井口健二のOn the Production
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2017年10月08日(日) ゆらり、ブレードランナー 2049

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ゆらり』
劇団「TAIYO MAGIC FILM」主宰の西条みつとしが、自身の劇
団で2013年と2015年に上演して話題になったという同名戯曲
を自らの手で脚本化。劇場映画初監督の横尾初喜が映画化し
たSF的な要素のある作品。
物語の舞台は石川県能登半島に建つちょっと古い感じのペン
ション。そこで現在と未来と過去の3部構成で、ある宿命を
背負った家族のドラマが展開される。
最初の現代では、幼い女児のいる夫婦の主に妻がペンション
を経営し、若い女性従業員が働いている。そこに中年の男女
の宿泊客が訪れる。その男女は別々に部屋を取るが、男性の
態度が落ち着かない。その宿にはもう1人の女性客がいて、
彼女の勘違いから少しドタバタなドラマが描かれる。
続いてはちょっと未来のお話。第1部では女児だった女性が
シングルマザーとなって男児を育てている。そこで息子から
「神様はいるの?」と聞かれた母親は、手紙を入れると神様
からの返事が届くという、祖父譲りのポストを見せる。そし
て息子の入れた手紙に返事が届くが…。
最後はちょっと過去の出来事。ペンションは中年夫婦が経営
しており、そこに女優を目指し東京に行っていた娘が戻って
くる。しかし母親と娘の関係はぎくしゃくしているようだ。
その娘が謎のリモコンを見つけ、そのボタンを押すと同じ時
間が繰り返すことに気付く。
こうして時間が繰り返したことで娘は、自分が母親に取った
態度の愚かさを知り、それを直そうとするが…。リモコンに
は使用法と共に、「繰り返した時間は少しだけ変えることは
できるが、結局は元に戻ってしまう」という注意書きが記さ
れていた。

主演は、2013年4月紹介『俺俺』などの岡野真也と、2011年
1月紹介『心中天使』などの内山理名。他に戸次重幸、萩原
みのり、山中崇、遠藤久美子、平山浩行、渡辺いっけい、鶴
田真由らが脇を固めている。
第1部と第2部はそれなりの親子関係を描いたヒューマンな
ドラマが展開される。そこからの第3部はSFファンの目か
らするとちょっと唐突な感じもするが、タイムパラドックス
などは問題ないように作られている感じだ。この辺のSFテ
ーマの扱いは最近の劇作家はしっかりしている。
それに加えて本作では、第1部では女性従業員がポケットに
手を入れた時のかすかな音や、第2部では最後の手紙の執筆
者など、細かいところで正にドラマが展開されている。この
辺の演出も素敵に感じられる作品だった。
なおタイムパラドックスに関しては、上記の注意書きがポイ
ントになるが、SFファン的には逆の解釈が思い浮かぶとこ
ろも、よく考えられた作品と言えそうだ。中々巧みなSF作
品だった。

公開は11月4日より、東京は池袋シネマロサ他で、全国順次
ロードショウとなる。

『ブレードランナー 2049』“Blade Runner 2049”
1982年に公開され、当時のSFファン以外にも支持された名
作映画の続編が35年の時を経て誕生した。これは製作総指揮
リドリー・スコット、監督は2017年3月紹介『メッセージ』
のドゥニ・ヴィルヌーヴによる渾身の作品だ。
前作の舞台は2019年だったそうで、本作はその30年後。気象
の変化により海水面が上昇し、高い堤防で海洋から仕切られ
たロサンゼルスで物語は始まる。そして登場するのは自らが
レプリカントでありながら、レプリカントの逃亡者を追う捜
査官(ブレードランナー)のK。
そのKが逃亡レプリカントを処理した場所から別の白骨遺体
が発見され、その骨には人類とレプリカントの関係を揺るが
すある重大な痕跡があった。そして新たな指令がKに与えら
れる一方で、成人のまま誕生するレプリカントに植え付けら
れる疑似記憶の中で、Kの幼少時代の記憶に謎が生じる。

出演は、2013年2月紹介『L.A.ギャングストーリー』などの
ライアン・ゴズリング、2013年8月紹介『ハウス・オブ・カ
ード』などのロビン・ライト、2016年8月題名紹介『スーサ
イド・スクワッド』などのジャレッド・レト、2012年5月紹
介『灼熱の肌』などのアナ・デ・アルマス。それにハリスン
・フォード。
脚本は、前作を手掛けたハンプトン・ファンチャーの原案と
シナリオから、2011年7月紹介『グリーン・ランタン』や、
2017年『エイリアン コヴェナント』などのマイクル・グリ
ーンが参加して完成された。
前作は、日本製品のCMも登場するヴィジュアル・インパク
トでも評判になったものだが、本作ではちょっとハングルが
増えたかな? でも要所にはしっかりと日本語が登場するの
は、今回の映画配給がソニーというだけではないだろう。
しかもそのヴィジュアルは、今回はIMAXで製作されてお
り、完成披露の品川プリンスのシアターで行われた映像は正
に目を見張るものだった。
さて以下はかなりネタバレに接近するが、前作ではブレード
ランナーのデッカード本人がレプリカントであるのか否かが
最後に残された謎のままだった。それに対して本作の主人公
Kは最初からレプリカントとされており、対するデッカード
の立場も明白にされている。
そしてそこから新たな謎が登場するが、それが前作やその後
の状況を知る者にはかなり切ない。そんな物語が相応のサプ
ライズを含めて見事に展開されている。脚本家ファンチャー
は、本作を想定して前作を書いたのだろうが。35年を経ての
本作は、見事にその物語を完成させることになった。

