井口健二のOn the Production
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2017年11月12日(日) ガーディアンズ、シェイプ・オブ・ウォーター

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ガーディアンズ』“Защитники”
2016年8月に予告編が動画サイトに投稿されて話題を呼び、
本国では2017年2月に劇場公開されたロシア版スーパーヒー
ロー作品。
物語の起源は冷戦時代。旧ソ連では、遺伝子操作による超人
の誕生と、完全自動化による無人兵器の開発が並行して進め
られていた。ところがそれらの主導権争いから対立が生じ、
抗争の挙句に研究は頓挫、歴史の闇に葬られてしまう。
それから数10年が経った今日、ロシア軍の新兵器実験場で突
然暴走が起き、それはソ連時代に無人兵器を開発していた科
学者の復讐と判明する。しかもその科学者は、自らも肉体改
造して世界征服を目論んでいた。
この事態にロシア軍部は、かつての超人研究の記録を再調査
し、当時遺伝子操作で生み出されながら姿を消し、その後は
世を捨てて隠れて暮らす超人たちの再結集を目指す。彼らは
人類にとっての最後の希望だった。

出演は、主にロシアテレビで活躍するアントン・パプシニ、
2015年9月紹介『ザ・ファントム』などのサンザール・マデ
ィエフ(マディ)、2015年『FOUJITA』に出ていたセバスチ
ャン・シサク。
原案と監督は、2015年にヘイデン・クリステンセン、エイド
リアン・ブロディが共演した『クライム・スピード』などの
サリク・アンドレアシアン、脚本は、監督の前作『キル・オ
ア・ダイ 究極のデス・ゲーム』にも協力したアンドレイ・
ガヴリロフ。
海外の評価では「まさにロシア版『X-MEN』!」というのも
あるようだが、超人メムバーの風体や能力から見ると同じマ
ーヴェルでも『ファンタスティック・フォー』の方だろう。
人数が4人というのもそれに合致する。
ただ、劇中でその超能力が存分に発揮されているかというと
そうでもなくて、対決シーンはもっぱら格闘技戦になってし
まうのは勿体ないところ。とは言えそれを補うのがVFXに
よる大破壊で、それは豪華に都市を破壊してくれる。
ロシアのVFX事情では、2012年8月紹介『リンカーン/秘
密の書』などのティムール・ベクマンベトフが支援して一気
に向上したという話も聞くが、本作では以前に気になった場
面間の変動も少なく、かなりの水準に達したと言えそうだ。
この勢いで同様の作品がどしどし作られるのかな?
それにしても本作では、展開の都合で主人公たちを不老とし
ているのだが。これは生身の俳優には酷な話で、本作の続編
を作るときはどうするか。その辺が多少気になる所だ。

公開は2018年1月20日より、東京は新宿ピカデリー他で全国
ロードショウとなる。

『シェイプ・オブ・ウォーター』“The Shape of Water”
2012年12月〜2014年12月紹介『ホビット』シリーズの脚本も
担当したギレルモ・デル・トロの製作/原案/脚本/監督に
よるファンタシー映画。
物語の時代背景は1962年。主人公は耳は聞こえるが喉の障害
で喋ることのできない女性。彼女は政府機関の研究所に清掃
員として勤務しているが、ある日その研究所に水槽に厳重に
閉じ込められた謎の生物が到着する。
それを管理しているのは軍の将軍に直属の男性。彼は牧童が
牛追いに使う電撃棒を持って生物をコントロールしようとし
ていたが、反撃に遭い指を2本食いちぎられてしまう。そし
てその掃除で部屋に入った主人公は…。
謎の生物は水棲人で、軍は宇宙旅行のためにその身体の構造
を調べていた。そして最初は外見からの研究だったが、意思
疎通のできない水棲人に対して、ついに知能を持たない動物
と見做して生体解剖が提案される。
しかしその間に、主人公は水棲人と密かな愛を育んでいた。
そこに主人公の同居人や同僚の黒人女性。さらに水棲人を手
に入れようとするソビエト連邦のスパイなども絡んで、事態
は思わぬ方向へと進展して行く。

