井口健二のOn the Production
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2017年10月01日(日) 花筐、DCスーパーヒーローズvs鷹の爪団

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『花筐』
2014年5月紹介『野のなななのか』などの大林宣彦監督が、
1977年の『HOUSE ハウス』以前に企画していた幻のデビュー
作がついに実現された。
物語の舞台は、1941年の佐賀県唐津市。おくんちの祭りと、
戦争の足音が間近に迫る中での青春群像劇は、2012年4月紹
介『この空の花』、『野のなななのか』に続く戦争3部作の
最終章となるものだ。
主人公は叔母の家に身を寄せている17歳の若者。時折は米軍
機の空襲などもあるが、平生は比較的静かで主人公も同級の
若者たちと青春を謳歌している。そんな中で主人公は、従妹
に心を寄せていたが、彼女は胸の病に苦しんでいた。
さらに主人公の周囲の一見豪放な若者たちも、それぞれの悩
みに苦しんでいた。そして戦時下でもおくんちの祭りが盛大
に繰り広げられる。

出演は窪塚俊介、満島真之介、長塚圭史、柄本時生。さらに
矢作穂香、山崎紘菜、門脇麦。そして常盤貴子、村田雄浩、
武田鉄矢、入江若葉、南原清隆、根岸季衣、池畑慎之介、白
石加代子、片岡鶴太郎、高嶋政宏、品川徹、伊藤孝雄らが脇
を固めている。
原作は檀一雄の同名純文学に基づくもので、そこから大林監
督と、『HOUSE ハウス』にも協力した桂千穂が共同で脚色。
因に原作には明確な場所の指定はないが、40年前の企画当時
に存命だった原作者から「唐津に行きなさい」との示唆を受
けて訪問し、ロケ地に定めたそうだ。
そして今回は、唐津映画製作推進委員会の名の許に唐津市の
全面協力を得て映画が製作されている。
大林監督による戦争3部作最終章という位置付になっている
作品だが、本作の中では監督のセルフオマージュとも言える
シーンが随所に見て取れる。それは例えば合成場面で人物に
縁取りがあったり、スクリーンプロセスらしきシーンの背景
がぼけていたり…。
これらの映像は現在のVFX技術を使えば有り得ないものだ
が、デビュー作の当時は…。正直に言えば『HOUSE ハウス』
でもやり過ぎ感はあったが、そんな思い出にも繋がるシーン
になっている。取り敢えずは、大林監督による大林映画の真
骨頂と言える作品だろう。
大林監督は本作の撮影開始当時に余命3ヶ月を宣告され、そ
の後はさらに悪化して一時は余命1カ月とも言われたそうだ
が。それが昨年夏の話で、完成も危ぶまれた本作が僕らの目
の前にある。最近は多少体調が回復したとのうわさもある。
何とも奇跡の作品のようだ。

公開は12月16日より、東京は有楽町スバル座他で、全国順次
ロードショウとなる。

『DCスーパーヒーローズvs鷹の爪団』
2009年12月と2013年8月にも紹介したFlash Movieで制作さ
れている日本ローカルのアニメーション・シリーズ最新作。
そのローカルな作品に、何とアメリカメジャーでもトップク
ラスと言えるDCコミックス・ジャスティスリーグ及びその
敵役の面々がゲスト出演した。
物語は、ゴッサムシティの裏社会に君臨するジョーカーが、
同じく悪役のペンギンと共に、世界征服を目指す日本の悪の
組織「鷹の爪団」が開発した秘密兵器を狙って日本にやって
来る。一方、その動向を察知したスーパーマンたちも来日す
るが…。バットマンはある理由で引籠っていた。
しかもまんまと秘密兵器を手に入れた悪の軍団たちは自らの
映画を制作するための作戦を展開。この事態に「鷹の爪団」
もジャスティスリーグに協力せざるを得なくなる。ところが
スーパーヒーローたちのド派手なアクションは、あっという
間に本作の製作費を食いつぶしてしまう。
画面の右端には「鷹の爪」映画ではお決まりの製作費インジ
ケーターが表示されていて、アクションシーンになると緑→
黄→赤に変色して、その棒グラフがどんどん短くなる。それ
に伴って絵柄がどんどん荒くなるのも本シリーズではお決ま
りの演出だ。そんな展開の中で、物語はそれなりのものが進
んで行く。