公開は10月27日より、東京は丸の内ピカデリー、新宿ピカデ
リー他で、全国ロードショウとなる。

この週は他に
『アランフェスの麗しき日々』
            “Les beaux jours d'Aranjuez”
(2011年10月紹介『Pina』などのヴィム・ヴェンダース
監督が、1987年『ベルリン・天使の詩』などでも組んだドイ
ツ出身の劇作家ペーター・ハントケによる2012年発表の戯曲
を脚色し、映画化した作品。出演は2017年8月27日題名紹介
『永遠のジャンゴ』などのレダ・カテブ。ほぼ会話劇で進行
する作品だが、結末に流れる音響が何とも様々なものを想像
させる。しかしそこに結論は明示されず、観客の脳裡にいろ
いろなものが想起される。それが監督の狙いなのだろうが、
もう少し何かヒントが欲しい感じはした。なお撮影はナチュ
ラル3Dで行われたとプレス資料にあるが、日本での公開は
2Dになってしまうようだ。公開は12月より、東京はYEBISU
GARDEN CINEMA他で、全国順次ロードショウ。)
『恋とボルバキア』
(2010年3月紹介『アヒルの子』小野さやか監督7年ぶりの
新作は、セクシャルマイノリティを描くドキュメンタリー。
時間の関係で9月10日付に題名のみ掲載とした『女になる』
という作品が、実は性転換手術を受けた人物のドキュメンタ
リーで、かなり正確にその状況を描いていた。それに比べる
と本作は多少情緒に流れたかな? 監督の思い入れが少し前
面に出過ぎた感じもする。特に複数の事象を並行して描く構
成はドラマティックだが、それぞれの事象を判り難くしてい
るようにも感じた。ただし2作を両方共に観ると、互いに理
解が深まる作品にはなっているが…。本作の公開は12月9日
より、東京はポレポレ東中野他で全国順次ロードショウ。ま
た田中幸夫監督の『女になる』は、10月28日より新宿K's
cinema他で、全国順次及び特集上映となる。)
『嘘八百』
(前回題名紹介『リングサイド・ストーリー』の武正晴監督
が、中井貴一、佐々木蔵之介をW主演に迎えた骨董品を巡る
虚々実々の物語。脚本は2014年『百円の恋』でも武監督と組
んでいる足立紳と2002年4月紹介『パコダテ人』などの今井
雅子。共演者には友近、森川葵、前野朋哉、堀内敬子、坂田
利夫、木下ほうか、塚地武雅、桂雀々、寺田農、芦屋小雁、
近藤正臣らの名前が並ぶ。まあ普通に詐欺師の話なのだけれ
ど、こんなことで騙されるのかな? でもそれが骨董界の現
状なのかもしれないし、こんなことで振り回される文化庁の
役人というのは、情けないが案外ある話かもしれない。でも
素人目には有りそうもない話というのは…、ちょっと盲点か
な。公開は2018年1月5日より、全国ロードショウ。)
『セントラル・インテリジェンス』
               “Central Intelligence”
(2016年6月紹介『ペット』で声優を務めたコメディアンの
ケヴィン・ハートが、ドウェイン・ジョンスンとコンビを組
んだ実写アクションコメディ。主人公は高校時代は将来を嘱
望されたが、実社会では鳴かず飛ばずになってしまった男。
そんな男の前に高校時代に窮地を救って貰ったという偉丈夫
が現れる。そしてその偉丈夫は、言葉巧みに主人公を危険が
一杯の道に誘って行くが…。共演は2017年3月26日題名紹介
『潜入者』などのエイミー・ライアン、2016年9月18日題名
紹介『アイ・イン・ザ・スカイ』などのアアロン・ポール。
監督は2013年12月紹介『なんちゃって家族』などのローソン
・マーシャル・サーバー。公開は11月3日より、東京は新宿
武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
『写真甲子園 0.5秒の夏』
(北海道東川町を中心に毎年夏に開催されている全国高等学
校写真選手権大会、通称「写真甲子園(写甲)」を題材にし
た青春ドラマ作品。全国高等学校の写真部やサークルが組み
写真の実力を競い、地区ブロックを勝ち抜いたチームが北海
道に結集して与えられた題材で作品を作って行く。その様子
が大阪と東京の代表校を中心に描かれる。そこにはいろいろ
なトラブルもあるが…。出演は「仮面ライダーエグゼイド」
の甲斐翔真。他に平祐奈、萩原利久らの若手に加えて、秋野
暢子、河相我聞、千葉真一らが脇を固める。脚本と監督は、
2003年11月9日付紹介「東京国際映画祭」コンペティション
