴィキ」は、旧ソ連時代のレーニン政権下
における過激派集団を指す言葉のようだが。それに「霊的」
と付くのは1970年代にオカルト研究家の武田崇元氏が造語し
たものだそうだ。
ところがこの言葉が後のオウム真理教事件の際に援用され、
高橋監督はその頃からこれを題名にした映画を考えていたと
のこと。そして「今回は造語した武田氏の了解も得て実現に
漕ぎ着けた」とは、試写前の挨拶での監督の発言だ。
そんな訳で本作の物語では、かなり過激なオカルト実験の模
様が描かれる。そこに集められたのは人の死に立ち会ったこ
とがあるとされる7人の男女。会場にはテープレコーダーが
設置され、マイクに向って各々がその状況を語り始める。
その会場は町工場のようだが、何か特別な場所なのか? 話
が進むうちに様々な現象が起こり始める。そしてついに実験
の意味の問われる時が来るが…。

出演は、2017年3月紹介『いぬむこいり』などの韓英恵と、
2015年『おんなのこきらい』などの巴山祐樹。2016年2月紹
介『ドロメ』などの長宗我部陽子。他に2017年5月14日題名
紹介『ぼくらの亡命』などの高木公佑、2017年8月20日題名
紹介『南瓜とマヨネーズ』などの近藤笑菜。
さらに2016年11月27日題名紹介『変魚路』などの河野知美、
2014年『ホットロード』などの子役の本間菜穂、映画『赤い
橋の下のぬるい水』などの南谷朝子、2013年4月紹介『フィ
ギュアなあなた』などの伊藤洋三郎らが脇を固めている。
ジャパニーズホラーの根幹を支えてきた高橋監督だが、本作
ではあまり恐怖感を煽る演出はせず、むしろ純粋にオカルト
的な興味を前面に出した作品になっている。その辺がマニア
ックには面白いが、一般向きかどうか。
その一方で結末の過激さは、多少のマニアでも退いてしまう
感じで、この辺はジャンル映画としてもどうなのかな? ス
プラッターならそれでも良いのだけれど、ちょっと思想的な
過激さなのは気になったところだ。
でもまあそれが監督の個性なのだし、そこに外部がとやかく
言うところではないだろう。ただもう少し穏便に終らして欲
しかったという感じは持った。

いずれにしてもオカルトファンは必見の作品と言えるかな。
公開は2018年2月10日より、東京は渋谷ユーロスペース他で
全国順次ロードショウとなる。

『フラットライナーズ』“Flatliners”
1990年にジョエル・シュマッカー監督、キーファー・サザー
ランド、ジュリア・ロバーツら若手スターの共演により映画
化された臨死体験を描くサスペンスホラーのリメイク。
今回の主人公は先進的な大学病院に勤務する女性の研修医。
新たな研究課題を模索する彼女は旧病棟の地下に災害時用に
設けられた医療設備に目を付け、仲間を誘って密かにある実
験を実行する。それは人工的に心停止を行い、死後の世界を
探求するというものだった。
そして彼女は自らに処置を施し、1分間の心停止の後に蘇生
が行われるが…。その臨死状態でも脳内には活動が見られ、
それは彼女にある体験を齎していた。しかも彼女は蘇生後に
も活発な脳活動を披露し、立ち会った仲間はこぞって被験者
になることを志願する…。それが悲劇を生み出す。

出演は、2010年7月紹介『インセプション』などのエレン・
ペイジ、2013年8月紹介『エリジウム』などのディエゴ・ル
ナ、2017年2月5日題名紹介『トリプルX:再起動』などの
ニーナ・ドブレフ。
さらに2016年6月19日題名紹介『DOPE ドープ!!』などのカ
ーシー・クレモンズ、2014年『ターナー』などのジェームズ
・ノートン。そしてサザーランドが大学教授の役で顔を出し
ている。
脚本は、2011年8月紹介『ミッション:8ミニッツ』などの
ベン・リプリー。監督は、2009年10月紹介『ミレニアム/ド
ラゴン・タトゥーの女』などのニールス・アルデン・オプレ
ヴが担当した。
1990年のオリジナル版は、確か銀座のヤマハホールで行われ
た完成披露試写会で観たはずだが。正直に言って当時の僕の
感覚では、話は判るが物語の本質のようなものが全く理解で
きなかった印象がある。
それを今回のリメイク版で観直していて、作者の言わんとす
るところは理解できたかな? サイトでオリジナル版の概要
を読むと話はほとんど変わっていないはずだが、細かい描写
の違いなどが、僕の理解力を高めてくれたようだ。
実際当時の演出では、現実と幻影の区別があまり付いておら
ず混乱した記憶があったが、今回はその辺も明確だったよう
に感じる。それはこちらの理解力が上ったせいもあるかもし
れないが。
いずれにしても、禁断の実験が引き起こす恐怖は極めて明確
に理解できたもの。これならSF映画としても秀作と呼べる
作品だ。