主演は2010年12月紹介『わたしを離さないで』などのサリー
・ホーキンス。他に2012年2月紹介『テイク・シェルター』
などのマイクル・シャノン、2013年8月紹介『ランナウェイ
/逃亡者』などのリチャード・ジェンキンス。
さらにダグ・ジョーンズ、マイクル・スタールバーグ、オク
タビア・スペンサーらが脇を固めている。デル・トロは製作
面では上記の4役だが、エンド・クレジットによると他に声
優も務めていたようだ。
M・ナイト・シャマランも2006年に『レディ・イン・ザ・ウ
ォーター』を撮ったが、ファンタシー系の監督はこういう作
品を撮りたくなるものなのかな? ただし本作で水の中に居
るのはレディではなくAmphibian Manだが…。
主人公の女性が喋れないのは人魚姫からの発想と思えるが、
他にもいろいろ描かれる示唆は、結末にも別の意味が生じて
中々興味深いものになっている。レジー賞のシャマランに対
して、本作がベネチア金獅子賞なのはその違いだろう。
それにしても本作の水棲人が正にGill-manなのにも驚かされ
たところで、2017年7月紹介『ザ・マミー 呪われた砂漠の
王女』では、後続作品の中に『大アマゾンの半魚人』が明白
に示唆されていたが、これはどうなるのだろうか。