作品『ほたるの星』などの菅原浩志。公開は11月11日より、
北海道先行上映の後、全国順次ロードショウ。)
『彼女が目覚めるその日まで』“Brain on Fire”
(クロエ・グレース・モレッツの主演で、原因不明の難病に
冒されたNYポスト紙女性記者の闘病記を映画化した実話に
基づく作品。彼女が罹った抗NMDA受容体脳炎という病気は、
適切な治療をすれば完治可能だが、その診断がかなり難しい
ようだ。その辺の経緯が映画でも描かれ、診断後が呆気ない
のは、そう言うものということなのだ。共演は2017年2月紹
介『キングコング』などのトーマス・マン、2017年9月紹介
『ギフテッド』などのジェニー・スレイト。さらに『マトリ
ックス』シリーズのキャリー=アン・モス、『ホビット』シ
リーズのリチャード・アーミテージ。脚本と監督はアイルラ
ンド出身のジェラルド・バレット。公開は12月16日より、東
京は角川シネマ新宿他で全国順次ロードショウ。)
『ゴーストブライド』“Невеста”
(帝政ロシア時代から伝わるとされる霊魂を他者に乗り移ら
せる儀式に遭遇した女性の恐怖を描くロシア製ホラー作品。
ホラー映画は世界的なブームのようで、本作の監督スビヤト
スラフ・ポドゲイエフスキーもすでに何本か同じジャンルの
作品を発表しているようだ。そういう勢いの中での作品で、
本作もホラーシーンなどは卒なく纏まっている。内容的には
2017年8月紹介『ゲット・アウト』にも通じているかな? 
ただまあ儀式の結末というか、オチがこれなのはいやはや。
伝統が背景のホラーも世知辛くなったものだ。もっともこの
点は、1974年にアンディ・ウォーホルが監修したホラー映画
でも指摘されていたことだが…。公開は11月25日より、東京
はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
『ラ・ベア マッチョに恋して』“La Bare”
(2012年スティーヴン・ソダーバーグ監督の『マジック・マ
イク』に出演し、2014年の続編にも登場した俳優ジョー・マ
ンガニエロが、その題材である男性ストリップの世界を取材
したドキュメンタリー。元々出演に悩んでいた俳優が、友人
から「実はやっていたことがある」と告白され、役作りで見
学したのがきっかけだったそうだ。そこでその世界に興味を
持った俳優が初監督として作り上げている。それはかなり際
どい世界を愛情をもって描いたもので、中には犯罪行為に掛
る部分も赤裸々に描かれている。しかもかなりドラマティッ
クな展開もあるのは、知った上での初挑戦だったかな。でも
真摯に作られた作品だ。公開は12月9日より、東京はヒュー
マントラストシネマ渋谷他で全国順次ロードショウ。)
『青春夜話 Amazing Place』
(「キネマ旬報」に「ピンク映画」の連載や、怪獣映画に関
する書籍もある評論家・切通理作による初映画監督作品。街
で出会った男女が同じ学校の出身と知り、深夜の校舎に忍び
込んで学生時代にいじめられた思い出への復讐を実行する。
さすが長年の評論活動で培ったというか、観客の観たいもの
をよく心得た展開が描かれている。出演は、2017年5月14日
題名紹介『ぼくらの亡命』などの須森隆文と、2015年1月紹
介『ら』などの深琴(以前の名前はももは)。2015年『向日
葵の丘』などの飯島大介、2017年7月9日題名紹介『蠱毒』
などの安部智凛。公開は12月2日〜15日に、東京は新宿K's
cinemaにてレイトロードショウ。初日舞台挨拶と、期間中に
トークイヴェントも開催。)
『探偵はBARにいる3』
(2011年、2013年に公開された大泉洋、松田龍平共演による
北海道が舞台のミステリーシリーズ第3弾。実は前の2作は
観ていないが、物語は本作だけで充分理解できるものになっ
ている。そして今回の依頼は、大学生からの失踪した女子大
生の行方。しかし彼女の身辺を洗う内に事件はススキノの裏
社会を巻き込む大きな事件に発展して行く。ゲスト出演は北
川景子、前田敦子。さらに鈴木砂羽、リリー・フランキー、
田口トモロヲ、志尊淳、マギー、松重豊、野間口徹らが脇を
固めている。厳冬期の北海道でロケは行われたようで、広々
とした雪原などがちょっと普段と違う気分にさせてくれる。
監督は2016年8月14日題名紹介『疾風ロンド』などの吉田照
幸が新登板。公開は12月1日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二