公開は12月22日より、全国ロードショウとなる。

『ダークタワー』“The Dark Tower”
スティーヴン・キングが学生時代から半生を掛けて創作した
全7部(邦訳の文庫本では16冊)に及ぶ大河小説の映画化。
映画の主人公はニューヨークに暮らす少年。少年は夜毎に悪
夢を見ており、そこには暗黒の塔が聳え、その塔を護る者と
破壊しようとする者との闘いが続いていた。そして少年は、
その塔の破損が現実世界に災厄を齎していると信じ、絵に描
いて周囲に訴えていたが、信じる者はいなかった。
しかも少年が「妄想」の治療と称して施設に収容されそうに
なった時、少年は啓示を受けて中間世界へと旅立つ。その中
間世界には塔を護るガンスリンガーがいて、その拳銃使いと
行動を共にすることになった少年は、異世界とニューヨーク
を行き来する壮大な闘いと冒険に巻き込まれる。

出演は、少年ジェイク役に新人のトム・タイラー、ガンスリ
ンガー役には2016年9月紹介『スター・トレック BEYOND』
などのイドリス・エルバ、それに黒衣の男役に2016年11月紹
介『ニュートン・ナイト』などのマシュー・マコノヒー。
さらに、2014年3月紹介『ロボコップ』などのジャッキー・
アール・ヘイリー、2015年『アベンジャーズ』などのクラウ
ディア・キムらが脇を固めている。
監督は、子供の頃からのキングのファンで、翻訳を待ちかね
て原書を読むために英語を独学したというデンマーク出身の
ニコライ・アーセル。
脚本は2016年3月紹介『フィフス・ウェイブ』などのアキヴ
ァ・ゴールズマン&ジョン・ピンクナーのオリジナルから、
2007年9月紹介『ある愛の風景』などのアナス・トーマス・
イェンセンと監督のアーセルが執筆している。
原作は最初に書いたように長大なものだが、本作ではそれを
何と1時間35分で描いている。
というのも原作は、キングの著作の集大成とも言われ、様々
な作品の登場人物やその舞台が関ってくるものだが、映画化
ではその中の少年ジェイクの物語だけに絞り、その他の部分
は全て排除しているものだ。
従って原作の読者にはあっけなさ過ぎるものになっているか
もしれないが、実は僕自身が映画化の企画発表の直後に原作
を読み始めて、第1部の途中で投げ出してしまったもので、
その評価は僕にはできない。
しかしキング自身がこの映画化を称賛したという話もあり、
これはこれで有りだということのようだ。
というもの原作を読んでいた時にはその世界観みたいなもの
がなかなか把握できなかったが、この映画化を見るとその点
がかなり丁寧に描かれていて、それを踏まえて改めて原作に
挑戦したくもなった。
その意味ではこの映画化は、原作を妨害せずに読書意欲を掻
き立てる作品になっているのかもしれない。因にサイトで主
演のエルバの項を見ると、この後にテレビシリーズ版の計画
も予告されているようだ。

公開は2018年1月27日より、全国ロードショウとなる。

『星くず兄弟の新たな伝説』
1985年に公開された映画『星くず兄弟の伝説』から、オリジ
ナルを手掛けた手塚眞監督が、2009年『罪とか罰とか』など
のケラリーノ・サンドロヴィッチと共に執筆した新たな脚本
で描いた続編。
物語はオリジナルのデュオを演じた2人が再び顔を合わせ、
若返りマシンで若者となって、再度ロック界の頂点を目指す
というもの。そこに芸能界のドンと呼ばれる芸能プロの社長
や、最初は売れていないが立場が逆転して行く女性タレント
などが絡むのは、ほぼ前作と同じ展開だ。
ただし本作の舞台は月面。そこでロックの魂と呼ばれる石を
探す旅が新たな要素?として加わっている。さらにその物語
の端々にミュージシャンや漫画家など、様々な分野からのゲ
スト出演が観られるのはオリジナルと同じコンセプトだ。