原案、脚本、監督と鷹の爪団メムバーの声優はFROGMAN。そ
して今回のゲスト声優には、山田孝之、2016年『全員、片想
い』などの知英、2017年9月紹介『不能犯』安田顕。さらに
犬山イヌ子、金田朋子らが脇を固めている。
アニメーション制作は、シリーズ初期から担当のDLE。そ
れに今回は、2005年『ALWAYS三丁目の夕日』などの白組と、
2009年10月紹介『アフロサムライ』などのGONZOが協力
参加している。この2社の担当シーンはあっという間に製作
費を食い尽くす迫力のものだ。
確かにお話自体はいい加減だが、「鷹の爪団」のコンセプト
などには一本筋が通っており、そこに破綻がないのは観てい
て気持ちの良いもの。その上に楽屋落ちから政治・世相風刺
まで様々なギャグがふりまかれるもので、それは大人の目に
も面白く作られている。
さらに今回は映画製作のバックステージのような趣もあり、
僕的にはその辺も気に入った作品だ。因に本作の配給はワー
ナーブラザース。また試写会ではヤマキ「かつおパック」が
お土産に配られた。

公開は10月21日より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロード
ショウとなる。

この週は他に
『KOKORO』“Le coeur regulier”
(2012年10月紹介『カミハテ商店』に登場し、その紹介では
「もっと他の映画でも見たくなる」と書いた島根県隠岐諸島
の知夫村にある「赤壁」を背景にしたフランス映画。息子が
1人の人物と出会い心が再生されたと聞いた女性が、訪日し
て遙々その場所を訪れる。出演は2008年9月紹介『きつねと
私の12ヶ月』などのイザベル・カレ。日本側から國村隼、
安藤政信、門脇麦らが参加している。実話に基づくとされる
オリヴィエ・アダムの小説から、本作が長編第2作のヴァン
ニャ・ダルカンタラが脚本と監督を手掛けた。因に原作も舞
台は日本のようだ。テーマ的には2012年作と同様だが、観て
いる方向が少し違うかな。公開は11月4日より、東京は渋谷
ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)
『ドクター・エクソシスト』“Incarnate”
(妻子を悪霊に奪われたエクソシストが、科学的な手段も駆
使して最強の敵に挑む。その手段は、取り憑かれた少年の潜
在意識に潜り込むこと。主演は2013年4月紹介『エンド・オ
ブ・ホワイトハウス』などのアアロン・エッカート。共演に
2016年7月3日題名紹介『栄光のランナー 1936ベルリン』
などのカリス・ファン・ハウテン、2008年12月紹介『チェ』
などのカタリーナ・サンディノ・モレノ。監督は2010年8月
紹介『キャッツ&ドッグス』(続編)などのブラッド・ペイ
トンが製作総指揮と共に担当している。テーマ的には2008年
10月紹介『悪夢探偵』に通じてるかな。インスパイアされて
いる可能性はありそうだ。公開は11月25日より、東京はシネ
マート新宿他で全国順次ロードショウ。)
『Ryuichi Sakamoto: CODA』
(1988年『ラストエンペラー』のベルトルッチなど海外監督
とのコラボレーションも多い作曲家坂本龍一の2012年から最
近までを追ったドキュメンタリー。映画の始まりは災害後の
福島。津波に襲われた体育館に浮かんでいたというグランド
ピアノの状態を探りながら演奏する姿と原発被災地を見聞す
る姿が続く。ただその直後に癌の告知を受けるのは少し意図
的かな。そして1年間の治療。そこに悲壮感はないが、仕事
の出来ない焦燥感は伝わってくる。それと共にYMO時代か
らのアーカイヴ映像や監督たちとの仕事の裏話が語られる。
他にもタルコフスキー監督『ソラリス』に独自の音楽を付け
るなど興味を惹かれる話も満載の作品だ。公開は11月4日よ
り、東京は角川シネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。)
『こいのわ 婚活クルージング』
(東京のタウン誌などにグルメレポートを寄稿している牧五
百音という人の脚本を、前々回紹介『リンキング・ラブ』な
どの金子修介監督で映画化した広島県が舞台のご当地作品。
金子監督のご当地ものでは2013年に香川県が舞台の『百年の
時計』という作品も観ているが、観光名所が出て来たりの構
成はそつなく作られている作品だ。テーマ的には広島県庁が
実際に行っている事業に基づくそうで、そのPRとしては充
分な作品だろう。そこにちょっと未来的アイデアが挿入され
ているのは、金子監督らしさかな。出演は風間杜夫、片瀬那