公開は2018年3月1日より、全国ロードショウとなる。

この週は他に
『はじまりのボーイミーツガール』
                “Le coeur en braille”
(秀才で音楽の才能もあるが病で視力を失って行く少女と、
頭は悪いが彼女を護ろうと奮闘する少年を描いた青春映画。
どちらが見初めたのかは判らないが、先に声を掛けたのは少
女。そして少女は少年に勉強を教え始めるが、彼女自身が抱
える問題はなかなか話せなかった。しかし彼女には42日後の
音楽院の試験の日まで周囲にそれを隠す必要があった。出演
は新人のアリックス・ヴァイロと、2015年『ミモザの島に消
えた母』で主人公の幼少期を演じたジャン=スタン・デュ・
パック。他に2017年『ELLE』などのシャルル・ベルリング、
2012年10月28日「東京国際映画祭」で紹介『もうひとりの息
子』などのパスカル・エルベ。公開は12月16日より、東京は
新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)
『ジャコメッティ 最後の肖像』“Final Portrait”
(1966年に他界したフランスの芸術家が、その2年前に制作
した肖像画の顛末を、そのモデルとなったアメリカ人美術評
論家の著作を基に映像化した作品。脚本と監督は2014年8月
紹介『ザ・マペッツ2』などの俳優スタンリー・トゥッチ。
出演者にジェフリー・ラッシュ、アーミー・ハマー、トニー
・シャループ、シルヴィー・テステュー、クレマンス・ポエ
ジーらを迎えて、ストイックで気まぐれ、ユーモアもあるが
癇癪持ちという芸術家の晩年を情感豊かに描き上げている。
「伝記映画には興味がない」という監督が、芸術家の人間性
を見事に映し出した作品とも言えそうだ。しかもエンターテ
インメントとしても面白い。公開は2018年1月5日より全国
ロードショウ。)
『ダンシング・ベートーヴェン』“Beethoven par Bejart”
(1964年に天才振付師モーリス・ベジャールによって初演さ
れ、世界的なセンセーションを巻き起こしたものの1978年に
封印。1999年以降は上演も途絶え、2007年のベジャール死去
以降は再演不可能とされていた「第九交響曲」に基づくバレ
エの舞台を、2014年に東京バレエ団が創立50周年記念として
再演するまでのリハーサルなどの様子を描いたドキュメンタ
リー。という状況を知って観ていれば成程なあと思える作品
なのだろうが、予備知識がないと多少戸惑う作品だった。と
は言え一つの作品を作り上げて行く過程は興味深く描かれて
いた。ただ最後はもう少し本舞台の様子が見たかったかな。
それには別の問題が絡むのだろうが。公開は12月23日より、
東京は新宿武蔵野館他でロードショウ。)
『スリー・ビルボード』
     “Three Billboards Outside Ebbing, Missouri”
(片田舎の交通量もまばらな道沿いに立つ3枚の広告看板。
そこに突然、7か月前に少女が殺された事件に対する警察の
姿勢を問う文言が掲出される。広告主は被害者の母親。しか
し警察はその広告自体に反応し、母親との諍いが勃発する。
主演はフランシス・マクドーマンド。共演にウッディ・ハレ
ルスン、サム・ロックウェルを迎えた、2013年7月紹介『セ
ブン・サイコパス』などのマーティン・マクドナー脚本監督
による作品。マクドーマンドで田舎警察というと、女優がオ
スカーに輝いた1996年『ファーゴ』を思い出すが、人間不信
のコーエン兄弟に比べると本作の監督は少し信用しているの
かな? それが心地よさでもあり、物足りなさでもあった。
公開は2018年2月1日より、全国ロードショウ。)
『インフォ・メン 獣の笑み、ゲスの涙』
(読者モデル出身鈴木勤の主演で、大阪ミナミの風俗街を舞
台にした作品。主人公は記憶にない彼女の妊娠で300万円が
必要になった若者。闇金で借りるもその金も紛失し、ふと見
つけた無料案内所の店員に応募し働くことになる。そこは夜
の街の様々な顔が現れては消える場所だった。そんな中で女
性たちに振り回される主人公だったが…。共演は、本作の主
題歌も歌っている2014年『ハニー・フラッパーズ』などの岸
明日香と、2017年『...and LOVE』で鈴木勤と共演の逢澤み
ちる、2017年8月紹介『トモダチゲーム』に出ていたという
加藤明子。脚本と監督は、2013年『蒼き天狗の夜に。』など
の金子智明。公開は12月9日より、東京は池袋シネマ・ロサ
他で全国順次ロードショウ。)
『52Hzのラヴソング』“52赫茲我愛你”
(2013年2月紹介『セデック・バレ』2部作などのウェイ・
ダーション監督が自らの脚本で、バレンタインデイの台北を
舞台に様々な恋愛事情を描いた作品。主人公の1人目は叔母
に頼まれた花屋を切り盛りする30代半ばの女性。2人目は修
行中の30代のパティシエ。この2人を中心に女性同士の結婚
を認めて貰いたいカップルや、合同結婚式を企画した市職員
の女性らが絡み、17曲ものオリジナルラヴソングと共に物語
が展開される。物語自体は他愛ないが、ほとんどが人気アイ
ドルやベテラン歌手という配役で、見事な楽曲が作品の全て
という感じだ。因に受賞歴多数の監督だが、本作はそういう
作品ではないと宣言しているそうだ。公開は12月16日より、
東京は渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)
『わたしは、幸福(フェリシテ)』“Félicité”
(日本のフジロックでも公演したことのあるカサイ・オール
スターズの楽曲をフィーチャーした作品。主人公は「幸福」
という名を持つ酒場の女性歌手。シングルマザーで思春期の
息子を育てている。その息子が交通事故で重傷を負い、手術
のための大金が必要になる。そこで町中を駆けずり回って金
を集める彼女だったが…。今年の東京国際映画祭で観た『マ
カラ』にも似た熱気の籠るアフリカの庶民の生活が繰り広げ
られる。医療保険制度のない場所では起こりうる社会問題が
描かれるが、その一方であまりに頑なな主人公の生活ぶりも
問題だ。その主人公が何処に向っているのか、それが見えな
いのも辛い作品だった。公開は12月16日より、東京はヒュー
マントラストシネマ渋谷他にて全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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