出演は、2014年『るろうに剣心』などの三浦涼介と、2017年
9月紹介『リンキング・ラブ』などの武田航平、2009年9月
紹介『戦慄迷宮3D』などの荒川ちか。そこにオリジナルか
ら高木完と久保田慎吾とISSAY。
さらに元グラビアアイドルで歌手の谷村奈南、アニメ声優の
田野アサミ。そしてラサール石井、浅野忠信、夏木マリ、井
上順、内田裕也、元AKB48の板野友美らが脇を固めてい
る。
本作は2016年に製作されたもので、昨年の東京国際映画祭に
Out of Competitionとして上映された。その作品がようやく
公開される。
その本作はSF映画と称しているようだが、僕はSFファン
として本作を観ていて、なぜ舞台を月面にしたのかが理解で
きなかった、この内容なら地球上のアメリカ西部辺りを舞台
にしても支障ないと思うのだが…。
しかもそこで、大気の問題や重力の問題は、劇中で「些細な
ことを言うな」と開き直られてしまい。そこは逆に人工重力
などを設定すればSF的に問題の生じないのだが。月面に於
いて「地球が沈む」というのは看過できない。
元来、月は常に同じ面を地球に向けていることから、月面で
見る地球は常に同じ位置にあって沈むことはない。実は最初
の台詞は「地球が沈む場所」と言っていて、月面を移動して
そのように見える地点を探すのかと思いきや、後半で「地球
が沈む時」という台詞が出てしまった。
他にも日没のシーンが出てくるが、月の昼夜は満ち欠けと一
緒で約29日掛るもので、映画に出てくるような速度で日没す
ることはない。恐らく主人公らの行動時間で考えると昼夜が
変ることもないはずだ。
これらは、上述の大気や重力の問題とは違って明らかに科学
的な常識のなさを露呈しているもので、SF作家クラブの主
要なメムバーであった監督のお父さんにも申し訳なく思って
しまうものだった。