奈。他に藤田朋子、八嶋智人、白石美帆、城みちるらが脇を
固めている。公開は11月18日より、東京は角川シネマ新宿他
で全国順次ロードショウ。)
『ローガン・ラッキー』“Logan Lucky”
(2013年7月紹介『サイド・エフェクト』以降、主にテレビ
界で活動してきたスティーヴン・ソダーバーグ監督が、新人
脚本家レベッカ・ブラウンのオリジナルシナリオを得て映画
界に復帰した作品。NASCAR開催中のレース場を舞台に、アン
ラッキー続きだった兄弟が売店の売上金を一気に奪う大胆な
計画に挑む。そこに服役中の爆破のエキスパートらが絡み、
運任せの作戦は始まるが…。出演はチャニング・テイタム、
アダム・ドライヴァー、2015年6月紹介『マッドマックス』
などのライリー・キーオ。さらにダニエル・クレイグ、セス
・マクファーレン、ケイティ・ホームズらが登場。大胆な計
画は『オーシャンズ』を髣髴とさせるかな。公開は11月18日
より、東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)
『リングサイド・ストーリー』
(2017年9月3日題名紹介『光』などの瑛太と3月12日題名
紹介『猫忍』などの佐藤江梨子のW主演で、格闘技を題材に
した作品。売れない俳優と彼を陰で支える女性が、ふとした
ことから格闘技の世界に紛れ込む。そこに居場所を見つける
女性と、ライヴァル心を燃やす俳優だが…。田中要次、前野
朋哉、余貴美子らに加えて、武藤敬司、武尊らの本物の格闘
家も登場する。実は先日サッカー場の場外イヴェントでプロ
レス興行の準備の様子を目撃して、本作でも同じ作業が行わ
れていることに感心した。それくらいに本物の格闘技も観ら
れる作品で、物語は「髪結いの亭主」だが、細かいところも
良く配慮されているのは気分の良い作品だ。公開は10月14日
より、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
『ヒトラーに屈しなかった国王』“Kongens nei”
(1905年、スウェーデンとの同君連合を解消したノルウェー
に国王として招かれたデンマーク王家次男のホーコン7世。
立憲君主制で直接国政には関れない中で、先にデンマークの
兄王を屈服させたヒトラーの要求を撥ね退け、徹底抗戦の道
を貫いた。そのナチスドイツ艦船による領海侵犯に始まる開
戦から、オスロの王宮を脱出し逃亡を続けながらのドイツ公
使との交渉などが描かれる。抗戦による国民の被害は大きか
ったと思うが、尊厳を守ったことが今も尊敬を集める所以だ
ろう。出演は、2015年11月紹介『スペクター』などのイェス
パー・クリステンセン。他に2017年7月30日題名紹介『ハイ
ジ』などのカタリーナ・シュトラー。公開は12月より、東京
はシネスイッチ銀座他で全国順次ロードショウ。)
『YARN 人生を彩る糸』“Yarn”
(世界の編み物事情を追ったドキュメンタリー。日本人女性
を含む各国の「編み物作家」と呼べるような人たちが取材さ
れている。ただ内容は、作品の紹介より各作家の編み物への
思いみたいなものが描かれており、それはその作家のファン
には貴重だろうが、傍目から見ると良くは理解できないもの
だ。そんな中では堀内紀子という人の真田紐のような太くて
丈夫な紐を編んだ、子供の遊具のような作品に興味を惹かれ
たが、それも作品自体はあまり紹介されず、多少物足りない
感じだった。日本でも「編み物王子」と呼ばれる人もいるよ
うだから、多分そういう人たちが対象の作品だろうが、部外
者にはちょっと判り難かった。公開は12月上旬、東京は渋谷
イメージ・フォーラム他で全国順次ロードショウ。)
『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』“It”
(『キャリー』や『シャイニング』などでお馴染みの世界で
一番人気の高いホラー作家スティーヴン・キングが、1986年
に発表した長編小説の映画化。田舎町で起きた子供や若者の
連続失踪事件を追う、落ち毀れ少年グループの行動が描かれ
る。キングは1982年に『スタンド・バイ・ミー』も発表して
おり、趣は同じようだが本作はさらにホラーの要素が強くさ
れた作品だ。その一方で、映画としては1985年に公開された
『グーニーズ』のような雰囲気があるのも面白かった。なお
本作の最後には「第1章」という表示が出るが、その事情は
いろいろ複雑なようだ。僕としては是非とも「第2章」も観
たいところだが…。公開は11月3日より、東京は新宿ピカデ
リー他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二