公開は2018年1月20日より、東京はテアトル新宿他で、全国
順次ロードショウとなる。

この週は他に
『女の一生』“Une vie”
(2013年6月20日「フランス映画祭」で紹介『母の身終い』
などのステファヌ・ブリゼ監督が、フランスの文豪ギイ・ド
・モーパッサンの名作に挑戦した作品。そこそこの格式の家
に生まれた女性が、親や夫、親友、最期は子供にまで裏切ら
れながらも健気に生きて行く姿が描かれる。本作も原作を見
事にダイジェストしたと言える作品で、特に各エピソードの
終りを省略したり、逆にシーンの終りの台詞を次に被せるな
ど、極めて映画的な処理で映画がダイジェストであることを
印象付けると共に、映画としての見応えを確かなものにして
いる。正しく名人技と言え、これが映画の醍醐味だとも言え
る作品だ。公開は12月9日より、東京は神田の岩波ホール他
で全国順次ロードショウ。)
『サファリ』“Safari”
(2001年『ドッグ・デイズ』でヴェネチア国際映画祭審査員
特別大賞受賞などのウルリッヒ・ザイドル監督がアフリカ・
ナミビアでのトロフィー・ハンティングと呼ばれる遊興狩猟
を密着取材したドキュメンタリー。実は2016年東京国際映画
祭ワールド・フォーカス部門で上映されたが、当時は紹介文
を読んで鑑賞を止めた。それは紹介文に射殺した動物と共に
記念撮影をするシーンや動物の皮を剥ぐシーンが登場すると
あったもので、自分には耐えられないと思われからだ。しか
し今回は試写状も届いたので観に行った。その感想は、映画
としては極めて冷静な目で撮られたもので、状況を正確に把
握できる優れた作品だった。公開は1月下旬より、東京は渋
谷イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)
『Mr.Long/ミスター・ロン』
(2013年8月紹介『Miss ZOMBIE』などのSABU監督が、
台湾の人気スター、チャン・チェンを主役に招いた殺し屋が
主人公の作品。辣腕のナイフ使いが来日するが仕事に失敗。
軽トラックに潜り込んで着いたのは北関東の寒村だった。そ
こで台湾から来たシングルマザーと出会い…。実はど真ん中
にとんでもない偶然があるのだが、その偶然を本編に全く絡
ませないことで物語を成立させる。この離れ業というか、力
技に心酔してしまった。これが映画だと言える作品だ。共演
は台湾のオーディションで選ばれたイレブン・ヤオとパイ・
ルンイン(子役)。さらに劇団EXILE青柳翔。他に諏訪太郎、
千葉哲也らが脇を固めている。公開は12月16日より、東京は
新宿武蔵野館他で全国ロードショウ。)
『坂本龍一‐PERFORMANCE in NEW YORK: async』
(2017年10月1日題名紹介『Ryuichi Sakamoto: CODA』で言
及されたアンドレイ・タルコフスキー監督の1972年『惑星ソ
ラリス』に触発されて独自に創作したという楽曲。そのNY
で行われたコンサートの模様を撮影した作品。会場の中央に
は1台のグランドピアノが置かれ、その周囲にギターから打
楽器、電子装置までの様々な楽器が配置されている。そして
演奏はピアノから始まり、周囲の楽器に展開されて行く。因
に題名のasyncとは「非同期」という意味で、その言葉通り
の演奏が行われる。その何カ所かには映画のシーンが思い浮
ぶ瞬間もあり、成る程これが坂本版『ソラリス』などだと思
える作品だった。公開は2018年1月27日より、東京は角川シ
ネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。)
『ちょっとまて野球部!』
(新潮社発行の隔月刊漫画雑誌「ゴーゴーバンチ」に連載中
のゆくえ高那原作漫画からの実写映画化。主人公は子供の頃
に父親から甲子園を目指せと言われたのを信じて野球一筋で
来た高校1年生。そして高校の野球部が夏の大会の敗退して
3年生が引退し…。ネットの試し読みを見たら原作の始まり
もほぼ同じで、忠実な映画化なのかな。それにしてもこれが
今でも通用するのかと思うような古典的ギャグの連続で、そ
れが凄いと思える作品だった。出演は2017年4月23日題名紹
介『獣道』などの須賀健太と2017年9月3日題名紹介『覆面
系ノイズ』などの小関裕太、2016年7月31日題名紹介『仮面
ライダーゴースト』などの山本涼介。公開は2018年1月27日
より、東京は池袋HUMAXシネマズ他で全国ロードショウ。)
『スキャンダル』“스캔들 - 조선남녀상열지사”
(2004年「ヨン様」人気絶頂期に日本公開された韓国映画が
ディジタルリマスターされ再公開される。原作は2012年にも
中国と合作で再映画化されたフランス文学『危険な関係』。
ただし原作では合作版でチャン・ツィイーの演じた女主人が
主人公だが、本作ではペ・ヨンジュン扮する甥を中心に描か
れる。そのためラヴゲームのお話が男の生き様みたいな物語
になっているのは、本作の味噌と言えそうだ。共演は2002年
6月紹介『燃ゆる月』などのイ・ミスクと、2011年5月紹介
『ハウスメイド』などのチョン・ドヨン。脚本監督は2007年
1月9日付「東京国際映画祭2006」で紹介『多細胞少女』な
どのイ・ジェヨン。公開は2018年1月20日より、東京は渋谷
BUNKAMURAル・シネマ他で全国順次ロードショウ。)
『孤狼の血』
(2018年5月12日に全国公開される作品の試写会が早くも行
われた。この作品に関しては4月3日に製作発表記者会見が
行われて、作品に賭ける思いがひしひしと伝わってきたが、
作品の出来もそれに相応するものだった。物語は柚月裕子の
小説を原作とするが、昭和末期の広島を舞台に暴力団同士の
抗争と、警察との攻防が描かれる。出演は役所広司、松坂桃
李、真木よう子。他に滝藤賢一、中村獅童、田口トモロヲ、
ピエール瀧、石橋蓮司、江口洋介、嶋田久作らが脇を固めて
いる。脚本と監督は、2016年『日本で一番悪い奴ら』の池上
純哉と白石和彌のコンビ。今、最も骨太な映画を作れる2人
が昭和の日本映画界を牽引した東映任侠映画の血を復活させ
た。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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